デーモン閣下に「へヴィメタってなに?」と聞ける人こそがプロである
プレジデントオンライン / 2020年10月14日 15時15分
※本稿は、吉田尚記『元コミュ障アナウンサーが考案した 会話がしんどい人のための話し方・聞き方の教科書』(アスコム)の一部を再編集したものです。
■タモリが決めつけた言い方をする理由
【サロン参加者A】相手の話している話題に自分が詳しくないと、心理的なブレーキがかかってしまいます。
【サロン参加者B】自分が知らない話題を掘り下げるのは、失礼だと思ってしまいます。
【吉田尚記】私にとってはまったくの逆で、「知らないこと」が出てきたら大チャンスだと思っています。
タモリさんという、日本で一番長い間、そして一番多くの人と、雑談をしてきた方がいます。毎日現れる新しい相手についての情報を、すべて調べ尽くすのは無理だったはずです。
ゲストに話してもらわなくてはいけないコーナーで、タモリさんはどうしていたか? ある俳優さんが「犬を飼っているんです」といったら、「へー、犬っていうと、最近はシベリアンハスキーが流行ってるんじゃないの?」と聞いていました。
すると、普段あまりしゃべらない俳優さんが、「いえ、ハスキーが流行ってたのはちょっと前で、いまはゴールデンレトリバーが流行ってるんですよ」「へぇ、ゴールデンレトリバーはどんな犬なの?」と、自分が知らないことを武器にして、そして勝手な思い込みを使って、知らないことをどんどん掘り下げ始めるんです。
わざと決めつける、間違えるという武器もあります。これは強力です。「出身って東京でしたよね?」「ロックとかお好きそうですよね?」といった具合に、何の根拠もなく、勝手に決めつけてしまう。人は、間違った情報を訂正するときに、一番しゃべる生き物なんです。想像してみてください。あなたが、実は社会人なのに、学生ですよね? とか聞かれたら、社会人としての自分について、話し出したくなりませんか?
■デーモン閣下に「へヴィメタってなに?」と聞く力
【サロン参加者A】知らないから教えてほしいとか、相談したい、というアプローチもありですか?
【吉田】いいですね、それも使えます。知らない→教えを受けたい、という流れを頭に入れておくだけで、いつでも使える武器になりますよね。
私は、「あっ!」や「えっ?」の使い方と同じように、「何ですか? それ」という切り返しもよく使います。
これを説明する最適な例は、阿川佐和子さんが聖飢魔Ⅱのデーモン閣下に「へヴィメタってなに?」とインタビューしたケースです。阿川さんの著書『聞く力 心をひらく35のヒント』(文藝春秋)にも出てくるエピソードなんですが、ヘヴィメタで身を立てた人に「そもそも論」をぶつけてしまうのってすごいと思いませんか?
