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「逆転勝利の匂い」トランプが崖っぷちで"トランス状態"をつくる全手口

プレジデントオンライン / 2020年10月19日 18時15分

2020年10月18日、ネバダ州のカーソンシティ空港で行われた集会の最後に踊るドナルド・トランプ米大統領。 - 写真=AFP/アフロ

11月3日のアメリカ大統領選に向け、2人の候補者がバトルを続けている。コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子氏は「現状、バイデンが優勢と伝えられていますが、トランプの岩盤支持者層の熱狂は冷める兆しがありません。炎上商法の元祖、ペテン師、ピエロとも言われますが、集会を宗教的トランス状態にして支持者を“洗脳”するコミュニケーション術は侮れません」という——。

■選挙まで残り2週間、劣勢トランプが持つブードゥー的な魔力とは

アメリカ大統領選まで残り約2週間となった。

各種世論調査では、民主党のジョー・バイデン候補(77)が大きくリードしているが、現地ではそれを額面通りに受け取り、安心する人は少ない。ドナルド・トランプ大統領(74)が何やらブードゥー的な魔力を持っていると言われるからだ。

嘘と暴言と誹謗中傷と自画自賛を繰り返し、正直、品位のかけらもない人物ではあるが、いまだその岩盤支持者層の熱狂は冷める兆しがない。

10月30日に発売される拙著『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)の中で、世界のリーダーたちのコミュニケーション術を分析する中で、トランプについても詳しく触れているが、今回は「彼の何がここまで人を心酔させるのか」について、掘り下げてみたい。

筆者が「トランプ教」の洗礼を受けたのは2004年のことだ。当時ニューヨークで暮らしていたが、その年の1月に始まったトランプ主役のリアリティ番組「アプレンティス(弟子)」に瞬く間に夢中になった。

事業家を志す若者たちが、彼の会社でさまざまな課題に挑み、最後に残った1人をトランプが採用する、という趣向で、毎回、落とされる人に向かってトランプが言い放つ「You are fired」(お前はクビだ!)は流行語になった。歯に衣着せぬ物言いが痛快で、大人気番組となり、筆者も毎週、楽しみにしていたものだった。

■「悪名は無名に勝る」炎上商法の元祖はいかにして出来上がったのか

20代で父の会社を継いでから、彼は常に、メディアのスポットライトを独占し続けてきた。ビジネス、結婚、不倫、スキャンダル、一挙手一投足がメディアに取り上げられ、毎日のように、タブロイド紙の一面を飾ってきた。半世紀にわたり、メディアと付き合い、どうふるまえば、何を言えば、メディアに取り上げられるのか、人々が喜ぶのかを身をもって学んできた人物ということだ。

そこで、知ったのは「悪名は無名に勝る」ということ。「真実がまだパンツをはこうとしている頃、嘘の方はすでに世界を一周している」とはイギリスの宰相、ウィンストン・チャーチル(1874~1965年)の言葉だが、トランプは、真実よりも、センセーショナルな嘘、ポジティブな話よりも、ネガティブな話のほうが100倍伝わりやすいことを熟知している。正論よりもあえて、異論を選ぶ。日本でも、常識や当たり前の真実を否定し、わざと、悪漢ぶった論調で話題をさらう輩は少なくないが、まさに彼はそうした炎上商法の元祖のような存在だ。

■スキャンダルも放言もくぐり抜け、ついた異名は「テフロントランプ」

メディアもセンセーショナルであるほど、視聴率を稼げるわけで、持ちつ持たれつの共存関係を長らく続けてきた。とにかく、露出をすればするほど、人々の記憶に残り、メッセージを刷り込むことができる。その「知名度」をてこに、ビジネスを拡大し、「億万長者」の虚像を作り出した。

どんなスキャンダルも放言もなぜかくぐり抜けてきたことから、「テフロントランプ」(※) と呼ばれる特異なキャラクター。その「毒を食らわば皿まで」的な居直り方は、人は毒や刺激も慣れてしまえば、麻痺してしまい、問題にならなくなることを知っているからであろう。

