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「身に覚えのないパワハラでクビに」その前に知っておきたい5つの心得

プレジデントオンライン / 2020年11月4日 9時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/kuppa_rock

会社内でのどんな行為が「パワハラ」になるのか。『パワハラ問題 アウトの基準から対策まで』(新潮新書)を出した弁護士の井口博氏は「パワハラには『意図的パワハラ』と『無意識パワハラ』があるが、その違いを理解していない人が多い」という——。

※本稿は、井口博『パワハラ問題 アウトの基準から対策まで』(新潮新書)の一部を再編集したものです。

■1000件以上の相談で見えた「パワハラ上司」

私はこれまで弁護士として1000件以上、ハラスメント相談を受けてきた。企業などを対象にパワハラ予防の研修講師を行うこともある。

その経験からいえることは、パワハラには「意図的パワハラ」と「無意識パワハラ」があることだ。

もちろん意図的な場合のほうが悪質性は高い。ただ「意図があったかかどうか」の見極めは難しい。判決例では、出勤しても何も仕事を与えられず机の前に座らされているだけという仕事外しのケースがある(東京高裁1993年〈平成5年〉11月12日判決)。

このような外形上から意図的パワハラであることがはっきりしている場合は白黒の判断は難しくない。しかし実際の例としては意図的かどうかが明らかでないことが多い。というよりもそれはわからないようにすることが多い。

■管理職は要注意「厄介な無自覚パワハラ」

無意識パワハラのほうは、悪質性は低いとはいえ、自覚がない分厄介だという面はある。パワハラ傾向のない誰もが気付かないうちに加害者になってしまうことがあるからだ。その意味で、管理職の方々にとって用心すべきはこちらのほうかもしれない。

たとえば、次のようなケースだ。

(A)部長が部下に新商品の販売戦略をまとめるように頼んだ。部長としてはそう難しい仕事だとは思わなかった。ところが実際には部下には重荷すぎたらしく、予定の日までにまとめられずすっかり自信を失い会社を休みがちになってしまった。
(B)何でもかんでもすぐに聞いてくる部下に対して、「少しは自分で考えるようにしてほしい」と考えた部長は、あえて質問を無視してみた。すると部下は毎日が不安になり、会社を休むようになった。

(A)(B)いずれのケースも部長に悪気はない。「その程度のことを問題視されても困る」と思う管理職の方は多くいるだろう。

また、これらの部長が法的な責任を問われるかといえばそうとは限らない。しかし、「結果として」部下が苦痛を感じた以上、管理職としては何らかの対策を取らねばならないだろうし、改善を考える必要はあるだろう。

たとえば(A)のケースでは「難しいようなら早めに相談してくれ」といった言葉を添えておけば結果は変わったかもしれない。

この無意識パターンは意識がないだけにこわい面がある。管理職にしてみれば白という意識と結果としての黒のギャップが大きすぎるのである。

■「パワハラ上司」の6類型

この分類とは別に、パワハラをする上司の傾向は大きく分けて6つに分類できる。それぞれ見てみよう。

①瞬間湯沸かし器型

何か気に食わないことがあるとすぐにキレる。社員は報告に行く時は深呼吸して身構えてからいく。パワハラだと思うが誰も注意しない——このタイプは感情の起伏が激しい。ただカッとしなければ沈着冷静で仕事ができることが多い。管理職の場合はいわゆる外面がよい者も多く、出世している者も珍しくない。

日本のビジネスパーソン
写真=iStock.com/Tony Studio
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Tony Studio

このタイプは、感情に任せて動いているだけでパワハラの自覚がないことが多い。その意味では意図的ないじめ・嫌がらせはほとんどない。そのうえみんながこわがって近付かないのでよけいに自覚する機会がない。感情のままに対応されるのがこわいので会社の上の方も言いたがらない。

このような瞬間湯沸かし器のタイプはあまり見かけなくなったかもしれない。昔はともかく、世間でこれだけハラスメントのことがいわれていると、感情のまま怒鳴り散らすようなパターンは減っているように見える。

■熱血指導も、行き過ぎは問題だ

そうはいっても、部下を怒鳴って会社を大きくしたというようなたたき上げのワンマン社長が今も社員を怒鳴り散らしているという例はみかける。

もう一つよく聞くのは、若いころはそうでなかったが年と共にすぐカッとなるようになってきたという場合だ。キレる老人とか暴走老人とまではいかなくても以前ほど寛容性がなくなってきたということはよく聞く。それが仕事に出てくるとこのパターンになる。

②鬼コーチ型

とにかく業績を上げるために必死な余り、部下に無理をさせる。「残業なんて当たり前だぞ。オレの時代なんて……」という調子でサービス残業させるのも平気。そのことを上層部も知っているが、業績を上げるためには仕方がないと考えて何もしない——体育会系の部活の経験者なら、部の顧問とかOBにこのタイプがいたことを思い出すだろう。このタイプは、周りがどう思おうが自分のやり方が正しいと信じ切っている。

