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デパート苦境のはずが…韓国「ブランド活況」の驚くべき実態

プレジデントオンライン / 2020年10月19日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Grosescu Alberto Mihai

新型コロナウイルスの影響でアパレル業界は苦境に立たされている。だが、韓国の主要デパートでは、特定の売り場だけが大きく売り上げを伸ばした。いったい何が起きているのか。経営戦略コンサルタントのキム・ヨンソプ氏がリポートする――。

※本稿は、キム・ヨンソプ、渡辺麻土香訳『アンコンタクト 非接触の経済学』(小学館)の一部を再編集したものです。

■「似た者同士」が集まるコロナ禍の社会

アンコンタクト社会の人間関係において最も重要なのは「似た者同士」だ。安全が確認され、お互いに似たようなレベルの志向を持つ人同士の関係が深まる。いわゆる「内輪」が強化されるのである。これまでは知識人や芸術家らを中心に、または富裕層を中心に、似た者同士が集まってきた。

前者がいわゆるサロン文化、ヒップスター文化を作ったとすれば、後者は上流階級のプライベートVIP文化を作っている。デパートやホテル、ブランド品業界がVIPのためのパーソナル・ショッパー・サービスやプライベートサービスを提供しているのもこのような理由からであり、上流階級の会員制社交クラブが広まったのも同じ理由からだ。

私たちはすでに富や地位、個性や志向によって閉鎖された人間関係を維持する文化をもっていた。これが新型コロナウイルスによってさらに広がったのだ。混雑を嫌い、限られた人のみ出入りすることができる個室やプライベートルームなど、閉鎖・隔離された空間が好まれた。そこに不安が生んだ排他性が加わることで、すでに拡大しつつあったプライベートサービスにチャンスが訪れたわけだ。「プライベート&プレミアム」は内輪を作る最も効果的なバリアである。

■ブランド品店は比較的無事だった

新型コロナウイルスの被害を免れた分野の一つが、高級デパートとブランド品のプライベートサービスである。被害どころか、パーソナル・ショッパーの予約率はさらに高くなったそうだ。デパートでは、年間購入金額によってVIP等級を付与された客に対し、彼らのみが出入りできるVIPスペースを用意し、製品を薦めるパーソナル・ショッパー・サービスを提供する。

当然、誰もが出入りするわけではない彼らだけの閉鎖された空間である上、消毒や防疫といった安全管理も徹底されている。財力があれば、不安がある時期こそ、こうした場所でのショッピングを好むはずだ。

ブランド品業界も、VIP顧客を外部の人と出くわさずに済む専用エレベーターのあるホテルのペントハウスや高級展示スペースに招待し、VIP顧客同士も空間内での動線が重ならないように配慮している。これは新型コロナウイルスとは関係なく以前から行ってきたサービスだ。

かつてデパートでは、営業時間終了後にVIP顧客だけを招いて買い物をさせるというイベントまで行っていた。このようにプライバシーとセキュリティを守るために使われていた閉鎖された買い物空間には、新型コロナウイルスの影響で防疫も加わることになった。コロナによる休業や営業縮小でデパート全体の売上は大きな打撃を受けたが、ブランド品店は相対的に無事であった。

■韓国の3大デパートで何が起きていたか

2020年2月1日~3月15日までの新世界百貨店におけるブランド品の売上現況を見ると、店頭での売上は前年同期比14%、オンライン売上では前年同期比で41%伸びている。デパート全体の売上と来店客数が大幅に減少したにもかかわらず、ブランド品売り場の売上が増えたというのは、デパートのプライベートサービスが善戦したという証拠だ。実際に新世界百貨店のVIP会員は、当該期間中に平均4.8回来店している。一般顧客の同期間の平均来店回数2回よりはるかに多い数字だ。当該期間中の来店回数の減少幅も一般顧客47%に対し、VIP会員は20%と相対的に少なかった。

コロナが拡散していた時期でも、VIP会員が相対的にデパートを訪れることができたのは、防疫と安全に対する信頼があったからだ。デパートが管理を一層徹底していたからである。現代百貨店の同期間におけるブランド品売り場の売上は前年同期比0.7%増、オンライン売上は97%増であった。ロッテ百貨店では前年同期比マイナス7.9%と、ビッグ3の中では唯一減少しているが、オンラインでの売上は22%伸びている。オフラインの売上では明暗が分かれたが、オンライン売上では一様に満足を得られたかたちだ。

新世界百貨店がロッテ百貨店や現代百貨店に比べて店舗での売上増加が目立つのは、ブランド品売り場の多さと休業日数の少なさによる。ロッテ百貨店は2020年2月1日~3月15日の期間中、感染者の来店によって全国16店舗で計23日間休業した。新世界百貨店では5店舗、現代百貨店では3店舗のみが感染者の来店で休業している。

■A5ランク以上、霜降り牛肉がどんどん売れる

現代百貨店では、新型コロナウイルス拡散後、狎鴎亭本店の1++等級〔訳者注:日本でいうA5ランク〕以上の韓国産牛の売上が前年比30%以上増加したそうだ。1++等級の国産牛の中でも最もマーブリング点数〔訳者注:いわゆる「霜降り」の度合いを示す〕が高い「マーブリングスコアNo.9ロース」に至っては、金曜日に入荷すると土曜日の午前中に売り切れてしまうほどだという。現代百貨店の顧客データ分析結果によると、このロースの売上の80%以上がVIP会員によるものだった。だからこそ、デパートはVIP顧客の誘致に積極的になるのだ。

