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「経済効果1.5兆円」東京五輪が中止になっても日本には大阪万博がある

プレジデントオンライン / 2020年11月5日 9時15分

2025年大阪・関西万博のロゴマークに決まった「TEAM INARI(チームイナリ)」の作品と代表のシマダタモツさん=2020年8月25日、大阪市北区 - 写真=時事通信フォト

2025年4月から半年間、大阪湾の人工島「夢洲」で国際博覧会(大阪・関西万博)が開催される。日本総合研究所マクロ経済研究センター所長の石川智久氏は、「この万博の開催期間中の経済効果は、東京オリンピック・パラリンピックより大きい。日本経済に大きなインパクトを与えるだろう」という——。

※本稿は、石川智久『大阪が日本を救う』(日経プレミアシリーズ)の一部を再編集したものです。

■万博は大阪にとっての式年遷宮

万博が決まって以降、様々なところで講演会などをさせていただいているが、そこで痛感することが一つある。それは大阪にとって万博は一種の式年遷宮であるということだ。

式年遷宮とは大きな神社や仏閣が数十年に1度、建物を建て替えること、古くなったものを建て替えるという意味もあるのだが、伝統技術を若い世代に伝えていく効果もある。

1970年の万博は50年前の話であり、当時のことを知らない若い世代は非常に多い。また当時を知る世代も細かい話は今では忘れているというのが現実であろう。しかし2025年に万博を開催することになったため、現役世代は当時の世代に真剣に話を聞くようになっている。それによって当時の知識や経験が若い人に伝わるという副次的な効果をもたらしていることを感じる。

私は1974年生まれであるので1970年万博のときには生まれていない。ただし万博決定以降、1970年万博のときの空気や現代にも活用できそうな経験、そして、現代人が失ってしまった活気なども教えてもらった。このように今、大阪では万博時代の経験を語り合うことで先輩世代と現役世代の間でコミュニケーションが生まれている。どの地域でも40年か50年に1回は大きなイベントをすることによって、地域ぐるみで事業承継を果たしていくということが後の世代を育てるために必要なのであろう。

そんな万博だが、松井一郎氏や橋下徹氏が誘致を言い始めたときは「維新の会が勝手なことを言っている」「誰がお金を出すのか」といった空気であった。結果として盛り上がり始めたのは実は誘致決定の半年前ぐらいからだ。

■筆者が感動した「絶対日本に投票する」という大使の言葉

講演会では基本的に経済の話をするのだが、マクロ経済の話は新聞に書いてある話とそんなに違わないので、結構寝ている人もいる。カジノ付き統合型リゾート(IR)の話は興味ある人半分、怪訝そうな顔をする人が半分という感じだ。ただし、後半に入り、万博の話をすると、皆目がランランとするようになった。やはり大阪にとって万博は特別なイベントだ。2025年の経済効果の話をするよりも1970年万博の昔話の方が皆元気になるのが大変印象的であった。

ちなみに、万博の投票は各国大使が押しボタンで投票し、誰が投票したかはわからない。そのなかで一つ私が感動した話を書こう。某国の大使が日本の外交官に「私は昔、日本に行って日本人、とりわけ関西人に優しくしてもらった。本国からは別の国に投票するようにと言われているが私は絶対日本に投票する」と語った。

もちろん彼が本当にどう投票したかはわからない。ただそういった話を聞くと我々の先輩たちがどれだけ海外に貢献してきたのかと、日本人であることが大変誇らしく思える。

■ネットが発達したからこそ万博は盛り上がる

万博について講演会をしていると、「万博は過去のものではないか」という質問を受けることが多い。確かにVRやARなど在宅で楽しめるものが増えているなか、万博はもしかしたら時代遅れなのでは、という指摘も一理ある。しかし、1970年の万博のときにも同じような話があった。

太陽の塔と桜
写真=iStock.com/danieldep
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/danieldep

マーシャル・マクルーハンという当時有名な社会学者がいたのだが、彼は「テレビをみてれば楽しめるので万博会場に行くやつはいない」とコメントした。それをみて日本側の万博企画者は真っ青になったらしいが、ふたをあけてみると、大盛況であった。

この話は堺屋太一氏の『地上最大の行事 万国博覧会』(光文社新書)という本を読んで初めて知ったことであるが、堺屋氏によると、体験型と伝達型でエンターテインメントの性質は異なり、両方が存在しうるという指摘をしている。現代でも家庭用ゲーム機は非常に優れているが、東京ディズニーランド・ディズニーシー、夢洲の近くのユニバーサル・スタジオ・ジャパン(USJ)は毎日のように活況を呈している。

2025年の万博では、ネットでのコンテンツ配信も目玉にする予定だ。「ただみせるだけ」ではない、リアルとネットとの融合を目指す。デジタルコンテンツ制作会社のチームラボの活動などをみると、美術をみせるということと、美術のなかを体感するということをうまく組み合わせている。お祭り感、特別感を味わいたいのは人間の本能かもしれない。