※編註:テフロン加工のフライパンと同じニュアンスで、なにが来てもツルンと避けられるようなイメージ。

極限まで許容の閾値を上げるために、あえて、聖人君子は気取らず、ヒール役として、刺激的な言い回しで、人々の関心をかき回し続ける。ただし、暴言、迷言、虚言は繰り返すが、絶対的なNGワードの1ミリ手前でとどまるところが非常に狡猾なのだ。

ここまでなら、単なる悪役・お騒がせキャラで終わってしまうところだが、彼のすごみは、「(ニューヨークの)五番街の真ん中に立って、誰かを銃で撃ったとしても、(彼に)投票してくれる支持者を失うことはないさ」と言いせしめるほどに、熱狂的ファンの心をつかむ魔術にある。彼の魔力を一言で言えば、彼は「いい人ではないが、(支持者を)いい気分にさせる天才」であるところだ。

■「逆転勝利の匂い」人をほめちぎり、宗教的トランス状態にする天才

ニューヨークタイムズが、今年3、4月に行われた彼の会見で発した26万語を詳細に分析したところ、その発言で最も多かったのは、①自分をほめる(600回)、②人をほめる(360回)、③人を責める(110回)という結果だった。

「私は最も偉大な大統領だ」「私ほど、○○できる人はほかにいない」……。厚顔無恥にもほどがある自画自賛をひたすらに繰り返すのはおなじみだが、その一方で、彼は支持者や自分に賛意を示す人たちをひたすらにほめあげる。ここがポイントだ。

彼のメインの支持者となっているのが、長年のマイノリティ優遇政策の下で、社会的に割を食ってきたと憤るブルーカラーの白人たちやキリスト教信者たちだ。「われわれの国の忘れ去られた人たちは、もうこれ以上、置き去りにされることはない」「私だけが問題を解決できるのだ」と宣言し、そうした階層の人々の「救世主」「メシア」としてふるまい、洗脳を続けてきた。

政治家など既得権階級を攻撃し、支持者に、革命の参加者のような連帯感やそうしたエリートを叩き潰す喜びを味わわせる。「君たちは遺伝子がいいんだよ」。長年、日の当たらなかった人々にとっては、こんなふうに、力づけ、勇気づけてくれる指導者はこれまでいなかった。そして、彼らが聞きたいことだけをひたすらに繰り返す。

2016年3月11日、セントルイスのドナルド・トランプのサポーター
写真=iStock.com/ginosphotos
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/ginosphotos

その意味で、彼は優れたマーケターでもある。ツイッターで発信する中で、特にバズる言葉を見つけ出し、繰り返す。「コロナなんて消えてなくなる」「壁を作ろう」。優れたセールスマンは物を売るのではなく、フィーリングを売る、と言われるが、彼は、耳当たりのよい言葉をささやき、「いいフィーリングを売り続ける」天才商人なのだ。

その大切な商談の場が、支持者を集めた集会だ。そこに行けば、まるでお気に入りのロック歌手のコンサートのように興奮し、誰かとつながり、何か大きな意味のあるムーブメントに参加しているような気になる。恐怖や不安をより強く持ちやすいとされる保守層、信仰心が篤く、非科学的な超常現象をも信じる人々であれば、容易に一種の宗教的なトランス状態に置かれても不思議ではない。

■本人は共感力ゼロだが、支持者に共感しているように見せるのがうまい

選挙における有権者の心理などに詳しいアメリカ・エモリー大学のウェステン教授は、「有権者が知りたいのは、①この候補者や政党は私と同じ価値観を共有しているのか、②この候補者は私たちのような人々を理解し、気にしてくれているか、の2点に絞られる」(米雑誌『Psychology Today』)という。

