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「眠れない」「眠りが浅い」でクスリにハマった中高年の奈落

プレジデントオンライン / 2020年10月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bymuratdeniz

生活習慣病のエキスパートとして知られる池谷敏郎医師が、「老い」を止めるための独自のメソッドをまとめた『老いは止められる』(エクスナレッジ)を上梓した。年を取るとともに「眠れない」「眠りが浅い」と悩む人が増えるが、「不眠もどき」に安易な服薬は危険、かえって老化が進行する結果になるというのだが……。(第2回/全2回)

※本稿は、池谷敏郎『老いは止められる』(エクスナレッジ)の一部を再編集したものです。

■睡眠導入剤の処方の前に必要なこと

中高年になると「眠れない」「眠りが浅い」といった訴えが増えてきます。そして、病院でそうした訴えをする患者さんに対して、あっさりと睡眠導入剤が処方されることはめずらしくありません。

しかし、私はそうした患者さんたちに対しては、すぐに薬を出すことはありません。まずは、次のような質問をします。

「コーヒーや緑茶を毎日どれぐらい飲んでいますか?」
「朝起きる時間は何時ですか? 何時に寝ていますか?」
「昼寝はしますか? 何時にどれぐらいしていますか?」
「1日どれぐらい体を動かしますか?」

この質問に答えているあいだに、だんだん患者さん自身にも、眠れない原因が分かってくるようです。

コーヒーや紅茶、緑茶でカフェインを摂りすぎていたり、就寝・起床時間が乱れていたり、昼寝をしすぎていたり、昼間の活動量が少なかったり──そうしたことが複合的に原因になっていることが多々あります。

■「ノンレム睡眠」は若い時代の3分の1以下に

これらに当てはまらない場合は、次の質問をします。

「眠れなかった次の日、昼間に眠気やだるさはありますか?」

特に当てはまらない場合は、睡眠がそこそこ足りているということ。たとえ前日に6時間しか眠っていなくても、睡眠中に何度か目が覚めたりしても、翌日に元気なら深刻な問題はありません。

人間は加齢にしたがって、睡眠時間が短く変化するものです。健康な方でも、一晩に1~2回目が覚めたり、早朝に覚醒したりすることが増えてきます。しかしそれは、自然な加齢変化です。

20代と比べると、70代のトータルの睡眠時間は1時間も短くなって6時間弱になり、さらに脳が休息する深い睡眠状態を指す「ノンレム睡眠」は3分の1以下になっています。

■睡眠時間が短くなっても日中の活動に支障がなければOK

「20~30代のころは、8時間連続してぐっすり眠れたのに、今はとぎれとぎれに6時間睡眠なんです」という高齢者の方もいますが、それは自然な変化によるものだということが、よく分かります。

たとえ睡眠時間が5時間でも、6時間でも、昼間の活動に支障がなければひとまず睡眠がとれていると考えるべきでしょう。

「寝つけなくてつらい」「早朝に目が覚めてしまう」という場合は、眠くなるまで寝床に入らず、朝はダラダラと床で過ごさずに、早めに起床することを一度実践してみてください。

「睡眠時間が短く済むなんて得した」とポジティブにとらえて、早朝の散歩や読書を楽しんでみてはいかがでしょうか。朝からしっかり活動すれば、夜は自然な眠気が現れて寝つきがよくなり、良質な睡眠が得られるので、一石二鳥です。

■「眠れる薬」で老化が進む?

このとき「眠れないんです」と病院で訴えると、睡眠薬や抗不安薬が処方されがちなのですが、前述のような「慎重な問診」や「生活改善」をする前に、安易に薬に頼ることはおすすめできません。

私も過去には「眠れない」と訴える患者さんへ安定剤や睡眠薬を処方していた時代もありました。しかし、服用した患者さんがいつもぼんやりとしたままだったり、急に老け込んでしまったりしたケースがあったために、思い切って200人以上の患者さんの安定剤の処方を中止し、生活改善の指導を行うことにしました。

中には、突然目つきが変わって「薬を出して! 先生のイジワル!」とこちらを責めてくる方もいました。おそらく、睡眠薬の依存症になっていたのでしょう。その方は何年も通ってくれていた患者さんでしたが、結局最後までご納得いただけず、他院へ転院してしまいました。

■「クスリの前に生活改善」で起こった驚異の変化

一方で、無事に減薬や中止ができた患者さんたちには、素晴らしいポジティブな変化が現れました。目つきがしっかりしてきて、無表情かぼんやりとしていた表情は明るく変わり、言葉も増え、驚くほど若返ったのです。

睡眠薬を服用していたころは足元がおぼつかなくて、診察室までヨロヨロと時間をかけて入ってきていたある人は、服用を中止してからはスタスタとしっかりした足取りで入ってくるようになりました。

