「自分たちでプレミアムブランドを立ち上げた」中堅メーカーに起きた奇跡
プレジデントオンライン / 2020年10月29日 11時15分
■本社の空気に違和感あり
私は大学卒業後、大手化粧品会社を経て、父がトップを務めていたアンズコーポレーションに入社した。4年目からの12年間、子会社の立て直しにあたり、本社に戻ったのが2011年だった。心機一転、期待を胸に新しい職場に向かったが、本社の空気に違和感を覚えた。
会社の状況を把握するため、各部門の会議に出席させてもらっていると、「今まで~していましたので」という言葉を幾度も耳にしたのだ。社員一人ひとりは、まじめに仕事をしているが、「前例」や「社内事情」を気にしていて、お客様のほうを向いていない気がした。
今となっては笑い話だが、会議でこんな一幕があった。使う際にポンプを押す方式のある商品で、粘度が高すぎて、最後まで中身を使いきることができないという問題が起きた。なんと2割以上も残ってしまうという。ところが、「クライアントがこれでよいと言っていますので……」と、改善しようとしない。たしかにOEMでは発注元のリクエストが最優先すべきだが、お客様は使い切れない商品に納得するのだろうか。お客様、つまりエンドユーザーのほうを向いていない会社に未来はあるのか。不安だけが強くなっていった。
■課長たち30人から、答えが出てこない
誰のために仕事をしているのか——。そのことを社員にあらためて問うために、課長以上の約30人と1泊2日の幹部合宿を行った。2日間にわたり、グループ単位でディスカッションを行ったのだが、合宿終了時になっても、この問いに対して、私がほしい答えを言う者は出てこなかった。答えが出てこないのは、日頃から事業目的を意識していないからだろう。社員個々人の問題ではなく、会社全体のマネジメントの問題だと受け止め、根っこから見直す覚悟を決めた。
■「E」と「D」で、大きな違い
私たちは、ロート製薬の傘下にあって、長年安定したOEM事業に恵まれてきた。一方で、化粧品の訪問販売から事業をスタートさせたこともあって、独立自営をモットーとしている。開発部門を抱え、敏感肌専用の化粧品の自社ブランドも展開している。それらは、アジアを中心に海外でも高い評価を受けている。
ただ、主力はやはりOEM事業であり、マーケット変化のスピードは、年々速くなっていくばかりで、前例踏襲がしみつき、「クライアントの言うことを聞いていればいい」といった企業文化では、いずれ取り残されてしまうに違いなかった。
まずは、OEMから脱却するため、ODMに移行することにした。EとD、たった1文字の違いだが、メーカーにとっては天と地ほどの差がある。ODM(Original Design Manufacturing)は、言われたものをつくるだけではなく、OEM(Original Equipment Manufacturer)では行わない商品設計も手がける。
商品コンセプトを考える起点は、「誰にどのような貢献をしようとするのか」とし、これを徹底した。モノの開発・生産すればよいのではなく、お客様に「価値」を提供できる会社を目指そう、という私なりの宣言でもあった。
そもそも自社ブランドのメーカーとして出発している企業のため、企業風土の根底には「お客様のために」という気持ちがある。その気持ちをベースに、社員が力を発揮できる状態にしたい。ODMを含めた各事業がシナジーを起こすような経営モデルをつくりたい。模索の日々でもあった。
自社ブランド展開でもODMでも、最終的には生活者のための仕事。生活者に貢献する仕事ができるようになるためには、マーケティング力を磨かねばならず、それにはまず、自社ブランドの商品開発の在り方を根底から変え、その知見をODMに還流させるのがいい、そんなふうに考え始めた。
■自分たちで売らないといけない
ある日のこと、かつて一世を風靡(ふうび)した化粧品を手がけたOEM企業を訪ねた。応対してくれた役員が、目を輝かせながら技術の説明してくれた。私が、「それ(技術)を使って、どんな商品を展開されるおつもりですか」と質問すると、「いやいや、お申しつけいただければ何でもお手伝いします。ウチはいい腕を持っていますよ~」とお答えになった。このやりとりに、少なからず衝撃を受けた。OEMに頼り続けた場合の、当社の未来を見たような気がしたからだ。
彼らは、いい意味でも悪い意味でも、「技術屋」なのだ。つくることだけにこだわっていると、彼らと同じになる。自分たち自身でエンドユーザーと向きあい、価値をつくり、さらには、独自のルートで売っていく。そこまで自力でやらないと、彼らと同じではないか。
■たどりついた、ドラッカーの言葉
