「日本を上回るスピードで悪化中」韓国の少子高齢化の知られざる実態
プレジデントオンライン / 2020年10月13日 11時15分
*本稿は、春木育美『韓国社会の現在 超少子化、貧困・孤立化、デジタル化』(中公新書)の一部を再編集したものです。
■日本の少子高齢化が緩やかに見える
韓国統計庁の「将来人口推計」によれば、近未来の韓国は、人口構造が極端に歪んだ社会となる。具体的にみていこう。
韓国の近未来図は、少子高齢化が加速度的に進んだ社会である。この点は日本も同様である。WHOの発表(2018)によれば、平均寿命は日本1位、韓国9位で、世界トップランクである(2016年時点)。今後、高齢者の層はさらに厚みを増し、生まれる子どもの数はますます先細る。
両国を待ち受ける未来は、国民の2〜3人にひとりが高齢者という、いまだかつて経験したことのない高齢者大国となることだ。
ただ、そうしたなかでも韓国と日本では、異なる点が一つある。図表1と図表2はそれぞれ韓国と日本の人口割合の推移と予測を示したものである。
日本の少子高齢化が緩やかに見えてくるほど、韓国は今後、類をみない猛スピードで人口構造が変化する。
一般に、国の総人口に占める高齢者(65歳以上)の人口割合を示す高齢化率が7%を超えた社会を「高齢化社会」、14%以上から「高齢社会」、21%以上から「超高齢社会」と定義づけられている。日本ではその移行に1970年から94年までの24年間を要した。ところが、韓国は2000年に7.2%を超え、それから18年で14%を超えた。
■2065年には、2人にひとりが高齢者に
日本では一足先の2007年に高齢化率が21%を超え、超高齢社会に突入している。
2020年の時点で、人口に占める65歳以上の高齢者の割合は、日本は28.9%、韓国は15.7%と、まだ日本の半分強である。だが、その後は日本を上回るスピードで高齢化が進み、2065年には人口のほぼ2人にひとりが高齢者である社会が到来すると見込まれている。
韓国は、これから半世紀で高齢化が急速に進行し、「世界でもっとも老いた国」になるとの予想である。高齢者が増えれば、社会全体の格差が大きくなることは避けられない。
他方で社会を支える働き手である現役世代の割合は急減する。2020年の時点で、韓国の総人口に対する生産年齢人口(15〜64歳)の割合は71.1%だ。これは「先進国クラブ」と称される、経済協力開発機構(OECD)加盟37カ国のなかでトップである。
ところが、2065年になると、この生産年齢人口は、日本の51.4%よりもさらに低い45.4%にまで転落すると予測されている(中位推計)。この割合はOECD加盟国のなかで最低水準であり、変化のスピードの速さが際立つ。
■「花瓶型」という人類初の人口ピラミッド
高齢者が多数派となる韓国の近未来は、どのような社会になるのか。全体の人口を年齢順に並べた中間にくる「年齢中位数」は、2018年の42.6歳から2067年には62.2歳へ上昇する。つまり、総人口の半数が、62歳以上になる。
2018年の人口ピラミッドは、14歳以下の人口の割合は低いものの、まだ30〜50代の年齢層に厚みがある壺型である。
それが、2060年には65歳以上の人口の割合が大きく膨らみ、花瓶形に変わる。これは、いまだかつて人類が経験したことのない人口ピラミッドの形である。
2060年には、15〜64歳の現役世代が絶対数も割合も急速に縮小し、年齢が下になるほど萎んでいく。一方で、5人に1人が80歳以上という超高齢社会になると見込まれている。1971年に、韓国史上もっとも多い102万人の新生児が生まれているからだ。その赤ん坊が後期高齢者になったとき、韓国は世界トップレベルのシニア大国となる。
他方で2018年の婚姻件数は過去最低を記録しており、20代の未婚率は91.3%に上る。同じく晩婚化が進む日本で20代の未婚率が79.7%であることと比べても、韓国の晩婚化は際立っている。晩婚化が進むだけでなく、生涯未婚率も上昇の一途を辿っている。