先日も、他院で睡眠薬を長年服用していた車椅子の80代女性が、当院の治療で服用を中止してからしばらくして立ち上がれるようになり、自力で歩行ができるようになったことがありました。

さらに、来院当初は何もしゃべらずにぼんやりとしていたのが、診察室にお孫さんも連れてきてくれて、にぎやかなおしゃべりを楽しむまでに変わりました。今ではすっかり家族の中心的存在になっていると聞きました。

健康的ではない高齢女性がベッドに横たわりながら、サイドテーブルに置かれた数々の薬を見つめている
写真=iStock.com/fizkes
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/fizkes

■睡眠薬は「効きすぎる」

無事に服用を中止できた方には、こうした劇的な変化が数多く見受けられます。

夜に服用した睡眠薬の薬効が、朝起きてからも持続してしまい、1日中うつらうつらとした状態になってしまっている人は多いのです。

睡眠薬を服用した高齢者の転倒もよく耳にします。眠気を引きずったまま生活しているので、当然ながら運動能力も低下してしまっているため、転倒しやすくなります。転倒して骨折をしてしまい、そのまま寝たきりになるケースもなかにはあります。

睡眠薬の副作用には、思考能力や意欲の低下などがありますから、長期間にわたって影響を受けることで、まるで廃人のようになってしまうことはありうること。そうした薬をいったんやめることで、悪影響を脱して状態が改善することは十分に考えられることなのです。

もちろん、本当に睡眠薬の服用が必要な症例はあります。しかし、私は、先の80代女性のように、「必ずしも必要はない」と診断したときには、食事や運動を中心とした生活習慣の実践で、少しずつ睡眠薬を減らすことから始め、徐々に卒業できるように一緒にがんばってもらいます。

時に、依存性の少ない漢方薬に切り替えることもあります。ただ「睡眠薬を止めなさい」とだけいっても、依存してしまっている患者さんには酷ですから、少しずつ切り替えられるようにほかの方法を取り入れながらアプローチすることが大切です。

■薬に頼るのは「最終手段」

睡眠薬の処方は10秒で終わりますが、生活改善の指導には10分かかります。だから、私には安易に思えるような睡眠薬の処方が後を絶ちません。

いちばんの問題は、気軽に飲むには、睡眠薬は依存性が強すぎるということです。20代、30代の若い世代の人たちにも、睡眠薬依存に陥っている人が少なくありません。

そうした方々にも、同じアプローチで依存から抜け出すお手伝いをしています。元気いっぱいの時期なのに、昼間にボーっとしているなんて人生大損ですよ、とお話しています。

よい眠りを得るための薬が、多くの方の老化を早めているように思えてなりません。私は、まずは生活指導を行い、患者さんの健全な体の働きを取り戻してもらうことこそが、医療が本当に果たすべき役割ではないかと思っています。

みなさんには、薬に頼る前に、ぜひ最初に生活習慣の見直しをしてもらいたいと思います。薬に頼るのは、最終手段です。

■池谷式「老いない快眠メソッド」

中高年の安眠に役立つ、生活改善の具体的指針をいくつかご紹介します。睡眠薬に頼る前に、取り入れやすいものからぜひ実践してみてください。

■快眠メソッド① 睡眠時間を最優先でスケジュールする

忙しい時期、つい一番に削ってしまうのが睡眠時間、という人は多いようです。お気持ちは分かりますが、医師の立場から言わせてもらうと「忙しいときほど、一番に十分な睡眠時間を1日の中に最優先でスケジュールする」ことを習慣にしてほしいのです。先に睡眠時間を予定に入れ、余った時間で仕事をする、といったイメージです。

睡眠不足は脳のパフォーマンスを下げ、体力も気力も奪います。その状態で多忙なタスクをこなしても、通常よりも時間がかかるし質も下がる可能性が高いでしょう。であれば、しっかりと睡眠をとり、脳によく働いてもらって体力も十分なほうが仕事は早く終わり、量もこなせるはずです。

仕事が立て込む時期や、小さなお子さんの育児で夜に十分な睡眠がどうしてもとれないときもあるでしょう。そんなときは、昼間に10分、15分の仮眠をとることをおすすめします。

