会話のプロが「なぜ」と「でも」をほとんど使わない理由
プレジデントオンライン / 2020年10月13日 15時15分
※本稿は、吉田尚記『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■初対面の相手とは45cm以上距離を離して、斜め前に座る
【吉田尚記】私には長年会話に悩んできたことで生まれた得意技がありまして、人の会話を分析できるというか、その会話がどういう構造になっていて、なぜそうなったかがその場で把握できるんです。白井先生の学術的な研究とは違って、我流ですけどね。
そこで、実際の会話を素材として、相づちを含む会話改善のヒントを探っていきたいと思うんです。特に、私たちがもっとも苦手とする、まったく初対面の人との会話です。
【白井宏美さん(談話分析の専門家、慶應義塾大学SFC研究所上席所員)】ある研究によると、初対面の相手と話しやすくしたければ、相手との距離を45cm以上離して、真正面に向き合うことは避けた方がいいというデータがあるんです。座る位置は斜め前がベターです。
【吉田】そうなんですか! 実は私も初めての人にインタビューする場合って、真正面には座らないんです。経験的に。4人掛けの机なら、対角線上になるように座ります。それを見越してなのかはわかりませんが、ラジオのスタジオに置いてある机って、長方形ではなく台形になっているんです。正面に座っても、相手に対してちょっと角度がつくんです。あれって理に適っていたのか!
【白井】放送業界の経験則と、こちらの研究が合致しているのかもしれません。
■驚きの相づち「えっ!」で相手から話を引き出す
【吉田】では、サロンでの初対面の2人による会話を、白井先生と私とで分析してみたいと思います。共通する指摘があったら、すごく意味のある要素かもしれません。45cm以上離れて、斜めに座りましょう。ではスタート!
Aさん「こんにちは。初めまして」
Bさん「こちらこそ初めまして。よろしくお願いします。今日はどうやってここまで来たんですか?」
Aさん「えっと、普通に電車です。都内なので」
Bさん「へえ! 都内にお住まいなんて、カッコいい!」
Aさん「でも東の方だからカッコよくは……」
Bさん「そうなんですか」
Aさん「Bさんは、今日はどうやってここまでいらっしゃったんですか?」
Bさん「バスです。高速バス」
Aさん「ええっ!? どちらから来たんですか?」
Bさん「宮城県です」
Aさん「そうなんですね! 何時間かかったんですか?」
Bさん「6時間くらいですかね?」
Aさん「お尻痛くなりそう」
Bさん「めっちゃ痛い。今日は尻芸できないです」
Aさん「……東京に来るときはいつも高速バスなんですか?」
Bさん「そうなんですよ。新幹線のほうがもちろん絶対ラクなんですけど、最近、結構東京に来たくなる機会が多いんで。お金を節約したいと思うと、結局どんどんお尻が痛くなる。絶対尻芸できないです」
Aさん「そうですか……」
【吉田】はい、そこまでにしましょう! わかりやすいポイントがたくさんある会話になりました。分析がやりやすい! 早速やってみましょう。
■謙遜した返答に、疑問を感じなかったか?
【吉田】まず、冒頭の「こんにちは」とか「初めまして」ですが、挨拶から始まることって、当たり前のようでいてとても大切です。敵意がないことを明確にしていますからね。そして、お二人の「疑問で聞き返す」姿勢が、この会話でとても有効に機能していましたよね。どんどん質問していって、相手から情報を引き出していくことが、会話を加速させたり、思わぬ方向に転換させたりするんです。
Bさんは、遠いところからお越しいただいていたんですね。だから「都内」に反応したんですよね。で、「カッコいい」までの流れはよかったんですが、「東のほうなので……」というおそらく謙遜したAさんの返答には、ちょっと疑問を感じませんでしたか? せっかく東京の東側に住んでいるという情報を引き出したので、なぜ東だとカッコよくないと思うのか、東京の東側はどのようなイメージなのかとか、そこは一度質問してみてもよかったですね。ちなみに私は、東京の東側の下町、すごく好きです。街頭インタビューを集めるとき、西側の人より断然気軽に答えてくれるから。
それから、Aさんの答えにあった「でも」という接続詞は、極力使わない方がいいですね。「しかし」「だけど」「だが」も同じで、逆接の接続詞は、相手が否定的な印象を受けてしまうので、できれば使いたくない言葉です。特に意味なく、ついクセで使ってしまう人も多いと思うんですが、共感を得たいと思っている会話では、誰でも「だけど」とか「でも」とはいわれたくないですよね。
■反射的に「でも」をいわないと決める
【白井】無意識で発しただけなのに、文脈によっては相手が不快になる危険性がありますよね。
【吉田】そうなんです。これは意識さえすれば防ぐことができます。反射的に「でも」っていわない、と決めるだけでかなり会話はうまくなります。私も基本的に禁止にしていますが、どうしても使わなくてはいけない場合は、相手に与えるネガティブな意味合いもしっかり意識して「でも」っていいます。無意識に使う相づちの「でも」は、本当によくない。
【サロン参加者】でも……(笑)、自分から自虐的なことをいう人がいますよね。相手から「そんなことないよ」っていってほしい人というか……。その人を励ますつもりで、否定で使う「でも」もNGですか?
