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「日本サッカーの非常識」1日も休まない日本より、2カ月休むスペインのほうがなぜ強いのか

プレジデントオンライン / 2020年11月2日 11時15分

写真提供=東洋館出版社

世界で活躍する、世界を変えるサッカー選手を育成するにはどうすればいいのか。強豪国の事情に詳しいサッカー指導者の稲若健志さんは「日本の選手は1年中フルに動き回っているが、強豪国ではあり得ない。もっとも練習をしている国なのに、もっとも結果が出ていない」という――。

※本稿は、稲若健志『世界を変えてやれ! プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』(東洋館出版社)の一部を再編集したものです。

■サッカー強豪国の練習は例外なく「量よりも質」

海外の国と比較したとき、やはり日本だけが1月から12月までフルに動き回っています。スペインでは6月20日から8月20日までは絶対に休みを取ります。アルゼンチンも12月と1月の2カ月間は休みです。つまり、1年間のうちの60日間はどんな選手も活動していません。トップチームの選手たちも活動しないオフの期間が1カ月はあります。

でも、日本人には美学があり、練習をしている自分に安心し、落ち着くのです。これは指導者にも同じことが言えます。子どもを指導していないと指導者が不安になってしまうので、練習をせざる得ないのです。

たとえば、カズ(三浦知良)がシーズンオフ中にグアムでトレーニングをスタートさせたとなると「カズさんがやっているのなら俺たちもやらないとダメだ」と若手が動き始めて、あっちこっちが動き出すのです。そして結果として悪循環が生まれます。焦ってしまい、結果として故障をするなど、長いシーズンがもたない選手が多くなるのです。これは日本人の悪い文化だと思います。日本人は量の中で生きているのです。

しかし、サッカー強豪国はどの国も量より質です。1日3時間も4時間も練習をしないし、とにかく質にこだわっています。

加えて、自由な時間をもっています。公園でサッカーをしたり、遊ぶ時間だったりを大切にしています。そして、家族と過ごす時間も大切にしています。

それなのに、日本だけが指導者の言うことがすべて正しいとされているのです。チームの練習があったら必ず行きなさい、という強制だとしても正しいとされる。この文化は世界と比べたら異常ですね。もっとも練習をしている国なのに、もっとも結果が出ていないのですから。

■週に一回だけある試合に全選手を集中させて競争力を維持する

日本では、体と体のぶつかり合いを避ける綺麗なサッカーが是とされています。小学生でも、中学生でも、高校生でも、あまり試合が止まりません。でも、ヨーロッパや南米の同年代の試合はかなり止まります。特に、体と体のぶつけ合いを厭わず、まさにサッカー代理戦争と言われる所以を目一杯に体現します。

彼らはまだ小さい頃からリーグ戦が常に行われています。試合は週1回。そこにすべての力を注がせて戦いに挑ませ、集中させるのです。

一番わかりやすい例としては紅白戦です。日本のピッチでビブスを引っ張ったらどうなりますか? 審判は止めますよね。これがアルゼンチンの場合、それでも紅白戦では笛を吹きません。止めないでプレーオン。そうすると両者が熱くなります。それでもプレーオン、続行です。ファウルの基準もしかり、互いに戦っているのだからある程度は見守ろう、という精神なのです。審判の奥深さについても考えさせられると思います。

一方、日本では練習試合を1日5試合やることがざらにあるでしょう。常にリーグ戦があるわけではないので、だらだらと試合をこなしてしまうのです。量をこなせばうまくなる、という謎の理論があるのでやらせてしまうのです。量をこなせばうまくなるのであれば、今頃日本は世界一になっています。

■スペインの高校生は週5回活動で完全オフが週2日

大事なことは、“コンペディティーボ”があることです。つまり、競争力があるということです。スペインの子どもたちは練習試合や公式戦をやるにしても、多いときでも水曜日に練習試合を1回入れる程度です。それも、ほとんどの選手は45分1本しか出場しません。

サッカー選手
写真=iStock.com/RichLegg
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/RichLegg

日曜日にリーグ戦があるので、それを踏まえて45分の出場に留めるのです。南米もほぼ同じです。紅白戦は水曜日と木曜日だけ実施し、公式戦が日曜日だけ。それがみんなわかっているから、競争力を維持しながら全員の焦点が一つに集中するのです。この点は日本と大きく異なりますね。

スペインを例に挙げて話をします。練習は9歳までは週に2回、試合が週に1回です。12歳までが週3回の練習と週1回の試合。これは南米もヨーロッパも一緒です。13歳以降は週4回の練習と週1回の試合。高校生ぐらいから週5回の活動があります。完全オフの日が週2回。だから、週6回活動するということはありません。

