ココイチが値引きをしない理由「うちのカレーはうちでしか食べられない」
プレジデントオンライン / 2020年11月2日 11時15分
※本稿は、宗次徳二『独断 宗次流 商いの基本』(プレジデント社)の一部を再編集したものです。
■そこでしか食べられないものを提供しているのに
現在の飲食業界には安売りをすればもっとお客様を増やせるのではないかと考える人も多いようだ。何より、そうしなければ競合店にお客様を奪われて生き残れないという不安が大きいのだろう。私にはそれが理解できない。
飲食業が提供する商品は買い回り品ではない。ココイチのカレーはココイチでしか食べられない。どこの店でもそこでしか食べられないものを提供しているのだ。それなのになぜ安売りをするのか。業界ではココイチが値引きをしないで発展したのは七不思議の1つだと言われるが、私には安易に値引きをするほうが不思議である。
既存店の売上が前年比割れしたからといって、お値打ちセットメニューを出そう、価格を下げよう、らっきょうを無料提供しようといった検討は、私は一度もしたことがない(ライバル対策ではなく、真にお客様に喜んでほしいとの思いからする場合は別だが)。
楽をして儲けたいタイプのオーナーが「なんとか値下げを考えてください」と言ってくると、私は「掃除をしなさい。一生懸命掃除をしていれば、落ち込み分はカバーできる。心を込めて自分で掃除をしなさい」と言っていた(とはいえ他力本願的なオーナーが掃除をするわけもないのだが……)。
お客様が一番望んでいるのは「満足」であると私は勝手に確信している。居心地のいい空間づくりと心の込もったサービスがお客様の満足へと繋がる。安いから選ぶわけではないのだ。
■コストダウンは得るものより失うもののほうが大きい
もうずいぶん前の話だが、ある飲食チェーン店に明け方に入店すると、1人しかいない店員が客席カウンターに座り、突っ伏して完全に眠りこけていた。肩を揺すって起こすと、なんとか目は覚ましたものの、「いらっしゃいませ」の一言もなく、ふらふらと厨房へ入っていった。私はあきれ果てて、食事をせずに店を出た。店員の行動から経営のだらしなさが見てとれた。
そのチェーン店ではライバル対策の格安商法で売上を伸ばし、利益を維持しようとしていた。価格を下げて利益を得ようと思えば、代わりに何かを削る必要がある。その時にまず削られるのは人件費その他経費、そして仕入れ価格である。
人件費を削る一方で現場の忙しさは倍増する。ミスも出やすくなり、従業員は疲労困憊する。これでは笑顔でお客様をお迎えするどころではない。最低限の日常業務すらおろそかになるのが目に見えている。実際、運営もだらしなくなり、強盗事件が頻繁に起きていた。これでは本末転倒である。
そんな経営をして売上を上げたところで誇れるものは何もないのではないかと私は思う。スタッフやお客様を含め、かかわってくれる皆が喜び合える経営でなければ意義がないとさえ思う。お客様に満足していただくためには、出血サービスよりも心のサービスを高めることのほうがはるかに大事である。
■名古屋の喫茶店だけど「モーニング」をやらなかった
喫茶店を始めた時から、私は業界の常識に全くとらわれなかった。モーニングサービスを拒否したのも名古屋では常識外れだったし、それ以上におつまみを有料にしたのはそうだ。非常識と言われても気にかけず、お客様を気持ちのいい挨拶と笑顔でお迎えし、徹底的に接客に力を入れた。
常連のお客様に専用カップを購入していただき、そのカップでコーヒーをお出しするマイカップサービスや、お客様の好みに応じてサンドイッチの辛子を抜くなど、独自の細やかなサービスでおもてなしした。具材にこだわった妻が開発した手づくりの軽食も大人気だった。
ココイチを始めてからもこの姿勢は変わりなく、お客様にも社員・スタッフにも取引先にも喜んでいただけることをいつも一番に考えた。また、社員ののれん分けでも全国展開でも、フランチャイズビジネスのパッケージそのものが独特で自己流だった。
