渡部健、伊勢谷友介、瀬戸大也、山口達也…なぜ、チヤホヤされる人ほど酒・女・クスリに堕ちるのか
プレジデントオンライン / 2020年10月9日 12時15分
■「お騒がせ」渡部健、瀬戸大也、伊勢谷友介、山口達也の4氏は依存症か
前回(約1カ月前)、俳優の伊勢谷友介氏(44)が大麻取締法違反容疑で逮捕(起訴)されたことにからめて依存症の怖さについて書いたが、その後も、同じ依存症が原因と思われる事件が相次いでいる。
9月22日には、元TOKIOの山口達也氏(48)が酒気帯び運転の現行犯で逮捕され、ワイドショーをにぎわせた(24日釈放)。
2018年4月、酒に酔って女子高生にわいせつ行為をし、書類送検され、芸能界を実質引退。週刊誌報道によると、医療機関で治療を受け、少なくとも1年前までは断酒をしていたが、今年に入って不安感と呼吸困難症状を訴えたという。酒気帯び運転の際の酒量(呼気から基準の5倍のアルコールが検出)を考えると、アルコール依存症の疑いがある上、前述の報道が事実なら、離脱(禁断)症状の可能性も疑わせる。山口氏の今回の逮捕は、自分の力ではお酒がやめられない「病気」が原因のように思えてならない。
ある程度の期間、断酒していても、このような症状が突然起こり、その苦しさがアルコールを摂取することで緩和されるので、つい手を出してしまう。それで社会的生命を失うことにつながってしまう。典型的なアルコール依存症の怖さを示すケースといえる。
この依存症は、薬物やアルコールのような有害物質だけではない。以前、本欄でギャンブル依存症の怖さを論じたことがあるが、このような行為に対する依存も非常におそろしい。
■不倫騒動の渡部氏、瀬戸氏は「わかっちゃいるけどやめられない」状態
自分の身の破滅がわかっていても、やめたくてもやめられない。芸能人やセレブリティによく見られるものに、セックス依存症がある。
『週刊新潮』(9月24日発売号)は、東京オリンピック競泳の日本代表である瀬戸大也選手(26)がキャビンアテンダント女性との白昼不倫を報じた。同誌はその後も、他の女性との不倫の事実を報じた。瀬戸選手は所属するANAのホームページから瀬戸選手の名前は消え、出演する企業CM動画も閲覧不可となるなど、その余波は大きい。
今年6月にはお笑い芸人の渡部健氏(47)が複数女性との不倫が報じられ、世間から激しいバッシングを受けた。その結果、渡部氏はすべての番組を降板した。
失うものの大きさを知りつつも不倫を重ねてしまうのも、ある種、「わかっちゃいるけどやめられない」状態、つまり依存症であった可能性が高い。
■「やっていない」ときの不快感の強さが、依存になる最大の原因
前回取り上げた伊勢谷氏を含む、こうした著名人を「不道徳なダメ人間」「自制の利かない人間」「意志の弱い人間」と断罪するのは簡単だが、そうではなく、彼らの将来のためにも、あるいは読者自身がそれに陥らないためにも、彼らの不祥事や不貞を「他山の石」とすることが重要だと精神科医として思う。
現在の精神医学では、依存症は意志が弱いからなる病気ではなく、依存症という病気によって意志が破壊されると考えられている。
それは脳のハード面とソフト面の両方から説明される。
ハード面からいうと、脳の報酬系の異常興奮と神経伝達物質の制御不能が生じるとされる。
人間は、楽しいことをしたり、いいことをしてほめられたりすると脳の報酬系と呼ばれる部分からドーパミンという神経伝達物質が分泌され、高揚感をもたらす。これをもう一度得たいために、その娯楽をもう一度やりたくなるし、再びほめられるためにいいことをする(これは、いい循環の「学習のメカニズム」でもある)。
ところが依存性薬物では、ドーパミン濃度が高くなると脳に再吸収されるはずが阻害され、ドーパミン過剰状態をもたらす。要するに普段では得られない高揚感をもたらす。だからその薬物を得たいという欲求は通常よりずっと高くなる。この再吸収がさらに低下し、高揚感が異常なほど高まった状態が依存症とされる。
さらに依存症では、その依存薬物を摂取していないときに、脳を落ち着かせる作用があるGABA受容体の反応性が低下する。そのため、アルコールや薬物が切れると、イライラ感や不安感が生じる。
要するにやっているときの快感が非常に高まり、逆にやっていないときの不快感が非常に強いので、やめられない、止まらない状態になるのだ。
快楽を求めてというより、むしろやっていないときの不快感の強さが、依存薬物やアルコールに走る最大の原因だという依存症患者は非常に多い。
最近の研究では依存性の高い薬物やアルコールでなくても、ギャンブルやゲームのような行為に対する依存でも同様のことが脳で起こっていると考えられるようになった。
■「やめたい」「やっちゃいけない」という意志があっても、やめられない脳
一方、ソフト面では、これまでの学習した“ソフト”が書き換えられる。人間の成長に伴う学習ソフトの中で重要なものに、ある種の我慢の能力を身に付けることがある。
今、我慢すると後でより大きな報酬が得られるということを覚えて、人間は勉強し、仕事をする。目の前の誘惑があっても、それに負けていては仕事にならないし、勉強もできない。幼児であれば、目の前の甘いものや遊びなどの誘惑にすぐに飛びつくだろうが、学校に通い、長い間の学習を経て、我慢したほうが得ということを学んでいく。
ところが依存症に陥ってしまうとその基本ソフトが破壊されてしまう。我慢ができなくなって、目の前の快楽に飛びついてしまうのだ。
