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中本、麺屋武蔵、吉村家…ブームを超えて愛され続けるラーメン屋の条件

プレジデントオンライン / 2020年10月13日 15時15分

セブンイレブンなどで展開されている「7プレミアム 銘店紀行横浜ラーメン 六角家」(税込224円)。(写真=セブン&アイHD)

■『六角家本店』の破産は「来るべき時が来てしまった」

吉村家』、『本牧家』と並んで横浜家系ラーメン“御三家”のひとつとされた『六角家本店』が、9月4日に破産手続き開始決定を受けた。

同店は1988年創業と家系の中では老舗に属し、94年に新横浜ラーメン博物館へ出店したことを機に、全国的な知名度を獲得。一時は全国規模で直営店を展開し、コンビニとコラボしたカップ麺でもおなじみだった。

しかし近年、実店舗は本店のみとなり、その本店も2017年10月に閉店。そしてこの度、ブランド管理などを行っていた法人としての六角家にも終止符が打たれたというわけだ(ただし『六角家』を屋号とした別資本経営店や姉妹店は今も健在)。

自称〈日本一ラーメンを食べた男〉として各メディアに登場し、多角的な情報発信を行う『ラーメンデータバンク』の創業者にして現会長の大崎裕史氏は、「17年の実店舗閉店も今回の倒産も、大きな驚きというより『来るべき時が来てしまったか』という印象です」と語る。

「『六角家本店』は、創業店主が高齢のため体調を崩しがちだったことに加え、後継者がいませんでした。その上、すぐ近くに同じ家系の『末廣家』(13年オープン)と『とらきち家』(14年オープン)ができ、新店らしく今風にチューニングされた味や元気なサービスに惹かれた客がそちらに流れたため、全盛期に比べて客数を大きく減らしていました」

■時代のトレンドに合わせなければ常連に飽きられてしまう

ただ、近隣での同系列の味の店舗の乱立という点では、横浜家系の元祖である『吉村家』も同じ。しかしそちらは今も変わらず多くの客でにぎわい、名声を保っている。

「『吉村家』の店主も高齢なのですが、まだまだお元気で毎日厨房に入って仕込みを行っているし、彼の下で修業したいという新人もどんどん入ってきていて、店内に活気があります」(大崎氏)

2019年12月に展開された「家系ラーメン総本山 吉村家」とローソンとのコラボ商品。
写真=ローソン
2019年12月に展開された「家系ラーメン総本山 吉村家」とローソンとのコラボ商品。 - 写真=ローソン

また『吉村家』は、目に見えないところでの努力や工夫も怠っていないという。

「飲食業界では『変わらないために変わり続ける』とよく言われます。その店の土台となる味は死守しなければいけませんが、時代時代のトレンドに合わせ材料や配合を変えるとか、調理法を見直すとか、少しずつでも変えていかないとやがては常連にも飽きられてしまう。『吉村家』は長年の営業を通し、実は何度も味の見直しを行ってきました。だから周囲に家系の亜流店はもちろん、最近は全国的な有名店の『一風堂』や『天下一品』などもできている過当競争をものともせず、『吉村家』の前には相変わらず客が行列を作っているんです」(大崎氏)

もっとも、常に変わり続けるには欠かせないものがある。

「ラーメン店は厨房の気温が常に高く、朝早くから夜遅くまで立ちっぱなしという過酷な労働条件なので、健康な体の持ち主であることが絶対条件。せっかくお客さんが入っていながら、店主が体を壊したために営業を続けられなくなるというケースが少なくなんですよ」(大崎氏)

■『なんでんかんでん』など環状7号線沿いの店はほぼ全滅

全国的に名を馳せた老舗や繁盛店でも閉店の憂き目に遭ってしまう場合、ここまで挙がった

・後継者の不在
・味のマンネリ化
・店主の体調不良

の他にも、

・社会情勢の変化

が原因となる場合がある。

1980年代末から90年代にかけて全国にとんこつラーメンブームを巻き起こした『なんでんかんでん』が、その顕著な例だ。創業社長がテレビ番組『マネーの虎』にレギュラー出演するなど、かつては東京を代表するラーメン店のひとつだったが、2012年に店を畳んでいる(その後2018年に高円寺でFC店として復活後、渋谷に移転)。

夕暮れ時の街
写真=iStock.com/GA161076
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/GA161076

「昔は路上駐車が認められていたので『なんでんかんでん』をはじめとする街道に面したラーメン店が、タクシー運転手や車を持った若者を中心にすごく流行っていたんです。しかし道交法の改正などによって路上駐車の取り締まりがかなり厳しくなり、車で訪れる客が激減してしまうとそうした店は立ち行かなくなります。東京で言えば、30年ほど前に人気を博していた『なんでんかんでん』など環状7号線沿いの店は、そのほとんどが閉店もしくは移転に追い込まれました」(大崎氏)

