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受信料支払いの「強制」を求めるNHKの発想は、中国や北朝鮮と同レベルだ

プレジデントオンライン / 2020年10月25日 11時15分

次期中期経営計画案について記者会見するNHKの前田晃伸会長=2020年8月4日、東京都渋谷区 - 写真=時事通信フォト

■テレビがあってもなくても、NHKに届け出が必要に

10月16日、NHKが総務省の「公共放送の在り方に関する検討分科会」に説明資料を出した。その中にあった「制度改正のお願い」が波紋を広げている。ポイントは大きく以下の3つである。

①テレビを設置した場合の「届け出」の義務化
②テレビを設置していない場合の「未設置の届け出」の義務化
③受信契約を結んでいない世帯について、居住者の名前や転居先を公共機関などに照会できる制度の導入

これは事実上、受信料の支払いを法律(放送法)で義務付けることで、受信料の不払い問題を解決しようというものだ。驚くべき要望だ。

NHKによれば、全国の世帯のうち契約世帯は4151万で、世帯支払率は82%。残りの2割(1372万世帯)は受信契約を結んでおらず、公平負担の点から問題がある。さらに未契約世帯への訪問のための人件費などに年間305億円の経費がかかり、さらに繰り返し訪問を行うことでクレームやトラブルも発生している。

NHKは「人海戦術による極めて不本意な経費の発生」と判断し、3つの要望を出したという。

しかし分科会の有識者からは「NHKに届けなければならないという大きな心理的苦痛が生じる」「名前や引っ越し先の住所の照会は受信料を求める方法として適切なのか」として、NHKに慎重な対応を求める意見が相次だ。

■武田総務相「国民の納得を十分に得る必要がある」

有識者の懸念は当然だ。NHKの要望は強圧的で、国民の気持ちを理解しているとはいえない。まるで一党独裁国家の中国や北朝鮮が国民を支配するかのようなやり方である。空恐ろしくなる。

さすがの武田良太総務相も強く感じ入るところがあったのだろう。20日の閣議後の記者会見では「かなり厳しい意見がNHKに寄せられていることは承知している」と述べ、こう続けた。

「今後の議論を見守りたい。NHK自身が改革意欲を持ち、すべての問題に取り組んでいただきたい」

もともと武田氏は「受信料制度を改革するには、国民の納得を十分に得る必要がある」との認識を示していた。それだけに自重しているのだろう。

■3年前の最高裁初判断は受信料制度を「合憲」としたが…

「NHKの受信料」と聞いて思い出すのが、2017年12月6日に言い渡された最高裁大法廷の初判断である。

最高裁はNHKの受信料制度を「合憲」としたうえで、「テレビを設置すれば受信料の支払い義務が生じる」という判断を示した。しかし、現実的にはITの分野などで大きな技術革新が進み、旧来の方法や法規が時代に合うのかという検証課題が残されたままである。

たとえば、民放がなかった時代、テレビを設置した時点で契約義務が発生するという規定には意味があった。NHKの契約とテレビの設置は同義だったからだ。しかし、民放が多く存在するいまは、事情が大きく違う。放送法は遺物のような存在なのである。

パソコンやタブレット、スマートフォン、それにカーナビでもNHKのテレビ番組は見られる。そうした新しいツールと受信料を私たち国民が納得できるようにどう結び付けるのか。現代にふさわしい受信料制度のあり方が問われている。

タブレットPCでのオンラインストリーミング
写真=iStock.com/hocus-focus
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/hocus-focus

■最高裁は「一方的に支払いを迫るのではなく」とくぎを刺した

最高裁判断が受信料支払いの義務を原則的に認めたことで、NHKは受信料の徴収を強化してきた。ただし、最高裁は「一方的に支払いを迫るのではなく、理解を求めて合意を得ることが大切だ」とNHKにくぎを刺していた。

また各紙も最高裁の判断を受け、NHKに注文を付けていた。たとえば2017年12月7日付の朝日新聞の社説はこう書いている。

「メディアを取りまく環境が激変し、受信料制度に向けられる視線は厳しい。それでも多くの人が支払いに応じているのは、民間放送とは違った立場で、市民の知る権利にこたえ、民主主義の成熟と発展に貢献する放送に期待するからだ」
「思いが裏切られたと人々が考えたとき、制度を支える基盤は崩れる。関係者はその認識を胸に刻まなければならない」

また、読売新聞の社説(2017年12月7日付)も、こう主張している。

「(NHKが)事業を野放図に広げれば、民業圧迫につながる。事業拡大に突き進むのではなく、受信料の値下げを検討するのが先決だろう」

今回のNHKの「制度改正のお願い」は、こうした指摘への回答としては不十分だ。

■「同意から強制への変更」と考えると分かりやすい

10月21日付の毎日新聞の社説は「受信料の義務化提案 国民の理解得られるのか」との見出しを掲げ、こう主張する。

「NHKと国民との関係を『同意』から『強制』へと根底から変えることになる。義務化には慎重であるべきだ」

なるほど、「同意から強制への変更」と考えると分かりやすい。

毎日社説は指摘する。

「現在、放送法が義務づけているのは、テレビなどの受信機器を設置した世帯や事業者に対する受信契約の締結だけだ。支払い義務はNHKの規約に定められているにすぎない」
「提案は放送法に支払い義務を明記して、受信料徴収に強制力を持たせる狙いがある。不法に支払いを免れた者へのペナルティーの法制化検討も要請している」

支払義務を放送法に組み込んで、しかも制裁まで法制化する。3年前の最高裁判断が大きなよりどころなのだろうが、最高裁はNHKにくぎを刺していたことを忘れないでほしい。

■強制的な届け出制度で、プライバシーがなくなる

毎日社説は指摘する。

「さらに問題なのは、NHKがテレビを設置しているかどうかの届け出を国民に義務づける案を提示したことだ」
「電力やガス会社など公益事業者や自治体への個人情報の照会を可能にする法改正も求めた。受信契約を結んでいない世帯の居住者氏名や転居先を把握するためだ」

このままだと、個人番号カードや健康保険証、運転免許証からの照会も行われるだろう。

さらに毎日社説はこう指摘する。

「支払い義務化は、これまで再三にわたって議論されてきた。2007年には、当時の菅義偉総務相が、2割程度の受信料値下げとセットにして求めたことがある」
「今回の提案は、菅首相の就任1カ月のタイミングで浮上した」

■国民の理解と納得抜きに前へ進むべきではない

菅義偉首相は「やるべきことをスピード感をもって躊躇なく実行に移す」と語り、行政のデジタル化や携帯電話料金の引き下げなどを次々と担当閣僚に指示している。どれも私たち国民のための改革のはずである。国民の理解と納得抜きに前へ進めるべきではない。

菅内閣は発足してわずか1カ月にすぎない。決して焦ることなく、ひとつひとつ丁寧に政策を推し進めてほしい。

毎日社説はその後半で「受信料の水準について不断の見直しは必要だ」と明言しながらこう訴える。

「だが、いくら値下げをしても、公共放送としてのあるべき姿を自ら示し、国民に納得感を持ってもらえなければ、義務化への理解はとうてい得られない」

政治が失ってならないのは、国民の納得感と理解なのである。

なおNHKの受信料の義務化問題について社説で取り上げた全国紙は毎日新聞だけだった。他の全国紙も競って社説に書くべきテーマだろう。残念だ。

(ジャーナリスト 沙鴎 一歩)

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