アマゾンの2万円の棺で素人が火葬まで済ませることは可能なのか
プレジデントオンライン / 2020年10月13日 17時15分
■火葬のためには「棺」のほかになにが必要なのか
アマゾンで売っている2万1000円の棺桶を買って、直葬したという人のレビューがTwitterで話題となっている。
果たして素人が2万1000円の棺を買い、火葬まで済ませることは可能なのだろうか。
私自身、自分の親世代たちが、戒名だ、なんだと、さも当然のごとく何百万円も葬儀費用をむしり取られるのをまざまざと見せつけられてきた。ロスジェネ世代としては、そんな金があるなら、少しでも後の世代に残すべきで、だからこそ、身内や自分の葬儀はアマゾンの2万1000円の棺を使ってお金を掛けずに最低限度で執り行えないものか、という考え方には共感できる部分が多かった。
しかし、実際はどうなのか。私はこれまでさまざまな葬儀業者と話をしてきたが、このような自分たちだけで道具をそろえて行う方法について語れる人はいなかった。
そんなときに、ある終活関係者を通じて知り合ったのが、近藤純一氏だった。近藤純一氏の運営する『葬儀24ドットコム』は、9万8000円という火葬プランを打ち出している。
■ユーザーの8割が9万8000円の激安プランを選択
話題になったアマゾンの棺代は2万1000円だが、これに3000円の送料がさらにかかる。お骨を納める骨壺を約5000円と仮定した場合、棺と骨壺だけでも3万円近い。
一方、近藤氏の火葬プランは、こういった棺や骨壺に加え、遺体の搬送や役所の手続き、火葬場の予約、焼香用具、納棺とセレモニーのスタッフ代が含まれている。ユーザーの8割はこの激安プランを選択するのだという。
例えば、「江戸川区在住 瑞江葬儀所」の場合、葬儀費用は19万8940円(税込。以下同)だ。内訳は、火葬プランの10万7800円に加えて、オプションとして遺体保存のドライアイスと防水シーツが2万2000円、さらに都内は民営の火葬場が一般的のため、火葬料6万1000円と安置所の使用料8140円が必要となっている。ロビーではなく控室で待機する場合は、控室料1万200円が別途かかる。また、公営の火葬場なら無料で火葬できる場合もある。
この火葬プランは、経済的な負担を究極まで軽くすることで、真の意味で遺族に寄り添うというスタンスである。祭壇や献花の押し売りもない。それは、近藤氏の死生観に由来しているそうだ。
「僕はもともと地場の葬儀社に勤めていたんですが、実は死後の世界も、輪廻転生も信じていないんです。死んだら無になるのに、なんでこんなに葬儀はお金がかかって、無駄な祭壇を飾らなければならないんだろうと思っていたんです。供養や成仏など、ただ、業界の人間が儲かるだけで何の意味もない。祭壇がないとなぜいけないのか、お坊さんはなぜいなくてはいけないのか。いらないんじゃないかと。それで激安の直葬プランを作ったんです。最初は他の葬儀社からなんてことをするんだと、叩かれましたね。価格破壊だとめちゃくちゃに言われました」
■「アマゾンの棺さえ買えば完結する」は誤解
近藤氏によると、実際素人が直葬を行おうとした場合、アマゾンで棺を買うだけで全てが完結するというわけではなく、さまざまな問題が立ち上がってくるという。
まずは、病院で亡くなった場合、自宅や安置所まで遺体の搬送をどうするのかという難問がある。
「病院で亡くなったら、葬儀社や火葬場の安置所に病院から運び出さなければいけません。まずそこで、どうやって遺体を運ぶの? となりますよね。ストレッチャーがない場合、おんぶとか、背負うしかありませんが、遺体からは排せつ物や、色んな液体が出てくる恐れがあります。かつて、お客さんが、亡くなったおばあちゃんを介護施設から抱っこして車で運んだ例がありましたが、体重が30キロくらいだったので、それは例外だと思います」
加えて、今日亡くなったとしても、翌日にすぐ火葬というわけにはいかない。亡くなってから24時間は火葬できないという法律があるためだ。
通常葬儀業者は、故人が亡くなると、役所まで足を運び火葬許可証を取り、さらに火葬場の予約を取る。近藤氏によると、早朝亡くなった場合、最短で翌日に火葬できるケースもあるという。特急で火葬許可証を取って、火葬場を予約して火葬炉が空いていた場合だ。
しかし、直葬なら平均で亡くなった翌々日に火葬というケースが多く、それまで遺体をどこかに安置する必要がある。葬儀社の安置施設に預けると、通常はその分、費用が発生する。
近藤氏の話では、自宅に安置することが安い場合もあるという。
「家で遺体を安置する人は減っていますが、自分の家に遺体を安置するのは、15年前は普通ですから、当たり前にできるんですよ。あと、季節によって遺体を冷やしているドライアイスを追加するタイミングなどは、経験と知識が必要だと思いますね」
■ネット通販の棺はふたが反り返っていることも
近藤氏によると、棺そのものは安いもので十分に使えるという。
