「世代交代」が起きず、年長者が居座る業界に未来はない
プレジデントオンライン / 2020年10月23日 18時15分
■年長者が持っておくべき「引き際」の意識
2020年8月31日にセミリタイアをしてから、2カ月が経とうとしている。実に穏やかな心持ちだ。後悔は一切ない。
これまでの主業務だったネットニュース編集者、そしてPRプランナーの仕事を離れて、今後はライターとして細々と生きていこうと決めた。そう考えるに至った背景についてはこの連載でも過去に述べたが、大きな理由のひとつは「老害として周囲に迷惑をかける前に自らサッと身を引き、後進に道を譲る」ことが、年長者としての作法だと悟ったからだ。
そこで今回は「世代交代」という視点から、改めて年長者が持っておくべき「引き際」の意識について考えてみたい。
身体能力の衰えが成績で端的に表れるアスリートの世界には、世代交代のタイミングが明確に存在する。だが、その他の身体能力がそれほど重要ではない職業においては、そのタイミングが曖昧である場合が多い。
■上が詰まっていると、若手が苦労する
お笑い芸人の世界を見るとわかりやすいが、「BIG3」とも評されるビートたけし、タモリ、明石家さんまが頂点に長らく君臨し続けている。1980年代からトップを走ってきた彼らはいま、60代半ば~70代だ。また、その下の世代、50代後半のダウンタウンやウッチャンナンチャン、そして40代~50代前半のいわゆる「ボキャブラ世代」が、現在のテレビ番組をほぼ牛耳っている。
最近は「お笑い第七世代」と呼ばれる一部の若手芸人たちが気を吐いているが、一視聴者の私からすると「上が詰まっているから、若手は大変だろうなぁ」と思わずにはいられない。
一方、俳優であれば年齢なりの役柄が求められるため、お笑いの世界ほど「上が詰まっている」状態にはなっていない。まぁ「高齢者役」の枠にも激しい競争があって大変だろうが、これはこれでお笑いとは異なり、健全な状態といえるのではないか。
■若者が活躍しやすいウェブメディア業界
私は「若手にこそ、チャンスはたくさん与えてナンボ」「若くても実力があるなら、年齢に関係なく評価されるべき」だと考えている。その視点で、私がこれまで仕事をしてきたウェブメディア業界を眺めてみると、他の業界・業種に比べて、比較的若手が力を発揮しやすい環境になっていると感じる。
ウェブメディア業界では、47歳の私などは相当な「ベテラン」である。いや、若者が続々と参戦してくる職種なだけに、もはや「ロートル」「老害」とも解釈できる年齢になっていると思う。
私は2006年からウェブメディアに関わる業務を開始したが、この14年間、周囲では常に変化が起こり続け、さまざまなサービス、手法、概念が生み出されては衰退していく姿を目の当たりにしてきた。正直、その動きに追い付いていくだけで激しく消耗してしまうほど、とてつもなく熾烈な競争社会だった。日々、あまりにも多くのことが変わっていくので、ついに付いていくのがキツくなった。「後は若い皆さんで……」と言い残して去りたくなり、ずっと考えてきたセミリタイアを実行に移した。
![オフィス](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/4/c/670/img_4c5bfe2900d5cbe2dd21ce5190ef94b4838253.jpg)
■ウェブメディア業界の動向に付いていけない
ウェブメディア業界の動きの速さを整理する意味で、2006年以降、変化した事柄をいくつか挙げてみる。
・かつて800字でも「長い!」と不評だった記事の文字量は、この数年で3000文字を越えてもOKになった。
・ライターのカメラ撮影技術が上がり、「いかに上手な写真が撮れるか」も競争優位性に繋がるようになった。
・ヤフーニュースの相対的影響力が減り、「成功法則」が多種多様になってきた。
・とはいうものの。ポータルサイトとしてはヤフーの一人勝ち状態が継続中で、その他のポータルサイトの重要性が相対的に減ってきた。
・適切な記事タイトルの長さとして「16字説」「20字説」「28字説」などいろいろな変遷があったが、「別に50文字あってもいいじゃない。長いか短いかより、伝わるかどうかでしょ」といった考え方が出てきて、オッサンにはもうワケがわからない。
・タイトルの成功法則について「芸能人の具体的名前が入っている」など端的な条件設定が最近は出てきているらしい。
・とにかく競争相手が多過ぎて、今後の成功モデルを描きにくい。
こうした状況を見るにつけ「もう自分の時代は終わった!」と考えるに至ったのだ。そんな状況でロートルにできることは、後進にすべてを譲ることくらいである。そして、自分は今後「40代でセミリタイアをした男の幸せな生活」をいかにして人々に伝えていくかが使命になる……そう思うようになった。
■「自分は『終わった人』である」と認識する
