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「PCR検査は対策にならない」コロナ再爆発で揺れる欧州から導き出される教訓

プレジデントオンライン / 2020年10月31日 11時15分

※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Roman Drits

■第1波に比べて感染者数が爆発的に増えている理由

欧州では新型コロナウイルスの感染拡大に歯止めがかからない。日本では1日当たりの新規感染者数が600人程度で横ばいからやや上向きとなって推移している程度だが、欧州の各国では感染が文字通り爆発している。第1波で感染の抑制に成功したドイツや夏場に感染をコントロールできたイタリアは1日当たりの感染者数が1万人を超えており、フランスは実に3万人に達した。

先行して感染が爆発したスペインは1万人を再び下回り、感染対策で独自路線を歩むスウェーデンも感染の増加がピークアウトしつつあるが、再び拡大する可能性は否定できない。第1波に比べて感染者数が爆発的に増えている理由として、そもそもの新型コロナウイルスの感染が収束していないことに加え、各国が感染対策の一環としていわゆるPCR検査の回数を増やしていることが指摘されている。

幸いなことに、新型コロナウイルスによる関連死者数は各国とも第1波と比べ物にならないくらいに少ない。感染者の中心が重篤化しにくい若年層であることや、第1波の頃に比べると治療体制が整っていることなどが背景にあるようだ。とはいえ冬季にかけて新型コロナが収束する展望は描けず、他の感染症との同時流行も懸念されるため、各国は感染対策の強化に乗り出している。

例えばスペイン政府は10月25日、全土に非常事態を宣言した。前回6月までの非常事態に比べると、夜間を除けば外出も許されるなど、緩い規制にとどまっている。感染対策を強化するとしても、社会経済活動への悪影響を考慮すると、第1波のときのような強い規制を実施することは容易でない。緩やかな都市封鎖(ロックダウン)という戦術が、欧州ではコンセンサスになっているようだ。

■景気と雇用は大打撃、ロックダウンは「劇薬」でしかない

4~6月期の欧州連合(EU)の実質GDPは前期比11.4%減と、各国がロックダウンを行った結果が色濃く出るかたちで、記録的なマイナス成長になった。また各国政府が手厚い雇用支援策を実施したにもかかわらず、4~6月期の失業者は1~3月期に比べて100万人を超える増加となるなど、雇用情勢は急激に悪化した。

10月30日に発表された7~9月期の実質GDPは、都市封鎖に伴う行動制限が緩和されたことに伴い、前期比12.1%増の高成長になった。一方、雇用はそもそも景気に遅れて回復するため、残念ながら改善はあまり進んでいない。このまま順調に景気が回復することが期待されたが、今般の感染対策の強化を受けて、10~12月期の景気は回復が急減速せざるを得ないと考えられる。

7~9月期に実現した景気回復は、政府と中銀による精いっぱいの対策を反映した結果でもある。第1波のときのような強い行動制限をとれば、当然だが景気は二番底に向かう。雇用もさらなる減少を余儀なくされ、社会経済は壊滅的な打撃を受ける。政府と中銀がいくら対策を強化しても、社会経済そのものが動かなければ「焼け石に水」であり、資源の浪費にしかならない。

第1波では感染対策を最優先した欧州の各国だが、今般の感染局面では社会経済活動に対する配慮が欠かせなくなっている。ロックダウンという手段は短期的な効果は望めるものの、やはり持続性に欠ける「劇薬」であった。それを体力が十分に回復していない患者に再び投与することはあまりに危険であるという判断が、欧州で下されたのだと理解していいだろう。

■制限をかけるフランス、反発するパリとマルセイユ

感染対策の強化をめぐっては、欧州の各国でそれを重視する中央政府(国)と社会経済活動に軸足を置く地方政府(都市)との間で軋轢が生じている。例えばフランス政府は、全土の再ロックダウンに先行して感染拡大が顕著である首都パリと南部の主要都市マルセイユの飲食店の営業に対して強い制限をかけたが、両市の市長はこの措置に対して公然と反発、対立を深めた。

