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ニトリ会長が「やるべきこと」より「やらないこと」を重視する理由

プレジデントオンライン / 2020年10月27日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Pinkypills

目標を達成できないリーダーにはどんな問題があるのか。「リピート率9割」の営業研修トレーナーである伊庭正康氏は「メンバーのやるべきことを絞れていないことが多い。アレもこれもとやることを増やすのではなく、目標達成に影響しないことを見切ることが重要だ」という――。

※本稿は、伊庭正康『目標達成するリーダーが絶対やらないチームの動かし方』(日本実業出版社)の一部を再編集したものです。

■「やったか、やっていないか」だけを問題にしてはいけない

営業研修の講師をしていると、こんな声をよく聞きます。

「サボっているわけでもないし、一生懸命にやっている。でも、達成は厳しい」と。

頑張っているのに結果が出ていないときこそ大事なチェックポイントがあります。それは、「サボっているかどうか」の確認ではなく、「設計図どおりに実行」しているかどうかです。

ある例を紹介しましょう。その会社は、事務機器の販売を行っており、電話でアポイントをとって、商談をし、契約を獲得するという営業モデルで仕事を回していました。その会社の各メンバーの月間の新規契約目標は3件。アポイントメントのためにどのくらい電話をかけているかというと、1日45件の新規開拓の電話をしているといいます。

上司から「1日40~50件の電話をするように」という指示を各メンバーは受けており、そのとおりにやっているのに、目標を達成できていないわけです。そこで、状況を調べてみました。

■苦戦するメンバーに必要なのは「達成の設計図」

確認してみると、やはり、このままやり続けても目標は達成できないことが判明しました。具体的には、次のような原因がありました。

・商談からの契約に至っている率は10%しかない(会社の予測は30%)。

つまり、3件の契約をとるためには30件もの商談が必要になる計算に。

・電話から商談に至っている率は2%と問題なし(予測も2%の見立て)。

でも、そもそも商談からの契約率が10%と想定を下回っているため、30件の商談が必要な状況になっており、必要な架電数は月間で1500件(1日75件が必要)に膨れ上がっている。

・つまり、1日さらに30件の電話をかけなければならないにもかかわらず、不足したまま、全力で達成率の低い商談に力を注いでいる状態に。

この状態であれば、商談での契約率を10%から30%に引き上げるか、または、架電数を1日75本にするか、アポイント率をさらに上方修正する必要があります。

このように、現状をきちんと確認しておかないと、部下にやみくもに努力させ続けることになってしまうのです。

メンバーが頑張っているのに結果が出ていないときは、「達成の設計図」があるかどうかの確認はもちろん、あったとしても、そのとおりに実行できているかを確認することが重要なのです。

■まとめ:メンバーの「何を」マネジメントしている?
■NG「行動のマネジメントばかりをする
結果が出ていないときは特に、部下の行動を逐次把握しようとしがちですが、「達成の設計図」が間違っていれば、意味がありません。
■OK「プロセスのマネジメント」が適切かを考える
メンバーの結果が出ていないときこそ、目標達成に向けてのプロセスが適切かどうかを、きちんと確認してみましょう。

■「徹底の基準」を明確にするべき

上司「ちゃんとやっている?」
部下「はい、ちゃんとやっています」

こんな会話が通用するのは、「徹底の基準」が共有されているときだけです。

言われたことだけをきちんとやっていれば、「ちゃんとやっている」という人もいれば、言われたことだけでなく、自分なりにやり方を工夫してアレンジすることを「ちゃんとやっている」と考える人もいます。

これだけでは足りないという人もいるでしょう。「自分だけの工夫ではなく、上司や先輩に相談して、自分の不足を補う」ことこそが、「徹底」だと考える人もいます。

つまり、どのくらいが「ちゃんと」なのかという、「徹底の基準」を、チーム内で明確にしておかねばならないのです。

もちろん、「自分だけの工夫ではなく、上司や先輩に相談して、自分の不足を補う」ことが理想的な「徹底」の姿です。メンバーの目標を必ず達成させるマネジメントの鍵は、このレベルで「徹底の基準」を揃えておくことです。

■そもそも、あなた自身は大丈夫か?

そこで、チェックすべきは、リーダーであるあなた自身の徹底基準です。

あなたにとって、徹底とはどちらに近いですか?