おそらく多くの人は「一生、仕事をやり続けたい」とは思っていないだろう。あくまでも生活のため、満員電車に揺られて通勤し、無駄な稟議、無駄な会議、無駄な接待などを惰性でこなしているだけ……という人も決して少ないないはずだ。「新入社員のころに抱いていた熱意は、とっくにさめてしまった」「いまさら、会社でなにか新しいことにチャレンジしようという気になれない」など、すっかり枯れてしまった人もいるに違いない。
私は別に、枯れてしまうことを否定したいワケではない。これもまた「衰え」「老い」から逃れることのできない人間が備えた、有り形のひとつなのだから。
あえて極端な解釈をさせてもらうなら、自分の衰えを感じたのであれば、潔く「自分は『終わった人』である」という認識を持つことも、分別をわきまえた大人の作法ではないだろうか。
■ウェブメディアの編集者はアスリートに近い
「ウェブメディアの編集」という仕事は、アスリートに近い部分がある。ウェブ編集者は、常に最新のメディア業界動向やネット上のトレンド、テクノロジーの進化を把握しておく必要がある。それらを踏まえて、臨機応変にコンテンツのテイストを変えたり、新たなる手法を生み出したりしつつ、膨大な記事を継続的に出し続けなければならない。激務を乗り切るための「身体能力」をキープするのはもちろんのこと、「柔軟性」「発想力」「状況把握能力」をいつも研ぎ澄ませておくことが極めて重要なのだ。
年を取ると保守的になりがちで、過去の成功体験に引きずられることがままある。それゆえ、自分の衰えをなかなか認められない。そんな、現状にしがみついて老害をまき散らすロートルを横目で見ながら、私は「醜いな」「ぶざまだな」と思っていた。しかしながら、視点を変えておのれの姿を客観的に見たとき、「もしかしたら、自分も周囲の若手からそう見られているのではないか」「このままこの世界にいたら、老害をまき散らしてしまうようになるかもしれない」と考えて、心底ゾッとしたのである。
「自分は『終わった人』である」と受け入れよ、などと言ったそばからいきなり矛盾するようだが、私がセミリタイアを決断したのは、正直なところ、自分が「終わった人」になったと思いたくないからでもあるのだ。ネットニュース編集者として、PRプランナーとして完全に終わってしまう前に、周囲から惜しまれているうちに退場したかった。
■「しがみつく人生」は人を幸せにするのか
あまりにも若者の能力が高過ぎて、もはや自分は付いていけないのが現在のウェブメディア業界である。いまのところはとりあえず「ネットニュース編集の先駆者」的に扱ってもらえているが、率直にいって、自分はもう若者に勝てる部分がほぼなくなっていると考えている。世代交代の時期が来たのだ。だから辞める決心がついた。このまましがみついていても、きっと醜態をさらすだけだろう、と。
「いくつになっても人は成長できる」「ベテランにはベテランの戦い方がある」「ロートルの意地を見せてやる」「まだまだ若者には負けない」などと鼻息荒く立ち回り、現状にしがみつく生き方もあるのだろう。だが、「しがみつく人生」は果たして人を幸せにしてくれるのだろうか?
この問いに関連して、いつも頭に思い浮かぶのが野球解説者だ。過去の名選手は引退後も当座はもてはやされ、野球解説者や評論家として人前に出る仕事を選択することが多い。しかし、引退する選手は毎年数多くいるワケで、結局、解説者・評論家枠も「上が詰まっている」状態になり、何年たっても同じような顔ぶれがメディアに居座り続けている。
■年寄りがいつまでも幅を利かせる野球解説の世界
解説者や評論家というセカンドキャリアを目論みつつも、先輩たちがいつまでも居座っているせいでなかなか出番が回ってこない元選手、そして現役時代にそこまで華やかな実績をあげられないまま引退した元選手は、ジムや飲食店を経営するなどして、第二の人生を歩むことになる。
野球解説の世界は、世代交代という言葉を忘れてしまっているように見える。上が詰まっているものだから「走り込みが足りない!」「下半身をもっと鍛えろ!」みたいな昭和時代のセオリーを主張する高齢評論家が、いまだに幅を利かせている状況だ。たとえば、張本勲さんはこれがもはや「芸」になっているので個人的には大好きなのだが、ダルビッシュ有選手あたりは「ハリさん、いまの野球理論は違うんですよ」なんて冷静に言い返したくなっているのではなかろうか。
今年は新型コロナの影響もあってほとんど見かけなかったが、プロ野球のキャンプの風物詩といえば、激励に訪れた重鎮のプロ野球OBが現役選手に指導をする姿だ。若手選手は帽子を取り、神妙な顔つきでOBのアドバイスを「はい!」と聞いているが、内心は「さっさと本来の練習をさせてくれよ」なんて思っているのでは。
■「若さ」を武器に仕事を増やした者の不安
農家や職人のように、後継者不足のため80代でも現役であり続けなくてはいけない職種であれば、高齢者が老骨に鞭打ちながら最前線に立つ必要もあるだろう。だが、毎年のように新しい人材が入ってくる職種の場合、むしろ積極的に「新陳代謝」「世代交代」を起こしていくほうが、職場は活性化し、業界は成長していくものだ。
