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「トランプは落選する」ファッションが映すアメリカ世論の劇的変化

プレジデントオンライン / 2020年10月20日 11時15分

米国ノースカロライナ州グリーンビルで演説するドナルド・トランプ大統領=2020年10月15日 - 写真=AA/時事通信フォト

■有力政治家らの服装を見れば民主党優位は一目瞭然

アメリカ大統領選挙の投票日直前、ニューヨークは何もかもが選挙一色だ。

タイムズスクエアには「Vote」と書かれた巨大なスーパーサインが輝き、コンサートアリーナとして知られるマディソン・スクエア・ガーデンが今年初めて投票所になることが話題になっている。

アメリカ全土で投票への関心は高く、19日時点で3000万人以上が郵便投票または期日前投票を済ませたという報道もある。また激戦州の一つでもあるジョージア州では、期日前投票の待ち時間が8時間と発表されたにもかかわらず、長い列ができた。朝4時から並んだ人もいたという。

筆者の周囲では、初めて投票する18歳のZ世代やミレニアル世代が、この投票がアメリカの運命を決める重要な選挙だと真剣な眼差しで語り、もし負けたら自分たちが大切にしているものを失うかかもしれないという不安を訴えている。

筆者の見解では、現時点でトランプ落選は間違いないと確信している。なぜなら民主党が若者の支持を集めていることは、有力政治家らのファッションを見れば一目瞭然だからだ。

■ターゲットにしているのはミレニアル&Z世代

例えばファッションブランドはこぞって「Vote」グッズを作っている。

マーク・ジェイコブスの定番バッグ「THE TOTE BAG」は、Toteの部分をVote(投票)に変えたTHE VOTE BAGを発表して話題になった。バナナリパブリック、Gap、マイケル・コース、ケネス・コール、Fossilなど多くのブランドが、投票をテーマにしたマスク、Tシャツ、アクセサリーを発売。多くが収益の一部を投票促進するノンプロフィットに寄付している。

さらにスポーツ・ブランドのKITH(キス)やフットロッカーでは、店内に有権者登録をするスペースを設けた。また選挙の情報をウェブ上に掲載したり、投票を促進したりするイベントを行うショップもある。

彼らがターゲットにしているのはミレニアル&Z世代だ。ファッションがライフスタイルに欠かせない世代にとって、投票が身近で自然な行動であることを印象付けるのに、これほど効果的なやり方はないだろう。

しかも18歳~38歳までのこの世代はアメリカの有権者の37%を占める大票田であり、これからの消費の担い手だからだ。

ファッション業界が前例がないほど政治に近づいている一方、政治の世界もファッションに急接近している。

■真っ赤な口紅が注目を浴びた民主党のスーパースター

まず非営利の投票促進団体とブランドとのコラボが注目だ。ミシェル・オバマが立ち上げたNPO団体「When We All Vote」は、多くのデザイナー(しかも全員がマイノリティ)とコラボしながら投票を啓発するコレクション(VOTE 4EVER=ヴォート・フォーエバー)を作り、Tシャツから自転車用ショーツ、マスク、アクセサリーを販売。そのほとんどがソールドアウトしている。

ファストファッションのH&Mでは、旗艦店の大画面に投票を呼びかけるメッセージを出している。
写真=筆者撮影
ファストファッションのH&Mでは、旗艦店の大画面に投票を呼びかけるメッセージを出している。 - 写真=筆者撮影

さらなる注目は、ファッションアイコンとしても支持を集める政治家たちの出現である。最先端は、なんと言っても“AOC”ことアレクサンドリア・オカシオ・コルテスだ。

AOCは2018年の中間選挙で、ニューヨーク州選出の下院議員として史上最年少の29歳で初当選した。元バーテンという庶民派、元大統領候補バーニー・サンダースを支援するボランティア経験もあり、彼女が発案した環境対策を基軸にした経済政策「グリーン・ニューディール」は多くの若者を中心に強い支持を受け、最年少ながら民主党のスーパースターの地位を得ている。

その彼女が身に着けていたコスメブランド「スティラ」の真っ赤な口紅がインスタグラムなどを通じて大ブレーク。以来、AOCが身に着けるものは、まるでセレブのように注目を浴びている。

ブレザーや真っ赤なワンピース、パンツスーツなどいかにもアメリカの女性政治家らしいアイテムから、ジーンズにボマージャケット、黒いジャンプスーツなどカジュアルなものまでとてもスタイリッシュだ。

■副大統領候補はコンバースのスニーカーで遊説

もう1人、ファッションアイコンとして急浮上したのが、民主党副大統領候補のカマラ・ハリスだ。

カマラも当初は他の多くの女性政治家と同様、パンツスーツのイメージが強かった。そんな彼女ががぜん注目されたのは、コンバースのスニーカーを履いて各地を遊説して回ったことである。黒のスキニージーンズにTシャツ、インディゴブルーのテイラード・ジャケット。足元は、コンバースのオールスターというスタイルが大きく注目、これで元検事という彼女の固いイメージが一気に吹き飛び、親しみあるものになったのは間違いない。

