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老親の介護をひとりで背負い込み、先に死ぬ50代息子・娘たちの無念

プレジデントオンライン / 2020年10月24日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RyanKing999

コロナ禍で高齢の介護される側ではなく、介護する側が命を落とすケースが増えている。首都圏でケアマネジャーをする男性は「仕事の傍ら、自分のことをそっちのけで親の介護に取り組む中年の息子・娘が持病に気づかずに突如倒れるケースがある。介護する側が倒れたら困るのは高齢の要介護者。疲れたら休み、健診もしっかり受けたほうがいい」という――。

■コロナ禍で老親をひとりで介護して、先に死ぬ中年の子供が増えている

「先日、私が担当する利用者さんを介護している家族の方が急死してしまったんです」

そう語るのは、首都圏近郊の市でケアマネジャーをしているYさんだ。

「80歳で要介護3のお父さんをひとりで介護していた50代の娘さんです。介護中に胸の痛みを訴えて、お父さんが何とか119番通報。救急搬送されたのですが、病院に着くまでに亡くなられたそうです。死因は、動脈瘤の破裂でした」

Yさんによれば、介護されている側ではなく、家族など介護している側が病に倒れたり、場合によっては命を落としたりするケースが少なくないという。

「とくに今年は新型コロナウイルスの影響でデイサービス(日帰りで施設に通い、体操や食事、入浴などのサービスを受ける)が自粛されるなど自宅で介護する人(家族など)の負担が増えました。私が担当する市は今ではどのデイサービス事業者も通常営業に戻っていますが、7月くらいまではスケジュール通りにデイサービスに通えなくて、多くの介護者がそのケアの肩代わりをせざるを得ない状況が続いていました。今回亡くなった方もそのひとりで、負担が増えたことによる疲労やストレスが蓄積したのが影響したのではないか、と私は思っています」

■介護する者がいなくなったら、老親はどうなるのか

コロナ禍は介護現場にも、このような形で波及しているのだ。

「ただ、コロナ禍がなかったとしても、介護をしている人の方が倒れるケースは少なくありません。利用者さん(要介護者)にとって介護者は命の綱。支える人がいなくなるのですから、それまでの生活は続けられなくなりますし、精神的なショックも大きい。担当するケアマネとしても、そうした事態に遭遇するのはつらいものがあります」

そんな事態を招かないようにするには、どうしたらいいのだろうか。

■仕事と介護の両立で健康診断も受けられず体調異変に気づけず

Yさんは、この5年間に担当する利用者を介護している家族の死に3度遭遇したといいます。

「昨年も1件ありました。70代後半のご夫婦で、要介護になった奥さんをご主人が介護していたケース。いわゆる老老介護です。ご主人が奥さんを病院に連れて行くためにクルマを出し、部屋に戻って奥さんを車椅子に乗せて連れ出そうとした時に倒れたらしいんです。近所の方がクルマのエンジンがかかったままになっているのを不審に思って家の様子をうかがったところ、倒れたご主人を発見、119番通報しましたが、手遅れだったそうです。心筋梗塞でした。倒れてすぐに救急搬送していれば一命は取り留められたはずですが、発見が遅れてしまったようです」

救急車
写真=iStock.com/Martin Dimitrov
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Martin Dimitrov

高齢になって心身が衰え、普通に日常生活を送れなくなった人が要介護になる。それを子供が、また老老介護の場合は元気で健康不安がない高齢者(夫や妻)がケアする――。常識的に見れば在宅介護にはこんなイメージがあるはずです。

しかし、Yさんは「そうとは限らない」と言います。

「介護が始まる時は、どの家庭でもその図式が当てはまりますが、長くなると、そうでもなくなるんです。要介護者にはわれわれケアマネが、少しでも元気になられるようケアプランをつくります。持病のある方には訪問看護師を入れて常に体調のチェックをしますし、異変があればすぐに対処できるようになっている。指導に基づいてご家族には介護者に対して検温・血圧測定をしてもらいますし、デイサービスでも体調チェックは行っています。重病の方でない限り、当面の健康は担保されているわけです。ところが介護者にはそれがありません。とくに仕事を持っている方や真面目で介護に精いっぱい取り組む方が危ない」

■「自分が支えなければ」という使命感が悲劇を招いた

仕事と介護を両立させようとすると忙しくて健康診断も受けることもなくなりますし、体調に異変を感じても我慢をしてしまうのだそうです。

「私が遭遇した(先ほどお話した)おふたりのケースもそうでした。50代の娘さんの動脈瘤、70代後半のご主人の心筋梗塞はともに高血圧という要因があり、検診を受けていれば危険信号が出ていることがわかった。医師に治療してもらうことで防げたはずです」

しかし、ふたりは自分のことはそっちのけで介護していたようです。「若いから」「元気だから」という思い込み、「自分が支えなければ」という使命感で頑張ってしまった。それが悲劇につながったのです。

「今、私が担当する利用者さんのご家族に、がんを患いながらお母さんを介護している●代の息子さんがいます。その方も介護に追われて検診が疎かになり、発見が遅れてしまった。すぐにどうこうという状態ではなく、今は自宅で療養しながら介護していますが、その方の心情を思うと切ないです。『自分が先に逝ってしまうかもしれない。そうしたら母はどうなってしまうんでしょうか?』と泣かれた時は、返す言葉が見つかりませんでした」

■「介護を後まわしにしても、自分のケアをしたほうがいい」

また、介護者が先に亡くなった場合、残された要介護者の悲痛も察するに余りがあるといいます。

介護者
写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pornpak Khunatorn

「身内を亡くした悲しみだけでなく、『私が要介護になって苦労をかけたからだ』という自責の念に苛まれるんです。そして心身の衰えも進みます。私が経験した3人の利用者さんは皆、体調を崩して、おひとりはすぐに亡くなりました」

ところで介護者が先に亡くなった方は、その後、どのような生活をおくるのでしょうか。

「その方の体調などにもよりますが、支えていた家族がいなくなるのですから、在宅での生活は成り立たなくなります。特別養護老人ホームであるとか、持病のある方なら病院であるとか、ケアマネの方でなんとか受け入れてくれる施設を見つけて、入っていただくことになります」

頼りにしていた介護者に先立たれ、面会に来る人もいない施設暮らしの老後はつらいものに違いありません。

「ですから、身内の介護をしている方は、自分のことを第一に考えてほしいですね。支える者が倒れたら、介護は成り立たない。困るのは要介護者なんです。疲れたら休む、時には息抜きの時間を作る、検診もしっかり受ける、少しでも体の不調を感じたら医師に診てもらう。介護を後まわしにしても、自分のケアをしたほうがいい。相談してくれればケアマネも、そのフォローをしますから」

コロナ禍は、しばらくは収束しそうもなく、介護者に負担がのしかかる状況は続くでしょう。だからこそ今はYさんが語るように担当ケアマネの知恵や手腕に頼るべきなのです。

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相沢 光一(あいざわ・こういち)
フリーライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。

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(フリーライター 相沢 光一)

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