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三菱自、ANA……「大企業出身者」ほど転職市場で辛酸をなめる理由5

プレジデントオンライン / 2020年10月16日 12時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/MarsYu

三菱自動車、ANA……コロナ禍の業績悪化で希望退職募集が相次いでいる。人事ジャーナリストの溝上憲文氏は「リストラ対象は主に40代以上や管理職で、再就職活動に苦戦する人が多い」と話す。転職で失敗する元大企業社員に共通する5つの特徴とは――。

■コロナ禍で活況の転職市場「大企業出身者」がひどく不人気な理由

コロナ禍の業績悪化による大手企業の希望退職募集が相次いでいる。最近では三菱自動車に続いて全日本空輸(ANA)も希望退職募集を実施することが報じられている。

その対象となるのは決まって40代以上や管理職だ。社員の中には募集に応募して再就職を決意する人もいるだろうし、あるいは募集しなくても、会社の先行きに不安を感じて転職を考える人もいるだろう。

もちろん昔と違い、40代・50代の求人ニーズは増えている。自分の専門性などキャリアに自信がある人は転職も可能だろう。しかし落とし穴もある。

大手人材紹介会社の部長は一番やってはいけないのは「会社を辞めた後に転職先を探すこと」だと指摘する。

「決して会社に辞表を出してから転職先を探さないこと。辞めた後の転職では年収が下がるケースがほとんどだ。辞めて仕事がない状態だと、相手企業に足元を見られて今までの年収より低い額を提示されることが多い。次の仕事を決めてから転職するのが年収を下げない秘訣だ」

とくに希望退職募集に応募した人は離職後に次の仕事を探す人が少なくない。希望退職募集に際してはオプションとして再就職支援会社のコンサルティングサービスを付けてくれる企業も多い。

■前職を辞めて充電のつもりが転職先を探す意欲を失い“放電”期間に

しかし、それでもなかなか決まらない人を筆者も多く見てきた。

中には会社から割増退職金をもらったこともあり「今は景気が悪いのでしばらくは様子を見たい。その間に充電しますよ」と言った人もいた。3カ月後に職探しを始めたが、結局1年経っても決まることはなかった。

本人は充電のつもりでも、必死に転職先を探す意欲を失ってしまう“放電”期間にすぎなかったのだ。

転職は決して甘くない。新卒学生の就活と同じぐらいの必死さも求められる。しかもミドルの転職では「若い人と違い、何をしたいかではなく、何ができるか」(前出部長)という専門スキルも厳しく問われる。

また、専門スキルがどんなに高くても、それだけで転職できるわけではない。ミドル・シニアの転職を専門とする人材紹介会社の事業部長は「専門性やスキル以外では何と言っても人柄」だと言う。

「たとえどんな高いスキルや経験の持ち主でも、クライアント企業との間でうまくコミュニケーションが取れない人は決定的にダメだ。とくに大企業の出身者は中小企業に再就職する人が多いが『この人はちょっと上から目線の物言いをするな』と感じる人は、最初はよくても結局、長続きしないで辞めてしまったという例が多々ある」

■嫌われる大企業出身者「転職で辛酸なめる人」の5つの共通点

では、大企業出身者が専門性と人柄において転職に失敗する共通点とは何か。以下の5つだ。

①今までの仕事の“棚卸し”ができていない
②専門スキルの領域が狭い
③プライドが高く、謙虚さに欠ける
④前職の会社とつい比較してしまう
⑤過去の地位や人脈にこだわる

上記の①②が「転職の入り口」で失敗するパターンだ。

①については、専門性はあっても本当に自分が得意とするものは何かについて深掘りできていないために、求人企業に「ぜひ、当社に欲しい」という説得力に欠けるからだ。

転職サイトの編集長はこう指摘する。

「大企業出身者であれば一定の専門性と何らかのマネジメント経験があるが、単に課長や部長をやっていましたという程度の説明しかできない人が多い。どういうメンバーに対してどのようなマネジメントをしていたのかという方法やマネジメントに対する自分の考え方、哲学を説明できないと説得力を持たない。さらに専門性を説明するために、どんな仕事の経験をしてきたのか、棚卸しをして、何が得意なのかを整理しておくことが必要だが、十分にできていない人が多い」

たとえば高学歴かつ大企業で部長を経験した人だからということだけでは中小企業は採用しない。逆に一流大学卒で大企業に長くいた人は「うちには合わないし、すぐ辞めるだろう」と警戒する中小企業も少なくないと聞く。

中年のビジネスマン
写真=iStock.com/metamorworks
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/metamorworks

■慶大卒、大手通信機器メーカー元役員57歳も人生転落の危機に瀕した

実際にそういう人を何人も取材してきた。

たとえば慶應義塾大学理工学部を卒業し、大手通信機器メーカーに入社、本社の部長職を経てグループ企業の役員になり、57歳で退職した男性がいた。

自分で再就職先を探し始めたが一向に決まらず、半年後にようやく7社目で中小企業に就職が決まった。彼がこう述懐していたのを思い出す。

「大学は理系なので、まともな就活もしないで学校推薦で会社に入り、何十年も同じ会社で働いてきた。再就職にあたっても当初は履歴書や経歴書もたいしたことは書けないし、面接を受けても次々に落とされる。5~6社落とされたらさすがに落ち込んだ。平日は家にいるが、行くところもなく、下手をしたら自分はこのまま働けないのではないかと思った。働く気力、体力はあるし、仕事ができる自信はあったが働く場がない。このときのむなしさは現役の人には絶対にわからないだろう」

