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自民党執行部も頭を抱える「一院制論者」ミスター議連の改憲論議

プレジデントオンライン / 2020年10月20日 18時15分

自民党の憲法改正推進本部役員会であいさつする衛藤征士郎本部長(中央)=2020年10月8日、東京・永田町の同党本部 - 写真=時事通信フォト

■しばしば暴走して政治を混乱させてきた人物が…

遅々として進まなかった憲法改正問題が、にわかにあわただしくなってきた。新たに自民党の憲法改正推進本部長に就任した衛藤征士郎衆院議員が矢継ぎ早に動いているのだが、衛藤氏という政治家は、しばしば暴走して政治を混乱させてきた人物。憲法論議でも、早くもその気配が出始めた。憲法改正に距離を取ってきた菅義偉首相も想定しない展開になってきた。

衛藤氏は最近、自身のツイッターで改憲に向けた決意を発信している。

「自民党憲法改正推進本部長に就任。2009年から今日まで、106回の会議、役員会39回、有識者ヒアリング37回、起草委員会12回開催。新たに自民党憲法改正原案起草委員会を設立。年末迄に党の改正原案をまとめ上げ、憲法審査会に提案したい。勿論、連立与党と緊密に連携し万全を期す」(10月9日)
「国会に憲法調査会、審査会が設置されて20年、海外視察11回。憲法改正、自民党は過般の選挙で4項目の改正を公約して勝利した。しかし、今日まで憲法改正原案を提案していない。自民党憲法改正原案起草委員会は年末迄に改正原案をまとめ上げ、憲法改正の使命と責務を果たす」(10月15日)

いずれも、長い間議論が行われてきたことを指摘して、改憲に向けてアクセルを踏む決意を示したものだ。

改憲推進本部長に就任後、衛藤氏の鼻息は荒い。だが、自民党内ではそんな衛藤氏を警戒混じりの冷ややかな目で見つめる。政治家・衛藤氏の政治手法と憲法観をにらみ、憲法論の前途を悲観的に見ているからだ。

■「ミスター議連」スタンドプレー先行との評価の衛藤氏

衛藤氏は79歳。参院1期、衆院12期を務めた長老議員。衆院副議長の経験もある。こう書くとどっしり落ち着いている印象を受けるかもしれないが、実はそうではない。新しい政策、国民受けしそうなテーマに飛びついて、議員連盟の会長や幹事長、事務局長などに収まることが多かった。

衛藤氏のホームページをみると今も数え切れない数の議連に籍を置き、会長、幹事長など要職に就いてることが分かる。最近では、「ゴルフ議連」の会長として、国家公務員倫理規程が禁じている官僚の利害関係人とのゴルフ解禁に向けて動き、注目されたことがある。

衛藤衆院議員が名誉会長・会長を務める議連

ただし、この時もそうだったが、マスコミで注目されるテーマを取り上げて目立とうという雰囲気が強く、周囲には、スタンドプレーに映ることも多かった。

■衛藤氏の代名詞の「一院制」は衆参両院から総スカン

衛藤氏の代名詞となっているのが「一院制」だ。衛藤氏が一院政導入論者であることを党内で知らない者はいない。もちろん、一院制を目指す議連も立ち上げてきた。

内外の課題が山積し、スピーディーな政策決定が求められる中、一院制の議論そのものは否定するものではない。しかし、実現するためには憲法の改正が必要だ。そして、現職の国会議員にとって、二院を一院にするのは自分たちの大リストラを意味する。よほど信念に基づいた一院政論者でない限り、この論には反対だ。

だから、衛藤氏の憲法観は異端ということになる。衛藤氏は今、本部長として自ら一院制を手掛けようとしているわけではない。ただし、衛藤氏といえば一院制という印象が強いので、彼が憲法について動くと皆、身構えるのだろう。

スタンドプレーが目立つ一院制論者。そんな衛藤氏が改憲論議の舵を取ることになった。案の定、衛藤氏は改憲推進本部に起草委員会を立ち上げ、自ら委員長に就任した。今後、週に2回ペースで改憲原案づくりの議論を進めることになる。

だが自民党だけで議論を加速すると、国民投票法改正案を含む今回の論議に重大な支障が生まれかねない。憲法問題で野党が反発すれば、その他の国会運営にも支障が出る。森山裕党国対委員長ら党執行部は「余計なことをしている」と不快感を隠さない。

国会議事堂と高層ビル
写真=iStock.com/kokouu
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kokouu

■改憲は「後回し」となるはずだったのだが…

推進本部の事務総長で衆院憲法審査会の与党筆頭幹事を務める新藤義孝氏も8日の記者会見で「自民党が新たな案をつくるというように誤解されるのはやめてほしい」と発言。形の上では記者団に苦言を呈して形だが、どう見ても衛藤氏の暴走にくぎを刺そうとしているようだった。

そもそも起草委員会の立ち上げは、衛藤氏自身の判断で行われたもの。同日の会見で「菅総裁からの支持は全くありません」と悪びれず認めている。

菅氏は安倍政権の基本方針を継承することは繰り返し明言している。しかし、その優先順位は変わる。菅氏は、携帯電話料金の引き下げや不妊治療の保険適用など、国民生活の実利になるようなものの実現を最優先する。相対的に安倍氏が進めてきた安保法制などの国のかたちを変えるようなものは、後回しになる。改憲も後回しになる項目になると考えられていた。

実際、菅氏もそう思っていたのだろう。今回の党改憲推進本部長の人事だけは「なぜ衛藤氏なのか」と首をひねる議員が少なくなかった。練りに練って人事を断行する菅氏としては珍しい。憲法問題の優先順位が低かったからかもしれない。その人事の結果、改憲論議が突出して進められることになるとすれば、予想外の展開となる。

■野党勢力が呼応し、政界再編の口火になる可能性も

そして、この混乱は思わぬ方向に化学変化を起こす可能性がある。

公明党は拙速な改憲論議には慎重だ。一方で、野党側には積極的な勢力がいる。日本維新の会は、野党ということになってはいるが、改憲勢力の範疇に位置づけられる。菅新政権誕生後は、さらに接近をはかるともいわれる。

国民民主党は、袂を分かった立憲民主党と差別化するために与党との改憲論議には前向きに応じる構え。独自の改憲草案のとりまとめを目指している。

玉木雄一郎氏は、BS番組で与党との改憲論議について「静かな環境の中で与野党が胸襟を開き議論していくことが必要だ」と発言している。

衛藤氏が主導して一石を投じたことで、これらの野党勢力が呼応し、改憲論だけでなく政権の枠組みの変化にもつながる可能性がある。衛藤氏がどこまで緻密に計算しているかはわからないが、結果として野党が反応する展開となれば、安倍政権下で全く進まなかった改憲問題を新たな段階に進めるだけでなく、野党再編のきっかけをつくることになるかもしれない。それはそれで、菅氏にとって悪い話ではないのだ。

(永田町コンフィデンシャル)

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