ジョブ型雇用の普及で、「正社員よりフリーランス」の時代はやってくるのか

プレジデントオンライン / 2020年10月16日 11時15分

※写真はイメージです(写真=iStock.com/hamplifezy@gmail.com)

「ジョブ型人事」が話題だ。フリーランスのプロ人材は、その最たる存在だろう。アメリカでは近い将来、フリーランス人口が正社員を抜くと言われている。日本でも、そんな時代が来るのだろうか――。

■正社員ゼロ、ジョブ型人事の最前線

ウィズ・コロナ時代、従来のビジネスモデルや働き方が大きな転換点を迎えている。その1つの事例が前回紹介したECサイトでヘルスケア商品を販売するMEJだ。

同社は正社員をなくし、フリーランスのプロ人材と業務委託契約を結び、フルリモートと出退勤自由という働き方を実現し、コロナ禍でも売り上げ5倍の急成長を遂げている。

こうしたフリーランスの働き方は日本にも広がっていくのだろうか。同社の古賀徹社長がこの形態に踏み切るきっかけになったのが2016年、アメリカのシリコンバレーでの経験だった。

「シリコンバレーでは、アメリカは10年以内にフリーランスが正社員の数を上回る時代になると言われていました。その背景にはアメリカは新卒、中途にかかわらず基本的にどんなスキルを持っているかを評価して採用するジョブ型人事があります。日本のように新卒一括採用方式もなければ、入社後も年功に関係なく実力でしか評価されないドライな仕組みです。そうした社会で育った人の中には、フリーランスで働く人が増えている。社長1人で全世界の優秀な人材にいろんな業務を委託して成長している企業もあると聞きました。これはすごい時代が来るなと感じましたし、日本でMEJがその方向に舵を切れたのはこの時の経験が大きかったと思います」

■アメリカではフリーランスが36%を占める

アップワーク社の調査(「Freelance Forward:2020」2020年9月15日発表)によると、フリーランス人口は5900万人、米国の労働力人口の36%を占めている。この中には副業している人も含まれるが、このうちフルタイムの専門家は19年調査より8ポイント増加し、36%を占める。職種はコンピュータプログラミング、マーケティング、IT、ビジネスコンサルティングなどの専門家が50%を占める。

古賀社長は「10年でフリーランスが社員を逆転すると言われていたが、この勢いだとあと5年もかからないと思います。日本でもジョブ型人事の導入をはじめ、欧米と同じ方向に進み、フリーランスの働き方が主流になっていくと思う。たとえば以前は副業OKの大企業はほとんどありませんでしたが、今では優秀な副業人材を獲得するために自社の副業を解禁する企業も増えていますし、副業禁止だと優秀な人材が去っていく。フリーランスもOK、かつリモートワークもできる企業に優秀な人材が集まっていくでしょうし、こうした働き方を受け入れないと生き残れない時代になる」と指摘する。

また、コロナ禍のテレワークなど働き方が大きく変化する中で、働く人のキャリア意識も変化している。複数の企業と契約し、MEJの人事を担当するプロ人材の澤田清恵さんはこう指摘する。

「キャリアコンサルタントとしていろんな世代のキャリア相談をしていますが、コロナ以降、皆さんが今の働き方でいいのかと疑問を持ち、キャリアの棚卸しを始めています。私の友人でもかなりの人が都内を脱出し、地方に移住し始めている。地方で転職するのではなく、フリーランスになる人もいます。2020年になり、働き方の価値観がガラリと変わってしまいました。正社員という雇用形態の概念も徐々に薄れてくるのではと感じています」

■日本のフリーランスはまだ7%だが……

では日本にフリーランスはどのくらいいるのか。内閣官房日本経済再生総合事務局の「フリーランス実態調査結果」(2020年2月10日~3月6日調査)によると、フリーランスは462万人。うち本業が214万人、副業が248万人。全就業者の7%程度にすぎないが、コロナ以降の在宅勤務の増加を契機にフリーランスが増えているとの調査もある。ソフト開発、データ入力、文章作成などの業務を仲介するクラウドワークス、ココナラ、ランサーズ、うるるの大手4社の主要サイトの今年4月以降の新規登録者数は各社前年比1.2~2倍に伸び、4社を中心とする国内サイトの1~6月の新規登録者数は100万人に上る(日本経済新聞 2020年6月24日付朝刊)。

じつは政府も成長戦略の目玉としてフリーランスの拡大を掲げる。「成長戦略実行計画」(2020年7月17日閣議決定)において「人生100年時代を迎え、若いうちから、自らの希望する働き方を選べる環境を作っていくことが必要である。ウィズ・コロナ、ポスト・コロナの時代の働き方としても、兼業・副業、フリーランスなどの多様な働き方への期待が大きい」と明記している。