■大企業の組織の歯車として細分化された職務を担っていただけ

現実の厳しさを垣間見せるエピソードだ。②も大企業出身者に特有の欠点だ。

大企業ではいろんな仕事をやってきたといっても組織の歯車として細分化された職務を担うケースが多い。

たとえば自分は人事のプロだと自負していても、それは大企業にのみ通用する専門性であって中小企業はそれだけては足りない。中小企業では人事部がないところもあり、人事・総務・経理など管理部門全般を任せられることが多い。ただし中小企業なので人事といっても採用から給与計算まで細かい仕事もあれば、清掃・備品処理など雑用という総務の仕事もある。そこまでは何とかできるとしても、大企業の人事部出身者は経理に詳しくない人がほとんどだ。

その結果、面接で「経理はできません」と言うと落とされる。あるいは入社後に経理まで任され、嫌になって辞めてしまう人もいる。

そうならないためには欠点を補うために経理の初歩の知識程度は事前に学習しておくべきだろう。経理に限らず、自分の専門領域に近い周辺の分野の勉強を心がけておくことが重要になる。

街
写真=iStock.com/kieferpix
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kieferpix

■大企業から転職した先で「前野さん」「内野さん」と陰口叩かれるワケ

残りの3つはまさに「人柄」に関わる部分だ。③については大企業で要職を務めた人に多い。再就職支援会社の事業部長はこう語る。

「我が強く、プライドが高い人は、前職では部長、事業部長、役員だったという意識がどこかにあるので謙虚さに欠ける。その人は立派な人かもしれないが、新しい職場に入れば新入社員であり、若い人から指示を受けないといけない。しかし指示されることにプライドが許さない人もいる。たとえば大手ゼネコンで一級建築士の資格を持ち、現場のトップを務め、中堅の建設会社に転職した人がいる。面接当初からプライドが高そうだなと何となく感じてはいたが、案の定、自分のやり方を押し通そうとして、年下の41歳の社長とぶつかって、最後はケンカ別れのような形で辞めてしまった」

やはり専門性が高いというだけではダメなのだ。新しい会社に入る以上、ゼロからのスタートと胆に命じ、謙虚に若い人と接することができるマインドセットは絶対に必要だ。

前職の会社とつい比較してしまうという④のパターンは前職の経験が長い人ほど陥りやすい。エン・ジャパンの転職コンサルタント100人に聞いた調査(2020年8月12日発表)によると、「転職先で活躍できないミドルが行ってしまうこと」で最も多かったのは「前職の会社と転職先企業を比較して悪く言ってしまう」(59%)だった。続いて「前職の仕事のやり方を持ち込む」(55%)、「これまでの経験や実績をひけらかす」(53%)の順だ。

前職の会社と今の会社を比較して発言するのは、社長よりも従業員を敵に回してしまうことが多い。「前の会社では」とか、時折「うちの会社では」と言い間違えてしまう人を「前野さん」「内野さん」と、周囲から揶揄されることは以前からあった。

「前の会社ではこうやっていたから、そうすべきだと主張すると、従業員は自分たちのやり方を否定された気分になり、何をやっても反対する抵抗勢力になってしまう」(再就職支援会社事業部長)ことになりかねないのだ。

たとえば転職先の会社の仕事のやり方がアナログだからITを使って一気に業務改革を断行しようとすれば、必ず抵抗に遭う。その場合は「自分の知識・経験を若い人に徐々に伝授し、信頼を勝ち取ることから始めることが大事」(事業部長)という。

■年下でも社歴では先輩、素直に謙虚に転職先に溶け込む努力を

同じように⑤の過去の地位や人脈にこだわるのも禁物だ。たとえば営業職として採用された場合、過去の人脈を頼りに営業しても受注につながらないケースが多い。

よほど前職時代に営業先の信頼が厚く、貸し借りの関係がある人であれば別だが、普通にルートセールスをやってきた人は「会社の看板」があるからうまくいっていたことに気づくことになる。会社の看板を自分の実力と錯覚している人も多い。たとえ1~2度うまくいったとしても、その後が続かなければ縁の切れ目となる。

転職したら、培った過去の実績や専門スキルだけに頼ることなく、新たに学ぶ意欲を持つこと、何よりプライドを捨てて、転職先に溶け込むことが必要だ。

前出のエン・ジャパンの調査で、ある転職コンサルタントは、ミドル・シニアにこうアドバイスする。

「今までの実績や経験はいったんリセットし、転職先のルールや風土に合わせて行動することが最適です。経験値やスキルは自身のほうが上でも、転職先にいる社員全員、社歴では自分の先輩にあたるということを頭に置き、素直に謙虚に、転職先に溶け込む努力をしてください」

転職成功の秘訣はこの言葉に尽きるだろう。

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溝上 憲文(みぞうえ・のりふみ)
人事ジャーナリスト
1958年、鹿児島県生まれ。明治大学卒。月刊誌、週刊誌記者などを経て、独立。経営、人事、雇用、賃金、年金問題を中心テーマとして活躍。著書に『人事部はここを見ている!』など。

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(人事ジャーナリスト 溝上 憲文)

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