ユニクロ超えに着々「#ワークマン女子」の想定を越える大反響
プレジデントオンライン / 2020年10月16日 15時15分
■アラフィフの妻が気に入った1900円のワンピース
「これ、今日は買えないの?」
10月16日に横浜にオープンする店舗「#ワークマン女子」のプレス発表会。女性向けのウエアが主体ということだったので、取材にアラフィフの妻を同行させた。初めてのワークマンだったが、一発で商品を気に入ってしまった。
「デザインがシンプルだからいろいろな服に合わせやすそう。とにかく軽いのが魅力。しかもこんなに安ければ文句なし」
特に妻が気に入ったのが「高撥水ビエラシャツワンピース」。ポケットが多く、普段使いでも仕事でも使いやすそうだと言う。価格は税込みで1900円。コスパ重視の妻が興奮するのも無理はない。
■コロナ不況なのに「2桁成長」を続ける
コロナ禍でもワークマンの勢いが止まらない。
帝国データバンクによると、8月のアパレルの上場企業24社のうち、前年同月の売り上げを下回った企業は8割に達した。ユニクロを率いるファーストリテイリングですら、コロナ禍の3月の売り上げは27.8%減。アパレル業界は危機的状況に追い込まれた。
しかし、ワークマンは2020年3月期の第1四半期のチェーン全店売上高が、対前年同月比26.3%増という驚異的な数字をたたき出した。その後も4月以外の全ての月で2桁成長を続けている。
そして、多くのアパレル店が閉店に追い込まれる中、ワークマンが横浜の桜木町駅前に女性向けの商品構成比率を高めた「#ワークマン女子」を10月16日にオープンさせた。
「想定を超える反響です」
そう話すのは広報部・部長の林知幸さん。新店オープンなどのプレス発表で、取材に来るメディアの数は通常であれば30社前後という。しかし、今回の「#ワークマン女子」は2日間で約60社のメディアが駆けつけた。密を避けるために、メディア取材は2時間の制限が設けられるほどの盛況ぶりだった。
今後、10年間で「#ワークマン女子」を全国で400店舗新規出店していくという。ワークマンにコロナ不況は全く関係ない。
■「スポーツ」「アウトドア」と好相性
なぜ、ワークマンはコロナ禍に強いのか?
「#ワークマン女子」の取材を通じて、3つの強みが見えてきた。
ひとつは、コロナ禍で「スポーツ」と「アウトドア」という、密を避ける屋外の2つのマーケットが急拡大したことが挙げられる。新しい生活様式で行動に制限を受けた人たちが、こぞってウオーキングやキャンプに手を出し始めた。
しかし、収束が見えないコロナ禍において、消費者の財布のひもは堅い。本来であればハイブランドなアウトドアウエアやスポーツウエアを買いたいところだが、半値以下の高機能なワークマンのウエアに目移りしてしまった可能性は高い。
「ワークマンの女性向けのウエアは、昨年対比で2.5~3倍の売れ行きなんです」
林さんは「#ワークマン女子」をオープンさせる理由をそう説明する。作業服以外の商品が好調に売れている背景を考えると、新しいマーケットの、新しい顧客が増えたことは確かなようである。
■「担当者総入れ替え」で作ったインスタ映えスポット
ワークマンのもうひとつの強みは、大胆なSNSの戦略である。
有名YouTuberやブロガー、インスタグラマーにアンバサダーに就任してもらい、製品開発や新商品の情報を独占的に配信してもらっている。SNSを通じて熱烈なワークマンのファンを作り、またその人たちに情報を発信してもらう仕組みが、ワークマンには出来上がっている。しかも、アンバサダーたちは無償でワークマンの情報発信に力を貸してくれているのである。
有名タレントやスポーツ選手をイメージキャラクターに添えたことで、売り上げが伸びる時代ではない。それよりも、インフルエンサーたちと良好な関係を作り、無償でSNSを通じて情報発信をしてくれたほうが、企業の宣伝方法としては費用対効果が高いといえる。