さまざまな手を打ち始めていたものの、明確な戦略を描き切れていなかった私は、あらためて自分たちの強みを整理することにした。たどりついたのが、ドラッカーが言うところの「卓越性」だった。
通常、スキンケアの効果と安全性はトレードオフの関係にあるが、私たちはそのバランスをとることが非常に得意だ。また、リップクリームのようにオイル製剤を固形化させる技術も高い。これらの卓越性については、無自覚になっていたため、社内外での聞き取りを重ね、あらためて気づかされたものだった。日常的に難易度の高い仕事をしていても、そのことを意識することはあまりない。
卓越性を使って、どんなことができるか。自分たちで売るのだから、急にたくさん売れるわけではない。じっくりブランドを育てていくことになるだろう。だとしたら、広く買われるものではないが、一部の人にその価値を高く評価していただける、いわゆるプレミアムブランドに挑むのがいいと思った。顧客に寄り添う形で、本当のモノづくり、価値づくりをやってみたい。顧客と卓越性でいく、私の腹は決まった。
■プレミアムブランドが、社員たちを変える
プレミアムブランドの開発は、社長直轄プロジェクトとか、特別プロジェクトなどという扱いにはせず、商品開発担当の3人が通常業務としてスタートした。はじまりは、やはり「顧客」を知ることからだった。お客様は何を求めているのか。いくつも立てた仮説の中から開発チームがつくりあげたのは、オイル特有の保湿効果は保ちながらも、サラリとした使用感で、「オイル系の製品を使いたいけど、ベタつきが苦手」というお客様におすすめしたいものだった。
潜在的なニーズに着目しているが、コンセプチュアルすぎず、私たちのできること、強みをミックスしたプロダクトアウト型の商品だ。背伸びではなく、持っている卓越性で勝負してくれた。ブランド名は、lalalala……と歌いたくなるような生活(vie)という意味を込めて、lalavie(ララヴィ)と名づけた。着手から発売までは、2年を費やした。
ララヴィの存在は、社員に大きな変化をもたらした。私の指示ではなく、現場主導でつくりあげたブランドだけに、その熱量はさまざまな部署にまで伝播している。たとえば、日常の会話の中に「これって、お客さん誰なの?」というセリフが入ってくる。会議でも「それって、本当にうちの強みなの?」「他社さんでもできることだよ」というやりとりが行われる。以前はリクエスト通りにモノを作っていたが、今は価値を作ろうとしているのだと思う。
ODMの営業場面でも思わぬ効果が出てきた。「この技術とこの技術を使って、こんなモノができたんです」とララヴィをお持ちすると、クライアントの反応がまったく違う。「このままちょうだいよ!」と言われることもある。
■使命をベースにした会社にしたい
決めていることが1つある。ララヴィは、絶対に結果を急がない。ゆっくり、PR、ブランディングをやっていく。ララヴィのマーケティングチームをつくり、現在は6人がそれにあたっている。そのかいもあって、販路は着実に広がっている。
オンラインショップだけでなく、阪急梅田さんなどの百貨店さんから声をかけてもらい、ポップアップストアを出させていただけるようになった。そして今夏、有楽町マルイさんに常設のストアを、9月からは東急プラザ表参道原宿店さんで1年半のポップアップストアを出させていただいている。
当社はどこへ向かうのか。社員をどう導くのか。それを考えたとき、会社の事業目的を変えるべきだと判断した。「1人ひとりのお客様の心を豊かに、笑顔にすることを使命とする。それは、お客様がもっと自分を好きになるお手伝い。」とした。この使命を、どう現場に浸透させられるか。あと数年はかかるだろうが、使命を自分たちの背骨にして仕事ができるようになれば、もし私が退いて誰がトップになってもぶれない会社になるだろう。
いい口グセがもっともっと社内に広がるよう、会社の新しい文化をつくっていくのが、私のミッションだ。
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アンズコーポレーション代表取締役社長
大手化粧品会社を経て、1996年4月、日本ジョセフィン社(現・アンズコーポレーション)入社。2003年、同社取締役。2012年5月、アンズコーポレーション常務取締役、13年5月代表取締役副社長、14年5月より現職。
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(アンズコーポレーション代表取締役社長 山田 昌良 構成=梅澤 聡 )
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