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「3年ぶりの異変」ヤリスクロスの爆売れでわかった本当に賢い車の買い方

プレジデントオンライン / 2020年10月23日 11時15分

コンパクトSUV「ヤリスクロス」 - 写真=トヨタ自動車WEBサイトより

■普通車が台数で“軽”を上回るのは3年1カ月ぶりの“異変”

コンパクトSUV「ヤリスクロス」が爆売れ中だ。そこから、カーマニアではない買い手には見えにくい、車選びのポイントがわかる。

今年9月、軽自動車も含めた新車販売台数でトップに立ったのは、今年2月に発売され2万2066台売れたトヨタの小型車「ヤリス(旧ヴィッツ)」。上期の総合1位だったホンダの“軽”「N-BOX」を3400台以上も上回った。普通車が台数で“軽”を上回るのは3年1カ月ぶりの“異変”だという。

乗用車ブランド通称名別順位 2020年9月
日本自動車販売協会連合会のウェブサイトより

それに大きく貢献したのが、8月末に市場投入されたコンパクトSUV「ヤリスクロス」だ。「ヤリス」とプラットフォームは同じだが、高度な運転支援技術、燃費の良さに加え、車好きにとっても安定感や走行性能、乗り心地は格別のようで、市場では単なるヤリスの“枝分かれ”という以上の高評価を得ている。

■営業マンは「ルーミー、ライズ」よりも売りやすい

しかし、これだけの販売好調は、こうした評論家の言うような車好きへの訴求力だけでは説明がつかなさそうだ。車用品メーカーで10年以上クレーム対応を務め、大手自動車メーカーの開発アドバイザーを務める平塚俊樹氏は、「値引きばっかりに血眼になっていると、大事な点を見失います」と、実際に購入に動かないと見えづらいセールスポイントを挙げる。

「ヤリスクロスは残価設定が高い、つまり将来の下取り価格を高く維持できるため、その分月々の支払額を少なく抑えることができます。だから、営業マンにしてみればルーミー、ライズといった他の同タイプのトヨタ車よりも売りやすいんですよ」(平塚氏、以下同)

■2年に1回ペースでどんどん買い換えられるクルマ

新車ディーラーや中古車販売店では、顧客が購入時に本体価格の50~70%のみを負担し、負担分のローン支払いが終了した後は購入店に下取りとして返却する。こうすることで、月々の支払い金額を低く抑える。下取り価格は車種ごとにメーカーが設定している。

「しかしここまで売れ筋となると、トヨタの設定額よりも、中古車の引き取り店・販売店の実地の売買で設定される額のほうが高くなります。ホンダのN-BOXとか、他メーカーのいい車でもあることだけど、こういう現象はトヨタ車が圧倒的に多いですね。だから特定メーカーにこだわったり、熱烈なファンでもない限り、みんなトヨタを買うんですよ」

某店での一例を挙げると、本体価格221万円、オプションほかもろもろ併せて300万円のヤリスクロスの残価設定が37%。すると頭金を22万円積めば月々の支払いは4万1200円(58回払い、初回のみ4万5000円超)と相当にリーズナブルに思える。ちなみに、セダンよりSUVのほうが残価設定はいい傾向にあるという。

「だから、トヨタの営業マンはヤリスクロスを集中的にお客さまに推すんです。今、これだけ高査定の実用小型車は珍しい。2年に1回ペースでどんどん買い換えて、いつでもピカピカの新車を楽しむことができます。後部座席の狭いヤリスクロスよりも実用性・快適性で上回る他社の小型車はありますが、新車セールスではヤリスクロスが今後は長期間優位に立つのでは」

■リースだと月11万円のヴェルファイアに月8万円台で乗れる

残価設定ローンの支払いは、車の減価償却のリミットである6年に合わせて最長5年だが、平塚氏はこれまで自社名義で車を累計30台前後購入。ほぼ2年に1台ペースで買い替えている。下取り、下取りの連続なので、「実際に支払った金額は30台分の3分の1です」。法人なら代金を損金計上できるリースでそろえるのが常だが、リースだと契約の途中で新車には替えられない。

トヨタ ヴェルファイア
写真=トヨタ自動車WEBサイトより
トヨタ ヴェルファイア - 写真=トヨタ自動車WEBサイトより

「5年でローン組んで2年で買い替えられるって、素晴らしいじゃないですか。リースだとだいたい月11万円のヴェルファイアが、月8万円台で乗れるんですから。しかも、社員がいつも新車に乗っている余裕のある会社なんだ、と周囲に思わせることもできる(笑)」

平塚氏はこれまで買い替えで数多くの失敗を繰り返しながら、いろいろなことを学んできたという。「最初は失敗ばかり。そもそも高すぎる高級欧州車は、買ったとたん価格が半額になるのが当たり前。リースは車種が古いまま5年間買い替えられない。500万円で買ったEVは、無音でかっ飛ぶ乗り味がすごい半面、5年目で電池が8割に劣化して、下取りに出したら査定40万(泣)。EVを使うならそれ1台を乗り潰すかシェアリング、リースくらい。トヨタが手を出さない理由がよくわかります」