注目すべきなのは、彼らがトランプ大統領とは対照的にハイブランドを決して身に着けないことだ。

なぜ今注目の女性政治家は庶民ブランドを待つのか? この背景を知ると、アメリカの大統領選だけでなく、選挙後のアメリカの動きを知ることができる。この動きが一過性のものではなく、大きな潮流であることが分かるのだ。

①政治家の事情

票田を左右するミレニアル世代に訴えたい

前述したように今回の選挙は、特に民主党にとっては若者層の投票率がどれだけ上がるかが大きなカギとなってくる。

政治とファッションが急接近した今、若い有権者に対して身に着けるもので発信するメッセージは非常に重要だ。

そんな中で象徴的なのは、AOCがこの夏身に着けて話題を呼んだ「テルファー」のバッグだ。

■「若者のバーキン」として大人気に

TとCのアルファベットを組み合わせた大きなロゴが印象的なトートバッグは、ブルックリン在住の若いリベリア系アメリカ人デザイナー、クレメンス・テルファーによる代表作だ。あまりの人気で完売状態が続いており、入手困難なことから「若者のバーキン」とまで言われている。

環境に配慮する今時の若者のブランドらしくヴィーガンレザー製で、100万円をゆうに超えるエルメスのバーキンとは違い、2万円程度という誰でも手に入る価格帯を目指している。まさにダイバーシティ溢れる世代による、同世代のためのファッションブランドなのである。

AOCはニューヨークでもマイノリティと貧困層が多く住むエリアからの選出で、自身もプエルトリコ系のヒスパニックだ。

人種的にも価値観も多様化し、広がる格差の中でアメリカ史上最も貧しい世代とされるミレニアル世代だが、将来の環境・貧困対策の旗手であるAOC自身がまさにそのミレニアル世代を代表する1人として、身に着けるものとしてこれほどのベストチョイスはないだろう。

一方、カマラの方は、コンバースと並んでもう1つのトレードマークとしている、ティンバーランドのアンクルブーツが注目だ。このティンバーランドは、90年代のヒップホップスターたち、Jay-Zやノトーリアス・B.I.Gが履いて爆発的な人気を呼んだブランドで、今の90年代ファッションブームで再び注目されている。こちらも史上初の黒人副大統領を目指すピープル・オブ・カラーの代表、カマラにふさわしい選択だ。

彼らは民主党の新しい顔として、政策だけでなく価値観やライフスタイルを通して語りかけ、党の好感度も高めている。

■政治と社会に不信感をもつ世代

②ブランド側の事情

ブランド側がますます政治的なキャンペーンを打ち出す理由も、消費者であるミレニアル&Z世代だ。

例えばファッションに限らずZ世代の過半数、ミレニアル世代も約半分が、少し高くても環境に優しいブランドから買いたいと望んでおり、年長世代とは大きな差をつけている。

環境保護に貢献しているか、そして最近ではBLM(ブラック・ライブス・マター)運動に同調しているかが、ブランド好感度に大きな影響を与えているのだ。

ネットで環境に優しいブランドをチェックしたり、黒人が所有するブランドを調べてわざわざそこから買ったりする人も増えている。

その背景には、政治や社会構造のシステムに対する若者たちの強い不信感がある。特にトランプ政権の4年間、環境保護対策は大きく後退し、人種間の軋轢が高まったことに強い危機感を持っている。政府には頼れない、お金儲けだけに走っている経済システムも信用できない――こうした中で、自分たちが消費で社会をもっとサステナブルなものに変えようというミレニアル・Z世代のムーブメントが起きている。ポリティカル・コンシューマリズムだ。

VOTE4EVERMERCHが販売するTシャツ
写真=公式サイトより
VOTE4EVERMERCHが販売するTシャツ - 写真=公式サイトより

有権者の37%を占める彼らが投票すれば、トランプの落選は間違いないだろう。ただ、実は彼らが投票したいのは、こうした彼らの意図を政策でもくみ取ってくれる候補者であり、トランプはもちろん、バイデンでさえもこの点において彼らの支持を集めているとは言い難い。

■政策論争がまともに行われない中…

また、若者は二極化した政治をとても嫌ってもいる。リベラルや革新的な考え方が強い世代ではあるが、必ずしも民主党支持ではないし、そういうレッテルを貼られるのを嫌がる傾向がある。

だから投票したくないという若者が多く、それが2016年のトランプ当選につながったという分析もある。つまりこの層が投票に行くかどうかで、大統領選の勝敗は決するのだ。

ファッションが若者に語りかける力は大きい。投票日が2週間後に迫っても政策論争がまともに行われない中、ブランドや有力政治家がファッションアイテムを通じて発するメッセージに注目したい。

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シェリー めぐみ(しぇりー・めぐみ)
ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家
早稲田大学政治経済学部卒業後、1991年からニューヨーク在住。ラジオ・テレビディレクター、ライターとして米国の社会・文化を日本に伝える一方、イベントなどを通して日本のポップカルチャーを米国に伝える活動を行う。長い米国生活で培った人脈や米国社会に関する豊富な知識と深い知見を生かし、ミレニアル世代、移民、人種、音楽などをテーマに、政治や社会情勢を読み解きトレンドの背景とその先を見せる、一歩踏み込んだ情報をラジオ・ネット・紙媒体などを通じて発信している。オフィシャルブログ

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(ジャーナリスト、ミレニアル・Z世代評論家 シェリー めぐみ)

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