アラフォー世代も知らないとヤバい! ダンス動画じゃないTikTokのすごい可能性
プレジデントオンライン / 2020年10月13日 11時15分
■アラフォー世代のためのTikTok入門講座
【原田】僕は若者研究をしているので日々TikTokを研究していますが、今日はあまり詳しくないアラフォー世代の方と同じ目線で話を伺っていこうと思っています。
若者の間で「TikTok」が非常に人気ですが、TikTokって要は何なんでしょうか?
【小島】言うなれば“スマホ時代に動画でコミュニケーションを取るツール”。ショートムービーで双方向のやり取りができるのがポイントです。もう一つの要素が、スマホに特化し、縦型で短尺の動画フォーマットを持っているということです。
【原田】あれは若者世代だけが楽しめるものなんですか。
【小島】いや、そんなことはありません。海外では中国、インド、米国が利用者数のベスト3なのですが、中国では一日当たり6億人が利用するほど日常的に使われています。
日本においては若者がメインのユーザー層になってはいますが、
■TikTokとYouTubeの決定的な違いとは
【原田】ところで、同じ動画サイト・アプリではありますが、TikTokとYouTubeではどこが違うのでしょう?
【小島】まずは双方向性です。YouTubeは発信者、つまり動画を作る人と見る人が分かれていたのですが、TikTokは誰もが動画の作り手となり、自分の動画を気軽にアップできるポイントが決定的に違います。若者の間では他のSNSでいうDM(ダイレクトメール)で動画を送り合ったり、非公開の身内でアップロードすることもあるようです。
【原田】YouTubeにはDM機能がないですもんね。TikTokがコミュニケーションツールになるというのはわかりますね。でも、なぜごく普通の若者が気軽に動画をアップできるのでしょうか。
【小島】TikTokは動画編集がしやすいんです。当初TikTokが日本で流行した理由は、「スマホで完結できて、手軽に動画編集できるアプリだから」。音楽も載せられるので、編集が必要なYouTubeと違って、「かっこいい」「かわいい」「おもしろい」動画がものすごく簡単に撮れます。撮影側の技術的な問題をクリアしたわけです。
【原田】なるほど。あと、短い動画が作りやすいという点も、流行した要素として大きい?
【小島】それはありますね。15秒という短さは絶妙です。たとえば、私は猫を飼っているんですが、猫の動画もTikTokなら気軽に作ることができるんです。自力で一から動画を作ったとしたら、音楽のつなぎ合わせなどは非常に難しいと思うんです。
【原田】人気TikTokerがYouTuberになると、うまくいく人も中にはいるけど、うまくいかない人も案外多いようですね。それは「15秒」と「編集のしやすさ」ということが動画を作る上で大変ハードルを下げる要素になっていて、逆にYouTubeの長尺のコンテンツを作るというのはハードルが一気にあがる、ということを表しているんですね。
■今やもう、ダンスを投稿するためのツールではない
【原田】この間、中高年の人と話していたときにTikTokの話題が出たんですが、やはりその世代から見ると「音楽に合わせてダンスを踊っている動画が流れている」というイメージが強いんです。でも、今は料理動画も増えていて、コンテンツも多様になってきていますよね。「短いYouTube」といった形になってきている。
今の話を聞いていると、プロが作ったテレビ寄りのコンテンツを見るYouTubeに対して、TikTokは素人でもみんなが平等に作って楽しめるところが大きな違いということですね。
【小島】おっしゃる通りです。YouTubeは今後、インターネットのTV番組のような存在になっていき、もっとリッチなコンテンツになってくると思います。一方、TikTokは“Everyone is creator”という考え方。全員がクリエイティブな発想を持って、発信者側に回ります。プラットフォーム側の思想の違いが大きいと思います。
【原田】最近だと、どういう利用の仕方が増えていますか?
