景気の先行きは暗いのに、なぜ株価だけはしっかりしているのか

プレジデントオンライン / 2020年11月2日 9時15分

2020年10月2日、東京証券取引所 - 写真=時事通信フォト

■景気の先行きが暗いのに、株価はコロナ前の水準

新型コロナウイルスがなかなか終息せず、景気の先行き不安が増す中で、ひとり株価は堅調に推移している。日経平均株価は3月19日に1万6552円まで下げたものの、その後は急速に戻り、10月には2万3000円台と、ほぼ新型コロナ前の水準に戻っている。

景気の先行きが暗いのに、なぜ株価はしっかりしているのか。

日本を含む世界の中央銀行が新型コロナによる経済対策として、大幅な金融緩和に乗り出しており、世界的な「カネ余り」状態になっていること。ひとり10万円の定額給付金が支給され、とりあえず手元資金が増えた個人が株式購入に乗り出したことなどが原因とされるが、日本の場合、ひとつ特殊な事情がある。

GPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)が年金資産の運用のために「日本株」の購入を大幅に増やしているほか、金融緩和の一環として日本銀行が株式を投資対象とするETF(上場投資信託)の購入を拡大するなど、「公的資金」が株式市場に流れ込んでいるのだ。

すでにGPIFは2020年3月末で35兆5630億円の国内株式を保有している。公的機関は信用力の高い東京証券取引所市場1部銘柄しか原則買わない。この東証1部の時価総額は530兆6121億円だったので、東証1部企業の株式の6.7%を保有していることになる。

■日本銀行とGPIFの株式購入が増え続けている

一方の日本銀行は3月末でETFを通じて31兆2203億円の株式を実質保有している。こちらは5.9%相当だ。この2つを足すと、東証1部上場企業のなんと12.6%が「公的資金」によって保有されている。

しかも、両者の株式購入は新型コロナの蔓延以降も、増え続けている。GPIFによる国内株の購入は全資産の25%という目安が設定されており、運用する年金資産が増えれば自動的に国内株の保有が増えていく。株価の上昇もあり、6月末の保有額は40兆333億円と40兆円を突破、時価総額588兆3504億円の、6.8%に達した。

さらに凄まじいのが日本銀行によるETF購入だ。新型コロナ対策の金融緩和の一環としてETF購入を「年最大12兆円」に拡大したことから、4月以降10月までで、すでに3兆9466億円を買い増した。残高は35兆円を突破、早晩、GPIFを抜いて日本最大の株式保有主体となることは間違いない。ちなみに民間最大の投資家である日本生命保険の保有額は約8兆円なので、その10倍近い圧倒的な存在だ。

■東証1部上場企業の9割で「公的マネー」が大株主

朝日新聞が、東京商工リサーチとニッセイ基礎研究所の協力による推計として報じたところによると、3月末時点で、東証1部上場企業の8割に当たる1830社で発行済み株式の5%以上を持つ実質大株主になっているという。両者の保有分が10%以上になっている会社も約630社に達するという。

ちなみにGPIFや日本銀行の保有株は運用委託先が資産管理に使う信託銀行などの名義になり、両者の名前は表に出てこない。実質筆頭株主でも、名義が表に出ないので、「見えない大株主」となる。

こうした公的資金による民間企業の株式保有は世界の中でも異質で、株式市場の価格形成を歪めている、とみられる。GPIFは前述のように時価ベースで総資産の25%という目安を置いているため、国内株の価格が他の資産(外国株、外国債券、国内債券)よりも下がれば、半ば自動的に買い増しされることになり、「買い支え」効果が生まれる。

マーケットのモニター
写真=iStock.com/phongphan5922
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/phongphan5922

つまり、ファンダメンタルズと呼ばれる経済の基礎的条件や、企業業績が悪化しても、株価はあまり下がらない、ということになるわけだ。

■日本企業のコーポレートガバナンスを歪めている

一方で、業績が好転する企業の株が買われる、という一般的な銘柄選定のメカニズムが働きにくくなることで、新型コロナが収束した後、世界の他の市場の企業の株価が大きく上昇する中で、「官製市場」化した日本の株価はあまり上がらない、ということになる懸念もある。まして、将来、日本銀行が金融引き締めに転じてETFを売却したり、年金の支払いが増えてGPIFの運用資産が減っていくことになれば、世界の株価や企業業績とは関係なく、日本の株価だけが下落していくことになりかねない。

