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「MeTooも関係ねえ」トランプと不倫関係にあったスター女優の末路

プレジデントオンライン / 2020年10月28日 15時15分

2020年10月26日、ホワイトハウスのブルールームのバルコニーで、最高裁判事に就任することを宣誓したエイミー・コニー・バレット判事(右)に向かってジェスチャーをするドナルド・トランプ米大統領(左)。 - 写真=EPA/時事通信フォト

※本稿は、横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)の一部を再編集したものです。

■ミレニアル世代の7割近くがマリファナ合法化を支持

今はミレニアル世代の時代である。2000年以降に成人した人たちが主役だ。

2014年にシンクタンクのピュー研究所が発表したレポートでは、より具体的に「1981~1996年」に生まれた人をミレニアル世代と定義づけている。この世代は物心ついたころには、パソコンやスマホなどのデジタル機器が身近に溢れていたデジタルネイティブだ。情報収集はインターネットというよりもSNSが中心で、広告よりもインフルエンサーの口コミを信用する。

自らもSNSでの発信に積極的で体験を共有することを好むため、モノに対する執着が薄く、体験にお金を使う傾向がある。そのため、インターネット上のプラットフォームを利用して自分や他人の資産を共有するシェアリングエコノミーや、サービス・商品の“所有”ではなく継続的な利用や体験を実現するプラットフォームとしてサブスクリプションを好む。

こうした特徴から個人の自由や多様性を尊重する傾向にあり、同性婚の合法化やアメリカに入国済みの不法移民を許容する割合は他の世代と比較して最も高い。前出のピュー研究所のレポートには「4割弱がタトゥーを入れている」という話や7割近くがマリファナの合法化を支持しているという記述もある。

■シンボルは、マーク・ザッカーバーグ

さらにミレニアル世代は他の世代に比べて両親との距離が近く、家族関係が良好だとされる。質実剛健なお父さんを中心とした「古きよき時代」の家族像とは大きく異なる。おのずと、政治信条は共和党よりも民主党寄りという人が多くなる。そんな彼らにとって、オバマこそが「多様性あるアメリカ」を象徴するリーダーなのだ。

一方でミレニアル世代のシンボルとなっているのは1984年生まれで同世代のマーク・ザッカーバーグだ。言わずと知れたフェイスブックの共同創業者兼CEOである。誰もが発信者となりうるSNSを広め、世代・人種・国籍・ジェンダー・出自などに関係なく人々が繋がりを深めるプラットフォームをつくりあげた。ミレニアル世代の考えを体現した人物だ。

そのザッカーバーグは2017年5月に行ったハーバード大学卒業式でのスピーチで、ミレニアル世代について次のように語っている。

「私たちミレニアル世代は、自分だけが目標を持って生きることだけでは満足しない。誰もが目的を持てるようにすることを私たちは目指している」

ネットワーク上の繋がりとコミュニティを大事にし、人々と協力して問題解決に当たることを求めるミレニアル世代を端的に表現したのだ。

■多様性に不寛容なトランプとは相容れない

しかし、多様性を受け入れるミレニアル世代も時に分断を生む。多様性に不寛容な人々との衝突だ。トランプはその間隙を縫って、大統領の座を手にしたと考えられる。

トランプは多様性を否定する象徴のような人物だ。2016年の大統領選挙中には「多額の医療コストや混乱を負担できないので、トランスジェンダーの従軍は認められない」とツイッター上で発信した。オバマ政権では1972年教育改正法第9編(タイトルⅨ)における性差別に関して「トランスジェンダーを含む性自認に基づく性別に対する差別にも法が及ぶ」とガイドラインをつくったが、トランプはその撤廃に動いていたことが報じられ、大きな反発を受けた。

2019年1月からは道徳的・宗教的信念を理由にした医療サービスの拒否を医療・保険事業者に認めることで、LGBTQ+患者への差別を助長したとも言われた。「公民権法の規定は性的マイノリティに及ばない」という主張も続けてきた。

このほか、2016年大統領選中にはメキシコからの移民を「麻薬や犯罪を持ち込む強姦犯だ」と罵っていたことはご存じだろう。メキシコとの国境に壁を建設して、不法移民を排除するとも主張してきた。

「オバマのアメリカ」で育ったミレニアル世代には到底受け入れられない姿勢だ。当然、多様性を求める民主党支持者も受け入れない。トランプの差別的な言動が逆風となるのは当然と思われた。