多くはまず自分たちの利益を優先するものだろうが、私は独立した社員が「頑張って独立してよかった。もっと事業を拡大しよう」という意欲が持てるようにロイヤリティはとらず、食材や備品を店舗に購入してもらうことにより、適正利益を得る方法をとった。だから、利益が上がればみんなが喜び、絶対にトラブルは発生しないのである。
これらは業界の常識からは外れていても、商売のやり方としては理にかなっていたと思う。
■一番いいやり方を焦らずに見つけることが成功の秘訣
成功の秘訣は焦らないことだと思う。FC加盟店を募集してチェーン化を図っていた時も、加盟希望者は厳選していた。というのも、FCは小規模独立志向者にとっては便利なシステムだが、加盟を希望する人はいわばビジネスの素人である。その分、つまらない問題が出てきて、悩むことになる。何よりも不良加盟店を出して、のれんに傷をつけるわけにはいかない。そのために、募集条件のハードルを上げていたのである。
しかし、それでは拡大のスピードはどうしても鈍くなる。その悩みを解決したのがブルームシステムの“発明”であった。入社して現場で実践を積み、一定レベルに達したら独立させるという制度を発足させたことで、独立を目指す優秀な人材が続々と集まってくるようになった。このシステムを導入したことにより、短期間で人間性を見極める難しさが付いて回ったFC加盟店の募集を早々に打ち切ったのである。
これは、じっくりでいいから成功事例を積み上げていきたいという私の思いにも合致していた。結果的にこのやり方が功を奏し、トラブルなく拡大成長を続けることができた。
業界の常識を無視して、徹底した現場主義で道なき道を自分たちで切り開くことによって、壱番屋は着実に発展を続けたのだ。
■あえてお客様とは会話をしないという「サービス」
町の喫茶店というと、マスターが常連客と親しげに会話をしているイメージを持っている方もおられるだろう。しかし、バッカスを始めた当初から私はあえてそれをしなかった。今日初めてお見えになったお客様に配慮したいと思ったからである。
もちろん喫茶店は地域密着の店だから、常連客は大切にしたい。そこで専用カップにコーヒーをいれるプランを考えたのである。それがどんどん売れて、150種類ほどのコーヒーカップが棚にずらりと並んだ。常連さんがお見えになると、顔を見ただけでカップに手が伸びるようになった。だから、顔はしっかり覚えていたのだが、話しかけられてもせいぜい2往復の会話をするぐらいで、それ以上は話さないようにした。もちろん、常に感謝の笑顔は欠かさなかったから、不愛想であったわけでは全くない。
ココイチを始めてからはそれを徹底して、「お客様の名前は覚えなくていい」とスタッフには言っていた。常連のお客様は、スタッフから名前を呼ばれれば嬉しいと思う。だが私は、店長をはじめスタッフの人気でお客様に来ていただくような店にはしたくなかったのだ。
それより分け隔てのないサービスでどなたにも満足いただくような店にしたかったし、常連のお客様と同じかそれ以上に、今日初めてのお客様を大事にしたいと思ったのである。
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カレーハウスCoCo壱番屋創業者
1948年石川県生まれ。74年喫茶店開業。78年カレーハウスCoCo壱番屋創業。82年株式会社壱番屋を設立し代表取締役社長に。フランチャイズシステムを確立させ、国内外の店舗で1400店を超え、ハワイや中国、台湾など海外へも出店し現在も拡大中。2005年5月に東証一部上場。1998年代表取締役会長、2002年役員退任。03年NPO法人イエロー・エンジェル設立、理事長就任。07年クラシック音楽専用ホール「宗次ホール」オープン、代表就任。
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(カレーハウスCoCo壱番屋創業者 宗次 徳二)
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