衝撃データ「在宅時間が増えても家事をしない夫」は、なぜ家事をしないのか
プレジデントオンライン / 2020年11月10日 11時15分
■通勤時間が減った分が家事・育児に向くわけではない
新型コロナウイルスの感染拡大の抑止策として、今年(2020年)2月、厚生労働省は企業に対して、テレワークや時差通勤の積極的な活用の促進などの取り組みへの協力を要請した。3月には、全国の小中高校も臨時休校となり、これまで在宅勤務制度を適用されていなかった人でも、特例的に自宅での業務時間が増えた。
近年、働き方改革で「場所と時間にとらわれない働き方」を推進する動きがあるが、今回の新型コロナウイルス感染拡大による在宅勤務の導入で見えてきたことは、働く「場所」と「時間」の確保が難しいということだ。
特に、共稼ぎ世帯においては、夫婦でオンライン会議の時間が重なると、会議参加の場所が確保できない、子どもがいる世帯においては、子どもが会議に入ってきてしまう等、いかに「場所」を確保するかという課題がみえた。また、今回紹介するように、夫の出勤が減っても、あいた通勤時間や業務の合間の時間が必ずしも家事や育児に向くわけではない。家族の在宅時間が多くなり、「時間」の確保がこれまで以上に難しくなった働く妻も多かったようだ。
ここでは、今回のコロナ禍における在宅勤務中の家事・育児分担状況を紹介し、今後の働き方の見直しの中で企業や各世帯で気を付けるべき点について考えたい。
■働き方は、男性のほうが変わっていた
ニッセイ基礎研究所が実施した「第1回新型コロナによる暮らしの変化に関する調査」を使って、高校生以下の子どもをもつ共働き世帯のうち、新型コロナウイルス流行前と労働時間が変わらない(または増加した)人の働き方と時間の使い方の変化を男女別に紹介しよう。
この調査を実施したのは6月末で、4月の1回目の流行の後、やや新規陽性者が減っていたものの、外出自粛が続いており、就労者は日々の出勤だけでなく、出張や外食、買い物等もなるべく控えていた頃である。子どもも同様で、多くの地域で、すでに登校は再開されていたが、感染リスクを下げるため、日数や時間を制限したイレギュラーな登校が続いており、流行前と比べると自宅にいる時間が長かった。
この頃の働き方の変化を流行前の1月頃と比べると、移動時間に男女差はほとんどなかったが、勤務先への出社が減った人や、在宅勤務等のテレワークが増えた人は、女性よりも男性に多かった。
■結局、女性の家事・育児時間が増加した世帯が多かった
続いて、時間の使い方の変化をみると、家族の在宅時間が長かったことから、男性の34.4%、女性の40.0%で「家族と過ごす時間」が増えていた。
ところが、「家事時間」は、女性の30.0%が増えたと回答していたのに対し、男性は14.0%、「育児時間」は女性の37.5%に対し、男性は19.4%と、家事・育児時間いずれも「増えた」と回答した割合は、女性が男性を15ポイント以上上回っていた。
男性も家事・育児ともに時間が増えた人はいたが、結局、女性の家事・育児時間が増加したケースのほうが多かったのだ。男性のほうが女性より、出社が減り、在宅勤務が増えて家事や育児がしやすい環境に変化したにも関わらず、である。
■コロナ禍でみられた家事・育児に対する考え方の変化
一方で、働き方の変化による明るい兆しもみえた。同じ頃、内閣府が行った「新型コロナウイルス感染症の影響下における生活意識・行動の変化に関する調査」によると、感染拡大前と比べて、全体の6割程度で仕事への向き合い方などの意識が変化しており、全体の半分程度が仕事と比べて生活を重視するようになったと回答していた。子育て中の男性の5割超、女性の6割超が、家事・育児への向き合い方が変化したと回答していた。
こういった意識の変化を背景に、同調査によると、テレワークの利用など、夫の働き方が変化した家庭では、家事・育児での夫の役割が増加する傾向にあった。さらに、夫の役割が増加した家庭では、今回の新型コロナウイルスの影響による生活満足度の低下幅が、そうでない家庭と比べて、男女ともに小さかったという。
■制度導入だけでは、夫婦間のアンバランスは解消しない可能性
以上のとおり、コロナ禍で、在宅勤務制度の適用が拡大したほか、意識の変化もともなって、家事・育児の時間が増加した男性は多い。場所と時間にとらわれない働き方を導入することで、仕事と家庭の両立に効果がある可能性が感じられる。これは、男性にとっても女性にとっても、そして子どもたちにとっても、期待できる点だろう。
ただし、注意したいのは、男性の家事・育児時間は、新型コロナウイルス流行前と比べて増えた世帯はあったが、女性の家事・育児時間が増えた世帯のほうが多かったということだ。
普段、家事・育児をしている人が、その時間や量を増やすより、普段していない人が、新たにその時間を作るほうが難しい、あるいは普段していない人が、やるべきことを思いつくことができない(=見えない家事が見えない)可能性があるとすれば、今後、在宅勤務等テレワーク制度を導入するだけでは、夫婦間の家事・育児と仕事の時間のアンバランスは解消しない懸念がある。
■恒久的な制度の導入と、夫婦間の役割再考を
コロナ禍での在宅勤務活用で、男性の家事・育児時間が増えた割合が低かった理由として、1つは、その働き方がいつまで続くか明確でなかったことが挙げられる。未知の感染症であり、外出自粛を目的として、特例的に在宅勤務を導入・利用拡大せざるを得なかった企業もあると思われるため、仕方がなかった部分もあるだろう。しかし、仮に、特例的な働き方だとしても、いつまで続けるか、制度利用のルールをどうするか等が明確になっていれば、少なくとも在宅勤務の日における家庭内の役割分担を家族で計画ができたと思われる。
もう1つは、残念ながら、やはり夫婦間の役割分担意識の問題と、これまでに家事・育児に費やした時間の差だろう。普段から家事・育児をやっていないと、いざ時間があっても何をやったらいいのかがわからないという可能性がある。これは在宅勤務制度だけではなく、現在検討されている男性の育休義務化の制度にといても課題となってくるだろう。解消に向けては、家庭内でのそれぞれの役割を、これまでの延長ではなく、新たな働き方を踏まえて、再考することが必要だと思われる。
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ニッセイ基礎研究所保険研究部 准主任研究員
2003年ニッセイ基礎研究所入社。専門は健康・医療分野におけるデータ分析。国が公表する各種統計等を使って、傷病の発生動向や治療動向を調査研究している。現在は、傷病の発生動向や健康に対する考え方の男女の違いや地域による違いに注目している。
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(ニッセイ基礎研究所保険研究部 准主任研究員 村松 容子)
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