そもそも、選挙において、どの候補者を選ぶか、とわれわれが問われれば、人柄や高潔性、有能性、経歴などを判断する、と答える人もいるだろうが、そういったものは実は二の次ということなのだ。自分たちのことをどれだけわかってくれているか、自分たちと同じように考えてくれるか、つまり、どれだけ共感してくれるか、がカギになるということだ。

2017年10月21日アトランタのハロウィーンパレードでトランプの面をかぶる人
写真=iStock.com/BluIz60
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/BluIz60

筆者は前述の新著の中で、これから求められるリーダーシップ像はトップダウンの「教官」型ではなく「共感」型である、と指摘した。

コロナ禍で、国民の支持を集めたのは、その気持ちに寄り添うニュージーランドのジャシンダ・アーダーン首相(40)のような「人の痛みに寄り添う」タイプだったことからもわかるように、ソーシャルメディアを中心としたフラットなコミュニケーションが主流となる時代には、リーダーの「共感」力がますます問われるようになる。

筆者が見たところ、トランプ自身には共感力は全くないが、特定の支持者に対して、表面上、「共感」しているように見せるのが非常にうまい。彼と商売で会った人は、相手をもてはやし、ほめちぎる姿が印象に残ると口をそろえる。

そこには、商売のため、という意識もあるのだろうが、彼を駆り立てているのは実は「愛されたい」というある意味、強烈で幼稚な欲求があるように思えてならない。15日に開かれたタウンホールで、会場の質問者から「あなたは笑うと、本当にハンサムだわ」と言われた時、トランプはなんとも言えない嬉しそうな表情を浮かべた。

■ポリシーもイデオロギーもない、愛されるなら誰にでも何でもやる

厳格な父と母に育てられ、愛情に飢えていたと伝えられるトランプだが、人々からほめられたい、賞賛されたい、愛されたいという承認欲求が人一倍強い印象を受ける。彼自身には実は、何のポリシーもイデオロギーもないと言われる。

岡本純子『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)
筆者の最新刊、岡本純子『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)

彼は支持者の写し鏡でしかなく、その愛情を受けるために、何でもするのである。仮に、民主党支持者が彼を愛してくれるのであれば、彼らが喜ぶような施策をぶち上げていたのかもしれないということだ。

彼は自分のスタイルに似た強い独裁者を愛し、これまでも、北朝鮮の金正恩主席、中国の習近平主席のことを何回となくほめ、持ち上げてきた。今のところ、中国に対して、手厳しく当たっているように見せているが、優しくされ、自分に得があるとなれば、恥じらいもなく態度を変えるだろう。

その激しく、絶望的な渇望ゆえに、より愛してくれる白人至上主義者や極右を否定するどころか、憑依していく。民主党のバイデン候補は前回のディベートで、トランプをピエロと呼んだ。トランプは自信に満ちあふれ、大言壮語を吐き続ける一方で、常に「愛されたい」と自らを道化にする、悲しく、寂しいピエロの一面があるのかもしれない。

トランプはその希代のペテン師ぶりから、映画『グレーテスト・ショーマン』のモデルにもなった19世紀の興行師、P.T.バーナム(1810~1891年)に例えられることがある。いわゆる「フリークショー」などを展開し、成功を収めたが、破産を繰り返すところなどが似ているからだ。

第16代アメリカ合衆国大統領エイブラハム・リンカーン(1809~1865年)が言ったとされる「一部の人たちを常に、すべての人たちを一時(ひととき)だますことはできるが、すべての人たちを常にだますことはできない」という言葉に対し、バーナムは「ほとんどの人を、ほとんどの時間だませるものだ」と言ったと伝えられている。そのどちらが正しいのか、その審判の日は11月3日である。

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岡本 純子(おかもと・じゅんこ)
コミュニケーション・ストラテジスト
グローコム代表。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化支援のスペシャリスト。リーダーシップ人材の育成・研修などを手がけるかたわら、オジサン観察も続ける。著書に『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)などがある。

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(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子)

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