「アマゾンの2万1000円の棺でいけると思いますよ。ただ、DIYで自分で棺を作ったりしたら、安置所や火葬場の冷蔵庫だけでなく、火葬炉に入らない可能性が出てくる。葬儀屋さんに卸している棺桶屋さんは、火葬場に適したサイズを納めている。うちでは、棺代はプランの中に入っていますが、自前で棺を用意したい場合、既製品で葬儀屋さんに卸す前提のものを買ってきてもらえれば、安くても問題なく使えると思います」
ただ、ネット通販の場合、不良品が届いた場合のリスクなども考慮する必要があるという。
「僕も格安の棺を仕入れているからわかるのですが、中国製の安い合板だと、無垢(むく)じゃないからふたが反り返ってることもある。安い棺はふたがやっかいなんです。故人が亡くなってから棺をアマゾンで注文すると、『明日火葬なのに、ふたが閉じなくて、どうすんのよ』となる場合も出てくれかもしれません。私たちは棺を在庫してるから、問屋に返品交換していただいたり、いったんふただけ取り換えておくということもできるのでいいですが」
焼いた後は、骨壺をどうするのかという問題も発生する。
「うちの場合は、骨壺の代金もプランに入っているのですが、自分で火葬しようとした場合、火葬場に骨壺を自分で持ち込むことになると思います。一部の火葬場では、骨壺を販売しているので、それを買えば大丈夫ですが、自分で持ってきた骨壺だと、お骨が入りきらなくなる可能性もある。骨壺の大きさも男性なら何寸とか、それぞれの火葬場で決められているルールがあるんです」
■葬儀の形は「簡略化」「低料金化」しつつある
近藤氏の話を聞いていると、棺だけネットで買っても、遺体の搬送や保存から、行政手続きなど、死後のもろもろは恐ろしく煩雑で気がめいってくることがわかった。ただでさえ身内の死で気持ちが落ち込んでいるところに、ここまでやるのは、とてつもない労力がかかる。
しかし、だからといって葬儀社のいいなりとなり、高額な葬儀費用は支払いたくないというジレンマもある。
そこで必要となるのは、まず葬送の儀礼を省くことに理解があり、死後のあれこれを淡々と遂行してくれる近藤氏のようなニュータイプの業者の存在ではないだろうか。
葬祭費用は高度経済成長期から右肩上がりで、バブル期は数百万円を葬儀にかけるのは当たり前だった。しかし、時代は瞬く間に変化し、葬儀の形はその潮流として限りなく簡略化、低料金化しつつある。一般的な葬儀業者なら嫌がるこの流れを近藤氏は歓迎している。
「昔と違って利幅は低くなるけど、逆に件数を増やせばいい。かつての大きな葬儀にしがみついている葬儀社はまだ多くて、僕みたいな考えはまだ少ないですが、だんだん時代の変化とともに増えていくでしょう。僕はお客さんが望んでもいないのに、祭壇や高価な棺などを売りつけるのがいいとは思いません。豪華にも簡素にもできるという選択肢を知ってもらうのがわれわれの仕事だと思うんです」
■「0葬」という火葬場でお骨を持ち帰らない葬送法
近藤氏が手掛ける火葬プランは、葬儀というよりは、全てをそぎ落とした死後の手続き代行に限りなく近い。
また、近藤氏は、火葬プランだけでなく新しい葬法の形である「0(ゼロ)葬」を行っている、数少ない葬儀業者の一人でもある。
0葬とは、宗教学者の島田裕巳氏が提唱した「火葬場でお骨を持ち帰らない」という葬送法だ。通夜も葬儀もなし、墓もなし、遺骨も何も残さずに、故人は火葬場で「さようなら」。遺族は、火葬場や病院で最後のお別れをする。立つ鳥跡を濁さず。私も、自らのお墓はいらないし、0葬がいいと感じている。
アマゾンの2万1000円の棺への反響は、かつての大きくて不透明な金額の葬儀に対する拒絶の証しに思える。とはいえ、イチから自分たちだけでやるのは難しい。遺体を運んだり、手続きで走り回るのに気後れする人も多いだろう。なので、どこまでを自分たちでやり、どこまでをプロに任せるかを、事情をくんでくれる業者と話し合いながら決めていくのが現実的な落としどころになる。ネットを調べると、近藤氏のように低額で火葬をサポートする業者はいくつも出てくる。
経済が右肩下がりで先の見えないこんな時代だからこそ、「煩雑な死後のもろもろ」について淡々とナビゲートし、適正価格で提供してくれる近藤氏のような業者の存在は、私たちの力強い味方と言えるのではないだろうか。
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ノンフィクション作家
1982年、宮崎県生まれ。大阪芸術大学芸術学部映像学科卒。出版社で編集者を経てフリーライターに。著書に、『超孤独死社会 特殊清掃の現場をたどる』(毎日新聞出版)、『孤独死大国 予備軍1000万人時代のリアル』(双葉社)、『大島てるが案内人 事故物件めぐりをしてきました』(彩図社)などがある。また、東洋経済オンラインや現代ビジネスなどのweb媒体で、生きづらさや男女の性に関する記事を多数執筆している。
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(ノンフィクション作家 菅野 久美子)
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