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空気の質と電気代を考えると「暖房はエアコンがベスト」である理由

プレジデントオンライン / 2020年11月1日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/PixelsEffect

冬の暖房器具はなにを選ぶべきか。ジャーナリストの笹井恵里子氏は「仕事のパフォーマンスを高めるためには、定期的に空気をきれいにすることが大切。一番空気を汚してしまうのが、石油ストーブなどの開放型燃料器具で、早稲田大学の田辺新一教授は『室内で石油ストーブは、欧米ではあり得ない話』と断言しています」という――。

※本稿は、笹井恵里子『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)の一部を再編集したものです。

■換気をしないと、仕事の効率も成績も落ちる

オフィスの換気にまつわるクイズです。

換気をしすぎると暖冷房のコストがかかります。暖冷房を優先しすぎると空気の質が悪くなり、健康被害(アレルギー症状など)につながります。どれくらいの頻度であれば、コストと健康のバランスのよい適切な換気ができるでしょうか。
①10時間に1回
②1時間に1回
③1時間に2回
④2時間に1回

まずは図表1を見てください。村上周三氏による調査で、20~40代の社会人を換気量が小さい部屋と大きい部屋に分け、論理系、暗記系のテストをしたものです。この調査によると、なんと「換気量(大)」のほうがすべての項目において5~9%も成績がよかったのです。

換気量を大きくすると学習効率がアップする

「対象者は一級建築士の資格試験受講者、いわゆる勉学に対するモチベーションが非常に高い社会人のため、学習意欲の有無が測定結果に与える影響は小さいでしょう。また、受講者には室内の環境条件を調整していることを知らせず、先入観による影響を極力排除しました」

にもかかわらず、「換気量(小)」の条件から「換気量(大)」にすることで、点数にすると論理系科目では4.7点、暗記系科目Ⅰでは6.4点も向上したのです。

■すし詰め状態で会議を行うと眠くなるのがいい例

基本的に、外よりも室内のほうが空気は汚れています。人間がその“汚染源”で、その空気が滞留するために起こります。代表的な空気の汚れは二酸化炭素。特に人数が多いと二酸化炭素濃度は短時間で推奨濃度レベル(800~1500ppm)を上回りやすく、空気の質を低下させます。すし詰め状態で会議を行うと眠くなるのがいい例でしょう。

仕事パフォーマンスを高める点でも定期的に空気をきれいにすることが大切なのですが、今年は新型コロナウイルス感染症の感染防止対策としても「換気」に注目が集まりました。しかし、換気をしすぎれば、冷暖房のコストがかかってしまいます。どの程度の換気を行うとよいのでしょうか。

■換気量に応じた暖冷房費用と室内空気汚染を比較すると…

村上周三氏、伊香賀俊治教授らは戸建て住宅を対象に、1時間に換気した量に応じた、暖冷房費用と室内空気汚染を比較しています。たとえば図表2の「0.1」は1時間で室内の10分の1の空気を入れ替える、つまり10時間かけてようやく室内の空気が1回入れ替わるということです。

換気はどれくらい行えばいいのか(東京、次世代断熱基準の戸建住宅を対象にした)

この換気量だと、暖冷房のコストは抑えられるものの室内の汚染濃度は高くなってしまいます。クイズの問いにあった「コスト」と「健康」を総合的に考えると、換気回数が1時間に0.5回、つまり2時間に1回、部屋の空気をすべて入れ替えるのが最も効率的という結果でした。したがってクイズの答えは④になります。

とはいえ、これまで述べてきたようにオフィスであれば基本的に1時間に1回、すべての空気が交換されるような仕組みになっていますし、住宅でも2時間に1回は室内の空気が入れ替わります。自宅に24時間換気システムがない場合は、浴室の換気扇を24時間つけっぱなしにしておけば1時間0.5回換気に近づき、部屋の空気が少しずつ入れ替わることも紹介しました。浴室の換気扇もない場合は、1時間に1回5分程度、窓を開けて風を通すといいでしょう。

■空気が悪いと「脳内の疲労に差が出る」

注意点として、室内の空気の質は「換気」と「空気を汚す発生源」のバランスにもよるのです。換気量を上回るほど発生源から汚染物質が出れば、当然ながら室内の空気は汚れてしまいます。

たとえばオフィスでは1時間に1回、空気が交換される仕組みと述べましたが、人の多いオフィスであれば、「1時間に2回程度の換気が必要」と、早稲田大学創造理工学部の田辺新一教授が指摘します。

「我々が『知的生産性と疲労度』に関する研究を行うと、空気がよどんでいたり、高温環境下での作業は、脳内酸素消費量が多くなる。そして疲労感が増すことがわかったのです」

成人の場合、たとえ室内が高温や空気の新鮮度などが低下した劣悪な環境でも、本人が普段以上の努力をすると作業成績の低下が認められないことがあります。しかしその代償として、同じ作業を行ってもそのような環境では脳内酸素消費量が多くなる、つまり「脳内の疲労に差が出る」というから驚きです。

