「お宅の消毒薬の種類は?」コロナ関連のしつこい問い合わせに潜む3つの心理
プレジデントオンライン / 2020年10月28日 9時15分
■「感染予防対策は適切なのか」お客様相談室への電話
始業直後のアパレルメーカーのお客さま相談室に、前日、直営店へ来店したという女性客からの電話が入った。
「店頭で『適切な感染予防対策を行っている』という掲示をみた。換気の時間は何分おきなのか? 消毒のタイミングは? 使用している消毒薬剤は何?」など、具体的な対策内容についての質問が続く。
応対しているコミュニケーターは、準備された資料に基づき回答しているが、女性の態度が徐々にヒステリックになっていき、
「なぜその対策が正しいと言えるのか?」
「本当に行っているのか?」
「こういった方法の方が効果的らしいから変更したら」
と執拗に食い下がる。
また、「何度も同じような質問が繰り返される→回答する」というループに陥り、長時間の対応を行うこととなった。
このようなクレームがコロナ禍で増加しているという。もともと、店舗を持つ業態では、運営主体へのお申し出内容として、「店頭での態度や対応について」が、「製品へのお問い合わせ」と同じくらい多い。それがさらに、コロナ禍において、自分が納得するまで説明を続けてほしい(聞き続けたい)人が増えているというのだ。不安により、過剰なまでの問い合わせになり、「グレー」な申し出になってしまう。
■グレークレームを発する人の5つの“分類”
ここでは、事例に挙げた女性の心理的な背景を分析していきたい。
今回の場合、買い物に訪れた店舗の衛生対策への不安を、運営主体の責任問題として申し出ている。それが過剰である・執拗であるというのが、グレークレームとして認識される行動だ。これを、顧客の心理の視点から見ると、その背景には、
・店舗の対応が&運営主体の指導が不十分なのではないかという先入観
・自分の不安感の正当性を、相手(企業)になんとしても伝えたい
という感情が潜んでいる。
時に、いつも通っている店舗との関係性を壊したくないという理由で、運営主体へ連絡してくるという生活者もいる。経験的にそのようなタイプは、要求度が高いことが多い。自分の主張を直接店舗に言っても受け入れてもらえないと感じているからだろうか?
日本対応進化研究会では、グレークレーム心理マトリックスを以下のような5つに分類している。今回の事例をプロットしてみると、戦略性や攻撃性も中間的な、思い込み・勘違い型と捉えられる。
■「自分が正しい」という思い込みから抜けにくいタイプ
このタイプは、自分自身は正しいという思い込みから抜けにくく、相手が間違っていることを前提とした主張が目立つ。直感的・瞬間的な行動と共に、相手からの訂正に対して、「否定された」「聞く耳を持ってもらえない」と感じ、さらに執拗に自分の主張を繰り返すことが多いタイプである。しかしながら、理不尽すぎるということはなく、実は製品・サービスのリピーターやファンということもよくある。根本的には、製品・サービスをより良くしてあげたいと前向きに申し出されている、良いお客さまともいえる。
最近では、日常の生活においても、身近な人から、まるで押し付けられるようにおススメの感染予防グッズを手渡されたという経験をした方もいるのではないだろうか。
■「話を聞いてくれた」と思ってもらえる態度の重要性
では、「思い込み・勘違い型」の人からの直感的で自己中心的な思いにはどのように対応するべきなのだろうか。
先の例だと、コミュニケーターが「(行政指導による)ガイドラインの沿った対策なのにうるさいことを言っている」と面倒くさがったり、「どんな対策を行っても満足しないに違いない」などと頑なな態度で電話応対をしてしまうと、「上から目線だ」とか「冷たい態度だ」と言い募られ、さらに対応時間を延ばしてしまうことになりかねない。
良かれと思ってアクセスしてきてくれることの多い「思い込み・勘違い型」のお客さまは、自分の話を受け入れて耳を傾けてくれたと感じることにより、気持ちが和らぎこちらの話を受け入れる態勢を見せることが多いからだ。
この事例への応対としては、傾聴し寄り添いの気持ちを伝えることからスタートする。前段にも書いたが、徹底的に悪い人というわけでもないので、冷徹な態度やむげにするような言動は控え、「言いにくいことをご連絡くださり、ありがとうございます」というようなセリフを効果的に使用する。
■実際の状況を正しく伝えて理解を促す「三現主義」
安全・安心への前向きな取り組み姿勢を示すことができれば、お客さまはこちらの話を聞くという状況を整えられる。応対者としては次のステップが非常に重要となる。
顧客接点業務では、こういった時、「三現主義」をふまえて確認や報告をすることが推奨されている。「現場」で「現物」に直接触れて「現実」をとらえ、問題解決を図るという考え方だ。モノづくり企業での推進は周知のことだが、サービス企業でも三現主義の原理原則が実践されており、顧客接点業務にも展開されている。
今回のケースでも、「実際の状況」を正しく伝え、理解を促すことが有効だ。例えば、該当店舗での「予防策実行報告書」の存在や、エリアマネージャーなどによる巡回など、実行施策のエビデンスについて的確に伝える。これは「本当は、行っていないのではないか?」というお客さまの不安を払拭する一助となる。
■ボタンの掛け違いを丁寧に正せば友好的な終話になる
「思い込み・勘違い型」の相手への対処の姿勢として、基本的なポイントとなるのは、
・申し出るきっかけとなった気持ちをくみ取る
・(三現主義をふまえて)事実確認を行い納得ポイントを探る
・できること、できないことを丁寧に説明する
の3点だ。
直感的な行動をしているだけなので、ボタンの掛け違いを丁寧に正していくことで、自分の思い違いに気づき、非常に友好的な終話になるはずだ。
■グレーなクレームこそ、分析が必要
製品・サービスが好きだからこそ、期待値が高いからこそ、企業に申し出るという生活者の心理は、広く一般的に知られるところである。また、これらの少々ネガティブでグレーな意見こそ製品・サービスの改善や新規開発につながるとして、積極的に収集し分析する活動は、VOC活動(Voice Of Customer)と呼ばれ1900年代頃から続いている。特に近年は、店頭やコールセンターや自社サイト、SNSなど、顧客接点が多様化し、生活者の大量の声がデータとして集積されつつある。
集積された声を迅速かつ的確に分析できれば、いち早く危険を察知しアラートを発報することや、製品・サービスに展開するヒントを創発することが可能になる。一方で、そのような体制が未整備な企業も多いのが実情だ。顧客とのより良い関係構築をめざすためにも、量・時間・精度を包括し分析を担う顧客対応の基盤システムを構築の必要性が増している。
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顧客対応コンサルタント
大手住宅設備メーカーにて修理受付をスタートにお客さま対応部門に30年近く従事。お客さまとの通話数は6万件、現場訪問回数は200回以上にのぼる。BPOセンターの立ち上げに携わった後、お客さま相談室長として組織マネジメントを行う。2013年、顧客対応のDX化を進める株式会社ジーネクストに参画。現在は顧客対応DX推進室室長として、クライアント企業の顧客対応窓口に対して応対実務に関する支援や、システム構築における運用面のサポートを担当。生活者の声を経営やマーケティングに活かす仕組みづくりの支援を行なっている。
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(顧客対応コンサルタント 酒井 由香)
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