橋下徹「命を狙われても大阪都構想の設計図を描いた理由」

プレジデントオンライン / 2020年10月29日 15時15分

「大阪都構想」の住民投票を呼び掛ける宣伝車=2020年10月12日、大阪市北区の同市役所 - 写真=時事通信フォト

大阪市を廃止し、四つの特別区に再編する大阪都構想の是非を問う住民投票が11月1日に行われる。都構想の生みの親である橋下徹氏は「現在、大阪の経済指標やその他の指標が徐々に上向きになりつつある。大阪都構想はその延長線上にあるものだ」という――。

※本稿は、橋下徹『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』(プレジデント社)より一部を抜粋したものです。

■具体的なプランなく大混乱の「英EU離脱」とはどこが違うか

大阪都構想の是非については、大阪では8年も9年も議論されてきた。イギリスはEUを離脱するかどうかで大混乱に陥っていたけど、そうならないようにきっちりと手順を踏んできたのが大阪都構想だ。大阪都構想に関する教科書も何もないところで、自分たちの頭一つで考えてきた。

「住民投票の前に、しっかりと大阪都構想の設計図を作る」

僕の8年間の政治活動は、この目標を達成するためのものだったと言っても過言ではない。他方、イギリスでは、EUからの離脱の設計図を作る前に国民投票をやってしまった。先に感覚的なイエス・ノーを問うてしまったから、現実的に離脱を実行しようという段階で問題が噴出したんだ。

大阪都構想のプロセスでは、住民投票で大阪都構想賛成多数となれば、それを実行できる設計図が住民投票前から用意されていた。大阪都構想を実行しようとしたら生じるであろう問題点・課題点については、100%完璧とは言えないまでもすべて対応策を講じて、設計図を完成させていた。その上で、2015年5月17日の住民投票に臨んだんだ。

■12年前の大阪は本当にひどかった

そういう意味では、朝日新聞や毎日新聞などが大推奨した、原発の是非を問う住民投票や、在沖縄・普天間飛行場の辺野古移設の是非を問う住民投票は絶対にやってはいけない。この住民投票によって示された住民意思を実行するための設計図が、何も用意されていないからだ。

設計図がなければ、住民投票の結果は放置されるか、イギリスのEU離脱のように大混乱をもたらすだけだ。朝日新聞や毎日新聞は、大阪都構想の住民投票の実施に反対するのに、住民意思が放置される可能性の高い原発や辺野古移設の是非を問う住民投票の実施には大絶賛する。もっと勉強しなさい。

今から約12年前、僕が大阪府知事に立候補した当時の大阪は本当にひどかった。そのときの自民党から共産党までの既存政党に、あんたたちはそれまで何をやっていたのかと聞きたいくらいだ。

■効果が見えない海外視察、やりたい放題の天下り…

府政、市政で失敗して、莫大な税金の無駄遣いをしていても、誰も責任を取らない。府の役人、市の役人の給与もボーナスも退職金もそのままで、カットすると言っても雀の涙ほど。議員たちもまったく責任を取らない。議員たちは高額な給与に特別な手当に政務調査費という経費まで懐に入れ、効果が見えない海外視察旅行に明け暮れる。

そんな議員の姿を見てか、役人たちも、民間よりもはるかに恵まれた勤務待遇を何食わぬ顔でそのまま享受し、天下りもやりたい放題。知事、市長を応援する各種団体には莫大な補助金がほぼ無条件にばらまかれる。

地下鉄もバスも公務員意識丸出しで、サービス業の意識はまったくなく、市長選挙では自分たちの身分・処遇を守るために、見返りを期待できる市長候補の選挙応援に明け暮れる。そのくせ、地下鉄のトイレも汚いままで、駅の売店は暗く運賃は高い。バスは重複する路線が多く、客ではなく空気を運んで運転手の仕事だけを確保。公立の中学校に給食はなく、小中学校にエアコンも配備されていない。

■学力調査テストは全国最下位、関空は海に沈みかけていた

学力調査テストをやれば全国で最下位。体力調査テストも最下位。それでも教育委員会は、「学力だけがすべてじゃない、大阪の子どもたちには人間力がある」と言い放つ。教育政策には税金がケチられるのに、高齢者向けの地下鉄・バスの無料パスには年間約100億円の税金が投入される。税金で建てた建物・施設が乱立し、府民市民が訪れもしないのに、そこで働く人の給与だけは税金で支払われる。

西成は環境改善が進まず、市内中心部の繁華街も大阪城公園も万博公園も天王寺公園も寂れ感が満載。数千億円かけた大阪湾岸部の巨大な埋め立て地にはペンペン草が生えて放ったらかし。その埋め立て地の周囲の街も少子高齢化の波にのまれ、先が見通せない。

