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10年前のドラ1「斎藤佑樹」はなぜマスコミのネタになり続けているのか

プレジデントオンライン / 2020年10月27日 18時15分

ロッテ-日本ハム。4回、登板した日本ハムの斎藤佑樹投手=2020年6月4日、千葉・ZOZOマリンスタジアム - 写真=時事通信フォト

2020年プロ野球ドラフト会議が10月26日に実施され、12球団で支配下・育成合わせて計123人が指名された。そんな中、今オフの去就が注目されるのが10年前の「ドラ1」日本ハムの斎藤佑樹投手だ。スポーツライターの相沢光一さんは「3年目に右肩を故障して以降、なかなか成績を残せず、現在は2軍暮らし。それでも、その投球を報じる記事には毎回多くのコメントが付くなど注目度が大きい」という——。

■10年前のドラ1、今は2軍暮らしの斎藤祐樹はなぜニュースの常連か

10月26日、プロ野球ドラフト会議がリモート方式で行われた。

コロナ禍のため、選手の実力を判定する機会が激減した(高校野球選手権→中止、各大学リーグ→試合数減少、都市対抗→延期など)なかで行われる異例のドラフトになった。その分、各球団の調査能力が問われ、指名をめぐるかけひきは興味深いものがあった。

その中でも人気を集めたのは大学ナンバー1スラッガー・佐藤輝明(近畿大)と、最速155キロ左腕・早川隆久(早稲田大)。佐藤は4球団から重複指名され阪神が、早川は4球団から指名され楽天が交渉権を獲得した。

ところで10年前の2010年ドラフト会議で、この2人以上に世間の耳目を集めていたのが斎藤佑樹(4球団競合の末、日本ハム入団)だ。2006年の夏の甲子園決勝で、早稲田実業のエースだった斎藤は駒澤大苫小牧の田中将大(ヤンキース)と2試合にわたる壮絶な投げ合いを演じ、伝説を作った。

早大進学後も1年時からエースとして活躍し、4年間で31勝15敗、防御率1.77、323奪三振という輝かしい記録を残した。加えて話題性も抜群。高校時代はマウンド上で汗をハンカチで拭く仕草と端正なルックスで「ハンカチ王子」と呼ばれ、世間の注目を一身に集めた。実力と人気を兼ね備えた平成のアマチュア球界を代表するスターといっていい。ドラフトでどの球団が斎藤を獲得するのかは、この年の秋の大きな関心事だった。

日本ハム入団後もスタートはまずまずだった。1年目は4月にルーキー初勝利一番乗りを果たし、ローテーション投手として6勝6敗の成績を残した。2年目も開幕早々、初完投勝利、初完封勝利を記録。だが、シーズン半ばから打ち込まれることが多くなり、5勝8敗でシーズンを終えた。

■ここ7シーズンで4勝、2軍戦で7人の打者に投げて5失点

試練が訪れたのは3年目。右肩の故障もあって、1軍登板は1試合にとどまった。以降は、かつての輝きが嘘のように精彩を欠き、7シーズンで4勝しかしていない。昨シーズンまでのプロ9年間の通算成績は15勝26敗、防御率4.34だ。

そして10年目の今シーズンは2軍暮らしが続いた。そんな斎藤の近況を伝えるスポーツ紙の記事は定期的にネットニュースに載り、話題を集めている。例えば10月16日のイースタンリーグ、対巨人戦での投球を報じたオンラインの記事。日ハム1-3のビハインドで迎えた6回裏に斎藤は登板したが、7人の打者に対して4安打、1死球。5失点を喫して降板したという内容だ。

■「まだプロにいるの?」「来季契約更改したら戦力外の選手が怒る」

正直に言えば、2軍選手でパっとしない投手の散々な内容の投球を記事にする価値があるとは思えない。だが、配信されたこの記事に対するコメントはたちまち6000件を超えた。バズっていると言っていいだろう。これまでも「斎藤ネタ」はその投球結果がよくも悪くも、多くの読者に読まれてきた。それだけで斎藤が今も多くの野球ファンから熱視線が注がれている存在であることがわかる。ただし、今回は応援するコメントは見当たらず、ほとんどすべてが突き放した内容のものだった。

ロッテ—日本ハム。4回、登板した日本ハムの斎藤佑樹投手=2020年6月4日、千葉・ZOZOマリンスタジアム
ロッテ-日本ハム。4回、登板した日本ハムの斎藤佑樹投手=2020年6月4日、千葉・ZOZOマリンスタジアム(写真=時事通信フォト)