実際、大統領選挙の一般投票ではオバマが当選した2008年から2012年、2016年と民主党は“3連勝”を果たしている。だが、トランプはラストベルトの労働者の心を掴むことで民主党支持の青色州を“赤く”塗り替え、共和党の地盤は着実にものにするという戦略で選挙人獲得数ではヒラリーを大きく上回ることに成功したのである。

オバマ政権以降、多様性が浸透するなかで、その多様性の容認によって移民や外国に仕事を奪われた人たちの支持を獲得したことがトランプの勝利に繋がったと言える。

ヒラリーは時代を読む目と戦略に欠けていた。前出のピュー研究所によれば、ミレニアル世代の人口は7000万人を超え、アメリカの総人口の22%を占める。アメリカ国勢調査局が定義する1982~2000年生まれをミレニアル世代とすれば、人口比率は26%にも達する。だが、当時の世論調査を見ると、ミレニアル世代はヒラリーをオバマの後継者として受け入れなかったことがわかる。

誇りを持って走る
写真=iStock.com/bojanstory
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/bojanstory

■政治に対する期待をあまりもっていない

ミレニアル世代は成人と前後して2001年の「9.11」テロを経験している。2007年にはサブプライムショックに伴う不動産バブルの崩壊を目の当たりにし、2008年にはリーマンショックが直撃した。他の世代に比べて、若年期に失業した経験が高いとされている。

テロの脅威と金融恐慌を若くして経験したため、ミレニアル世代はそもそもアメリカ経済の先行きには悲観的で将来に対する不安を抱えやすい世代とも言える。そのため、政治に対する期待は薄いとされる。アメリカの世論調査機関グリーンバーグ・クィンラン・ロズナー(GQR)の今年の報告書によると、35歳未満の有権者の過半数が今回の大統領選挙での投票について「熱心でない」と報告されている。政治に対する不信感を鬱屈させた世代なのだ。

実際、2016年大統領選挙でのミレニアル世代の投票率は51%で、一つ上のX世代(1965~1980年生まれ)の63%、さらに上のベビーブーム世代(1946~1964年生まれ)の69%、沈黙世代(1928~1945年生まれ/騒々しいベビーブーム世代との対比でこう呼ばれた)の70%と比較すると大幅に低い。だが、民主党が勝つためにはここの票が必要になる。歳を重ねるごとに共和党支持者が多くなるからだ。2008年オバマが誕生したのは、ミレニアル世代の票差でライバルを圧倒したからだった。

■バイデンはどれだけ若者票を取り込めるか

トランプ、ヒラリー、そしてバイデンもベビーブーム世代だ。ミレニアル世代の気持ちが理解できなかったとしても無理はない。だが、トランプはミレニアル世代の支持が得られないのをわかったうえで、時代の流れに取り残された人たちの支持を獲得する選挙に注力したのは間違いない。

バイデンは果たして、ミレニアル世代を取り込むことができるのか?

実は、アメリカの中間選挙だけを見ると、ミレニアル世代の政治的関心が高まっていることがわかる。ピュー研究所の調査によれば、2018年中間選挙における同世代の投票率は、2014年中間選挙から20ポイントも伸びているのだ。さらに、29歳までの若年層の投票率も10ポイント上昇している。そのミレニアル世代の6割はバイデンを支持しており、29歳までの若年層のバイデン支持率は7割近くにも達している。

だが、裏を返せば圧倒的にバイデンを支持する若者層にも3割程度のトランプ支持者がいるということだ。これは若者層の「隠れトランプ」と言っていいだろう。隠れトランプに支えられるトランプに対して、バイデンがどれだけの若者票を取り込めるかが大きな注目ポイントとなるだろう。

■「MeToo」が変えたアメリカ社会

差別を助長するようなトランプ政権下で、差別と戦う女性が増えている。これまでセクシュアル・ハラスメントの女性被害者の多くが泣き寝入りしていたとされるが、「MeToo」と率先して被害を告白する女性が増えている。

プラカードを持って抗議
写真=iStock.com/Tassii
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tassii

2017年10月5日、ニューヨークタイムズが、ハリウッドプロデューサーのハーヴェイ・ワインスタインの数十年に及ぶセクハラを女優の実名入りで告発した。「ワインスタインは自身が手がける映画への出演をぶら下げて女優たちをレイプしてきた」との調査報道を掲載したのである。被害者は80人にものぼった。その被害に遭った女優たちが声をあげたからこそ、悪事が明るみになったのだ。

この記事を契機に「Me Too」運動は世界に広まった。権力者にレイプされながら仕事を失うことを恐れて黙してきた女性たちが次々と声をあげた。

10月10日には雑誌『ニューヨーカー』がさらに詳しくワインスタインの悪事について報じた。その記事の影響はとてつもなかった。朝番組のニュースキャスターのマット・ローアーからニュース界の重鎮チャーリー・ローズのセクハラまでもが明るみに出て解雇された。