横浜桜木町駅前の「#ワークマン女子」の店内にはインスタ映えスポットを4カ所用意している。来店してくれた人や、試着した人に店内で写真を撮影してもらい、SNSで拡散してもらうことが狙いだ。
「最初は男性社員だけでインスタ映えスポットを作ったんです。しかし、女性社員たちに酷評されて、担当者が総入れ替えになってしまったんです(笑)。結局、広報部の女性社員を中心に、女性アンバサダーのアドバイスを受けながら、新たにインスタ映えスポットを作り直しました」(林さん)
ワークマンのSNSに対する本気度は、他のアパレル企業と大きく違うようだ。
■「SNSで拡散されている言葉」をそのまま店名にした
店舗のネーミングにもSNSの戦略に対するワークマンのこだわりが見える。
もともと「ワークマン女子」という言葉は、ワークマンのウエアを着た女性がSNSに投稿する際のキーワードのひとつだった。実際、インスタグラムで「ワークマン女子」と検索すると、10月15日現在で投稿数は1万4000を超える。
「せっかくSNSで拡散されている言葉ですから、それを店名にしてしまったほうが集客につながると考えたんです」(林さん)
女性向けのアパレル店舗をオープンする場合、言葉の響きが良かったり、店主のこだわりのネーミングをつけたりするのが一般的である。しかし、ワークマンは「SNSで拡散されるため」という理由で、あえて「#ワークマン女子」という店名にしたのである。
今後、「#ワークマン女子」に来店したSNSのユーザーは、写真映えする店内のスポットで撮影をして、インスタグラムやフェイスブックに店名を入力して投稿するはずである。ハッシュタグをつけたくなくても、店名に「#」がつく以上、「#ワークマン女子」と入力するしかない。そうなると、SNS上には「#ワークマン女子」という言葉があふれて、女性のワークマンのウエアの着こなしの写真以外にも、「#ワークマン女子」の店舗情報も、SNSを通じて拡散されることになる。
この戦略は、SNSの本質を理解していなければ実践することのできない、大胆な販促方法と言える。消費者がより有益な商品情報をネットから引き出そうとしているコロナ禍において、SNSの販促を強化するワークマンが優位に立っていることは間違いない。
■来店層を分けて、既存店の混雑を解消
ワークマンの3つ目の強みは「協力者を大切にする」である。
取材前、「#ワークマン女子」を展開することによって、既存のワークマンの店舗の売り上げに大きな影響が出るのではないかと心配していた。特にワークマンはフランチャイズ方式を採っているため、今まで作業服の販売で売り上げを立ててきた店舗にとって、顧客が奪われるリスクが出てくるのではないかと思っていた。
「実は『#ワークマン女子』の展開は、既存店の混雑解消の目的もあるんです」
林さんいわく、作業服中心の『ワークマン』と、アウトドアウエアの比率が高い『ワークマンPlus』は、土日になると一部の店舗で大混雑することが問題になっていた。作業服を買いに来た人が駐車場に入れなかったり、男性ばかりのお店に女性客が入りづらかったり、顧客のすみ分けが課題となっていた。
「『#ワークマン女子』は作業服、作業用品を扱わない一般客向けだけの店舗です。コンセプトを変えることで、お客さまを分散させ、ゆったりと買い物をしていただきたいと考えました」(林さん)
しかも、「#ワークマン女子」で売られている商品はワークマンでもワークマンPlusでも購入することが可能だ。つまり、既存の店舗がお客さまを取られてしまう心配はない。
別のコンセプトで店舗を作り、バッティングさせないことで、販売パートナーであるフランチャイズ店を守る。今までワークマンの売り上げを支えてきてくれた店舗を大切にしたいという思いが垣間見られる。
■「残業なし」「ノルマなし」「期限なし」の経営
社外だけでなく、社内の“協力者”も大切にするのがワークマン流だ。
今後、「#ワークマン女子」は全国で400店舗展開していく予定だが、この目標は「10年」というゆるやかな期限で設定されている。