■「走れ!」が正しいなら、日本は世界一強い国になっているはず

練習時間は1日1時間半以上はやりません。

スタートから終わりまで、話を含めて1時間半が最大です。その代わり、練習中のレスト(休憩)の時間は非常に短いです。日本の練習風景のようにダラダラしません。

なぜなら時間が決まっているから、ドリンクを走って飲みに行き、走って戻ってくるのです。練習中に足が止まらないようにしているので、1時間半の練習でもみんなクタクタになって帰っていきます。

日本でも練習は1時間半、その時間にすべてを注ごうとする強度の高い練習を取り入れるようになるなど少しずつ良くなってきていると思いますが、昔が酷すぎた面はあると思います。ひと昔は根性論で「走れ! 走れ!」というものでしたが、それが間違っていたことが科学的にもわかってきています。もしそれが正しかったら、日本は世界一強い国になっているはずです。しかし、現実は何も変わっていません。

さきほどの練習量の話と非常に似ているのですが、子どもが親に流され過ぎて、練習のし過ぎ、教えられ過ぎになっていることがしばしばです。それでも小学生まではいいかもしれませんが、その上の年代に進んだときに、もう身体の中に入る隙間が残っておらず、小さいときほど伸びていかない場合があります。

一番の問題は、やりたいサッカーが、やらされるサッカーに変わってしまい、楽しさを失ってしまうことです。

■メッシ、ネイマール、ロナウジーニョなどが伸びた理由

メッシ、ネイマール、ロナウジーニョなどは、自由な環境でサッカーをやってきたので、あれだけ伸びたのですが、日本の子どもたちは普段からしっかりと練習するので、隙間がなくなり、自由もなくなります。そこから自分を伸ばしていく方法がわからない。自分で自分の伸ばし方がわからないので、そこで止まってしまうのです。

稲若健志『世界を変えてやれ! プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』(東洋館出版社 )
稲若健志『世界を変えてやれ! プロサッカー選手を夢見る子どもたちのために僕ができること』(東洋館出版社)

自由の中の量であればまた話が違ってくるのです。ストリートで日が暮れるまでサッカーする子どもはやらされているわけではありません。自由の中で育ってきた選手は想像力で伸びていきます。たとえば、自分はこうやって伸びてきたので、こうやってやろうとか、自分の形やフォーマットができているのです。

練習はもちろん大事ですが、やればやるほどうまくなるという考え方は一旦置いておいて、ゴミ箱に捨てておきましょう(笑)。

練習で大切なのは、バランス、そして質です。

■スペイン語で練習は“JUGAR”=遊ぶ

小学生年代では、どのようなシチュエーションでサッカーに向き合っているかが大事になります。死ぬほど厳しくされて今の自分があるのか、自由の中で育ってきた先に今の自分があるのか。前者で育ってきた子どもは、中学生や高校生になり、自分の理性がある程度出てきたときに苦しみます。

逆に、後者は自分をよく理解できているので、壁に当たっても自分で乗り越える術を知っているからさらに伸びていきます。だからこそ、あまりにも厳しく練習をやらされ、親がプレッシャーをかけ過ぎると、子どもは早熟になり、成長が無くなってしまうことが多々あります。

本来、サッカーは自由に楽しむスポーツです。南米でよく見るのは、ストリートでサッカーがうまくなって伸びていく光景です。でも、日本の子どもたちはサッカーをやる場所がないから誰かに習うことになります。習うことで自分で考えるのではなく、言われたことがサッカーなのだと思い込んでやり続け、ある程度のレベルまで到達します。

しかし、やはりプロになるには人から教えられることだけではなれません。結局は、自分自身がある程度考えながらサッカーができないと伸びていきません。だからこそ、子どものときは楽しさと自由さがないといけないのです。

スペイン語で練習は“JUGAR”です。遊ぶという意味の言葉です。でも、日本の練習は“Entrenamiento”(トレーニングの意味)と言います。レジェンドクリニックで来日したロベール・ピレス(元フランス代表)が「もっと練習しよう」と言ったのは“JUGAR”という意味における練習です。もっとサッカーで遊びなさい、ということです。

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稲若 健志(いなわか・たけし)
サッカー指導者
株式会社ワカタケ代表。1979年生まれ。神奈川県出身。藤嶺学園藤沢高校卒業後、ディエゴ・マラドーナに憧れアルゼンチンに渡航しプロ契約を結ぶ。愛媛FCや栃木SCなどでプレーしたのち引退。26歳のときに株式会社ワカタケを設立。全国で立ち上げたサッカースクールで小学生など年間5000人近くを指導している。また、2012年に日本で初めて行われたレアル・マドリード選手発掘事業で通訳を務め、中井卓大選手の挑戦を支援した。年間1000人以上にサッカー留学の機会を作っている。著書に『親子で学ぶアルゼンチンサッカースピリット』『十年後の君たちへ輝かしい未来へのエール』(ともに随想舎)がある。

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(サッカー指導者 稲若 健志)

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