人気コメディアンで俳優のビル・コスビーは翌年、禁固3~10年の実刑判決を言い渡された。モーガン・フリーマン、ケビン・スペイシー、ダスティン・ホフマンなどの超大物役者も非難にさらされることとなった。政界にも飛び火し、セクハラが報じられた上院議員や下院議員は辞任に追い込まれるか、選挙で敗れるかして消えていった。

そして、ワインスタインは23年の実刑判決を受けた。

■トランプと不倫関係にあったスター女優の末路

この『ニューヨーカー』の記事を執筆したのはローナン・ファローだ。女優ミア・ファローとウディ・アレンの息子である。実は、記事執筆の動機となったのは父ウディ・アレンの養女たちへの振る舞いであった。養女ディラン・アレンは以前から性的虐待に遭っていたことを告発していたが無視されてきた。これが、「Me Too」運動とともにようやく認知されたのである。

ローナン・ファローは2016年から一連の事件に関する記事をしたためてきたという。そのファローは性被害の実態を暴いた功績を称えられ、ニューヨークタイムズの記者2人とともにピュリッツァー賞を受賞した。

クリントン大統領との不適切な関係で追い詰められたモニカ・ルインスキーは、「MeToo」運動が自身の名誉回復のきっかけとなった。関係が発覚した当時は、人気のある大統領をたぶらかした若い女性とのそしりを受けていた。当時の状況を詳細に書いた特別検察官ケネス・スターのレポートは議会の公開情報としてインターネットで公開されたため、ミリオンセラーの小説のように全米で読まれたのである。

この「MeToo」運動を受けて、トランプとの不適切な関係を告発する女性も現れた。ポルノ界のスター女優ストーミー・ダニエルズが「かつて不倫関係にあった」と告発し、その口止め料としてトランプの弁護士から13万ドルを受け取ったと明かしたのだ。これに対して、トランプは「完全なでっち上げだ」とツイッター上で反論した。

すると、ダニエルズはそのツイートが「名誉棄損に当たる」として提訴したのである。この裁判は、2018年12月に訴えが棄却され、ダニエルズはトランプの訴訟費用など約30万ドルの支払いを命じられることとなった。トランプを訴えれば大きなしっぺ返しを受けかねないことを示した裁判だった。

■バイデンの人と接する距離は“近すぎる”

一方、バイデンも何度かセクハラ被害を訴えられている。2019年には民主党所属の元ネバダ州議会議員が「2014年の選挙活動中に、背後から迫られて後頭部にキスされた」と告発した。同じく2019年にはコネティカット州選出の民主党下院議員の側近が、「顔を両手で包んだうえで、鼻をこすり合わされた」と訴えている。

横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)
横江公美『隠れトランプのアメリカ コロナ感染から奇跡のカムバックでトランプが勝つ⁉』(扶桑社)

今回の大統領選挙中には、バイデンが上院議員だった時代に事務職員を務めたという女性が「首や腰を触られた」と告発した。バイデンは一連の疑惑を否定する声明を発表しているが、実はバイデンの人と接する距離が“近すぎる”ことは以前から問題視されていた。

副大統領時代のバイデンは、60歳以上の女性から絶大な人気があった。バイデンが登場するだけで、黄色い声援があがったものである。年配の女性からは、「オバマよりもセクシーだ」と評判だったのだ。その成功体験があるせいか、女性との距離を縮めることに躊躇しない。

バイデンの女性問題は大統領選挙の行方を左右するような大きな問題ではないが、ミレニアル世代からの評判は悪いと聞く。オールドスタイルの対人コミュニケーションは、徐々に支持を失う可能性がある。

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横江 公美(よこえ・くみ)
政治アナリスト
1965年、愛知県名古屋市生まれ。明治大学卒業後に松下政経塾に入塾(15期生)。95年にプリンストン大学で、96年にはジョージ・ワシントン大学で客員研究員を務めた後、2004年に太平洋評議会(Pacific21)代表として政策アナリストの活動を開始。11~14年まではアメリカの大手保守系シンクタンク「ヘリテージ財団」でアジア人初の上級研究員として活躍。16年から東洋大学グローバル・イノベーション学科研究センターで客員研究員を務め、17年からはグローバル・イノベーション学科教授を務める。アメリカ政治に関する著書多数。現在、民放ワイドショーでもコメンテーターとして活躍中。

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(政治アナリスト 横江 公美)

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