あのバフェットがGAFAより日本の商社の株を買ったワケ
プレジデントオンライン / 2020年11月6日 9時15分
※本稿は、桑原晃弥『乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)を加筆再編集したものです。
■90歳になった今も「どこに投資したか」がニュースに
(アリス・シュローダー著、伏見威蕃訳『スノーボール』〈上〉 日本経済新聞出版社)
2020年8月、ウォーレン・バフェットが日本の五大商社に投資したことが大きな注目を集めました。
とはいえ、バフェットが日本の会社に投資したのは今回が初めてではありません。東日本大震災の直後にも日本を訪れ、投資先の福島のメーカーを訪問しただけでなく、「もし日本の大企業から明日電話をもらって、バークシャーに買収してほしいという申し入れがあれば、飛行機に乗ってすぐに駆け付けますよ」といい切るほど、日本の企業への関心を高く持ち続けていたのがバフェットです。だから、日本企業への投資自体はさほど驚きはしません。
しかし、「なぜ今さら商社なのか?」という疑問が、今回の大きなニュースにつながったのではないでしょうか。推測や分析がなされる一方で、その意図はつかみきれないという人も少なくありません。このように、その投資先が世界的ニュースとなるほど、90歳を迎えたバフェットの影響力は大きいのです。
■11歳で早くも学んだ「株式投資の基本」
そんなバフェットが初めて株式投資を行ったのは11歳の時でした。6歳でチューインガムやコカ・コーラを売って手にした120ドルを元手に株を買い、わずか数ドルの儲けを手にしますが、この時、バフェットが学んだのが「買った時の株価ばかりに拘泥してはならない」「慌てて小さな利益を得ようとしてはいけない」というものでした。
やがて「生涯の師」ともいえるベンジャミン・グレアムに出会ったバフェットはグレアムの会社で働いたのち、当時としては珍しい田舎町オマハで、株式投資のみで生計を立てる自営業者の道を選びます。
■自分が本当に理解できる事業にのみ投資する
バフェットの投資哲学は、①短期の売買などせずすぐれた株をまずまずの価格で買って長期保有する、②株価に一喜一憂せず事業の中身に注目する、③分散投資ではなく、すぐれた企業に集中投資する、④自分が本当に理解できる事業に投資する――など、ウォール街的な考え方とは一線を画するものでした。
なかでも「自分が本当に理解できる事業にのみ投資する」という「能力の輪」に対するこだわりは強く、かつてはインテルの創業期に投資をするチャンスがありながら次のような考えから投資を断っています。そのとき、バフェットはこう言いました。
「来年一年、すべての時間をテクノロジーの勉強に費やしても、私はその分野における100番目や1000番目、いや1万番目に優秀なアナリストにもなれないでしょう」
投資をするのなら自分がよく分かる企業でなければならないと考えるバフェットにとって、かつてのインテルも、その後のアップル(現在は大株主)もグーグルも、決して投資する対象とはなりませんでした。
■「自分が正しいと信じることをやる」
一方、投資家の多くは「時代の流行」や「時代の寵児」への投資を好みます。「理解しているかどうか」よりも、「今、流行っているしみんなが投資している」というのがその理由ですが、こうした「他人任せ」「流行を追う」だけの投資は、バフェットの投資に対する考え方とは相反するものでした。
![バークシャー・ハサウェイの本社がある米ネブラスカ州オマハのキューイット・プラザ(2013年撮影)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/b/9/670/img_b940c36abd7f37877192fa6047a4cfb41227163.jpg)
そのため、バフェットは急成長する人気のIT株などには目もくれず、自分が本当に理解できる、ウォール街から見ると「古臭い」企業に投資することがしばしばでした。そのせいで、他の投資家や批評家から「時代遅れ」「昔日の象徴」などと痛烈に批判されることが過去に何度もありました。
しかし、そんな逆風の中でもバフェットは決して自分の信念を曲げることはありませんでした。理由は、大切なのは「周りが正しいといっているから」ではなく、「自分が正しいと信じていることをやる」ことだと信じていたからです。
「人がどう振る舞うかを左右するのは、内なるスコアカードがあるか、それとも外のスコアカードがあるかということなんだ。内なるスコアカードで納得がいけば、それが拠り所になる」とバフェットはいいます。
結果、半年、1年と経つうちに流行の株は株価を下げ、多くの人が損害を被る中、バフェットはしっかりと利益を上げ、「やはりウォーレンのいうことは正しかった」と評価を上げることになったのです。
流行に背を向け、周りから非難されるのは辛く厳しいものですが、そんな時にも自分の信念を守ることこそが難局を乗り越える力となるのです。
■経営危機の大手投資銀行の立て直しに関与
上記は投資に関する難局でしたが、バフェットは別の難局も経験しています。1991年、バフェットは国債の不正入札によって経営危機に陥ったソロモン・ブラザーズの暫定会長に就任しています。
「どれほど金を持っているか、去年どれだけ稼いだかが成功の尺度」となる企業風土がもたらした不正事件でしたが、暫定会長を引き受けることは「世界一の投資家」と呼ばれるバフェットにとってリスクのある選択でもありました。
■清廉な姿勢が良い結果を呼び寄せる
成功して当然、失敗したら一気に評判を落とすというリスクの中、バフェットは暫定会長として「会社のために働いて損害を出すのは理解できます。しかし、会社の評判を少しでも損ねたら容赦しません」という姿勢で関係者を素早く断罪したのち、アメリカ議会の公聴会にも出席、正直で誠実な答弁によって同社を危機から救っただけでなく、自らの評判も高めています。
![桑原晃弥『乗り越えた人の言葉』(KADOKAWA)](https://president.ismcdn.jp/mwimgs/2/9/200/img_29ed88e8b27d408f50ea88fb86c3bff8277466.jpg)
お金がすべてのウォール街にあって「1ドル」の報酬で働き、「コカ・コーラとサンドイッチ」を愛するバフェットの清廉な姿勢が、良い結果をもたらすことになったのです。
信用を築くには長い時間がかかりますが、その信用も問題を起こせばほんの5分で崩壊します。バフェットはソロモン・ブラザーズの危機を見事に乗り越えたことで「オマハの賢人」と呼ばれるその評価を絶対的なものとしたのです。
1986年に『フォーブス400』のベスト10に入って以来、バフェットは今日までその座を守り続けています。投資家にして「尊敬される」という稀有な存在、それがウォーレン・バフェットなのです。
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経済・経営ジャーナリスト
1956年、広島県生まれ。慶應義塾大学卒。業界紙記者を経てフリージャーナリストとして独立。トヨタからアップル、グーグルまで、業界を問わず幅広い取材経験を持ち、企業風土や働き方、人材育成から投資まで、鋭い論旨を展開する。主な著書に『ウォーレン・バフェット 巨富を生み出す7つの法則』(朝日新聞出版)、『「ものづくりの現場」の名語録』(PHP文庫)などがある。
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(経済・経営ジャーナリスト 桑原 晃弥)
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