「占いブーム再燃」ネットでがんがん儲ける新世代占い師たちが得意にする悩み
プレジデントオンライン / 2020年11月4日 15時15分
■SNSによるビジネスモデルの転換
華やかに着飾った女性たちが、高級ホテルのイベント会場に集まっている。ただのパーティではない。ある人気ブロガーが主催した「引き寄せ」系のイベントだ。「自分を大切にする、我慢しない、なりたい自分になる」ことで、運が変わって幸せになっていくという理論を実践する人々の集まりだ。
そのような考えを持つと、自然と自分を派手に着飾るようになるになっていく。このようなイベントはSNSで拡散され、その結果「キラキラ女子」の輪が広がっていく。
どこかの会社の宣伝ではなく、友人の実体験に基づく感動や喜びは、響きやすい。占い・スピリチュアル領域に限らず、SNSなら、書籍やTVなどのように、一回きり、情報を受け取るだけではなく、日々、繰り返し、双方向で、体験した中での本音を伝え合える。
占いやスピリチュアルの理論だけでなく、ハレの日を提供して、友人同士のつながりで継続的に世界観や商品を拡散してもらうやり方は、ネットにおける個人の情報発信が盛んとなった現在でこそ成り立つ、新しいマーケティング手法だ。
このように、占い・スピリチュアル業界では、ネットによるビジネスモデルの転換が進んでいる。
■企業による「占いビジネス」は低迷している
実は、ここ数年、事業会社による、店舗での対面鑑定や電話占い、占いサイトなどの既存市場はそれほど拡大していない。占い事業各社の決算を見ても、売り上げは横ばいまたは微減傾向が続いている。
例えば、16年以上前からいち早く占いサービス事業を展開しているザッパラスの場合、2017年4,847、2018年4,800、2019年4,170、2020年3,789(いずれも単位百万円、4月期連結)。メディア工房(占いコンテンツ事業)の場合、2018年1,770、2019年1,647、2020年1,598(いずれも単位百万円、8月期)というように、売り上げは年々減少している。
■急激に売り上げを伸ばす「占いブロガー」
一方で、急増しているのが、占い・スピリチュアルに関連する個人のブログやYouTubeなどの無料コンテンツである。コロナによる外出自粛が追い風になってはいるが、それを差し引いても、その伸びは目覚ましい。
例えば、冒頭で登場した「引き寄せ」をテーマにした人気ブロガーの“HAPPYちゃん”は、「引き寄せ」を実践した徹底的な自己開示やガーリーなルックスもあって、ブログアクセスが1日20万(月間400万)を記録している。
なお、「引き寄せ」とは、自分が持っている思考や感情などの波動が、外側の同じような波動の事象を引き寄せるという考え方である。つまり、幸せまたは不幸な出来事も自分次第というわけだ。以前からある考え方だが、『ザ・シークレット』(2006年、シリーズ3作は全世界で2800万部突破)『引き寄せの法則 エイブラハムとの対話』(2007年、シリーズ累計40万部)といった書籍から、国内でも人気が加速した。
無料コンテンツで集客できるようになると、そこから書籍や関連グッズの物販、イベントなどに誘引することでマネタイズしている。前述の“HAPPYちゃん”はチケット代が3万~50万円のイベントで2000人を集客する。
他にも、“子宮委員長はる”氏は自身のブログの集大成である『子宮を整え、対話していくことで幸せになる』という約9万円のDVD(予約価格4万9000円)を予約だけで2000個もさばいた。
もはや、占い・スピリチュアル界のスターは、江原啓之氏や細木数子氏だけではないのだ。
■誰でも占い師になれる時代
ネットを介したシェアエコノミーにおいても、占い・スピリチュアルは存在感を増している。
個人が得意なスキルを匿名でサイト上で売り買いできるマッチングサービス“ココナラ”でも、占い・スピリチュアルは柱の1つに成長している。ココナラでは、1分100円からの電話占いや1件1000円のヒーリングなど利用しやすい価格帯が設定されており、購入者側は気軽に体験できる。