【小島】ノウハウ系ですね。たとえば、就活コンサルタントが大学生向けに情報を発信するというようなコンテンツが増えてますね。コスメであれば、C Channelを見ているような層が、メイクのビフォーアフターをよく見ています。C ChannelのほうもTikTokにアカウントを持っていて、130万フォロワーを抱えているんです。
TikTokが情報を得る場、日常をシェアする場として使われているようです。
【原田】小島さんはどんなふうに使われてますか。
【小島】猫の話ばかりで恐縮ですが、僕がTikTokを見ると猫の動画ばかり流れてくるんです。猫が好きなので猫の動画がレコメンドで流れてくるようになってるんですが、ここで流れてくる動画はほぼすべて一般人のものなんです。「子どもを撮る」「学校の生活風景を撮る」といった日常の動画をアップしている人が多いということは間違いないでしょう。
もう一つ増えてきているのはトップ芸能人の動画です。最近では、嵐がTikTok上でキャンペーンを行い、嵐の音楽に合わせてイラストを載せたりダンスをする動画が多数投稿されています。
【原田】YouTubeもツイッターもインスタグラムも、やっぱり、芸能人やインフルエンサーにフォロワーが集中しており、一般の人はお友達以外にあまり見られない構造になっている。でも、TikTokは有名人も一般人も同じように投稿しているし、ランダムに表示されるので、ある意味大変平等なプラットフォームだと言えるわけですね。
■動画編集には、どれくらいデジタルリテラシーが必要か
【原田】プレジデントウーマンオンラインの読者も、TikTokで動画を作ることはできますか?
【小島】リテラシーによるかもしれません。
【原田】どのくらいのリテラシーが必要ですか?
【小島】メルカリで出品できる程度のリテラシーがあれば、確実にTikTokも大丈夫と思います。
【原田】それはわかりやすい目安ですね(笑)。メルカリも出品が簡単であることを示すために(おそらく)、タモリさんをCMで使っていますが、TikTokも高齢者とまでは言わないけど、中高年でも投稿が簡単ですよ、というイメージがもっとつくともっと利用は伸びそうですよね。
YouTubeでは、たとえば石橋貴明さんが登録したときに利用者が増えるというように、プロが有利な部分があります。一方TikTokは無作為でプロ以外の動画も流れます。この点もユーザーを増やしている一因なのでしょうか。
【小島】はい。フォロワーが0人のアカウントでも、最初から200人程度に配信される仕組みです。たとえば猫の動画をアップすれば、システムの裏側の仕組みによって、猫好きに向けて優先的に配信されるようになっています。そこで「いいね」がたくさんつくなどリアクションが多かったものは、どんどん配信が広がっていくんです。ですから芸能人や有名ユーチューバーが必ずしも有利とはいえず、コンテンツの中身が良ければチャンスはあります。
【原田】普通のおじさんが急に思い立ってYouTubeをやって、全く再生されずに「アイタタ」なんてことが多くなっていますが、TikTokのほうが見られる可能性は上がるわけですね。
【小島】圧倒的に上がると思いますよ。
■海外での新しい利用のされ方
【原田】米国では「Black Lives Matter」などTikTokの政治的利用もあります。コミュニケーション目的以外の利用方法がありますか。
【小島】インドは最近規制されてしまったのですが、教育のコンテンツが増えていました。たとえば「Excelの使い方」や「正しい英語の勉強方法」といった英会話のコンテンツが増えた時期があり、教育系のパートナー企業と提携したことによりいきなり2万本の教育動画がアップされたこともありました。エンターテインメント以外の利用が進んでいます。
米国ではミーム(meme)と呼ばれる遊び方が一般的です。もともとの動画があって、それを自分なりにマネやアレンジを加えながら編集して楽しみ、それがユーザーごとにどんどん派生して広がっていくようなものですね。たとえば、ボトルキャップチャレンジというペットボトルのフタを蹴って開けるという動画はいろんな人がマネをしたり、オリジナルの方法を試したりと、とても盛り上がっていました。実際に#bottlecapchallengeというハッシュタグは23億回も再生されています。一方で、社会問題を取り上げる人も多いですね。
■搭載されればビジネスがガラッと変わる、注目の新機能とは
【原田】日本では未搭載のもので、他国のTikTokでは存在する注目すべき機能はありますか。
【小島】まず、EC機能です。中国ではTikTokのアプリ上でショッピングができる機能がついています。インフルエンサーがかっこいい服を着て、音楽に合わせて動画を投稿すると、見た人がそれをタップしてそのまま商品が買える仕組みです。
また、ライブ配信もできます。ライブ配信しながらコスメの紹介をして、はいどうぞというような。オースティンという中国人のインフルエンサーは、年間100億円ほど稼いでいるそうです。ライブ配信には「投げ銭」機能も付いています。日本だとイチナナライブやポコチャさんというところがやっているサービスを標準装備しているので、今後日本でもできるようになると思います。
【原田】日本でもすでにライブ配信している人はいますか?