2020年3月17日のパリ・エッフェル塔
写真=iStock.com/jacus
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/jacus

同様の事態は欧州各国で生じており、スペインでも全土に先行して首都マドリードに非常事態が宣言された際に、感染対策を重視するサンチェス政権と社会経済活動を優先するマドリード州政府との間で対立が生じた。日本では春先の第1波の際、社会経済活動を重視する政府と感染対策を優先する都道府県との間で軋轢が生じたが、その真逆の関係が生じている点で興味深い。

これまでの強い行動制限で、欧州の人々は強いストレスを抱えている。先に述べたように、景気の悪化を受けて雇用を失った人も数多い。夏場に行動制限が解け、長いトンネルにようやく光明が差した矢先に再び新型コロナウイルスの感染が拡大し、行動制限が強化されてしまった。再度の制限措置に対して欧州の人々がどれだけ落胆しているかは、察するに余りある。

■一部は暴徒化、社会経済活動とのバランスをどう取るか

すでに欧州の各都市では、政府の行動制限に対する反対のデモなどが発生し、一部は暴徒化しているようだ。人々がストレスを爆発させ、社会が不安定化すれば、人々は政府による感染対策に耳を貸さなくなってしまう。そうなっては元も子もない。可能な限り社会経済活動を回し人々の不安や不満を和らげる必要性を、市民生活に近い立場の地方政府ほど感じているのだろう。

もちろん、中央政府も社会経済活動を軽視しているわけではない。そうであるからこそ、非常事態を宣言して都市封鎖を実施するにせよ、第1波のときのような強い行動制限を課していないし、課せていないのが実情だ。感染拡大に歯止めがかからないからこそ、社会経済活動とのバランスをどうとるかという本質的な課題に、欧州各国は再度直面していると言えるだろう。

■これから感染が爆発したら日本はどうすべきか

欧州で第1波のときのような強い行動制限を導入すれば、社会や経済に対する悪影響は取り返しがつかないほど深刻なものになるかもしれない。長期のためには短期を犠牲にするべきだという考えは確かに正論だろうが、長期のためにも短期をどう生かすかという戦略観に、現実的にはシフトせざるを得ないのだろう。こうして考えると、強い行動制限が導入される可能性は低いと考えられる。

幸いなことに日本では、新型コロナウイルスの感染者数、死者数ともにそれほど増えていない。冬季にかけてインフルエンザなど他の感染症との同時流行が懸念される一方で、近隣各国との間で商用目的の渡航解禁を模索するなど、大局的には行動制限が緩和される方向にある。とはいえ、欧州のように感染が爆発的に広がる事態が起きるかもしれないし、合わせて死者数も増えるかもしれない。

たしかに日本の行動制限は第1波の際も諸外国、特に欧州に比べると軽かった。とはいえ飲食などを中心に雇用は悪化し、多くの失業者が生まれたことに変わりはない。また学校の閉鎖などで、子供たちの教育の機会は奪われてしまった。残念なことに自殺者数も7月以降は前年比で徐々に増加しており、コロナ禍での社会経済の変容との関連が指摘されているところである。

日本で感染者が爆発的に増えた場合、あるいは爆発的な増加が懸念される事態になった場合、感染対策の強化は免れない。とはいえ、欧州の実例が物語るように、社会経済活動への配慮は欠かすことができない視点となる。菅政権の下、長期のためにも短期をどう生かすかという戦略観に基づいた現実的な対応がとられることを期待したい。

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土田 陽介(つちだ・ようすけ)
三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員
1981年生まれ。2005年一橋大学経済学部、06年同大学院経済学研究科修了。浜銀総合研究所を経て、12年三菱UFJリサーチ&コンサルティング入社。現在、調査部にて欧州経済の分析を担当。

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(三菱UFJリサーチ&コンサルティング 調査部 副主任研究員 土田 陽介)

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