1964年の東京オリンピックも開催直前まで盛り上がらなかったそうだ。1970年の大阪万博も開催初日は予想の半分の来場者だったが、最後は大成功を収めた。どうやら日本は事前に盛り上がらなくても、急激に盛り上がることが可能な国らしい。2025年の万博もうまくいくことを願うばかりである。

■オリンピックより実は大きい経済効果

先日、日本総研は東京オリパラの経済効果を発表した。約6000億円である。これは開催期間中の経済効果、つまりイベント開催の消費効果を中心にしているので建設関係の効果は入っていない。1カ月間で6000億円というのは年率換算すると約7兆円になるので瞬間風速的にはかなり大きな経済効果をもたらすと考えられている。やはりオリンピックはすごい。ただし、大会の規模縮小も議論されており、これよりも経済効果が小さくなるリスクに注意が必要である。

一方で、万博開催期間中の経済効果は半年間で1.5兆円である。瞬間風速的には負けるがイベント単位の金額では東京オリパラよりも経済効果が大きい。東京都のGDPは約100兆円、大阪のGDPが約40兆円、関西が約80兆円だ。こう考えると、万博で大騒ぎする大阪・関西人の気持ちがよくわかるのではないか。

最近の海外の万博による経済効果をみてみよう。まず2000年のドイツ・ハノーヴァー万博。1200億円の赤字となったが、1.4兆円の経済効果があったとのことだ。2010年の上海万博では145億円の黒字で経済効果は2.9兆〜19.4兆円あった。やや範囲が大きすぎる気もするが、金額が大きいことは間違いなさそうだ。直近は2015年のミラノ万博であるが、30億円の黒字で経済効果が4.2兆円だ。

■東京オリパラで大きなビジネスが取れなくてもチャンスはある

実はミラノ万博は食をテーマにしたイベントであった。万博にしてはテーマを絞りすぎている感じもするが、食べ物だけで4.2兆円の経済効果を出したのは大したものといえる。

海外の事例をみると、2025年万博の1.5兆円(建設関連を除くベース)というのはなんとおしとやかな目標だろうか。万博は半年間毎日開催されるからこそ、経済効果は大きくなるのである。東京の人に興味を持っていただきたいのは、瞬間風速はさておき、開催期間中の全体の経済効果としては万博の方が大きいということだ。東京オリパラで大きなビジネスが取れなかった方も、大阪では大きなチャンスをモノにしてほしい。

■1970年万博は人々に「未来は絶対今よりも良くなる」と希望を与えた

1970年万博の良さは、理念・エンターテインメント性・希望を重視した全体設計だ。1970年万博の特徴としては、理念や理想を真剣に考えるテーマ性と、来場者が純粋に楽しめるエンターテインメント性、独創的で希望を感じさせる未来像の提示の三点がうまく融合できていた。

石川智久『大阪が日本を救う』(日経プレミアシリーズ)
石川智久『大阪が日本を救う』(日経プレミアシリーズ)

具体的には、1970年万博のテーマは「人類の進歩と調和」であるが、元文化庁長官の近藤誠一氏や元大阪大学総長の鷲田清一氏などが「現代でも通用する」と指摘したように、先見性が高く、崇高な理念が示されていた(関西・大阪21世紀協会「KANSAI・OSAKA文化力119号」より)。また、丹下健三と岡本太郎が協働した、お祭り広場と太陽の塔で有名なシンボルゾーンでは非常に高い抽象性・メッセージ性が表現されていた。

一方で、月の石を展示した米国館、スプートニク1号を展示したソ連館といった各国パビリオンや、三洋電機(現・パナソニック)の人間洗濯機など、企業館はエンターテインメント性を発揮した。また、UFOのような球体が空中に浮かんだ住友童話館や高さ127.4メートルのエキスポタワーは未来の空中都市をイメージさせていたほか、動く歩道、ワイヤレス電話、テレビ電話、360度全天周スクリーン、音声認識で動くクレーンゲーム機などが導入されたように、その後普及した技術のショーケースともなった。

当時を知る方から「戦争から25年経ち、高度経済成長もあり、日本人皆が自信に溢れていた。展示もまさに未来都市を感じさせるもの。未来は絶対今よりも良くなると信じて疑わなかった」と聞かされたとき、1970年万博のインパクトを痛感した。

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石川 智久(いしかわ・ともひさ)
日本総合研究所マクロ経済研究センター所長
北九州市生まれ。東京大学卒。三井住友銀行を経て現職。大阪府の「万博のインパクトを活かした大阪の将来に向けたビジョン」有識者ワーキンググループ委員、兵庫県資金管理委員会委員等を歴任。日本経済新聞十字路など、メディアにも多数寄稿・出演。

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(日本総合研究所マクロ経済研究センター所長 石川 智久)

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