「このままなら倒産」客数減に苦しむラーメン店が挑む"あの手、この手"
プレジデントオンライン / 2020年10月23日 15時15分
■「ラーメンの出前」が令和の時代に再び注目されるように
今年初頭から現在に至るまで続くコロナ禍は、日本のビジネス風景を一変させた。
中でも飲食業は大きな影響を受けた業種のひとつで、ラーメン店もその例外ではない。
「ラーメンデータバンク」の創業者で現会長の大崎裕史氏は、未曽有の危機の中でラーメン店が見せた動きについてこう話す。
「他の飲食業同様、店内では客が座れる席を間引いて距離を保ったり、客と客との間に衝立を置いたり、あるいはデリバリーを始めたりといったことは、ラーメン店も取り入れました」
昔は町の中華料理屋がラーメンの出前をするのはごく普通の習慣だったが、近年のラーメン一本で勝負している店は、まず出前注文など受けなかった。しかし新型コロナウイルス感染拡大に伴う人々への外出自粛要請などで客足がまったく途絶え、と同時に宅配代行業者が台頭してきている昨今の状況の中、“ラーメンの出前”が令和の時代に再び注目されるようになったのだ。
■あの「一風堂」が8月からデリバリーを開始
「ただ私はコロナ禍を受け、人気ラーメン店が一斉にデリバリーを始めるだろうと予想していたんです。しかし、さすがに麺の伸びやスープが冷めることを懸念したからか、思っていたほど対応する店が増えなかった印象ですね」(大崎氏)
そんな中、全国に多くのファンを持つあの店がデリバリーを開始したことは、業界で大きな話題になった。
「『一風堂』が、8月からデリバリーを始めたんです。これは画期的なこと。他店の動向も見極めた上で、思い切って導入に踏み切ったのでしょう。しかも今はやりの『Uber Eats』ではなく、『出前館』を通じて行うというのが興味深いところです」(大崎氏)
同店のデリバリーとんこつラーメンに使われているのは、専用に独自開発した伸びにくい麺なのだとか。しかもラーメンだけでなく、チャーハンや餃子といったサイドメニューも注文可能だ。
■テイクアウト対応品として「ラーメンバーガー」が登場
デリバリーとともに、コロナ禍の中でラーメン店が新たに手を広げたのがテイクアウトである。店内で提供しているメニューはもちろん、味わいの変化を最小限に抑え、また容易に持ち帰れるように汁なしソバやまぜ麺、冷麺など、テイクアウト専用のメニューを新たに設定したところも少なくない。
特に異彩を放ったのが、次々に独創的なメニューを打ち出すことで知られる「MENSHO」グループがテイクアウト対応品として開発した、ラーメンバーガーである。チャーシュー、メンマ、ネギといったラーメンの具材と、とんこつ煮干しスープ味のソースを、焼き固めた自家製麺のバンズで挟んだものだ(ただし現在は提供休止中)。
「ちゃんと商品として成立していて、ちゃんとおいしい。ただハンバーガースタイルで食べるのなら、個人的には普通のパンと牛肉パティの組み合わせのほうが好きかな(笑)。とはいえコロナ禍におけるユニークなアイデアとして、ああいった取り組みも評価すべきだと思いますね」(大崎氏)
■競合相手の代行販売をする画期的なプロジェクトも
またラーメンは、あとは加熱するだけという半完成品のスープ、麺、具材があれば、家庭でもかなり再現性の高い料理。その特性を生かしたラーメン店らしいコロナ禍対策が、通販用商品だった。
「煮干しラーメンで知られた『ラーメン凪』の動きにはうなりましたね。素早くEコマース事業を立ち上げて自店の通販用商品を開発しただけでなく、ラーメン業界全体を何とか支えようと、同じように苦境にあえいでいる都内の有名店から麺とスープを販売価格と同じ値段で買い取り、パッケージングまで行って、他店ブランドの商品として自社サイトにラインアップしたんです。つまり自店の製品だけでなく、競合相手の店の商品も代行販売したわけですね。そんな英断に心動かされたラーメンファンは多かったようで、販売開始の4月末から数カ月間、ものすごい売れ行きだったと聞きます。扱ってもらった競合店も、助けられたのではないでしょうか」(大崎氏)