【吉田】「でも、そんなことないよ」ではなく、ただ「そんなことないよ」といえばよくないですか? 逆接を使わなくても、自虐的な人を励ますことはできます。そして、宮城から高速バスで来たという驚きの情報に「ええっ!?」って反応したAさんはナイスですね! 思いもよらぬ答えが返ってきたら、誰でも驚く。その気持ちを素直に表して相手に「報酬」を送れました。先ほど述べた「あっ!」とか、もう少し疑問に寄せた「えっ!」って最高の相づちです。私はしゃべり手をやっているわけですが、結局この仕事は「えっ!?」っていいたくなるような話を相手から引き出すためにしているようなものですね。インタビューなんかを「えっ!?」だけで終えられたら、むしろ大勝利です。
しかも、「えっ!?」という相づちは、もっと話してほしい、しゃべってくれというメッセージを伝えながら、自分が相手の話を面白がって聞いていることも伝わるから、だいたい相手のテンションは上がります。ある意味、相手が「あっ!」とか「えっ!?」っていうタイミングを探して、あれやこれやと会話を進めている感じなんですよね。とにかく「えっ!?」が有効に使えたのはすごくいい。
そして、この流れを引き出すきっかけになったのは、Aさんが「『どうやって』ここまで来たか」と聞いたことなんです。
疑問で聞いていくという原則は理解したとして、疑問にはいわゆる「5W1H」があるじゃないですか。その中でも、「どうやって=HOW」がもっとも会話が伸びやすいんです。これは使いやすい武器ですよ。
「どうやって?」と聞かれると、相手は必ず自分がどうしたかを具体的に描写しますから、新しい情報を大量に引き出せる可能性が高まるんです。反対に、「WHY=なぜ」だとすぐに話が終わってしまうことも多いですね。
■ツッコミは「愛のある対応」。会話のスキを逃さずに
【白井】「なぜ山に登るのか?」「そこに山があるから」って答えられてしまうパターンですね。
【吉田】もちろんジョージ・マロリー(※)がそう答えるのはカッコいいけど、「この前、山に登りました」という人に理由を聞いても、好きだからとか、休みだったからとか、そんな理由しかないですよね。それよりは「どうやって」を使って話を広げた方が断然いい。山登りに使った道具とか、日程の組み方とか交通手段とかについて聞くと、どんどん話が広がりますよね。
高速バスから「宮城県」という情報を得たので、たとえ関心がなくても、ここはもう少し質問を続けてもよかったかもしれない。天気の話でいえば、東京と宮城県では天気や季節の進み方が違うじゃないですか。そのあたりでも会話のラリーが続けられそうですね。
最後に、Bさんは「お尻が痛い→尻芸できない」を2回繰り返しました。Aさんは反応しなかったけど、ここもポイントになります。Bさんがツッコミどころを用意してくれていたのに、スルーしちゃいましたね。普通の会話からだんだん熱がこもってきて、少し自分を出せたところでそれをスルーされると心が折れちゃいます。
初めての相手に対していきなり笑ったり、ツッコんだりしていいのかと思うかもしれないけれど、ツッコミって「愛のある対応」だと思うんです。少なくとも2回繰り返したということは、Bさんは絶対にツッコんでほしくて渾身のパスを出していたはずなんです。相手が自分を面白がらせようとしてきたら、たとえ自分が別のことを考えていても、早く次の話に展開したくても、100%受け取った方がいい。
【サロン参加者】乗っかると面倒なお調子者もいるんじゃないですか?
【吉田】そう、確かにちょっと面倒な人はいる。そんな人でも、人生の貴重な時間を共有しているわけじゃないですか。お互いの時間を大切にするために、勇気を出してツッコんでほしいですね。
Bさんが会話にスキを作ったのはとてもいいことだし、それは絶対不利にはならない。こういう相手の発言や変化を聞き逃さないようにしたいし、もしスルーしてしまったのを後から気づいたら、「あれ? さっき○○っていいましたよね!」って、戻ってもいいと思うんです。
※ジョージ・マロリー 1886年生まれ。イギリスの登山家。1920年代にイギリスが国を挙げてチャレンジしたエベレスト遠征隊に参加。1924年の第3次遠征において頂上を目指したが、頂上付近で行方不明となった。「なぜ、あなたはエベレストに登りたいのか?」と問われて「そこにエベレストがあるから」と答えたという逸話で有名。日本語では「そこに山があるから」と意訳されて流布している。
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ニッポン放送アナウンサー
1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。著書に『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)、『あなたの不安を解消する方法がここに書いてあります。』(河出書房新社)など。
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(ニッポン放送アナウンサー 吉田 尚記)
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