私が「圧倒的劣勢でもトランプが勝つ」と予想する最大の理由
プレジデントオンライン / 2020年10月29日 9時15分
※本稿は、横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)の一部を再編集したものです。
■党派に関係なく「トランプが勝つ」という返事
今回の大統領選挙についてアメリカで取材をすると、党派に関係なく「トランプが勝つ」との返事が戻ってきた。世論調査ではバイデンが先行しながら、党派にも、年齢にも関係なくトランプの勝利を予想するアメリカ人が多かったのである。専門家であれば、2016年に予想を大きく外したことに対する反省かと思うが、リベラルな西海岸の大学生も苦い顔をしながら「トランプは思った以上に強い」と言っていた。
それが表に出てこないのは、「トランプを支持する」と口に出すのをためらわれる空気があるからだ。トランプの言動、そして人となりは、アメリカの大統領の資質ではない、というのはアメリカ人の共通認識である。それはわかっているけれどもトランプに投票してしまう人たちが数多く存在する。
どれだけトランプを非難する本が出版されようが、どれだけ共和党の元高官や政治家がトランプに反対する声をあげようが、どれだけ反トランプ動画を拡散させようが、トランプ支持者が“岩盤”であることを示している。反トランプキャンペーンは、アンチトランプの人が見ても、トランプが大好きな人たちの目には留まらない。
■「隠れトランプ」が隠れるワケ
ここで疑問が生じる。トランプ好きの「トランピアン」がどのくらいいるのか、ということである。トランプの政策についての支持率はだいたい40%前後で安定している。高いときには50%を超えることもある。低いときでも33%を下回っていない。そうするとトランプの岩盤支持者は最低でも33%いて、その人たちが接戦州で投票すれば、トランプが勝利する可能性が高まる。
アメリカ大統領選挙における投票率はおおよそ60%である。そのうちの過半数を獲れば勝利となるため、有権者の30%強の得票で勝利できる。そうすると、バイデンの世論調査の数字は実態以上に大きく膨らんでいる可能性もある。まだ投票先を決めていない人もいるなかで行われる世論調査では、「『トランプ』と答えると格好悪いから、とりあえず、バイデンと答えておこう」という人も多い。
とはいえ、トランプの選挙集会を見ると、陰謀主義史観のマークを掲げる人はいるし、白人ばかりで人種差別主義者たちの集団にも見える。掛け声も驚きだ。「Lock him up(オバマを牢屋に入れろ)」と参加者たちは声を合わせて叫ぶ。この人たちと同じに見られたくないと思う人は、トランプに投票するとは答えにくいだろう。
アメリカ人と話をしていると、「この人、トランプ支持を隠しているな」と思うことがたびたびある。「政策については評価できる面もある」と言いながら、「トランプを支持していない」という人たちである。何が何でもトランプを支持するという熱狂的な30%強の中に、こうした隠れトランプがいる。
■“白人クリスチャン”からの熱烈な支持
今は「オバマのアメリカ」の時代である。黒人大統領が生まれる多様性を認めるアメリカで、SNSを通じて繋がり、みんなで協力し合うことが善しとされる時代だ。そんななかで「昔はよかった」という意味の「MAGA」は時代遅れに聞こえる。
だが、トランプの主張は「オバマのアメリカ」からこぼれ落ちた2つのグループに向けたものだ。1つは共和党の中でも保守派と呼ばれる、建国の精神であるキリスト教的価値観と自衛のための銃を重視する人たちだ。2つ目はアメリカの経済成長に貢献した工業地域、今ではラストベルトと呼ばれる地域で働く元民主党系の労働者である。
両者には白人クリスチャンという共通項がある。アメリカを開拓した「建国の父」たちの血を受け継ぐ人々だ。ラストベルトと呼ばれる五大湖周辺の工業地帯が華やかだったのは1970年代以前である。1970年代までアメリカは90%近くがヨーロッパからやってきた白人クリスチャンの国であった。その時代を引きずる人々がトランプを熱烈に支持している。
2016年大統領選挙では穏健派の共和党員までもが、「トランプ支持者と聞くと、この人って人種差別主義者? と疑いの目を向けてしまった」と密かに話していた。実は、同じ共和党といっても保守派と穏健派ではかなり色合いが異なる。保守派はキリスト教的価値観と銃という建国の精神に関わる国内政策全般への関心が高いが、穏健派はそれほど関心がなく、経済政策や外交姿勢に共鳴して共和党を支持している。
■「トランプ支持者=人種差別主義者」という共通認識
トランプを自らの大統領候補として担ぐ共和党で、このように思われているのだから、民主党支持者はもとより、無党派層はなおのこと「トランプ支持者=人種差別主義者」という共通認識ができあがる。