「RAMEN STOCK(ラーメンストック)」と名付けられたこの画期的なプロジェクトを通じて期間限定販売されたのは、「中華そばムタヒロ」「カラシビ味噌らー麺 鬼金棒」「我武者羅」「東京スタイルみそらーめん ど・みそ」「ラーメン大至」といった店の看板メニュー。いずれも名店の誉れ高いところで、ファンにとっては垂涎のラインアップだった(現在はいずれも販売終了)。
それぞれの経営者たちは、考えられる限りの方策で懸命に苦境と対峙し、戦い、乗り越えようとしている。しかし、すべてのラーメン店がサバイバルに成功したわけではない。
■ラーメン店の倒産は過去20年で最多を更新することが確実
帝国データバンクの調べによれば、今年は9月までにラーメン店の倒産が34件判明している。9月までの累計で30件を超えたのは2000年以降初めてで、過去最多となった19年通年(36件)の件数に並ぶ勢い。このペースが続けば、ラーメン店の倒産は過去20年で最多を更新することが確実なのだという。
以前から抱えてきた店舗過多や低価格競争といったラーメン業界特有の構造的問題に加え、今年はコロナ禍という予想だにしなかった厄災にまで見舞われたのだから、持ちこたえられなくなる店が続出するのも無理はない。
夏を超えても、伝染拡大が完全収束に向かう気配はまだ見えないまま。だがいずれ、“ポスト・コロナ”と呼べる段階がやってくるはずだ。そうなった時、ラーメン店はどのような変貌を見せているのだろうか。
「店内の衝立や席の間引きはなくなるとしても、テイクアウト、デリバリー、通販に取り組むところは今以上に増え、ラーメン店の新たな収入源として、コロナ禍終息後もそのまま定着するでしょうね」(大崎氏)
■深夜客で稼いでいた店は、回復まで時間がかかる
その一方で“今そこにある危機”、例えば大手企業をはじめとしたテレワークの常態化は、とりわけ都市部のラーメン店に暗い影を落としている。
「東京なら銀座、神田、新橋あたりはサラリーマンが激減し、そういった街で商売をしている店はまだまだ厳しい経営を強いられています。オフィス街で繁盛していたラーメン店が閉店、あるいは客のいる場所へと移転する例が、今後少なからず出てきそうです」(大崎氏)
オフィス街ではないが、新宿・歌舞伎町では6月から7月にかけて新型コロナウイルスのクラスターが多数発生したため、一時は〈あそこへ行くと危ない〉という風潮になってしまった。加えて、22時で閉店すべしという東京都の営業時間短縮要請で、深夜の客に支えられていたラーメン店はとりわけ甚大な痛手を被った。
「9月15日にようやく要請が解除され、前倒ししていた閉店時間を元に戻すラーメン店も出てきてはいますが、それは主に昼型の店の話。客側の意識がすぐに〈深夜まで大丈夫になった、じゃあ食べに行こう〉となるわけではなく、以前のような消費マインドに戻るにはまだ時間がかかるでしょう。つまり深夜帯で売り上げを稼いでいた店は、以前のように遅くまで店を開けていても、同じような数の客が来てくれるとは限らない。人件費や光熱費などの対費用効果を考えれば、コロナ禍で短縮した営業時間をまだしばらく続ける深夜型の店は多いと思いますよ」(大崎氏)
前回の記事「中本、麺屋武蔵、吉村家…ブームを超えて愛され続けるラーメン屋の条件」で、社会情勢の変化に対応できない店は淘汰されてしまうと書いた。ウィズ・コロナ、そしてポスト・コロナの社会情勢下では、テイクアウト、デリバリー、通販といった新業態の開拓に加え、営業場所や営業時間帯をシビアな目で見直せる店だけが、この先を生き残っていけるのかもしれない。
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ライター
高松市生まれ。フリーランスライターとして一般誌、ノンフィクション誌、経済誌、スポーツ誌、自動車誌などで執筆。『チュックダン!』(双葉社)で、第13回ミズノスポーツライター賞優秀賞受賞。このほか、著書に『蹴る女 なでしこジャパンのリアル』(講談社)がある。
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(ライター 河崎 三行)
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