■中古が海外で売れるか否かが、要素として一番大きい

では、ヤリスクロスに限らず、残価設定の高い車は、なぜ高いのか。

「中古が海外で売れるか否かが、要素として一番大きいです」

海外で確実に売れているなら、年数がたっても査定額が下がらない。メーカーが世界市場を意識して展開している車種をグローバルモデル(世界戦略車)と呼ぶが、トヨタならヤリスのほかカムリ、RAV4、ハイエース、ランドクルーザーがそれに当たる。必ずしも日本国内での売れ筋とは限らないが、各国市場の特性を見極めて、そこにフィットする仕様とすべくさまざまな工夫をこらしている。

「たとえば、トヨタ車でいえば伝統ブランドのクラウンは新車で800万円、対してグローバルモデルのカムリは同じ高級車でも500万円くらい。ところが、中古になると単価にほとんど差がなくなります。カムリは下取り価格が高くなるんですよ」

トヨタ カムリ
写真=トヨタ自動車WEBサイトより
トヨタ カムリ - 写真=トヨタ自動車WEBサイトより

■クラウンよりカムリを選んだほうが賢明であるワケ

ここで注目すべき双方のスペックの違いは、乗り心地や燃費とはちょっと違う。例えばこんな具合だ。

「日本の立体駐車場の幅は、多くが1800mmまでですが、クラウンの車幅は日本仕様の1800mmで、1850mmとでかいカムリよりも日本国内での使い勝手はいい。しかも法人のリースでの使用が多いから街中でも多く見かけます。でも、日本仕様のクラウンは、中国以外の海外中古市場では不人気、というか知られていないので、下取り価格は大きく下がる」

それなら、現在世界中で人気のカムリを選んだほうが賢明というわけだ。この立体駐車場のサイズに代表されるような国内事情を考えると、普通ならSUVではなくセダンやコンパクトカーを選びたくなるが、世界的に需要が高いのはSUVのほう。国内事情にもフィットしたヤリスクロスの優位性はここにもある。

「昔、カムリやプリウスのようなハイブリッド車は30万キロとか走ると電池がダメになるので査定が悪かったんです。しかし、最近は電池の価格が下がり、性能も上がったせいか査定が上がりました。これまで欧米では“トヨタ独特の仕様”と見られ、アジアでも修理が難しいため普及していませんでしたが、今後は需要が高まっていくのでは」

■1300ccより1000ccのほうが「査定」がよくなるカラクリ

そもそも、グローバルモデルと“ガラパゴス”モデルは本質的にどこが違うのだろうか。

「品質に差があるのではなくて、各社のマーケティングの違いです。例えば、ヤリスは価格の高い1300ccより1000ccのほうが、排気量は少なくても査定がめちゃくちゃいい。なぜなら、『日本の中古車が人気の中東某国で、税制上優遇される1000cc以下のほうが売れるから』とトヨタの某営業マンが教えてくれました。同じ車種でも、査定はグレードと装備によっても違うので、売れ筋を狙うのは重要」

車の営業マンは、仲のいい常連客とはよくこういう情報の交換をするという。常連でない人は、先々高く査定される車種の細かな選び方をすすんで聞いてみるといい。

「それ1台を最後まで乗り潰すつもりでなければ、いいグレードの車種を選ぶことが、結局は値引きよりも得をするんですよ。そういうことを教えている車雑誌やメディアは見たことないですね。みんな値引き額の話ばっかり」

単価が安くて高性能だから売れる、という単純な仕組みにはまったくなっていないところがキモだ。

■メーカーオプションを施したトヨタ車は高査定が期待できる

新車の購買層に対する、将来の査定額を視野に入れたトヨタのマーケティングは、他のポイントを見ても非常に優れているという。

「ディーラーが付けるカーナビなどのオプションは査定には影響しませんが、メーカーオプションは車体と見なされて、査定に組み入れられます。全車種に高価な安全機能やカーナビ、ディスプレイオーディオの標準装備を施したトヨタ車は、ますます高査定が期待できます」

スマホで代替できるカーナビのメーカーは今後生き残れない、という判断も後押ししたと思われる。環境性能より、壊れると厄介なアイドリングストップ機能をあえて外す決断を下したのも、高査定につながる耐久性を考えたトヨタらしい判断だろう。

では、今買うなら何を選ぶ?

「今なら、ルーミーやライズといった非グローバル車よりも、グローバルモデルであるヤリスクロス、間もなく国内市場にも出るカローラクロスが有望」

ともにグローバルモデルでありながら、コンパクトで国内にもフィットしているから、将来的に査定額で差が出てくる、と平塚氏は予測する。車選びの目安の一つにしてもらいたい。

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西川 修一(にしかわ・しゅういち)
プレジデント編集部
1966年、神奈川県生まれ。中央大学法学部卒業。生命保険会社勤務、週刊誌・業界紙記者を経てプレジデント編集部に。

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(プレジデント編集部 西川 修一)

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