もうひとつ大きな問題が、日本企業のコーポレートガバナンスを歪める懸念が強まっていることだ。GPIFや日本銀行は株式を実質保有しているものの、名義が表に出ることはない。株主としての議決権は、両者の基本方針に従って運用委託先が行使することになっている。年金資産を持つ国民の利益を最大にすること、日本銀行の利益最大化につながることなどを前提に運用金融機関の判断で株主総会の議案に賛否を投じるわけだ。

GPIFや日本銀行といった「公的機関」が議決権を行使することには議論がある。国民の資産を投じるのだから国民の利益を考えて議決権行使するのは当然だという意見がある一方、国家が民間企業の経営に口を出すことになり望ましくないという声もある。国が議決権行使に乗り出せば「国有企業」と同じになってしまう。

■日産自動車の「実質2位の大株主」は国

現状は、金融機関の判断で議決権行使しているのでGPIFや日本銀行、ましてや政府が関与することはない、というのが建前だ。だが、実際には、大株主としてGPIFやその監督者である政府が影響力を持つ場面が実際に起きている。

フランスのルノーが発行済み株式の43.4%を保有する日産自動車では、2位以下の株主には証券を保管する信託銀行の名義が続き、具体的な社名が出てくるのは6番目の日本生命ぐらい。日本生命の保有株は5402万株で、発行済み株式数の1.28%だ。しかしGPIFが公表している保有株一覧によると、GPIFは5.4%に相当する2億2902万株を保有している。実質2位の大株主なのだ。

日産
写真=iStock.com/joel-t
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/joel-t

日産を巡っては数年前にルノーが日産の支配権を強化しようと動き、カルロス・ゴーン失脚後の取締役選任などで対立した。その際、経済産業大臣に近かったGPIFの幹部が、日産の幹部に繰り返し接触。日産側は「実質大株主として、いろいろアドバイスをいただいた」(元取締役)という。

具体的にどんなアドバイスをしていたのかは分からないが、日産を日本企業として守ろうと動いていた経産省や政治家が、GPIFの大株主としての力を使おうとしたのかもしれない。

■実質「国有化」が進めば、日本経済はゾンビ化する

企業経営者にとっては、公的資金による株式保有は「モノ言わぬ株主の復活」と感じるかもしれない。

生命保険会社や年金基金などの機関投資家は、近年、保険や年金の契約者の利益を第一に考えた議決権行使を求める「スチュワードシップ・コード」によって、会社側の提案でも「否」を投じるケースが増えている。業績悪化が続く経営者の再任に反対する例も増えている。また、海外のアクティビストと呼ばれるファンドからはまとまった反対票が投じられることも少なくない。そんな中で、GPIFや日銀ならば、そんなに厳しい議決権行使はしないだろう、というわけだ。

そうした経営者の「緩み」を公的資金による株式保有は生む可能性がある。また、GPIFや日銀に株を売られたくない企業が、こうした機関に影響力を持つ人物の天下りを受け入れることなども将来起きるだろう。

新型コロナ対策で検討されている「優先株」なら、議決権がないので問題ないだろうと思われるかもしれない。だが、議決権がなくてもその資金に支えられていることは変わらず、政府系金融機関やその背後にいる財務省、政府による間接支配が起きる懸念がある。

実質「国有化」の流れがこれ以上進むと、民間企業としての活力や経営者の気概が失われ、日本経済全体を「ゾンビ化」させることになりかねない。

----------

磯山 友幸(いそやま・ともゆき)
経済ジャーナリスト
1962年生まれ。早稲田大学政治経済学部卒業。日本経済新聞で証券部記者、同部次長、チューリヒ支局長、フランクフルト支局長、「日経ビジネス」副編集長・編集委員などを務め、2011年に退社、独立。著書に『国際会計基準戦争 完結編』(日経BP社)、共著に『株主の反乱』(日本経済新聞社)などがある。

----------

(経済ジャーナリスト 磯山 友幸)

この記事に関連するニュース

トピックスRSS

ランキング