熱血指導は必要な面もある。しかし怒鳴ったり、残業をさせたりと行き過ぎることが問題なのである。

このタイプの上司は、自分もがんがん仕事をするので業績を上げる。会社はこの上司の仕事を評価するので少々の行き過ぎはわかっていても止めない。会社公認なので被害を訴え出た部下がかえって飛ばされることさえある。

■言うことを聞かない部下を遠ざける不寛容さ

③オレが一番型

怒鳴ったり大声をあげたりはしない。しかし自分が正しいと思ったことは絶対に曲げない。

感情のコントロールを失うことはないし、熱血指導をするわけでもない。ただ何事も自分が中心にいて物を動かしたい気持が強い。自分は優秀であるという意識が強いため、他人を悪くいうことに熱心である。

また自分の考えと違うことに寛容性がなく相手を許すことがない。自分がえらいということを見せる“マウンティング”をしたがるのでお山の大将である。

このタイプも仕事ができる。もともとの自信家が業績を上げることでますます自信で頭が凝り固まってしまう。世界は自分中心に回っており、また回らないと気が済まないという性格なので人の言うことを聞かないし信用しない。

このタイプは延々と意見することが多い。それは自分が正しいことを相手への言い聞かせという形で実際は自分に言い聞かせているのである。

④好き嫌い型

部下に対して好き嫌いの感情がはっきりしていて、自分が気に入らない部下にはいじめや嫌がらせをする。

例えば、いつも自分の言うことを、はいはいと言って何でも言うとおりにする部下は大事にするが、そうでない部下に対しては、怒鳴ったり、腹いせに無理な仕事をさせたり、仕事を与えないというようないじめや嫌がらせをすることがある。

この意味では意図的なハラスメントになることが多い。ただいじめ・嫌がらせを見えない形ですることがあるので、されている方がすぐには気付かないこともある。どうも自分は嫌われているらしいということをあとから気付くことが多い。しかし確証がないので何もできないということになる。

■悪質性の高い「意図的パワハラ」

⑤ストレスはけ口型

家で夫婦げんかをしたとか、ギャンブルで大損したとか仕事と無関係なストレスのはけ口として部下を怒鳴ったりする。八つ当たり型と言ってもよい。

このタイプはストレスがなければ何事もない。感情を表に出すこともない。しかしストレスの程度によっては暴力まで振るうことがある。

⑥会社ぐるみ型

会社の方針として、社長や管理職が特定の社員に対してハラスメントをする場合がある。多くの場合は退職させる目的でなされる。

退職の強要だけではない。会社全体が業績至上主義で長時間労働をさせるのは当たり前という場合も会社ぐるみといえるだろう。このような会社はブラック企業である。

以上、6つの傾向タイプをご説明した。具体的な上司の顔が浮かぶ読者もいることだろう。

■パワハラ経営者、管理職にならないための5つの心得

最後に、パワハラ経営者、管理職にならないための5つの心得としてまとめておこう。

1 自分がパワハラ傾向タイプに当たるときは部下への言動に注意すること
2 グレーになることをこわがらず必要なフォローを怠らないこと
3 叱るときには叱り方5原則(本書で詳述)を守ること
4 部下が喜んで仕事をするように指示指導の説明をすること
5 部下との良好な人間関係とコミュニケーションを作る努力をすること

「あたりまえだろ」と思われるだろうか。しかしその「あたりまえ」ができていない人が多いことが問題なのだ。

この5つの心得に付け加えたいことがある。

井口博『パワハラ問題 アウトの基準から対策まで』(新潮新書)
井口博『パワハラ問題 アウトの基準から対策まで』(新潮新書)

経営者や管理職の方には、ハラスメントを普段は「広め」に捉えておく思考法をお勧めしたい。「この程度ならばパワハラにはあたらない」「法的な要件を満たしていないからパワハラではない」「取引先からなのでパワハラではない」といった捉え方は「狭く」捉える思考法である。

こうした思考法は予防の観点では有益とは言い難い。予防あるいは危機管理の観点では、「広め」の捉えたうえで対策を講じておくことが望ましい。会社の方針や、自身の言動を考える上でも「広め」の思考法をインプットしておくほうがリスクは下げられる。

一方で、現実にパワハラが問題化した場合には、法的な要件、パワハラをより「狭く」捉えた定義を武器として戦うこともありえると思う。「これはパワハラだ。慰謝料を払え」といった主張に対して、「法的に見た場合に、そうとは言えないのでは」という理論武装が必要になることがある。もちろんそういう事態にならないのが一番いいのだが。

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井口 博 弁護士
1949年生まれ。東京ゆまにて法律事務所代表弁護士。一橋大学法学部卒。同大学院を経て1978年から1989年まで裁判官・検事。1992年ジョージタウン大学大学院修士課程修了。第二東京弁護士会登録。元司法試験考査委員。ハラスメントに関する著作、論文多数。

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(弁護士 井口 博)

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