開業間もない占い師やヒーラーにとっても、経験を積むために登録したり、サイト開設や集客など面倒なことはせず手軽に小遣い稼ぎができる受け皿になっている。副業解禁の流れにより、サラリーマンが副収入を得るために参入しているケースもあるだろう。実際に、ネット上では、サラリーマンの副業として占いを勧めたり、具体的な方法を紹介するサイトは多く、中には、月に10万円以上稼いでいる、とSNSで発信する人たちもいる。
ネットによって、個人が無料で情報発信できるプラットフォームが提供されたことで、素人以上プロ未満の友達感覚の占いという新市場が発掘される一方、無料コンテンツ経由で、占いやスピリチュアルに縁の薄かった新たな顧客層が開拓されつつある。見方によっては、個人による無料や安価なコンテンツに顧客が流れているともいえる。
いまや、うらぶれた雑居ビルの非日常感満載の空間でオーラの漂う占い師が説教するというよりも、友人同士でお勧めの恋愛コンテンツをシェアしあう光景の方が一般的となってきている。
■人生に対する「モヤモヤ」が占いの入り口
誰もが幸せを感じたい。しかし、人生には、恋愛・結婚・離婚、進学、就職・転職、生老病死などのライフイベントがあり、その度に大きな選択を迫られる。いくら合理的に考えても、どうしても不確定なことや納得できない部分が残る。これまで通りの通常のやり方では現状を変えられそうにない、不可解な事象に意味づけを与えることで脳の負担を減らしたい……。
そこで、見えない世界の力を借りて、予測や対策を知ることで、正解を選びたい(失敗や無駄な回り道をしたくない)、目に見えない特別な力のサポートで楽にミラクルを起こしたい、と占い・スピリチュアルへの根本的なニーズが発生する。
直近では具体的な問題はなくても、暇つぶしで占いサイトをのぞいたり、神秘的な世界観が好きでハマるといったケースでは、過去のさまざまな経験から、上記のようなニーズが言語化されずに「このままでいいのかな」「何か充実感がない、楽しくないな」くらいのモヤモヤとして、通奏低音のように響き続けているからこそ利用するのだろう。
■「孤独な人」がハマるわけではない
なお、よく言われがちな、『(ネットの普及や核家族化の進展、地域社会の衰退などによって人間関係が希薄化した結果)孤独な人が、占い・スピリチュアルに話し相手を求めて利用する』という仮説は正しくない。
拙著で恐縮だが、『スピリチュアル市場の研究』の調査結果によると、「孤独を感じる」「自分の将来に不安を感じる」などに関して、占い・スピリチュアルの利用経験がある人と無い人において統計的に有意な差異は見られなかった。
一方で、占い・スピリチュアルの利用経験が無い人と比べて、ある人がない人より有意に高かった項目は、「テレビや雑誌の健康情報があればチェックする」「人の話を信じやすい」など信じやすさ、従順さや、「人に気に入られたい、評価されたい」「人の目が気になる」といった自信のなさ、自意識の高さなどであった。
さて、上記で挙げたライフイベントなどによって、占い・スピリチュアルを利用する動機が発生したとして、なぜ占い・スピリチュアルを選ぶのか。友人に相談したり、他の娯楽やエンタメサービスでもいいはずだ。
前述の調査結果にもあったように、占い・スピリチュアルの利用に最も相関が高かったのは「信じやすい」ことであった。つまり、利用するどうかを決める最大の要因は、運勢や直感、高次元の存在など“目に見えないもの”を信じられるかどうか、である。
占いやスピリチュアルは、“目に見えない力”のおかげで、友人やAIからは得られない、常識を超えた素晴らしい解決方法が見つかるかもしれないという期待感を抱かせる。これが最大の魅力と強みだ。
■「他力」から「自力」へ
以前の占いやスピリチュアルでは、天使や宇宙意識など高次元の存在たちに(場合によっては占い師やヒーラーに)「どうしたらいいのか教えてもらう、幸せにしてもらう」というのが主流であった。言い換えると、人間は、それらの存在よりも無力で助けが必要な存在と認識されていたということだ。
ところが、昨今では、上記のような「他力・依存型」サービスは残りながらも、自分こそが素晴らしい存在であり、自身を幸せにできるという考え方のコンテンツやサービスが急増している。