A:自分のできる範囲で、精一杯の努力をする。
B:自分のできる範囲を越えても、あらゆる手を考え尽くして、やり遂げる。

リーダーは、迷わず「B」でないといけません。常勝のビジネスパーソンは、皆そのように選択します。つまり、あなた自身は「B」であることを前提に、メンバーに次のように伝えなければならないのです。「徹底とは、自分のできる範囲での努力だけではなく、人の力を借りたり、今までとは異なる手法を使ってでもやり遂げること」だと。

■社会のルールに反することは、絶対にやらない

ただし、いくら「徹底をする」といっても、ビジネスパーソンとして「いけないこと」をやるのはタブーです。

自爆行為(自社商品を買っての目標達成)、下請業者への無茶なバーター(無理やり商品を買わせる行為)などは、今の時代にやっていると、すぐに不祥事として流布してしまいます。そんなことをするくらいなら、堂々と未達成になったほうが、はるかにマシです(いや、そうしないといけません)。

「徹底度」を高めるときこそ、リーダーは、社会常識を全うする冷静さも同時に求められるのです。

■まとめ:「徹底の基準」は、部下と共有されているか?
■NG「自分なり」に一生懸命やる

どんなに努力しても自分の力だけでは限界があります。それだけでは「徹底」とはいえません。
■OK「人の力を借りてでも」やる
上司や先輩の力を利用してでも、目標達成に向けて進むことこそ「徹底」だという意識を、部下と共有しておきましょう。

■デキるリーダーは“やりたいこと”に捉われない

マネジメントの大家、P.F.ドラッカーは、「成果をあげる人は、自らの時間とエネルギー、そして組織の時間とエネルギーを、一つのことに集中する」と述べています。

実際、苦戦する人ほど、アレもコレもやってしまい、行動すれど達成できず、といった状況になっていることは少なくありません。結果を出すビジネスパーソンは、アレもコレもしません。やりたくても我慢します。短時間で結果を出すことに注力するためです。

これは、戦略のセオリーです。33期連続で増収増益(2020年2月時点)を誇る、ニトリの似鳥昭雄会長は、「ホテル業の誘いをもらったが、やらなかった」といいます。また星野リゾートの星野佳路(よしはる)社長も、「ホテルの運営はするが、所有はしない。我々はホテル運営のプロなので」と“やらない”ことの大切さを説いています。

優れた経営者は、時間、資本、エネルギーには限りがあることを熟知しているから、“やらない”ことの大切さを知っているのです。経営者でなくても、現場のリーダーでもセオリーは一緒です。自身が率いるチームのメンバーに、アレもコレもやらせないのは、セオリー中のセオリーなのです。

■やるべきことが見えてくればKPIは自然に減る

ある企業の営業リーダーから相談を受けたことがありました。

「今、うちの部署はやることが非常に多く、部下たちの体がちぎれそうです……」と。

伊庭正康『目標達成するリーダーが絶対やらないチームの動かし方』(日本実業出版社)
伊庭正康『目標達成するリーダーが絶対やらないチームの動かし方』(日本実業出版社)

聞くと、7つの重要業績評価指標(KPI)が導入され、それをもとに動くことが求められているというのです。

「商品の案内件数」「その商品の導入率」「導入後の利用率」「実施後の満足度」などの指標が導入されており、それぞれの指標に「やるべき行動」がいくつも設定され、ひたすらそれに従って行動しているというのです。

経営レベルでは、このくらいの指標があっても何の問題もないのですが、日々の営業活動などの現場のマネジメントでは、このような数の指標はパワーを分散させてしまうだけです。

まず、実行組織においては、KPIは最大でも3つ。できれば1~2つに絞ります。「今、どこに注力すべきか」を考えて、やるべきことを絞るのです。

ちなみに、私のところに相談に来られたリーダーは、「今は自社の商品を広めるための初期フェーズ」と判断し、この期間のKPIを「商品の導入率」に絞って運用されました。

結果として、商品導入率アップのために「パンフレット」「説明ツール」「セールストークのやり方」などに対して、メンバーの工夫と行動を集中させることができたのです。

その結果、業績は一気に上昇基調になり、チームの一体感も高まったといいます。

もし仮に、会社から数多くのKPIを求められていたとしても、それのどれに注力するのかを決めるのもリーダーの仕事と割り切って、「今、やるべきこと」に絞る方法を考えてみてください。

水圧を一点集中させれば、鉄板でさえも穴をあけることができるように、厳しい目標であっても、皆で一点突破で乗り越えやすくなるでしょう。

■まとめ:メンバーのやるべきことを絞っているか?
■NG「アレもこれも」とやることを増やす

指標をいたずらに増やしてしまうと、チームが疲弊してしまい、結果として必ずやらなければならないことさえも、おろそかになってしまいます。
■OK「目標達成に影響しないこと」は見切ってやらない
会社からさまざまな行動基準を求められても、それらをすべて採用せず、やるべきことを絞るのもリーダーの役割です。

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伊庭 正康(いば・まさやす)
らしさラボ代表取締役
1969年京都府生まれ。1991年リクルートグループ(求人情報事業)入社。営業としては致命的となる人見知りを、4万件を超える訪問活動を通じて克服。プレイヤー部門とマネージャー部門の両部門で、年間全国トップ表彰を4回受賞(社内表彰は累計40回以上)。営業部長、フロムエーキャリアの代表取締役など、重要ポストも歴任する。2011年、企業研修を提供するらしさラボを設立。リーディングカンパニーを中心に、年間200回を超えるセッション(研修、コーチング、講演)を行っており、そのリピート率は9割を超える。最近は、本書のテーマである「フォロワーシップ研修」を行うことも多い。

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(らしさラボ代表取締役 伊庭 正康)

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