■20年使用したカーペットを持ち込むと、能率が10%程度落ちる

また、換気以外にも空気の質を保つためには、室内の清掃、換気口やエアコンのフィルターなどの手入れが大切です。

デンマーク工科大学が行った研究で、室内のラックに20年使用したカーペットを持ち込むと、タイピストの能率が10%程度落ちるという報告があります。カーペットはタイピストからは見えない位置に置かれたものの、空気の汚染、何となくにおうという状況が生産性に影響したと分析されているのです。

同じく同大の別の研究で新品の換気フィルターで外気量を増やすと知的作業効率が6%アップするが、古いフィルターでは8%も低下するという報告もあります。

仕事をする部屋の“空気の質”を常に意識したいですね。

■ドイツであれば室内で石油ストーブを使うと訴訟問題になる

冬場は暖房器具によっても、空気の汚れ具合が変わってきます。

一番空気を汚してしまうのが、石油ストーブなどの開放型燃料器具。田辺新一教授は「ドイツであれば室内でこれを使うと訴訟問題になるほどで、欧米ではあり得ない話」と言います。

「昔の隙間風があるような日本家屋で使うならともかく、現代の気密性の高い集合住宅で石油ストーブを使用すると、室内の一酸化炭素、二酸化炭素、窒素酸化物の濃度が相当に濃くなり、危ないです。一酸化炭素中毒で死亡する恐れもあります」

石油ストーブは、部屋の中で“焚き火”をしていると思ってください。暖をとるためにどうしても必要なら、1時間に1回は窓を開けて部屋の空気を総入れ替えしましょう。あまり大きな声で言えませんが、実は私もマンション内で石油ストーブをずっと使用していたのです。じんわりと暖かくていいんですよね。それにエアコンで暖房をかけると乾燥が気になっていました。

ところがエアコンによって乾燥しているわけではないということが取材でわかりました。石油ストーブからは有害物質だけでなく、燃焼時に「水分」も排出されています。だから、エアコンで暖房をかけた場合、石油ストーブと比べて室内が乾燥しているかのように感じられるのです。

■石油ストーブは過剰な湿気で、室内に結露やカビを発生させる

石油ストーブが水分を出すのなら、乾燥する冬場に使うのは乾燥対策になるのではないかと思われますか?

いえいえ、過剰な湿気により、室内に結露やカビが発生しやすくなるのです。まして石油ストーブの上にやかんを置いたり、石油ストーブを使いながら部屋干しをすることは危険です。まさにかつての私の家がそうでした。思いきって石油ストーブをやめて引っ越しをし、冬場はエアコン暖房のみを使うようにすると、建築年数は大して変わらないのに(つまり建物のグレードはほぼ同じであるのに)、窓枠にカビが生えることがなくなったのです。

やはり、できれば開放型の石油ストーブの使用はやめましょう(ただし石油ストーブの中でもFF式と呼ばれるものは燃焼後の燃焼ガスを給排気筒から室外に排気するため、湿気を出さず、空気も汚しません)。

■最もコスパがよいのはエアコン暖房である

空気を汚さないという観点では、オイルヒーターやカーペットも優れていますが、コストが割高で暖房力も弱いのが難点です。低コストで空気の質を保つ暖房器具は、エアコンがベストなのです。

笹井恵理子『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)
笹井恵里子『室温を2度上げると健康寿命は4歳のびる』(光文社新書)

田辺新一教授によると「オイルヒーターなどは1の電気エネルギーで1の熱しか生み出すことができない。けれどもエアコンは空気を圧縮させたり膨張させたりするヒートポンプという面白い原理で、投入する電気エネルギーが1でも、その3倍くらいの熱エネルギーを発生させることができる」とのことです。

最近はエアコンと空気清浄機が一体化しているものもあります。冷房、暖房、空気清浄と一台で三役をこなすのが、長い目ではお得でしょう。今泉太爾氏が「昨年の最新機種を狙うなら、秋が最も安く出回る」と教えてくれました。また空気清浄機を購入する時には「フィルターの交換サイクルをチェックするといい」そうです。

「高性能タイプはフィルターの期限が短いことが多い。そして期限を超えて使っているとかえって空気を汚すことになります」

つまりは浄水器と同じようなものです。空気清浄機を使うと、よりきれいな空気を体に取り込めますが、高性能のものほどフィルターの目が細かくなり、その分詰まりやすくもなってしまいます。頻繁なフィルター交換が必要になってしまうのですね。2万円程度の空気清浄機でも十分に効果が望めますので、性能とコスト、フィルター交換のサイクルを天秤にかけてよく選んでください。

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笹井 恵里子(ささい・えりこ)
ジャーナリスト
1978年生まれ。「サンデー毎日」記者を経て、2018年よりフリーランスに。著書に『週刊文春 老けない最強食』(文藝春秋)、『救急車が来なくなる日 医療崩壊と再生への道』(NHK出版新書)など。

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(ジャーナリスト 笹井 恵里子)

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