毎月1000人の入社希望がある「奇跡のリモートワーク会社」の作り方
プレジデントオンライン / 2020年10月14日 11時15分
※本稿は、石倉秀明『会社には行かない 6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』(CCCメディアハウス)の一部を再編集したものです。
■企業の「経営戦略」としてのリモートワーク
リモートワークは働く個人のメリットとして語られることが多いですが、実は企業戦略としても有利な点がいろいろあります。
私たちキャスターは、宮崎県西都市に本社オフィスを構えていますが、これも含めた全社での家賃は月間で数十万円ほど。できたばかりの数人のスタートアップの家賃より安いと思います。
700人が働く会社としては、あり得ない数字でしょう。そして何より大きいのは、「採用力の向上」です。
■コストゼロ、毎月1000人超が入社希望で殺到
キャスターでは創業初月から月に数百人、今では毎月1000人を超える方から入社の応募があります。ほとんどが自社ホームページからの応募なので、コストはほぼゼロです。
バックオフィスのアウトソーシング業務で、給与も大企業に比べたら、まだまだ決して高いわけではない。そんな中でも毎月そのくらいの応募が来るほど、場所を問わず働くことでキャリアを築きたい、という人は多いのです。
新型コロナウイルスの感染拡大はさまざまな業界に影響をもたらしていますが、キャスターは現在のところ、そこまで大きな影響は受けていません。
キャスターの場合は、設立当初からリモートワークで働くことを前提に事業を作り、顧客に価値を提供してきました。場所に依存する事業やビジネスモデルは展開できないというデメリットはありましたが、そのデメリットを差し引いても余りあるくらい、リモートワークによる経営上、事業継続計画上のメリットは大きいと感じています。
■リモートワークに関する男性の思い込み
リモートワークができて、フレックス勤務ができて、中には「週3日の正社員」もいて……。そんなキャスターの働き方についてお話しすると、しかし、男性の中には「とてもいい会社ですね、妻に勧めたいです」と言う人が必ずいます。
なぜ、男性は無意識のうちに、「自分には関係のない働き方だ」と考えるのか。
「自分はオフィスへ出社して、週5日で働くものだと思っていませんか?」
「リモートワークは、それができないときの補完的な手段だと考えていませんか?」
こう聞かれたら、男性であるあなたなら、何と答えるでしょうか?
キャスターでは女性メンバーが多いものの、「女性だから」「ママだから」採用しているわけではありません。
■フラットな働き方を実現するために必要なこと
たしかに、女性からの応募が多いのは事実です。結婚や出産、子育て、介護など、ライフステージが変わったときに働き方を変えようと考えるのは、残念ながら現状では、圧倒的に女性のほうが多い。
「妻の転勤によって会社を辞めることになった夫」の話は、ほとんど聞きませんよね。「子どもが生まれて時短勤務に切り替えた夫」の話も、あまり聞きません。
オフィスへ出社して週5日働くことが昇進などの条件になっているままでは、世の中はいつまでたってもフラットにならないと思います。
キャスターでは、業務委託のまま事業部長をやっている男性メンバーがいます。このメンバーの奥さんは日系の超大手企業に所属し、オフィスに通勤しているのですが、このようなパターンはかなり稀です。
日本では、まだまだ「男性と仕事」「女性と家庭」をセットにとらえる考え方が根強いと感じます。これを切り離さなければ、男性の働き方は変わりません。
■「夫婦共働きが当たり前」の時代
育児休業を取得する男性は少しずつ増えてきましたが、その裏側では、「戻ってきたときに居場所がなくなるかもしれないよ」と上司にささやかれるようなケースをいまだに耳にします。全国への転勤ができない人は総合職から外され、出世コースの外に置かれてしまうという企業も多いのです。
こうした考え方が残る企業は、もしかすると今でも『サザエさん』や『ドラえもん』に出てくる家庭が標準的だと思っているのでしょうか。マイホームを購入して、夫は外で働き、妻は専業主婦になる。そんな高度経済成長期のモデルを、まだ引きずっているのでしょうか。
直近で実施された国勢調査(2015年、総務省統計局発表)によれば、夫婦共働き世帯は64.4%と、全体の3分の2を占めていることがわかります。もはや専業主婦がいる世帯は少数派なのです。
女性がこれだけ社会進出をして実際に働いている実態があるにもかかわらず、「家庭のことをやるのは妻」という前提がまかり通っているのは、おかしな話です。
■男性も女性も「柔軟に」働ける社会を!