聞かれたデーモン閣下は、おそらくヘヴィメタをまったくわからないであろう阿川さんに、懇切丁寧に説明を始めるんです。その説明は、ヘヴィメタに詳しい人が聞いてもとても新鮮だったり、本質的だったり、面白い解釈ができたりするから、インタビューとして名作になっています。
こう考えると、詳しくないからってブレーキを掛けてしまうのではなく、むしろ「知らない、わからない」状況って、雑談においては価値でしかないということだと思うんですよ。
■野球を知らないからこそ聞ける話がある
【吉田】私自身にも経験があります。今は東北楽天ゴールデンイーグルスのゼネラルマネージャーの石井一久さんが、メジャーリーグで現役投手として活躍されていたとき、シーズンオフに「石井一久のオールナイトニッポン」が何度か放送されたんですが、その相手役がなぜか私だったんですね。
なぜ野球に詳しいスポーツアナじゃなくて、私なのか不思議だったんですけど、スタッフにいわせると、スポーツアナでは聞けない内容がたくさんあるんだというんです。野球を知らなくて不思議のない私が質問するからこそ、聞けることがあると。たとえ私がしくじっても後の仕事に影響がない、という理由もあったそうですが……。
もうひとつ、映画「アベンジャーズ」のプロモーションで来日していたサミュエル・L・ジャクソンさんにインタビューしたときのことも思い出します。
これはもともとあるアーティストさんのオールナイトニッポンで「サミュエル・L・ジャクソンの間に入っている『L』って何だ?」という話になって、なぜわざわざ「L」を入れるのか、という話題で盛り上がったんです。最後は「そのLをください」と私がいいに行くという流れになって……。いや、まともに考えたらすごく怖い話ですが、でも本当になぜ「L」が入るのかわからなかったし、最悪、めちゃくちゃ怒られたとしても、私の仕事がなくなることはなさそうですよね。
サミュエル・L・ジャクソンさんは本当にいい人で、面白がって説明してくれました。そんなこと聞く人、普通はいないですよね。おかげで「Lをください」という謎のミッションに「イエス!」と応えてくれたし、ファーストキスがいつだったか、なんていう、まず普通のメディアでは聞けない話までしてくれました。後で同行していたディレクターに聞いたら、後ろに立っていたマネージャーさんがすごく怖い顔をしていたらしいですけれど(笑)。
■矢沢永吉に恋愛相談
【吉田】とにかく、「知らない」という武器の有効性はすごく高いということです。私の挙げた例は少し極端だったかもしれませんが、気が引けるようなら、聞く前に「知らなくて失礼なのですが」と断ればいいだけです。今この瞬間まで知らなかったけれど急に気になった、という状況は、実はすごくありふれているんですよね。わかりやすくいうと、日本に来たばかりの外国人に日本の風習やルールを聞かれて、別に嫌な気はしないし、むしろうれしかったりもするじゃないですか。それと同じです。
「相談する」というスタイルも同じですよね。これも有名なエピソードがあって、大宮エリーさんが矢沢永吉さんにインタビューしたとき、大宮さんが「モテなくて悩んでいる」という恋愛相談を延々する形になっていて、すごく面白くなっていました(『SWAK 2012-13 AW』日販アイ・ピー・エス)。これは、白井先生のおっしゃっていた制度的コミュニケーション風のシチュエーションを活用しているといえますね。交話的コミュニケーションが苦手な人は、生徒が先生に相談するという「制度」の体で会話をしてみるのは、すごく良い方法です!
ちなみに、ニッポン放送では「テレフォン人生相談」は不滅の大人気長寿番組です。相談するという方法は鉄板です。誰だって相談したいことのひとつやふたつありますし、人から相談されたら、よほど何かない限り助けてあげたいと思うのが普通です。特に期待することもなく、雑談の材料として相談してみて、思わぬ悩み解決のヒントが得られれば最高です。さらに、話の中から相手が別の情報を出してくれれば儲けものです。
■「今度女装しなくちゃ……」は最高に盛り上がる
【サロン参加者B】その相手の得意分野を知っていると、相談しやすいかも?
【吉田】そうそう、本当にそうですね。「○○に詳しいとうかがっているんですけど、相談していいですか?」と、事前に調べておいて相手が持っている経験に頼る、という入り方はいいと思います。逆の立場になってみれば、自分ができるなら、喜んで力を貸したいですよね? 鉄道に詳しい人に、旅行の計画とか相談したら、嬉々として話してくれますよ! ちなみに極端な例ですが、女性に「今度女装しなくちゃいけないんですよね……」なんて相談すると、みんなむちゃくちゃ楽しそうに相談に乗ってくれます。
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ニッポン放送アナウンサー
1975年、東京都生まれ。慶應義塾大学文学部卒業。2012年に第49回ギャラクシー賞DJパーソナリティ賞受賞。「マンガ大賞」発起人。著書に『なぜ、この人と話をすると楽になるのか』(太田出版)、『あなたの不安を解消する方法がここに書いてあります。』(河出書房新社)など。
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(ニッポン放送アナウンサー 吉田 尚記)
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