■1年に5万〜6万人しか生まれない予測
2017年と2067年の年齢別人口の変化をみると、65歳以上は、50年間で1120万人ほど増える。人口が減るのはもっぱら65歳未満で、この層が今後およそ2327万人減ることになる。
2017年の韓国は、高齢者を多くの現役で支える「人口ボーナス(bonus)」社会だった。それが2067年には、高齢者を少数の現役で支える「人口オーナス(onus)」社会へと移行することになる。オーナスは重荷や負担を意味する言葉だ。
2017年に3757万人だった15〜64歳の生産年齢人口は、50年後の2067年には1784万人に半減する。韓国は、この現役世代の減少幅が日本よりも大きい。総人口が減少するなかで、65歳以上が増加することになるため、総扶養費の負担は格段に重くなる。
2017年には65歳以上の高齢者ひとりを、15〜64歳の現役世代5.3人で支えていた。ところが2067年には、ほぼひとりの現役世代がひとりの高齢者を支える、いわゆる「肩車型」社会が到来すると予測されている。
また、2067年の年間死亡者数は72万人と膨れ上がるが、同年の出生数は14万人と見通されており、極端な少子化が、高齢化をより加速させる。現状では出生率は予測を上回る低下が続いている。今後は出産年齢人口が激減していくことから、2067年には出生数は年間5〜6万人まで落ち込むという推計もある。
■「介護保険」と「老人長期療養保険」
出生数の減少は、現役世代に甚大な影響を及ぼす。高齢者を支える現役世代の扶養負担がさらに増大し、「肩車型」から「重量上げ型」に転じる恐れがある。
世界最高の高齢者率は、低い出生率だけでなく、平均寿命の延びとも関係がある。平均寿命は、2017年の82.7歳(男性79.7歳、女性85.7歳)から、2067年には90.1歳(男性88.5歳、女性91.7歳)になると予測されている。寿命が延びれば、その分だけ生活費や介護費用が必要になり、貯金や資産がなければ破綻する。
韓国は2007年に、日本の介護保険制度を参考にした「老人長期療養保険法」を公布し、2008年から実施している。財政的な負担を最小化するため、日本よりも在宅・施設サービスの自己負担率が高い。高齢化にともない、老人長期療養保険制度の利用者はこれから急速に増加することが予想される。
その一方で、介護の担い手に相当する20〜64歳層の人口は半減していく。単身世帯が増加するなか、すでに家族介護も限界に達している。介護人材不足はさらに深刻化する。
■ソウル市がすっぽり消滅してしまう
韓国の総人口はこの先、急激に減少する見通しだ。出生率と寿命を低く見積もる「低位推計」では、2067年に総人口は4000万人を下回り、3929万人に落ち込む。2017年から67年にかけて人口が約1200万人減ると推計されているが、現在のソウル市の人口が約1000万人であることを考えると、ソウル市がすっぽり消滅してしまう激減ぶりである。
さらに2117年には、人口が1168万人にまで低下すると見込まれている。2017年から100年間で、人口規模が現在の5分の1になるという、衝撃的な予測だ。
超高齢・人口減少社会の到来は、経済成長にマイナスに作用する。韓国の国力低下は免れない。次世代の経済・社会の担い手は縮小し、税収入も低下する。年金や医療など、現役世代が高齢者を支える形の賦課方式の社会保障制度は、立ち行かなくなる。社会保証負担の引き上げか、給付を大幅に削ることによってしか、維持できなくなる。
日韓の未来予測を比較すると、直面する未来には共通点が多い。まず、先述したように人口減少は止まらない。日韓ともこれから段階的に、人口の4割近くが高齢者となっていく。さらに世帯規模が縮小し、3人に1人が単身世帯となる。これは未婚率の上昇および長寿化の影響で高齢者世帯が増加し、離別や子どもの独立などにともない単身化が著しく進むためである。
■徴兵制兵力不足で「女軍」増強へ