これまでは、男性は「働き方を変えなければならない場面」に出くわすことが、ほとんどありませんでした。新卒で入った会社に勤め続け、定年退職までずっと働き方を変えない。そのことに疑問すら持たなかった人も、多いのではないでしょうか。
社会の変化を受けて、当然のように「もっと女性が働きやすい職場を作ろう」という動きが起き、大企業を中心にさまざまな制度が整備されてきました。どうしても女性にしかできない出産の前後のことを考えれば、こうしたサポートがあることはとても大切だと思います。
しかし、もっと突き詰めて考えていけば、男性も女性もフラットに、柔軟に働ける社会を作ることが理想であり、本質的に求められることだと思うのです。
妻がリモートワークをしていても、夫が遅い時間まで帰ってこないという働き方のままでは、家事や育児の大半は結局のところ女性に押しつけられてしまうでしょう。しかし、夫も家を拠点にしてリモートワークができるようになれば、生活を設計するモデルそのものが変わっていくはず。
男性の働き方が変われば、女性の働きやすさも変わる。結果的に、社会全体の自由度も高まっていく。私はそう信じています。
■これからは夫婦で成果を上げていく
夫婦で互いに働き方を柔軟に変えられるようになれば、キャリア設計の面でも大きなメリットがあります。どちらかが学び直すことも、どちらかが生き方を見直すことも、これまでより大胆に挑戦できるようになるのではないでしょうか。
私自身の話をすると、実はわが家は夫婦でリモートワーカーです。
もともと妻はアパレル会社で働いていて、育休後に復帰したのですが、子どもが保育園に行き始めると毎週のように風邪を引いたり体調を崩したりすることが多く、なかなか仕事自体に行くことができませんでした。
そのとき私は、すでにリモートワークをしていたので、「二人ともリモートワークで働くことで、なんとかできるのではないか?」となり、キャスターに入社することになりました。
事務職の経験がなかった妻ですが、リモートワークという働き方にチャレンジすることで、新しいキャリアを築いていっています。
■「遠くを見ずに足元を見る、目線を下げる」
人生100年時代と言われる今は、変化に対応しながらキャリアチェンジに挑んでいくことが求められる時代。その中で、「学び直し」ができる環境を持っていることは、大きな武器となります。
企業が変化を余儀なくされているように、個人のキャリアも一直線上では描けない時代となりました。
私はキャリア相談を受ける機会も多いのですが、そのたびに「遠くを見ずに足元を見る、目線を下げる」ことをアドバイスしています。変化が少ない時代なら遠い将来まで見通せるかもしれませんが、今はそうではありません。
変化に強い人とは、どんなお題であれ、自分に課されたミッションに応え続けられる人。求められるものが変わり続けるのであれば、先を見通そうとするのではなく、目の前のことをやり続けるしかない。
何が求められるようになるかはわかりませんが、求められたことには1つひとつ対応していく。そうして、あとから振り返ったときに「ああ、自分は変化できていたんだ」と実感できる──。
それが「遠くを見ずに足元を見る、目線を下げる」。これからのキャリアの築き方だと思っています。
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株式会社キャスター取締役COO
1982年生まれ。群馬県出身。株式会社リクルートHRマーケティング、株式会社リブセンス事業責任者、株式会社ディー・エヌ・エー(DeNA)EC事業本部営業責任者、新規事業・採用責任者を経て、現職。キャスターは、700人以上のメンバーがほぼ全員リモートワークで働く、日本では断トツNO.1、世界的にもほぼ最大級の会社。2019年7月より「bosyu」の新規事業責任者も兼任し、個人が誰でも自分の「しごと」を作り出し、自由に働ける社会を作ることにも挑戦している。著書には『コミュ力なんていらない──人間関係がラクになる空気を読まない仕事術』(マガジンハウス)、『会社には行かない──6年やってわかった普通の人こそ評価されるリモートワークという働き方』(CCCメディアハウス)がある。
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(株式会社キャスター取締役COO 石倉 秀明)
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