アメリカ大統領選の世論調査で最も当たる「たった1つの質問」
プレジデントオンライン / 2020年10月27日 15時15分
※本稿は、横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■「史上最悪の討論会」はトランプのワンマンショー
この本を書き終えようというときにトランプ大統領とバイデン大統領候補の第1回目の討論会が終わった。予想どおりではあるが、リベラル系のCNNを筆頭にメディアは「史上最悪の討論会」とこき下ろした。確かに「トランプがヒドかった」と感じた人は多いだろう。しかし、知り合いのテレビ・プロデューサーは、むしろ「天才的」と評していた。“間”の取り方が絶妙だというのだ。ゆったり話すバイデンと瞬間ツッコミ芸のトランプのショーだ。
2016年のヒラリーとの討論会をご覧になった人ならわかるだろうが、当時、ヒラリーはいくらトランプに話を遮られようが、ツッコまれようが、無視して話し続けた。話し続けられるだけの強さと人を惹きつける話術があった。しかし、バイデンにはそれがない。今回の第1回討論会はトランプのワンマンショーだった。バイデンに対する印象は「話を遮られてかわいそう」程度のものではないだろうか? 悪評も評判のうちを地でゆくトランプの狙いどおりだったと思われる。
トランプは討論会のなかでミシガン、フロリダ、ペンシルベニア州の名前を何度も上げていた。これは2016年にも使った手法だ。その土地の熱狂的なトランプ支持者と隠れたトランプ支持者にメッセージを送ったのだ。一方のバイデンは2016年のヒラリーと同じく、あくまで全国民へのメッセージを送り続けた。
■アメリカの空気と日本での報じられ方に大きな差
私は2011年から2014年までトランプ政権が頼りにしていることで知られる保守系シンクタンクのヘリテージ財団で上級研究員として働いた。所内研修では現運輸長官のエレイン・チャオと一緒だった。トランプの政権移行チームでワシントンとトランプを繋いだのは、ヘリテージの設立者エドウィン・フルナーである。私は退所して東京に戻ったあとも、ワシントンに行けばヘリテージに朝から晩まで数日間いるので、トランプ政権が誕生する前の内緒話を彼らに聞かせてもらっていた。
そこで感じたアメリカの空気と日本での報じられ方があまりに異なっていたので、前回の大統領選挙半年前の2016年4月に、トランプ大統領誕生の可能性について『崩壊するアメリカ』(ビジネス社)と題した著書を上梓した。しかし、当時の日本における私の主張は完全に亜流だった。トランプが勝つと思っていた人が少なすぎて、テレビに出演させてもらっても、私の主張は浮いていたように思う。
今回の大統領選挙はバイデン優勢だが、当選を確実視するような空気はない。4年前の苦い思い出があるからだ。その4年間で、トランプは掲げた公約のほとんどのことを成し遂げた、ないしは成し遂げている最中だ。その実行力は驚異的である。
トランプはアメリカだけでなく、ポスト冷戦後の国際秩序を大きく変容させてきた。いまだ「途上国」を自認する中国には対立構図を明確にして圧力をかけ続けている。中東ではイスラエルを通じて着々とイラン包囲網をつくり上げている。そして、着実に成果をあげようとしているのだ。
■トランプ勝利を妨げる2つの懸念
11月3日の選挙でバイデンが勝ったとしても、副大統領を務めたオバマ政権時代のようにはいかない。「トランプのアメリカ」の延長線上でバイデンは政権を運営しなければならない。不動産屋出身の叩き上げが実現した政策を後退させることに終始するようならば、世界でリーダーシップをとるのは難しくなるだろう。
私は一貫して今回の大統領選挙でもトランプが勝利すると予想してきたが、2つだけ想定外だったことがある。1つは、リベラル派の最高裁判事ギンズバーグの死である。最高裁におけるパワーバランスの崩壊リスクによって、「トランプ対バイデン」の戦いが、「共和党対民主党」の総力戦になってしまった。民主党からすると今回の大統領選挙はギンズバーグの弔い合戦だ。おのずと、弔う立場のバイデンと民主党に有利に働く。実際、彼女の死以降、莫大な寄付金が民主党に集まってきているのだ。
2つ目は本書の校了直前に舞い込んだトランプのコロナ感染の知らせだ。トランプの健康状態が勝敗を左右する最大の変数となった。だが、仮にカムバックを果たすようなら、もはやトランプの有利は動かないだろう(編集部注:その後、カムバックを果たしている)。その理由は、熱狂的なトランプ支持者と分断が進むアメリカで増え続ける隠れトランプにある。トランプは“間”の取り方だけでなく、良くも悪くも人の心を掴む天才なのである。
■どちらの候補者とビールを飲みたいですか?