ましてや今はミレニアル世代が主役の「オバマのアメリカ」時代である。多様化するほどに白人クリスチャンは減少する。国勢調査では2000年代までプロテスタント、カトリック、ユダヤ系は別のグループに分類されていたが、今は3つを合わせて「白人」とカウントされている。2015年時点で、その「白人」は61.8%だ。国税調査によると2018年に生まれた子供は白人が51.6%、ヒスパニックが23.4%。黒人が14.6%であった。
移民は白人以外が多いので、月日が経つほどに白人の割合は減っていく。ピュー研究所は「2050年には白人の割合は47%になる」と予想している。ますます「トランプを支持するとは言いにくい」土壌ができあがっているのだ。
■トランプが目指すのは「永遠に尊敬される大統領」
トランプが選挙運動で熱狂的に歓迎されるのは、共和党の保守派、つまりキリスト教的価値観を大事にする地域である。トランプは「3期目もありえる」と言い出している。アメリカでは大統領職は2期までと決まっていることなどお構いなしだ。
トランプはサウスダコタ州のラシュモア山に刻まれた元大統領4人の顔、ジョージ・ワシントン、トーマス・ジェファーソン、エイブラハム・リンカーン、セオドア・ルーズベルトに自分も加えてほしいと要請したことも伝えられている。
建国の父は特別だが、それ以外にも、共和党ではリンカーン、民主党ではルーズベルトが最も尊敬されているというのがアメリカでの共通認識である。トランプは、リンカーンが使った聖書で大統領就任式の宣誓をするなど、同じ党の大先輩として意識していることは明らかだ。
リンカーンは南北戦争を戦い、自分は思想的内戦を戦っていると定義しているのではないだろうか。トランプが民主党を「左に寄りすぎた社会主義者だ」と恐怖を煽っているのは、そのためだ。
ただし、最近ではトランプがリンカーンに言及する機会は減っている。今や、トランプの口から出てくるのはイエス・キリストだ。つまり、神なのである。トランプが今目指しているのは、今だけでなく永遠に尊敬される大統領になることだ。
■キリストに導かれるトランプ
トランプは「トランプ大統領を永遠に」という動画を自分で流している。この動画については、私が知る限り、2つのバージョンがある。1つは「2020年」のロゴとトランプの顔、2024年のロゴとトランプの顔、2028年にもトランプの顔……と選挙のある年が永遠に映し出され、最後に「永遠に」という言葉とトランプの顔写真で終わるバージョンだ。
もう1つは、2020年は自分の顔、2024年と2028年は娘イバンカの顔、その次の8年は長男トランプ・ジュニア、さらにまた次の8年は次男のエリック、最後の8年は現在の妻メラニアとの間にできたトランプ家の三男バロンの顔が映し出されるバージョンである。つまり、2052年までトランプ家が大統領であり続ける、というメッセージだ。
到底、日本人の感覚では理解できない。しかし、そんな動画を配信しても、トランプ支持者は離れない。共和党は全米にくまなく、それも一箇所に複数の世論調査ができる体制を築いて精度を上げている。どこの州でどれだけの票が獲得できるかの詳細な数字を持っている。その精度は「民主党以上」と共和党の選挙関係者は胸を張る。それだけトランプ人気は底固いという調査結果が出ているのだろう。
トランプ支持者のSNSには、トランプがイエス・キリストに導かれながら、政権を運営するイラストが出回っている。執務室で法案に署名するトランプをキリストが後ろから抱き、手をトランプの手の上に重ねている。ヒッチハイクしながらアメリカに戻るキリストのイラストもある。熱狂的な支持者は、「トランプはオバマが追い出したキリストを戻れるようにするために遣わされた」というストーリーをも作り上げているのだ。
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政治アナリスト
1965年、愛知県名古屋市生まれ。明治大学卒業後に松下政経塾に入塾(15期生)。95年にプリンストン大学で、96年にはジョージ・ワシントン大学で客員研究員を務めた後、2004年に太平洋評議会(Pacific21)代表として政策アナリストの活動を開始。11~14年まではアメリカの大手保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」でアジア人初の上級研究員として活躍。16年から東洋大学グローバル・イノベーション学科研究センターで客員研究員を務め、17年からはグローバル・イノベーション学科教授を務める。アメリカ政治に関する著書多数。現在、民放ワイドショーでもコメンテーターとして活躍中。
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(政治アナリスト 横江 公美)
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