ここでちょっと我慢したほうが不幸にならなくてすむことがわかっていてもやめることができないのは、このソフトの書き換えのためと考えられている。
このような脳のメカニズムの変化のため、「意志」が破壊され、「やめたい」「やっちゃいけない」という意志があっても、やめられないし、ある一定期間やめられてもまた手を出してしまうのだ。これは最悪の場合、社会的生命の破壊にもつながる。自滅行為だ。
■だらしない人ではない。まじめ、完璧主義者の人が依存症になりやすい
このような依存性物質(アルコール、違法薬物など)や依存に陥りやすい行為(一般的に快楽を伴う――ギャンブル、ゲーム、セックスなど)の側の怖さもさることながら、依存に陥りやすいタイプの人は確実にいる。
それは、まじめ、完璧主義者、勝ち負けにこだわる人、人に素直に頼れない人などだ。つまり、依存症はもともとだらしない人がなるのではなく、真面目な人をだらしなくしてしまう病気ともいえる。
こういう人は自分にプレッシャーを与え続け、またちょっとしたことで不全感を抱きやすい。そのうえ、ほかの人に弱音が吐けないということになると、酒に逃げたり、違法薬物に手を染めてしまったりする場合がある。
ギャンブルやセックスは、勝っているときや女性を口説き落とした時などにつかの間の万能感を得ることができるので、この手の完璧主義者や勝ち負けにこだわる人には、ほかで勝てなくても「勝った」快感を与えてくれる。それがやみつきになって、お金をいくら損しても、あるいは社会的信用を損なっても、新たな「勝ち」を求めてしまうのだ。
あと、勝ち負けにこだわったり、白黒はっきりつけないと気がすまなかったりする人の場合、いったん負けと思ったら自暴自棄に陥る可能性も高い。薬物依存やアルコール依存の自分は人間のクズ(この手の人は勝ち組と負け組、すごい人とクズというような二者択一になってしまうのだ)と思うから、落ちるときはどん底まで落ちればいいと思いがちだ。
また、人に頼れない人は、薬物であれ行為であれ、それに頼ってしまう。アルコールも一人飲みのほうが危険だし、ギャンブル依存症でも買い物依存症でも仲間と連れだってやる人はまずいない。
正しく「人に頼る」ことを覚えさせる依存症者をサポートする自助グループでは、自分の限界をお互いに話し合い、人に頼ることを覚えさせる。この有効性は高く評価されている。
■完璧主義者やかくあるべしという考え方の強い人はうつ病になりやすい
実は、こうした性格・傾向は依存症の人以外にもメンタルに大きな悪影響を及ぼす。
完璧主義者やかくあるべしという考え方の強い人は、人一倍努力をするが、そうなれないときに自分を責めてしまう。その上、苦しいときに人に頼れなければどんどん落ち込んでしまい、うつ病になりやすい性格傾向とされる。
しかもいったん鬱になってしまうとダメな自分を余計に責めてしまう。自殺という最悪の結末を迎える人にはこの傾向が強いと言われる。
■ウィズコロナの時代に三浦春馬さん、竹内結子さんの悲劇から学ぶこと
7月18日に亡くなった俳優の三浦春馬さん(享年30)も演技のために英会話まで完璧なものにしようとするくらいの完璧主義者だったと報じられている。音楽の分野でもダンスの分野でも妥協を許さなかったと。
9月27日に他界した同じく俳優の竹内結子さん(享年40)も自殺ではないかと報じられている。現場で見せた完璧主義の側面も明らかにされた。現代ビジネスに掲載された「竹内結子さん、現場で見せていた『妥協を許さない完璧主義なプロ』の顔」という記事には次のようなくだりがある。
<昔、あるドラマの収録現場を見たとき、アドリブを自ら入れた場面に本人がしっくり来なかったようで、試行錯誤して様々な言い回しをテスト、途中で「どれも最悪!」と強く言い放ったことがあった。周囲からは「さっきのがすごくよかった」と支持があっても、彼女は「全然分かってない」と冷たくはねつけていた。「怒りっぽい」一面だとも言えるが、あくまで仕事上の姿勢。プロフェッショナルの証明だった>
三浦さん、竹内さんには「周囲への気遣いが細やか」という共通点があるという報道もあった。2人の自死の真因はわからない。ただ、自分が人間性まで完璧でなければならないと自己を律し、逆に他人に泣き言を言えないというような場合、やはり落ち込みやすく、鬱に陥った場合に、さらに悲観のスパイラルに入ってしまい、自殺という最悪の結末を選んでしまうのだ。
かくあるべし思考をやめる。
完璧主義をやめる。
つらい時は素直に人に頼る。
ということを彼らの悲劇から学んで損はない。特にウィズコロナという、落ち込みやすく、自分の力だけではどうしようもないことが多い時代には。
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国際医療福祉大学大学院教授
アンチエイジングとエグゼクティブカウンセリングに特化した「和田秀樹 こころと体のクリニック」院長。1960年6月7日生まれ。東京大学医学部卒業。『受験は要領』(現在はPHPで文庫化)や『公立・私立中堅校から東大に入る本』(大和書房)ほか著書多数。
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(国際医療福祉大学大学院教授 和田 秀樹)
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