平日も週末も起きる時間は一定に

■快眠メソッド② 平日も週末も起きる時間は一定に

「夜の寝つきが悪くて……」という患者さんには、私はいつも「朝、起きる時間を毎日同じに設定してください」とアドバイスしています。

寝つきが悪い人の場合は、起床から睡眠までの体内時計が乱れている可能性があります。そして、その体内時計をセットし直すベストタイミングが、朝の起床時だからです。

人間は朝起きて太陽の光を浴びた時に、体内時計がセットされるようにできています。朝にセットされた起床時間に合わせて、体は眠りを誘うホルモンであるメラトニンを分泌しています。朝起きる時間が遅くなると、当然ながらメラトニンの分泌されるタイミングも後ろへずれ込みます。起きる時間を決めず、コロコロと変わることで、体内時計は乱れていくのです。

特に多いのが、土日の朝寝坊。休みだからと、昼すぎまでのんびり寝てしまうと、体内時計が狂いやすく、睡眠のリズムが乱れてしまいます。月曜日の朝にぼんやりとしてしまう原因にもなります。

ベッドの上で、朝陽を浴びながらストレッチする女性
写真=iStock.com/Wand_Prapan
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Wand_Prapan
■快眠メソッド③ 就寝2時間前からはものを食べない

睡眠中は様々な臓器のリセットタイムです。起きているあいだ、何度も消化・吸収という仕事をこなした胃も、睡眠中にさらに大きな仕事を行っています。それは就寝中の「大蠕動」。

就寝中にせっせと収縮を繰り返し、胃に残っていた小さな食べ物の残りカスや古い粘膜をこそぎ落として、胃の中をきれいにしているのです。この働きによって翌朝は胃の中がすっきりきれいに片づき、健全な空腹感を生じさせ、朝食を元気に消化したり、掃除をしたあとのゴミが便として排出されます。

睡眠中に行われる、健康な胃腸を保つための重要な働きを阻害しないため、就寝の2時間前になったら何かものを食べることは控えることをおすすめします。

■「コップ一杯の水」は寝る前ではなく、朝起きたときに

■快眠メソッド④ 枕は寝返りが打ちやすい高さに

健康な睡眠において、寝返りは自然と起こるもの。一晩のうちに20~30回、寝返りを打つといわれており、このときに動きを邪魔しないことも安眠のポイントになります。

「眠りが浅い」と訴える人には、高すぎる枕や、頭が沈み込んで固定されやすい低反発枕を使っているケースがよく見られます。もし、眠りに問題がある場合には、枕を見直すことも一案です。

私は寝返りが打ちやすい、低めの枕を推奨しています。新品のバスマットやバスタオルを蛇腹に折って、4センチ程度の高さに調整したものでもよいでしょう。仰向けになってその上に頭を乗せて寝たときに、首や頭に圧迫感がなくて寝返りがラクに打てたらOKです。

■快眠メソッド⑤ 寝る直前の水分は控える

診察室で「眠る前には血液がドロドロにならないように、コップ一杯の水を飲んでいます」と言う方がときどきいます。そういう方のほとんどが、夜中に数回、トイレで目を覚ましています。

池谷敏郎『老いは止められる』(エクスナレッジ)
池谷敏郎『老いは止められる』(エクスナレッジ)

私は、「血がドロドロになるよりも、深い睡眠が得られないほうが体に悪いですよ」とお伝えしています。尿意で睡眠が浅くなることもありますが、夜中にトイレに行く途中で寝ぼけて転倒したり、寒い冬の温度差で血圧がスパイクを起こして倒れてしまったりするリスクも高まります。

就寝中に汗をかいて水分が失われるのは事実ですが、就寝前や起床時に排尿があれば、体に害が出るほどの脱水にはなっていないので、安心してください。私たちの体には「ホメオスタシス(恒常性)」という働きがあり、血液中の水分量も一定に保たれるようになっているのです。

もちろん、のどが渇いているのであれば飲んでもかまいませんが、渇きをいやす程度の量に控えたほうが、睡眠の邪魔にはなりません。コップ一杯の水を飲むなら、朝起きたときがいいでしょう。

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池谷 敏郎(いけたに・としろう)
池谷医院院長、医学博士
1962年、東京都生まれ。東京医科大学医学部卒業後、同大学病院第二内科に入局。97年、医療法人社団池谷医院理事長兼院長に就任。専門は内科、循環器科。現在も臨床現場に立つ。生活習慣病、血管・心臓などの循環器系のエキスパートとして、数々のテレビ出演、雑誌・新聞への寄稿、講演など多方面で活躍中。東京医科大学循環器内科客員講師、日本内科学会認定総合内科専門医、日本循環器学会認定循環器専門医。著書に『50歳を過ぎても体脂肪率10%の名医が教える 内臓脂肪を落とす最強メソッド』(東洋経済新報社)、『「末梢血管」を鍛えると、血圧がみるみる下がる!』(三笠書房)、『血管を強くして突然死を防ぐ!』(PHP文庫)などがある。

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(池谷医院院長、医学博士 池谷 敏郎)

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