上皇陛下の執刀医が警鐘、ゴルフ場で突然死する確率が一番高い瞬間とは
プレジデントオンライン / 2020年11月1日 11時15分
※本稿は、天野篤『若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方』(講談社ビーシー/講談社)、『100年を生きる 心臓との付き合い方』(講談社ビーシー)の一部を再編集したものです。
■ゴルフでの突然死は年間200人?
気温がだいぶ下がってきましたが、本来、秋は気持ちよくゴルフができる季節です。
私は、自分が心臓の手術を行って元気になった患者さんたちと定期的にゴルフをしています。一緒にラウンドすることで、その患者さんがどれだけ回復したのかを確認することができますし、なにより気心の知れた仲間のサークルのような感覚で楽しんでいます。
一般的に、ゴルフは心臓に大きな負担がかかるスポーツだといわれています。ある調査によると、プレーしている最中に突然死した人は年間200人前後と推計されています。とりわけ「40歳以上」で突然死を起こしたスポーツはゴルフが圧倒的に多く、原因は心筋梗塞などの心臓疾患が80%以上を占めていました。
■生活習慣病や肥満、喫煙でリスク上昇
この数字だけを見ると、ゴルフは危険なスポーツだと思われるかもしれませんが、必ずしもそういうわけではありません。
中高年になると、高血圧症、糖尿病、高LDL(悪玉)コレステロール血症といった生活習慣病を抱え、突然死を招くリスクの高い人が増えていきます。ゴルフは、そうした中高年世代の人口が多いので、それだけ相対的に突然死するケースが増えるということでしょう。
とはいえ、ゴルフのプレー中、心臓に負担がかかる場面があるスポーツであることもまた事実です。心臓疾患を抱えている人だけでなく、高血圧、高血糖、高LDLコレステロールに加えて、肥満や喫煙といった心臓病のリスク因子を多く抱えている人は常に注意が必要です。
■ゴルフ場の突然死の約75%がグリーン上のパット時…
ゴルフ場で発生した突然死の報告を見てみると、その約75%がグリーン上のパット時、約15%はドライバーでのティーショット時というデータがあります。
パターは、昔から、「1.5メートルのパットがいちばん心臓によくない」といわれます。手ごろな距離のパットは、「外せない」という緊張感や大きなプレッシャーがかかるため、普段とは呼吸が変わって血圧も一気に上がります。また、打つ際にとる姿勢(前かがみの姿勢)も、じつは心臓に負担をかけているのです。
ゴルフやスポーツだけでなく、こうした日常の動作において、心臓に負担をかけることは案外たくさんあります。私の近著『若さは心臓から築く』(講談社ビーシー/講談社)では、そうした注意点を含む心臓との付き合い方をまとめましたので、ぜひこちらも参考としていただければ幸いです。
■1番ホールの第1打が危険な理由
さて、ドライバーショットは、「とりわけ1番ホールの第1打が危険」だといわれています。
スタートホールのティーショットですが、寝不足のままウォーミングアップもせずに、いきなりドライバーをフルスイングすると心拍数が急激に上がり、心臓の血管を収縮させて発作を招くのです。
そもそも、ゴルフはプレー前から「心臓発作が起こりやすくなる状況」が整っているスポーツといえます。たとえば、朝早く起きてゴルフ場に出向くことが多いため、普段は高血圧の薬を服用している人が薬を飲むのを忘れてしまい、血圧が高い状態でコースに出るケースも少なくありません。これは、薬で血糖を下げている人も同じです。
また、高LDLコレステロールを薬でコントロールしている人のなかには、ラウンドする数日前からあえて服用を中断する人もいます。コレステロール降下薬は筋肉痛や関節痛などの副作用があるため、スイングに支障を来さないように薬をやめるというわけです。
■知らずに動脈硬化が進行していると怖いことが…
プレーにおいても、ラウンド中に水分をあまり摂取せずに脱水状態になり、血液がドロドロのままプレーを続けるケースもあるでしょう。
そうした状態の方で、もし動脈硬化が進行していた場合などは、さらに危険な状態へと進みかねません。血管内にLDLコレステロールが付着し、動脈壁に取り込まれ、「こぶ」のようなプラーク(粥腫(しゅくしゅ))が形成されている場合などは、より危険です。
プラークは非常にもろく、くずれてしまうと、そのプラークの「傷」をふさごうと血小板が集まってきて、血栓となってしまうのです。その血栓で冠動脈がふさがって狭くなったり、詰まったりしてしまいます。そうなると、血液の流れが止まり、急性心筋梗塞を引き起こす“下地”ができてしまうのです。
![胸の痛みで左胸をつかみます](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/6/670/img_267a9f3c9cf6d83f83616e4f19a106b1487759.jpg)
そこに、起伏の激しいコースを歩いて回ったり、スイングやパットによって心臓に大きな負荷がかかったりするわけですから、突然死のリスクはよりアップするのです。
■ゴルフ前日は十分な睡眠を、当日朝は薬を飲み忘れずに
また、いったんコースに出ると、救命の体制が整っていないことが多いのも、突然死が増える一因になっています。
かつて、ある大手企業の社長がラウンド中に心筋梗塞で倒れてそのまま亡くなってしまったことがありました。その時も、その場で蘇生措置は行われず、次の組を回すために倒れた社長の周りに囲いを作っただけでした。万が一の場合に備え、どのような救命措置を行うかをシミュレーションしておくことは重要です。
心臓疾患を抱えている人はもちろん、生活習慣病を指摘されている人がゴルフをする際には、以下のことを実践してください。
②プレーする前にしっかりウォーミングアップをして、急激な心拍数の上昇を防ぐ。
③飲酒や喫煙をしてプレーすることは避ける。