【小島】はい、段階的に解禁され始めています。
【原田】日本でEC機能はいつごろ追加される見込みですか。
【小島】いつ頃かは今のところ分かりません。中国ではTikTok上のECはアリババの「タオバオ」と提携して可能になったのですが、日本でもTikTokがどことつながるかによるのではないかと考えられています。
【原田】そんな機能が付いたら、TikTokに対する企業の見方も変わってきそうですね。
【小島】間違いなくそうですね。近い将来動画の時代になるということと、SNSでショッピングをするようになるということについては間違いないと思うので。Instagramでもすでにそうなっています。
【原田】TikTok人気への恐らく対抗策としてインスタがリールというTikTokに似たサービスを始めましたが、これは具体的にはどのようなサービスなのでしょうか。今後どうなっていくと予測していらっしゃいますか?
【小島】縦型で短尺で音楽をつけて投稿できるという点で、TikTokとはほとんど同じ機能をInstagramが展開するようになりました。ストーリー機能と同じようにリールも徐々になじんでいくとは思いますが、現状では「Instagramの世界観にリールは合わない!」というユーザーの生の意見も多数聞こえてきていますね。YouTubeも縦型動画への対応を進めていますし、競争環境が激化することでショートムービーというフォーマットはさらに盛り上がっていくのではないかと思います。ただ、やはり最初からショートムービープラットフォームとして設計され、爆発的に伸びていったTikTokに優るUX(ユーザー体験)を提供するのはいくら大手のSNSだとしても難しいのではないかとは推察します。
【原田】なるほど。これから色々な写真・動画プラットフォームの戦国時代に突入していくわけですね。競争が激しくなると機能やサービスもどんどんレベルアップしていくでしょうから、もっと生活者の動画投稿のバラエティは増え、盛り上がっていくでしょうね。僕もちょろっとTikTokやっているけど、本気で頑張ってみようかな……。
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マーケティングアナリスト
1977年生まれ。慶應義塾大学商学部卒業後、博報堂に入社。ストラテジックプランニング局、博報堂生活総合研究所、研究開発局を経て、博報堂ブランドデザイン若者研究所リーダー。2018年よりマーケティングアナリストとして活動。2003年、JAAA広告賞・新人部門賞を受賞。著書に『平成トレンド史』『それ、なんで流行ってるの?』『新・オタク経済』などがある。2019年1月より渡辺プロダクションに所属し、現在、TBS「ひるおび」、フジテレビ「新週刊フジテレビ批評」「Live News it!」、日本テレビ「バンキシャ」等に出演中。「原田曜平若者研究所」のYouTubeチャンネルでは、コロナ禍において若者の間で流行っていることを紹介中。
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Natee 代表取締役
早稲田大学国際教養学部卒。2016年にビズリーチに新卒入社し、新規事業のプロダクト開発にエンジニアとして携わる。ショートムービーの勃興と、個がメディアになり活躍する未来を強く信じNateeを創業。
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(マーケティングアナリスト 原田 曜平、Natee 代表取締役 小島 領剣 構成=藍羽笑生)
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