■「安定したフリーランス」になれる人の条件

ただし、誰もが安定した収入を確保し、自由度の高い働き方ができるわけではない。前出のMEJの場合、これまでの実績を基に「このぐらいでやってきましたという金額をそのままお支払いし、額としては市場価値より上乗せされている」(古賀社長)と言うように、会社と本人が対等に交渉して報酬を決定。仕事の内容も双方が納得した上で契約するというウィン・ウィンの関係にある。

つまり、企業ニーズの高い専門性と過去の実績を兼ね備えている人は活躍の道が開かれているが、逆に専門性が低く、実績がない人は企業との交渉力が弱く、結果的に低い処遇と自由度の低い働き方に甘んじることになりかねない。

実際に前出のアメリカのアップワーク社の調査でも、半数が高度の専門スキルを持つ人であるが、一方、専門スキルを必要としないライドシェアリング、犬の散歩、個人タスクなどで働く人やeBay(在宅でのネット出品販売)、Airbnb(宿泊仲介サイトで空き部屋を提供)などが約半分。この中にはネット上で単発の仕事を請け負うギグワーカーやプラットフォームワーカーも多い。また、フリーランスの不安事項の上位には「手頃な価格でヘルスケアを受けられるかどうか」「預金」「退職金」「公平な支払い」が挙がっている。

■年収は200万円台が最多という現実

日本でも前出の内閣官房の実態調査によると、ギグワーカーも含まれる「仕事の獲得手段として仲介事業者を活用」している人が21.5%を占め、「利用している仲介事業者数」が1社という人が46.8%。また、収入も本業として行うフリーランスの年収は200万円以上300万円未満が19%と最も多く、決して高いとはいえない水準にある。

しかも今回のコロナ禍でフリーランスのセーフティネットの脆弱性も浮き彫りになった。政府の「成長戦略実行計画」でもフリーランスへの発注のキャンセルが発生しても、契約書面が交わされていないために仕事がキャンセルになったことを証明できないなどの問題点も指摘している。

もちろん仕事がなくなっても社員のように失業給付が出ることはない。そのほか、①労災保険による休業補償給付、療養補償給付がない、②健康保険による傷病手当金が支給されない、③女性の場合、産前産後の出産手当金と育児休業期間中の育児休業給付金が支給されない、④厚生年金に加入できないために老後の公的年金支給額が低い――といった正社員との違いもある。

正社員と同じにせよ、とは言わないが、フリーランスを選択した人が安心してスキルを磨き、活躍できるようにするには最低限のセーフティネットの整備も不可欠だろう。

■各国の「セーフティネット」整備の動き

日本政府は、フリーランスが業務委託契約などで不利益を被らないようにする独禁法など経済法を周知するガイドライン策定することにしている。また、取引条件を明記した書面の交付を資本金1000万円以下の企業にも義務付ける下請代金支払遅延等防止法の改正、現在一部のフリーランスの職種のみ加入できる労災保険の特別加入の対象拡大を検討することにしている。

また、フリーランスの保護する動きは欧米でも進んでいる。EU理事会は2019年11月8日、「労働者と自営業者の社会的保護へのアクセスに関する勧告」を採択。自営業者に失業手当、病気と医療給付、労働災害および職業病に関する利益、老齢給付と遺族給付などの社会的保護策を提供する協議を加盟国に求めている。また、フランスでは2019年11月、プラットフォーム型就業者の労働条件の改善措置や職業キャリアの発展を実現する方法、適切な代金を得る方法などを盛り込んだ憲章をプラットフォーム事業者に課す「モビリティ法」が成立した。

ドイツ連邦労働・社会省も新たな就業形態であるプラットフォームを活用した自営業者が増大すると予測。公的年金制度の対象に自営業者を含めるなどの検討を進めている。アメリカでは2020年1月1日、カリフォルニア州でギグワーカーの生活を保障するギグワーク法(AB5法)が施行されている。

国・地域によってセーフティネットの違いがあるが、日本を含めて今後、フリーランスが増大するのは間違いないだろう。また、企業のジョブ型人事の導入が加速すれば、社員であっても「キャリアの自立」が一層求められてくる。それを促進する職業キャリア教育に対する企業や公的支援の充実も必要になるが、そうした資源をいかに使いこなし、自分のスキルを高めていけるのか。ウィズ・コロナを生きるビジネスパーソン共通の課題である。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文 写真=iStock.com)

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