日本の焼肉
写真=iStock.com/taa22
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/taa22

ロッテ百貨店のVIP制度(MVG)は4等級に分けられており、そのうち最も低い等級MVG-Aceでも、年間2000万ウォン(180万円)以上(一部の店舗では1800万ウォン以上)使わなければならない。MVG-Crownでは4000万ウォン以上、MVG-Prestigeでは6000万ウォン以上、LENITHでは1億ウォン以上だ。これに加えて2019年からは800万ウォン以上のVIP+を新設し、20~30代を誘致している。新世界百貨店でも年間400万ウォン以上使えばVIP待遇を受けられる。VIP級顧客の65%は20~30代だ。

「プライベート&プレミアム」を経験した20~30代には、上位ランクのVIP会員になりたいという欲求が高まる。内輪を経験した人は、特権が与える大きな喜びを実感する。経験する前と後では感覚が変わるのだ。ブランド品の消費において20~30代が新たな消費勢力として台頭してくる中で、デパートは積極的に彼らをVIPに引き入れている。

■プライベートサービスをもつホテルは強かった

新型コロナウイルスによって高級ホテルは打撃を受けた。宿泊客も大幅に減少し、レストランのビュッフェの売上は落ち込みがひどかった。しかし、通常「別室」や「個室」と呼ばれるプライベートルームでは、むしろ予約が急増し、1~2週間早く予約が締め切られるほどであった。単なる親睦のための食事もあるだろうが、ビジネスミーティングとしての需要が入り、小規模なプライベートルームでの食事予約は相対的に打撃を受けていない。多くの人と共にする空間は差し支えるので、少数の限られた人だけで過ごせるプライベートルームが好まれたのだ。

高価ではあっても安全なイメージで好まれる高級ホテルにあるレストラン内のプライベートルームは一層安全に思われる。他のレストランが打撃を受ける中で、ホテルのレストランが相対的に善戦したのには、このような理由があった。ホテルやリゾート業界は大きな打撃を受けたが、会員制の高級リゾートは相対的に影響が少なかった。元々プライベートサービスが提供されていたところに、より徹底的に少数を管理するようになったため、安心できる空間だと考えられたのだ。

■「ホカンス」需要が下支えしている

高級ホテルでも落ち込んだ客室稼働率を上げるため、アンコンタクトサービスを積極的に打ち出している。ソウル新羅ホテルでは外出自粛期間中、窮屈な家の代わりにホテルの部屋で、他人との接触なしに休める商品として、ルームサービスパッケージを販売した。朝食や夕食のルームサービスが付いた宿泊パッケージは、元々、「寒空の下どこかに出かけることなくホテルの部屋で休もう」というマーケティング戦略だった。毎年、旧正月直後の1カ月間販売していた商品を、視点を変えて新型コロナウイルスに適用させたのだ。

当初は3月の1カ月間のみ販売予定だったが、コロナ禍が続いたため4月まで販売を延長した。ホカンス〔訳者注:ホテルとバカンスを組み合わせた造語〕が普遍的なトレンドになっているため、外出自粛期間中であってもルームサービスパッケージをはじめとしたサービス空間に対する需要は存在する。高級ホテルでも客室稼働率が20~30%台まで落ち込んでいるのだから、業界としては客室稼働率を少しでも上げるために、こうした需要を取り込むほかない。

■誰もが「特別感」を得られる時代に

ソウルのロッテワールドタワーの123階には、プレミアムラウンジバー「123ラウンジ」がある。ソウルで最も高い場所にある空間で、プロポーズの名所としても有名だ。123ラウンジで販売している「ザ・スカイ・ロマンチック・プロポーズ・パッケージ」は一日4組まで受付可能で、パッケージの種類により1回当たり金額は30万ウォン、60万ウォンとなっている。

ホテルのロビーの夜景
写真=iStock.com/poplasen
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/poplasen
キム・ヨンソブ、渡辺麻土香訳『アンコンタクト 非接触の経済学』(小学館)
キム・ヨンソブ『アンコンタクト 非接触の経済学』(小学館)

高額ではあるが、コロナによる打撃もなく予約は堅調で、むしろ増加傾向にあるという。2020年2月の予約は前年同期比280%と増加した。誰でも手軽に利用できる金額ではないが、だからこそ特別なプロポーズをしようという人に好まれている。内輪を作る最も簡単な方法が「プライベート&プレミアム」なのだ。

前述の事例は消費における内輪の事例だ。コロナ禍でも彼らの消費は健在だった。こうした消費をする人々は、消費の面だけでこうした行動をとるのだろうか? 人との付き合い方や社会的関係、共同体でも同じ態度をとると考えるのが妥当ではなかろうか? 「普通」から抜け出したい人は、ますます増えていく。セレブや知識人、芸術家だけが自分の個性と志向を表現し、ユニークな存在として扱われたいのではない。個性の時代になり、より多くの人が普通ではない特別な自分としての評価と、そうした空間・サービスを享受して、そういう人たちと交わりたいと願っている。

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キム・ヨンソプ 経営戦略コンサルタント
トレンド分析専門家。サムスン電子、現代自動車、LG、GS、Lotteなどの大企業や韓国政府の企画財政部、国土交通部、外交部などで2000回以上の講演、ビジネスワークショップを実施した。『ペンスの時代』、『大韓民国デジタルトレンド』など著書多数。邦訳著書は『アンコンタクト 非接触の経済学』(小学館)。

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(経営戦略コンサルタント キム・ヨンソプ)

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