「目標を決められて『やれ』と言われたら、社員がストレスを抱えて目標を達成できないことのほうが多いと思うんです。それよりも、『がんばろう!』というゆるやかな目標を掲げられたほうが、とんでもない結果を生み出すケースがうちの会社には多いんです」(林さん)
ワークマンは「残業なし」「ノルマなし」「期限なし」の“しない経営”というユニークな方針を掲げている。従業員や提携先に無理な負担を追わせたりする経営はしない。企業を成長させるための「協力者」を大切にすることが、コロナ禍でも力を合わせて売り上げを伸ばせる底力になっているのである。
■キッズ向け商品が充実してきた
アフターコロナの世界で、ワークマンはどこに向かうのか。
「#ワークマン女子」の店内を回って気付いたことは、キッズ向けの商品が今まで以上に充実している点だ。女性客を取り込むことができれば、キッズ向けの商品やベビー用品の充実は時間の問題のように思われる。西松屋やしまむらの市場を脅かす存在になる可能性は決して低くはない。
また、ワークマンの高い商品開発力があれば、紳士服業界に打って出てくることも予想される。スーツの販売は在宅のリモートワークの影響を受けて大苦戦中だ。ワークマンがカジュアルとフォーマルの中間ぐらいの、ゆるやかな着心地の低価格スーツをリリースすれば、紳士服業界に与える打撃は大きい。
■10年後には店舗数でユニクロ超えをする可能性
配布されたプレスリリースによると、ワークマンの店舗構成は10年後には「#ワークマン女子」が400店舗、「ワークマンPlus」が900店舗、「ワークマン」が200店舗になるという。もし、これが実現すれば、総店舗数は1500店舗。2019年8月期の国内のユニクロの店舗数が817店舗ということを考えれば、10年の歳月はかかるとはいえ、ユニクロを超えるアパレルの大販売網をワークマンが構築するかもしれない。
「そんなバカな」と思われるかもしれないが、今後、新型コロナウイルスの影響で、百貨店やショッピングモールから、アパレル系の店舗が続々と撤退していくことが予想される。積極的に路面店を展開してきた紳士服メーカーも、コロナ禍を機に店舗数を減らしていくことも考えられる。
そこの隙間に、集客力が高く、SNSで話題の「#ワークマン女子」が入り込む可能性は十分にある。もしかしたら、「#ワークマン女子」の“10年400店”の目標は、コロナ禍で早まることになるかもしれない。
「#ワークマン女子」の取材を終えた後、妻が自宅近くにあるワークマンPlusに寄って、アウトドアウエアを買いたいと言い出した。ショッピングモールの中にあるスポーツ用品店に行こうと提案したところ、即却下となった。
「高い服を買ったら、遊ぶ前にお金がなくなって楽しめなくなるでしょ」
ワークマンのコロナ禍での本当の強さは、コスパ意識の高い女性客のハートをわしづかみにしたことなのかもしれない。
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有限会社いろは代表取締役
大企業、中小企業問わず、販促戦略立案、新規事業、起業アドバイスを行う経営コンサルタント。大学卒業後、雑誌編集者を経て観光牧場の企画広報に携わる。現在は雑誌や新聞に連載を持つ傍ら、全国の商工会議所や企業等でセミナー活動を行い、「タケウチ商売繁盛研究会」の主宰として、多くの経営者や起業家に対して低料金の会員制コンサルティング事業を積極的に行っている。著書に『売り上げがドカンとあがるキャッチコピーの作り方』(日本経済新聞社)、『御社のホームページがダメな理由』(中経出版)ほか多数。
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(有限会社いろは代表取締役 竹内 謙礼)
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