私は28歳になったばかりのころ、雑誌のライターになった。当時付き合いのあった編集者やライター、カメラマンはいずれも年上だった。そして32歳ごろまで、毎年のように仕事が増えていった。「若くてフットワークが軽く、文句を言わないライターがいるらしい」ということで、私に多数のオファーが舞い込んできたのだ。
これは単純に「若いから従順で使い勝手がよい」「無茶ぶりにも文句を言わず、素直に対応してくれる」と発注サイドに思ってもらえた結果だ。加えて「自分よりも年下のライターのほうが気軽に使いやすい」という面もあったのだろう。
当時は仕事をたくさんもらえてありがたかったが、冷静に俯瞰してみると、今後「若さ」という武器を失ってしまえば、自分は「使い勝手が悪い人材」「頼みづらい人材」にカテゴライズされて、次第に仕事が減っていく可能性があることを示していた。そのため、「これからは商流の上流をいかに取るかを考えなくては、将来的に通用しなくなるかもしれない」と強く意識するようになった。
■ウェブメディアの世界では、ずっと年長者だった
さて、これからどうやって生きていこうか……と頭の片隅で考えながらライターをしていたところに、「ネットニュースの編集をやってみませんか?」とサイバーエージェントからオファーが来た。32歳9カ月のときだった。
「これだ!」と思い、前のめり気味に飛び込んだのだが、一緒に仕事をする同社のスタッフは私よりも若い人ばかり。「雑誌の世界では自分なんてまだまだ若手だけど、ネットニュースの世界では最年長になってしまうのか!」という仰天感はあったものの、開き直って若いライターを大量に雇い、日々のニュースを更新し続けた。
あれから14年6カ月が経過したが、相変わらず私が最年長である。サイバーエージェントの担当責任者はこの期間まったく変わっていないため、われわれの年齢差は同じままだが、その他、次々と異動でやってくるスタッフはすべてが自分よりも若い人材だった。それだけウェブメディアというものは若い感性が必要なのだろう。
実際、最近は「メシ通」や「ぐるなび」「SUUMOタウン」といった私も寄稿したことがあるウェブメディアなどを見て、若手の活躍に感心することばかりだ。自分よりも若い編集者たちがセンスをいかんなく発揮し、豊富な写真と洗練されたデザインを小粋に組み合わせたページを生み出したりしている。そうした様子を目にしてしまうと、正直、ツラくて仕方がない。
書き手のほうも、ユニークな視点から読者をクスリとさせる記事を器用にまとめるライター、しっかりと理論構築して読み応えある記事が書けるライターなど、腕の立つ若手が日々生まれ続けている。このような状況を見ると「あなたたちのような若くて才能あふれる人材が揃うキラキラした世界には、もう私、身を置いていたくありません……」とまで思うようになってしまったのである。
■目指すは「セミリタイア界の若手」!?
それでは今後、私はどうするのか? 意味がわからないことを言うようだが、「セミリタイア界の若手」という、なんともニッチなポジションで闘っていこうと思っている。ライターになったばかりのころ、「どんな無茶ぶりにも対応できるライター界の若手」というポジションを取ったのと同じことをやる、という具合だ。そのほか、高齢者にExcelの使い方を教えてあげるのもいいかもしれないし、人手が足りない農家の手伝いをするのもいいかもしれない。
そんな奇妙なポジションを取ることで、ライターとして新たな道が拓けるといいな、と考えている。27歳で会社を辞め「オレ、何をやればいいかしら……」と不安に思っていたころと同様の気持ちだ。19年半ぶりに若者の気持ちを手に入れられた。これはこれで悪くない。
というワケで、若きライター・編集者の皆さんには、ウェブメディアをさらに発展させていっていただきたい。去りゆく老兵の、心からの願いだ。
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・よほど人材不足の業界を除いて、毎年のように若手が入ってくる職種では積極的に「世代交代」をおこなうべきである。
・ウェブメディアの世界には若手が活躍できる環境がある。だからこそ、年長者は若手に道を譲らなければならない。
・いまいる環境、立場にしがみつくロートルは醜い。世代交代は、避けられない摂理だ。
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ネットニュース編集者/PRプランナー
1973年東京都生まれ。ネットニュース編集者/PRプランナー。1997年一橋大学商学部卒業後、博報堂入社。博報堂ではCC局(現PR戦略局)に配属され、企業のPR業務に携わる。2001年に退社後、雑誌ライター、「TVブロス」編集者などを経て現在に至る。著書に『ウェブはバカと暇人のもの』『ネットのバカ』『ウェブでメシを食うということ』『バカざんまい』など多数。
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(ネットニュース編集者/PRプランナー 中川 淳一郎)
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