④水分補給や保温を心がける。
⑤過度なプレッシャーがかかるような勝負はしない。
リスクを減らしながら、楽しくプレーしたいものです。
■「夜間頻尿」に心臓病が隠れている
ゴルフの前日には、「しっかり睡眠を」ということを説明しましたが、その睡眠での悩みも中高年では増えていきます。「頻尿」です。年をとってから、夜間に尿意をもよおしてトイレに起きる回数が増えたという人もいるでしょう。こうした頻尿は、実は心臓と大きな関係があります。
一般的には、朝起きてから就寝までの間に8回以上の排尿回数がある場合を「頻尿」といいます。就寝後に排尿のために1回以上(50歳以上は2回以上)起きなければならず、生活に不便を感じるケースは「夜間頻尿」と呼ばれるようになってきました。
高齢になると、抗利尿ホルモンが減少したり、尿を濃くしたりする腎臓の力が低下するため、排尿回数は増えていきます。しかし、極端に回数が増えてきた場合、なかには病気によって引き起こされているケースがあります。
その多くは過活動膀胱によるものです。膀胱に尿がそれほどたまっていないのに、脳からの指令を待たずに強い尿意を感じる病気です。
■「前立腺肥大」「頻尿」のある人は心臓病に注意
また、前立腺肥大によって頻尿が起こっているケースも多く見られます。
加齢とともに前立腺が肥大化し、尿道や膀胱が圧迫されて尿意をもよおすのです。前立腺肥大症は年齢とともに有病率が高くなり、50歳の30%ほど、60歳の60%ほどが該当するといわれています。この前立腺肥大症が、心臓病とリンクするケースがあるのです。
前立腺肥大症は、コレステロール値、とりわけLDL(悪玉)コレステロールの数値が高い人がかかりやすいことがわかっています。高LDLコレステロールは心臓病の代表的なリスク因子です。
近年、日本の中高年は食生活や体質などによってLDLコレステロール値が高くなってきています。それが大きな要因になっている冠動脈疾患、大動脈解離、大動脈弁狭窄症といった心臓病が増えています。
前立腺肥大症による頻尿がある人は、心臓病にも注意する必要があるのです。
■夜間頻尿は心不全の代表的な症状
過活動膀胱や前立腺肥大症のように昼夜を問わず排尿回数が多いわけではなく、夜間頻尿だけがある場合は、心臓病が隠れている場合があります。夜間頻尿は、心不全の代表的な症状のひとつだからです。
心不全は、心機能の低下によって体内に血液が十分に供給されなくなった状態のことで、夜間頻尿のほかにも、息切れ、疲労感、むくみなどの症状が表れます。
心臓の働きが低下していると、起立した姿勢で過ごす昼間は重力によって血液が下肢に停滞しやすくなります。心臓のポンプ機能が衰えているため、全身に血液を送り出す力が低下して、結果として戻る血流の停滞を来すのですが、とりわけ下肢から心臓までの戻りが重力の分だけハッキリと出てきます。すると、下肢に水分がたまって足がむくみやすくなります。
その状態で就寝時に横になると、重力で下肢にたまっていた水分が循環して、腎臓への血液量が急激に増加します。すると尿がたくさん作られるようになり、夜間頻尿が表れるのです。心臓が悪いことで、結果的に夜間頻尿を招くケースがあるということです。
■「睡眠時無呼吸症候群」は心臓や血管に大きな負担
また、近年は、「睡眠時無呼吸症候群」(SAS)が頻尿と関係していることがわかってきました。夜、寝ている間に何回も呼吸が止まる病気です。
![天野篤『若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方』(講談社ビーシー/講談社)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/5/3/200/img_53c4d9929204e867fb9236e216f874bd364408.jpg)
詳しい仕組みははっきりしていませんが、気道がふさがった状態で呼吸をしようとすると心臓に負担がかかり、その負担を軽減するために血管拡張と利尿作用があるホルモンが分泌されることで頻尿が起こるといわれています。
睡眠時は本来であれば副交感神経が優位になりますが、SASがあると交感神経が活性化します。そのため、心臓や血管に大きな負担がかかり、狭心症、心筋梗塞、脳梗塞、高血圧、心房細動などが起こりやすくなることがわかっています。
SASによって夜間頻尿が起こっている人は、心臓病を起こすリスクも高いということです。
このように、頻尿はさまざまな形で心臓と関連しています。とりわけ夜間頻尿が気になっている人は、念のため心臓の検査も受けておいたほうがいいかもしれません。
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心臓血管外科医(順天堂大学医学部教授)
1955年、埼玉県蓮田市に生まれる。日本大学医学部卒業後、亀田総合病院(千葉県鴨川市)、新東京病院(千葉県松戸市)などで心臓手術に従事。1997年、新東京病院時代の年間手術症例数が493例となり、冠動脈バイパス手術の症例数も350例で日本一となる。2002年7月より順天堂大学医学部教授。2012年2月、東京大学医学部附属病院で行われた上皇陛下(当時の天皇陛下)の心臓手術(冠動脈バイパス手術)を執刀。心臓を動かした状態で行う「オフポンプ術」の第一人者で、これまでに執刀した手術は9000例に迫り、成功率は99.5%以上。主な著書に、『熱く生きる』『100年を生きる 心臓との付き合い方』(オンデマンド版、講談社ビーシー)、近著に『若さは心臓から築く 新型コロナ時代の100年人生の迎え方』(講談社ビーシー/講談社)がある。
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(心臓血管外科医(順天堂大学医学部教授) 天野 篤)
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