■いまでも東京だけで毎月40~50軒が新規開店している

逆に『ミシュランガイド東京』でラーメン店として初の星を獲得した『Japanese Soba Noodles蔦』は、JR巣鴨駅前という路上駐車とは無縁の繁華街で創業しながら、その後、移転を余儀なくされている。

「ミシュランでの星獲得を機に連日客が大行列を作るようになり、出入り口をふさがれてしまう近隣からの苦情が殺到してしまったのです」(大崎氏)

かつて存在しなかった『ミシュランガイド東京』というグルメ紹介メディアの高評価が、皮肉にも立ち退きという事態を招いてしまったのである。ただし『蔦』の名誉のために書き添えておくが、同店は代々木上原に移転した現在も日本屈指の名店として、連日大盛況だ。

社会におけるメディア状況の変化といえば、インターネットの普及もラーメン店に多大な影響を与えている。

コロナ禍が収束していない現在でも、東京だけで毎月40~50軒のラーメン店がオープンしている。人間は新しいものに惹かれがちな生き物。新店ができれば、とりあえず一度は行ってみようかという気になるものだ。だから既存店も常連客を逃がさないよう戦い続けていかないと、淘汰されてしまう。

■ネットでの露出量によって店の経営が左右されてしまう

そうした新店、既存店双方のサバイバルの鍵を握るのが、ネット情報だ。

「ラーメンは手頃な値段で食べられるものだけに、他の料理と比べて愛好者が極端に多いんです。それだけにネットに上がる味の感想や新店情報の数も桁違いで、しかもスマホなどで簡単に読むことができる。今のラーメンファンはそうした情報に左右される傾向が強いですから、ネットでの露出量によって店の経営が軌道に乗ったり揺らいだりしてしまうんです」(大崎氏)

武蔵グループの総本店「創始 麺屋武蔵」のラーメン。
写真=「麺屋武蔵」ウェブサイトより
武蔵グループの総本店「創始 麺屋武蔵」のラーメン。 - 写真=「麺屋武蔵」ウェブサイトより

それでも、ネットが爆発的に普及する2000年ごろより前に評判になっていたところは、客が自分で主体的に選んだ店だという意識も手伝ってか、常連が定着していてなかなか離れないことが多いという。さらに老舗の代表としてガイド本に載る機会も頻繁にあり、人の記憶から消えることがない。

「しかし2000年以降にオープンした店は、次々にできる新店との露出量争いに巻き込まれ、日々苦闘しています。繁盛店であっても、決して気を休めることができないのです。グルメサイトやブログやSNSでラーメン情報が氾濫する前と後とでは、環境ががらりと変わってしまいました」(大崎氏)

■『中本』は毎月必ず何らかのテレビ番組に登場している

では、ネット普及後のラーメン業界でも人気を不動のものにしている店は、どんな手法で存在感を示し続けているのだろうか。

「2000年以前(1996年)の創業ですが、都内で複数のグループ店を展開する『麺屋武蔵』は、店舗ごとにメニューを変え、各々の個性を際立たせています。さらに各店で限定メニューを頻繁に提供し、新しい情報の発信も怠りません。また各店の店長は待遇もいいらしいのですが、売り上げが悪くなるとすぐ次の店長に取って代わられるという人材マネジメントで、スタッフを常に切磋琢磨させています。だからこそどのグループ店も味が落ちず、客が絶えないというわけです」(大崎氏)

蒙古タンメン中本はウェブサイトで「からうまラーメン日本一」をうたう。
写真=同店ウェブサイトより
蒙古タンメン中本はウェブサイトで「からうまラーメン日本一」をうたう。 - 写真=同店ウェブサイトより

そして、辛いもの好きにとっての楽園であるあの店も。

「『蒙古タンメン中本』は、辛いラーメンのジャンルで今、ほぼ独占状態にありますね。もちろん、辛いだけでなくおいしいというのが最大の理由。辛いもの好きはどの時代にも一定数いるので、辛い上に味わい深い『中本』の信者は絶えることがありません。そして、マスコミを活用するすべに長けていることも見逃せない。私はラーメンというキーワードに引っかかるテレビ番組をすべて自動録画しているのですが、『中本』は毎月必ず何らかの番組に協力し、画面に登場してきます。そうしたPR戦略も実に巧みなんですよ」(大崎)

栄枯盛衰のサイクルが短くなり、人気店でも安泰が約束されていない昨今のラーメン業界。にもかかわらず長く好業績を上げ続けている店は、それぞれ独自の経営戦略を駆使しているようだ。

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河崎 三行(かわさき・さんぎょう)
ライター
高松市生まれ。フリーランスライターとして一般誌、ノンフィクション誌、経済誌、スポーツ誌、自動車誌などで執筆。『チュックダン!』(双葉社)で、第13回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。このほか、著書に『蹴る女 なでしこジャパンのリアル』(講談社)がある。

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(ライター 河崎 三行)

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