辛辣なものには

「なぜ、まだプロにいるの?」
「これで来季も契約更改したら、戦力外通告された選手が怒るだろ」

などがあった。

「日本ハムには名前で客が呼べるこれといったスターがいないからな。結局、斎藤と清宮に頼るしかないのか」といった皮肉交じりのものもある。

また、最近の斎藤の投球を見たファンなのだろう。

「ストレートが最速で135キロ、変化球が110キロ。これじゃ打たれるよ」
「球遅い、変化球にキレない、制球力もない」
「ボールが先行して、ストライクを取りにいく球が打ち頃の棒球。相手の2軍選手に自信をつけさせるために出てきてるみたいだ」と現状の体たらくを指摘する声もある。

■「体たらくなのに推定年俸1600万円」に嫉妬心を募らせる読者

こうしたコメントが次々と投稿されるのは、なぜか。

多くの読者は、斎藤の高校、大学時代のキラキラ輝いていたマウンド上での勇姿を知っており、その頃との落差の大きさ、期待を裏切られた失望感のようなものがあるのだろう。不調の中でもしばらくは復活する姿を期待して見守ってきたが、その気配が感じられない。そのイライラから、プロは過去の栄光ではなく、現在の結果で判断されるべきという思いに転じたのではないだろうか。

コロナ禍で給与が下降し、生活がますます苦しくなっている読者もいる中、成績がまったくふるわないにもかかわらず一般サラリーマンより高給(2020年の推定年俸は1600万円)を得るなど待遇のよい斎藤に対する嫉妬心のようものもあるのかもしれない。

■斎藤復活のカギを握るのは同じ最速130キロ台の40歳173勝左腕

しかし、一番悩んで苦しんでいるのは斎藤本人だろう。つまずきは、前述したように2年目から3年目にかけて負った右肩の故障だ。その後から思い通りのストレートが投げられなくなったに違いない。

斎藤は高校時代に140キロ台、大学時代には150キロ近いストレートを投げていた。ストレートを主体にスライダーやフォークを織り交ぜて打者を打ち取る正統派の投手だった。

故障を機にイメージ通りのストレートが投げられなくなった。その威力を取り戻そうと、もがき苦しんできたのではないか。

ピッチャーがホームに投球
写真=iStock.com/DustyPixel
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/DustyPixel

現状の斎藤と同じ最速130キロ台のストレートでも活躍しているプロはいる。たとえばヤクルトの石川雅規投手。167センチ、73キロと華奢な体でストレートも走らない。そんな自分がプロで生き残るにはどうしたらいいかを考え努力し、シンカーをはじめとする多彩な変化球を身につけた。球速や変化の異なるボールを投げることで、130キロ台のストレートさえ速く見せる術も覚えた。

また、1球1球、プレートを踏む位置を変え、足を上げるタイミングを変える。要はバッターのタイミングを外しバットの芯でボールをとらえられなければいい、という投球術で生き残ってきた。そして通算173勝、現役最多となる11回のシーズン2桁勝利という輝かしい実績を築いた。

40歳になった今季は2勝7敗と不振だが、1軍で投げ続けているのは、自分の個性を知ったうえで生き残る努力をしているからだ。

■「ハンカチ王子の遺産だけでよくやってきた。もう重荷を下ろすべき」

学生時代から打者心理を読むクレバーな投球をしていた斎藤なら、自身の現状の力に応じた投球のモデルチェンジはできたはずだ。いや、これからだってできる。それを心の中で待ち望むファンも多いはずだ。

プロ同士が生活をかけて戦う厳しい勝負の世界。斎藤はいま、野球人生のターニングポイントに立っているといっていいだろう。先の2軍戦で打ち込まれたネットニュースの記事のコメントには次のようなものがあった。

「甲子園のハンカチ王子の遺産だけで、ここまでよくプロでやってきたと思う。もう重荷を下ろすべき」

今オフ、プロ10年目で引退となってしまうのか。多くのファン、アンチファンが固唾をのんで見守っているに違いない。

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相沢 光一(あいざわ・こういち)
フリーライター
1956年生まれ。月刊誌を主に取材・執筆を行ってきた。得意とするジャンルはスポーツ全般、人物インタビュー、ビジネス。著書にアメリカンフットボールのマネジメントをテーマとした『勝利者』などがある。

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(フリーライター 相沢 光一)

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