その内容は、天使や宇宙意識などは、変わらず重要な要素として登場するものの、それらの存在はあくまで助言するだけ。その考えを採用するか、いかに日々実践するかなどを決めて行動する主体は自分自身であり、それなくしては何も変わらない、というもの。以前からもそのような考えはあったが、今よりは格段に少なかった。
受け身から自力への明らかな転換点は不明だが、「引き寄せ」が広まり出したころから徐々に加速していった印象がある。そして、最近、急増中のキーワードは「ノンデュアリティ(非二元性)」「量子力学」である。
なお、「ノンデュアリティ(非二元性)」とは、諸説あるが、目に見える現実世界は自分自身が作り出した幻想であり、実は自分も他人もとりまく世界も無い、観察する対象もされる対象も分かれておらず1つである、という考え方。釈迦の考えに近いとも言われる。
■“ベター”より“ベスト”を求める
占いやスピリチュアル業界も、ファッションなどと同様、新しいテーマや流行を次々と打ち出すことで消費を喚起する側面がある。
まじめで骨太な「精神世界」が、『オーラの泉』をはじめとするTV番組の登場で、ファッショナブルで親しみやすい「スピリチュアル」にイメージ・チェンジしてから15年以上が過ぎたいま、その頃にこの世界に入った人が、よりディープで本格的なアイデアを求めて放浪している可能性もある。
というのは、皆が最初から「他力より自力」を目指すわけではない。占いやスピリチュアルが好きな人は、自分の直感よりも透視力の高い「先生」を信じてしまう傾向がある上、他人から一気に変えてもらう方が楽であり、日々、自分に向き合うのことは面倒なようなのだ。
そこで、当初は他力だったものの、期待した効果が得られずに、やはり自分でやらないといけないのか、と原点に戻るセルフでの開運は、単なる流行の変化ではなく、上級者向けの進化系という側面もある。より短期で見ても、占い・スピリチュアルは、化粧品や健康食品と同様、“今のものはベターであってベストでない”ことから、日々、より『効果』の高いものを探し続ける人は多い。
■こうして「占い」は広まっていく
10年前に拙著を記した当時、TVというマスメディアがまだまだ圧倒的な存在感を持ち、ネット(ソーシャルメディア)による個人の情報発信は、いまほど気軽なものではなかった。
著名な占い師などがレギュラー番組を持ち、マスメディアが需要を喚起することで、関連書籍やパワーストーンなど関連グッズが売れ、占いサイトやヒーリングセミナーなどにも客が付いていく、いわば噴水型ともいうべき構造となっていた。
それが、昨今では、ネットという強力なツールを得て、これまでは情報やサービスの受け手に回っていた個人が、顧客であると同時に、その知識を自ら発信して、再生産する流れができた。
そうなると、情報の発信量が急激に増えるとともに、ますます情報発信のハードルが低くなるという相乗効果が循環的に生じ、前述の素人以上プロ未満の占い師・ヒーラーが大量に現れることになった。
占いから「引き寄せ」へ、他力から自力へ、外側の出来事から自分の内面へ、無料から有料へ、利用側から提供側へ、さまざまな段階とバリエーションを拡大しながら、より幅広い消費者を獲得していく傾向は今後も続くと思われる。
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スピリチュアル・アナリスト
三和総合研究所(現三菱UFJリサーチ&コンサルティング)にて、健康産業や統合医療関連分野の調査・コンサルティングに従事した後、2015年12月に独立。著書に『「肥満解消」マーケティング 成長市場を攻略する“7つのS”ד6つのC”』(共著、日本経済新聞出版社)、『健康・予防ビジネス事業戦略資料』(共著、綜合ユニコム)などがある。
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(スピリチュアル・アナリスト 有元 裕美子)
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