脳科学が分析「自己肯定感が単に高いだけの人」が行き詰まる超シンプルな理由
プレジデントオンライン / 2020年11月9日 8時15分
■自己肯定感が“社会的ワクチン”と言われるワケ
あなたは、自分が価値のある人間だと思いますか?
この質問に対して、欧米では9割程度の人が、自分に価値があると答えるのに対し、日本人では半数にも満たないことが示されています。
これは、「self-esteem(自己肯定感・自尊感情)」の低さを示しています。自己肯定感は「①自分が、どのような人間であるか正しく知って正しい自己認識のもと、②自分のことを価値のある人間だと思う」ことを指します。
自己肯定感の高さは、収入、健康、結婚状況、孤独感の少なさよりも、幸福感やwell-beingに強く関連する因子だと示す研究があります。また、人間関係、社会的成功、人格的成熟などさまざまなことに強く影響するものであることがしめされ、社会を適応的に生きるための“社会的ワクチン”とも言われています。ところが、自己肯定感が低いとされる日本人の中でも、女性は男性より少し自己肯定感が低いことが示されています。
■女性の自己肯定感が低い悲しい理由
自己肯定感に性差が生じる理由について、さまざまな視点からの理論的な考察がなされていますが、①自己肯定感は、男性が社会的にもとめられる役割と一致しやすいこと、②女性の性役割として、自己肯定感と負の関連を示す謙虚さの規範が存在すること、③女性は自分の外見に対する関心が高いため、外見についての自己肯定感が、より低くなりやすいこと、の3点が挙げられています。
①②に関しては、例えば、男性が仕事をがむしゃらに頑張って成し遂げる姿は、ある一定の評価を得ることが多いにもかかわらず、女性が謙虚さを示さずに(かといって横柄になるということではなく)、男性と対等に渡り合って頑張っていると、「あいつは気が強い」等とその過程でマイナスなニュアンスの評価を受けることが挙げられます。
男性は、強く頑張っていることが評価対象になる一方、女性の場合には、男性と対等に渡り合って頑張る態度が、必ずしも手放しで賞賛されるとは限らないためです。自己肯定感の高低は、大小問わず自身が望んだこと、やってきたことがどのくらい達成できたかによっても決まってきます。そのため、このようなジェンダーバイアスや謙虚の規範が、女性の行動を無意識的に制限し、結果として女性の自己肯定感を低くすることにむすびついている可能性が考えられます。
■自己肯定感を安定させる評価軸
自己肯定感が低い人は、自分を認めてあげましょう、というフレーズをよく目にしますが、では、自分を評価するとき、次のどちらで評価するのがよいのでしょうか? 「すごくよかった(very good)」あるいは、「これでいいよ(good enough)」。
今なお研究上最も多く利用される、Self Esteemの尺度を作成したRosenbergは、これらの使い方を区別する必要があることを指摘しています。自分を「とてもよい(very good)」と考えることは、優越性や完全性の感情と関連し、自分が他者より優れていると感じることであるのに対し、自分を「これでよい(good enough)」と考えることは、自分に好意をいだき、尊重することであるため、優越性や完全性は含まれていない、と説明しています。
つまり、他者との比較によって生じる、自分を「とてもよい(very good)」と考える場合の自己肯定感は、自分よりさらに優れた他者の出現により脅かされるものであり、安定性に欠けるのです。一方、他者と比較せず、自分の内部の価値基準に達していれば良しとする、自分を「これでよい(good enough)」と考える場合の自己肯定感は、安定したものになるのです。
■自己肯定感が高ければいいわけではない
自己肯定感が高い、と一言にいっても、そこには2種類あることがわかっています。これは前頁の自分への評価の仕方とも通じるのですが、自己に価値があると思う感覚が、社会的な成功や失敗による他者からの評価に依存している「随伴性自己肯定感(Contingent Self-Esteem)」では、安定したwell-beingは得られないことがわかっています。「真の自己肯定感情(True Self-Esteem)」とは、周囲によって変動することがなく、本来の自己によって自分が機能しているという感覚から得られるものです。
このため、何かを演じたり、何らかの秀でたパフォーマンスを上げなくても、ただありのままの自分を認めてくれる無条件の他者からの肯定的配慮が必要とされています。その意味では、自己肯定感が低い人に、「あなたはもっと自信をもつべき」という諭し方がいいわけではないことがわかります。
また、よくやりがちなのですが、自分の基準で測って他者をほめる、という条件付きのほめ方がよくないこともわかります。親子や夫婦間でも、ありのままに他者を受け入れることが難しいときがあります。
まずは、自分が身近な人をありのままに受け入れること、そして客観的に正しく自分を知ろうとすることが、正しい自己効力感を高める第一歩だと言えるでしょう。
<参考文献>
・Baumeister,R.F.,Campbell,J.D.,Krueger,J.I.,&; Vohs,K.D.(2003). Does high self-esteem cause better performance, interpersonal success, happiness, or healthier lifestyles? Psychological Science in the Public Interest,4,1-44.
・California Task Forceto PromoteSelf-Esteem and Personal and Social Responsibility. (1990). Toward a state of self-esteem.Sacramento,CA : California State Department of Education.
・岡田 涼・小塩真司・茂垣まどか・脇田貴文・並川 努.(2015).日本人における自尊感情の性差に関するメタ分析.パーソナリティ研究,24, 49-60.
・Ito, M., & Kodama, M. (2006). Self-feelings that support intentional self-development inuniversitystudents:Senseofauthenticity and global and contingent self-esteem. Japanese Journal of Educational Psychology, 54, 222-232.)
・Kernis, M. H. 2003 Toward a conceptualization of optimal self-esteem. Psychological Inquiry, 14, 1-26.
・Rosenberg, M. 1965 Society and the adolescent self-image. Princeton, NJ: Princeton University Press.
・Deci, E. L., & Ryan, R. M. 1995 Human autonomy: The basis for true self-esteem . In M. H. Kernis(Ed.), Efficacy, agency, and self-esteem. New York: Plenum. 31-46.
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博士(医学)
東京大学大学院総合文化研究科研究員/科学技術振興機構さきがけ研究員/帝京大学医学部生理学講座助教。東京医科歯科大学大学院医歯学総合研究科認知行動医学卒業後、英語学習による脳の可塑性研究を実施し、研究成果が多数のメディアに紹介。その研究をきっかけに、「目標達成できる人か?」を脳構造から判別するAIを作成し特許取得。現在は、プログラミング能力獲得と脳の関連性、 Virtual Realityを利用した学習法、恋愛と脳についても研究をしている。
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(博士(医学) 細田 千尋)
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