ただ未婚率の上昇幅は、韓国の方が大きい。さらに、2045年になると、日本の50歳時未婚率は鈍化するが、韓国は上昇し続けると予想されている。未婚・非婚の増加の背景には、就職難や教育費などによる経済的問題に加え、若い世代の結婚観が著しく変化したことがある。こうした状況がこの先も大きく変わることはないだろうという悲観的観測が、韓国の未来予測から見てとれる。
2045年の韓国では、男性の3人にひとり、女性の4人にひとりは配偶者も子どももいない。親が亡くなれば、身近な直系家族は誰もいなくなる。中高年の単身世帯比率の高まりはいまだかつてないことだけに、社会に与える影響は大きい。家族形成をしないまま単身で高齢期を迎えれば、家族による介護を受けることは困難になる。孤独死も増えていく恐れがある。
徴兵制を布く韓国では、兵力不足にも頭を悩ませることになる。兵役により軍隊で任務に就く年齢のピークは、満19〜21歳である。2018年時点で19〜21歳の男性人口は97万人だが、2040年には46万人に半減する。同期間に入営者数は22万人から9万人に減少すると予測されており、2040年には、2018年の4割しか兵員を満たせなくなる。
国防省は2025年から兵力が不足するとして、現在兵力が約1万人の志願制である「女軍」の兵員をさらに増やす計画にある。多方面で人口減少の影響は避けられない。
■「将来展望を欠く指導者」という問題
近年、血液不足が原因で手術が延期になる事態が起きている。韓国では献血者は10〜20代の若者が7割を占めている。10〜20代の人口が2019年時点の1190万人から、30年に880万人と26%も減ると予測されるなか、26年からは輸血用の血液不足が深刻化すると危惧されている。
ただ、韓国では人口減少にともなう社会全体の危機感が薄い。対応策として、北朝鮮の人びとを活用すればいいという楽観的な見解も根強い。北朝鮮の生産年齢人口の減少幅は、韓国よりも緩やかであるからだ。
現実味に乏しいものの、南北統一がなされれば人口規模自体は増える。このままでいけば2067年には韓国の人口は3900万人となり、人口規模では世界71位まで下がる。北朝鮮と統一すれば人口は6500万人に膨れ上がり36位まで浮上できるという(韓国統計庁『世界と韓国の人口現況および展望』2019年)。
そうなれば少子高齢化問題は緩和され、生産年齢人口も増え、内需市場も拡大するという、統一にともなう膨大なコストを度外視した発想は珍しくない。「統一で、韓国経済は大きく飛躍(朴槿惠前大統領)」、「統一さえすれば、韓国経済にはバラ色の未来が到来(文在寅大統領)」といった将来展望を描く指導者の存在が、人口減少への危機感の乏しさにつながっている。
だが、そうした楽観論も人口動態に一定の裏付けがあればの話である。北朝鮮の2018年時点の出生率は韓国同様に少子化が進んでいるのが実態だからだ(『聯合ニュース』2018年6月30日)。
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早稲田大学韓国学研究所 招聘研究員
1967年生まれ。韓国延世大学大学院修士課程修了、同志社大学大学院社会学研究科博士課程修了(博士・社会学)。東洋英和女学院大学准教授、東京大学非常勤講師、米国アメリカン大学客員研究員などを経て、早稲田大学韓国学研究所招聘研究員、(公財)日韓文化交流基金執行理事。著書に『現代韓国と女性』(新幹社、2006年)、編著『現代韓国の家族政策』(行路社、2010年)、『韓国の少子高齢化と格差社会』(慶應義塾大学出版会、2011年)。共著に『知りたくなる韓国』(有斐閣、2019年)などがある。
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(早稲田大学韓国学研究所 招聘研究員 春木 育美)
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