大統領選挙の期間は、候補者の支持率が定期的に発表されるが、実は最も当たると言われている世論調査の質問がある。それは選挙間近になると行われる「どちらの候補者とビールが飲みたいですか?」という質問である。
さて、あなたは共和党の現職大統領ドナルド・トランプと民主党の大統領候補ジョー・バイデンのどちらとビールを飲みたいだろうか?
少し考えるかもしれないが、どちらかというと「トランプ」と答える人のほうが多いだろう。この問いは、どちらに対して本能的好感度が高いかをあぶり出すもの。「どちらを支持していますか?」「どちらに投票する予定ですか?」と聞かれると理性が働くが、ビールを飲む相手と考えると、どちらが一緒にいて楽しそうかと考えるわけだ。
「本能で選ぶのなら選挙戦はいらないのではないか?」という論議を呼びかねないので、こういった質問は通常ギリギリまで行われない。だが、選挙の結果を予測する際には、「今、自分はどちらと一緒にビールを飲みたいだろうか?」と考えてみると、頭の中の霧が晴れるときがある。
■12年前のバイデンの立候補を知らない人々
民主党候補のバイデンは、バラク・オバマ政権時代に副大統領として人気を博したが、強烈なカリスマ性を持っている政治家ではない。2008年のオバマとヒラリー・クリントンが激突した民主党の予備選挙にも、立候補はしたものの早々に撤退している。このとき、バイデンが立候補していたことを知らなかった人も多いのではないだろうか。
今回の予備選挙でも苦戦しながら勝ち残ってきた。開始から3つ目の予備選挙が行われるまで負けが続き、バイデンの撤退が語られていたほどだ。最初のアイオワ州では、インディアナ州のサウスベンド市長で同性婚した38歳のピート・ブティジェッジが1位につけ、急進左派バーニー・サンダース上院議員に競り勝ったことが注目を集めた。革新派のエリザベス・ウォーレン上院議員が3位で、バイデンは4位に沈んだ。
「ここで勝つと候補者になる」とさえ言われるニューハンプシャー州の予備選挙でも1位サンダースと2位ブティジェッジが競り合い、ミネソタ州選出のエイミー・クロブシャー上院議員が3位で、4位はウォーレン。なんとバイデンは5位であった。次のネバダ州はサンダースが圧勝。14州の予備選挙が一気に行われた3月4日の予備選挙でバイデンは9勝を挙げ、ようやく民主党の候補者に決まったのだ。バイデンの熱狂が勝利したというよりも、他の候補者の資金力が続かずに脱落していった影響が大きかった。
■ヒラリーとならビールを飲みたい
それに対して、トランプの存在感はよくも悪くもバイデンを圧倒している。
バイデンが民主党候補に決まった後も、「バイデンはどこにいるのか?」と新聞に書かれるほど存在感が薄かった。今回の選挙は、「トランプ対反トランプ」の戦いであって、「トランプ対バイデン」の戦いではないと言っていいだろう。アンチの存在が戦いを盛り上げる——2020年のアメリカ大統領選はこれを如実に示している。
では、4年前に遡っての質問です。
「トランプとヒラリーのどちらと一緒にビールを飲みたいですか?」
この質問を、2016年の大統領選挙前にも後にも、私は講演のたびにしていた。
「トランプ」と答える人が多かったが、ヒラリーもそこそこ人気があった。ヒラリーは働く女性の先駆けであるので、働く女性たちからは「ヒラリーに話を聞いてみたい!」という声もあった。アメリカ史上初めて主要政党が指名する女性大統領候補となった彼女は、不倫スキャンダルで弾劾訴追されたビル・クリントン大統領のファーストレディであるし、オバマ政権では国務長官の要職を務めた。聞きたいことがあって当然と思える。
仮に、「ヒラリーとトランプにバイデンを加えた3人のうち誰と一緒にビールを飲みたいですか?」と聞いたとしよう。おそらく、トランプ、ヒラリー、バイデンの順になるのではないか。
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政治アナリスト
1965年、愛知県名古屋市生まれ。明治大学卒業後に松下政経塾に入塾(15期生)。95年にプリンストン大学で、96年にはジョージ・ワシントン大学で客員研究員を務めた後、2004年に太平洋評議会(Pacific21)代表として政策アナリストの活動を開始。11~14年まではアメリカの大手保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」でアジア人初の上級研究員として活躍。16年から東洋大学グローバル・イノベーション学科研究センターで客員研究員を務め、17年からはグローバル・イノベーション学科教授を務める。アメリカ政治に関する著書多数。現在、民放ワイドショーでもコメンテーターとして活躍中。
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(政治アナリスト 横江 公美)
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