大阪全体に鉄道ネットワークや、必要な高速道路ネットワークが広がる気配もなく、北陸新幹線の話もリニアモーターカーの話も放ったらかし。海上空港の関西国際空港には飛行機が集まらず、そのまま海に沈むかの衰退ぶり。市内中心部の一等地の大規模開発も先行きがまったくわからない。

こんなひどい大阪なのに、それでも知事や市長を必死に応援する各種団体には多額の補助金がばらまかれ、その人たちだけが満足している。これが十数年前の大阪だ。

■命を狙われても、どうしても変えたかったこと

僕は、こんな大阪が嫌だった。引っ越そうと思えばいつでも東京に引っ越すこともできたし、自分の生活のことだけを考えれば、嫌な大阪に税金だけ納めれば、あとは楽に暮らしていけた。生活に何の不自由もなかったし、そんなに世間から批判・誹謗・中傷を受けるような立場でもなかった。

それでもこの大阪を何とかしたい。子どもたち、孫たちにもう少しましな大阪を残したい。そういう思いで、とりあえずそのときの生活のすべてを横に置き、政治に人生を懸けてみた。僕のやってきたことは100%完璧ではないし、問題もあっただろう。僕はそんな完璧な人間ではない。それでも前述の大阪の課題を解決するために、絶対に逃げず、絶対に手は抜かず、100%完璧ではないかもしれないが、脳みそに汗をかきながらそれなりの解を出して大阪を前に進めてきたつもりだ。問題の先送りは絶対にしなかった。

だから猛反発も受けた。自分の命だけでなく、妻や子どもの命まで狙われるようなこともあった。

■前任の太田房江知事は約8000万円の退職金をもらったが…

住民への説明不足とよく言われたけど、大きな政策を実行するときには、住民説明会には自ら足を運び、大阪都構想のタウンミーティングや街頭演説は1000回や2000回はゆうにやっている。腹の立つメディア相手にも、どの政治家にも負けないほど、インタビューや記者会見に応じてきた。

そして、政治家をやっている間だけは、カネに関しては完全にクリーンにやったつもりだ。今は民間に戻ったので、税務調査のときに経費認定をめぐって税務署と見解の相違が出てくることもあるけど、政治家のときには政治資金の使い方をめぐって有権者との見解の相違は絶対に出ないように、完璧すぎるほどのカネの使い方にしたつもりだ。

もちろん知事、市長の給与や退職金もカットし、前任の太田房江知事は2期務めて約8000万円の退職金、周辺の知事も3期や4期やれば1億を超える退職金をもらえるのに、僕はそんなお金はもらえなかった。松井さんも吉村さんも同じだ。逆に、僕は大阪府知事選挙のときには、出馬関連費用として数千万円ほど自分の金を使ったほどだ。

■特定の支援者よりも大阪全体、そして「次世代」のため

まあ、色々言いたいんだけど、とにかく僕は知事として、市長として全力を尽くし、もちろん役人や大阪維新の会も頑張り、僕の後の松井さん、吉村さんも頑張ってくれた。その結果、現在、大阪の経済指標やその他の指標が徐々に上向きになりつつある。

橋下 徹『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう 』(プレジデント社)
橋下徹『大阪都構想&万博の表とウラ全部話そう』(プレジデント社)

すべての数字が格段に良くなったとは言わないし、すべて自分の成果だと言うつもりもない。それでも、低迷・衰退傾向にあった大阪のさまざまな数字が、今、全体的に上向きになってきているのは歴然たる事実だ。それと同時に、前任の太田房江知事までに約5500億円も財政的に穴を開けて火の車となっていた大阪府の財政状況も好転してきた。

これらはすべて、一部特定の団体や特定の支援者・支持者を意識することなく、大阪全体のために、そして子どもたち孫たちといった将来世代のために政治をやってきた成果だと自負している。「すべては次世代のために」、それだけの思いでやってきた。その半面、一部特定の団体や一部特定の府市民がこれまでのように補助金でおいしい思いをすることができなくなり、彼ら彼女らから激しい反発を食らうようになった。

2019年4月のダブル・クロス選挙では、この補助金目当ての一部特定の団体や一部特定の府市民たちが大阪維新の会を潰すために牙をむいた。彼ら彼女らに特段の配慮をしない大阪維新の会の政治を終わらせて、彼ら彼女らを最大限に配慮する、あの十数年前の大阪政治に戻そうとしてきたんだ。

それだけは勘弁してくれ。そんな大阪にするために、僕は8年間、政治に人生を懸けたんじゃない。

大阪の有権者が松井さんや吉村さん、そして大阪維新の会を圧勝に導いてくれて、本当によかったよ。

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橋下 徹(はしもと・とおる)
元大阪市長・元大阪府知事
1969年東京都生まれ。大阪府立北野高校、早稲田大学政治経済学部卒業。弁護士。2008年から大阪府知事、大阪市長として府市政の改革に尽力。15年12月、政界引退。

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(元大阪市長・元大阪府知事 橋下 徹)

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