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「お店の味を完全再現」ロイホの冷凍食品が狙う"異日常"という市場

プレジデントオンライン / 2020年11月4日 11時15分

ロイヤルHD イノベーション創造部・ロイヤルデリ事業担当部長の庵原リサ氏。酒類事業や飲食事業の経験ももつ - 撮影=プレジデントオンライン編集部

「ロイヤルホスト」を展開するロイヤルホールディングス(HD)の冷凍食品が急成長している。今年4~6月の販売実績は1~3月の売り上げの約6倍。コロナ禍でレストラン事業に急ブレーキがかかるなか、冷凍食品が次の事業の柱となる可能性がある。経済ジャーナリストの高井尚之氏が報告する——。

■巣ごもり需要を受け急成長中

先日届いたニュースリリースには「世界各国の料理を楽しめるフローズンミール」と書かれていた。

傘下にファミリーレストラン「ロイヤルホスト」を展開するロイヤルホールディングス(HD)は、冷凍食品ブランド「ロイヤルデリ」をリニューアルした。2019年12月から始め、商品ラインアップは全25品だったが、今回は「世界各国の料理」を掲げて全45品に拡大。10月30日からは「冬ギフト&クリスマスケーキ」の受け付けも始めた。

目下の販売は好調だ。2020年7~9月の販売実績は1~3月に対して4倍超。日本中が外出自粛となった4~6月期は同5.8倍だった。

なおロイヤルデリは家庭で食べる冷凍食品だが、これを店頭で提供するレストラン「ギャザリング テーブル パントリー(GATHERING TABLE PANTRY)」も東京・二子玉川で展開している。開店時は、現金不可、キャッシュレス専用という先進的な店づくりでも話題を集めた。

筆者は今年1月、まだ新型コロナウイルスが日本を直撃する前に同店を訪れ、味を楽しんだ経験もある。

コロナ禍でレストラン事業が厳しい局面のなか、同ブランドの責任者を取材し、その取り組みを聞いた。

■旅行ができない代わりに世界の料理を楽しんでほしい

ロイヤルデリの概要について、事業責任者である庵原(いはら)リサ氏はこう説明する。

「現在、ロイヤルホストは国内で219店を展開しますが、ロイヤルデリは空港内店舗を除き全店に導入し、店内でも販売しています。オンラインでの販売も同時並行しており、ロイヤルデリ事業全体に占める割合は『EC6割:店舗4割』(4~6月時点)。最近は店舗販売も伸びています」

※取扱商品は店舗により異なる

なぜ、今回「世界の味」を掲げたのか。

「コロナ禍での生活が続き、お客様がロイヤルデリに期待される役割も変わっています。海外旅行ができない現在、ご自宅でも旅行気分を味わっていただけないか、と考えました。

企業としてのDNA(遺伝子)もあります。当社は1951年の創業で、事業は日本航空国内線の営業開始と同時に、福岡空港において機内食搭載と空港内の喫茶営業から始まりました。その後、事業拡大に伴い、国内外の航空会社が運営する飛行機の機内食も担当。レストラン事業も行い“世界の味”を紹介するのは当社の得意分野なのです」

コロナ禍で大打撃を受けたが、同社の「機内食事業」は主力事業のひとつだ。世界の航空会社約30社向けに供給し、長年ファーストクラスからエコノミークラスまでの乗客・乗員が機内で味わってきた。レストラン事業と機内食で培った調理技術の蓄積もある。

ただし、「レストランの味を家庭で再現」はそう簡単ではなかった。

■レストランの味をどうやって再現したか

「ロイヤルホストでは、自社グループが運営するセントラルキッチン(工場)でつくられた食材を、各店のシェフがひと手間かけて仕上げます。例えば『シーフードドリア』の場合、セントラルキッチンでシーフードドリア用のソースを作ります。それを各店舗に運び、店内でバターライスを炊く、ソースを加える、シーフード具をのせる、粉チーズをふる、オーブンで焼くなどの調理作業を行い、店のお客様に提供します。

一方、ロイヤルデリのシーフードドリアは解凍した商品を外袋から取り出し、お皿に乗せてラップをかけ、電子レンジで温めるだけ。出来上がりから逆算して商品設計を細かく行う必要がありました。料理の味の総責任者である西田光洋(イノベーション創造部・R&Dシェフ)を中心に試行錯誤しながら仕上げていったのです」(庵原氏)

「ラザニエッテ」(右)と「海老とチキンのマカロニグラタン」
撮影=プレジデントオンライン編集部
「ラザニエッテ」(右)と「海老とチキンのマカロニグラタン」 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

ここで紹介した「シーフードドリア」は602円(+税。以下同じ)。人気の「ビーフシチュー」は723円、「バターチキンカレー」が538円、新たに加わった「魯肉飯」(ルーローハン)が602円となっている。商品の価格は1品で1000円を超えるものはない。商品ごとに電子レンジや湯煎して食べられるよう商品設計がされている。

ロイヤルデリのオンラインストアでは、これらの商品を「美食の国 イタリアのショートパスタ」「ヨーロッパの料理」「クラシック洋食」「旅気分で巡るアジア料理」「オリジナルカレー」「アメリカの料理」「パスタソース」「パン&スイーツ」「セットメニュー」とグループ分けして訴求した。「シェフのアレンジレシピ」もあるのは同社らしさだ。

ロイヤルデリの商品例(公式サイトより)
ロイヤルデリの商品例(公式サイトより)

■主力事業が軒並み大打撃を受ける

そんな甘い気分が吹っ飛ぶ現状も、紹介しなければならないだろう。

近年のロイヤルHDは、安定経営を続けてきた。2015年12月期の売上高は1303億円で、直近5年間は着実な右肩上がりを続け、2019年12月期の売上高(連結)は1405億円に拡大した。営業利益率の低下や経常利益の伸び悩みは懸念材料だったが、2019年は約46億円の経常利益を計上している。

それが、新型コロナウイルスで一変した。外出、出張や旅行の自粛、通勤の見直しなどで、屋台骨を支える主力の「外食事業」「コントラクト事業」(施設内のフードサービス事業)「機内食事業」「ホテル事業」「食品事業」の5大柱がすべて影響を受けたのだ。

外食事業のロイヤルホストは、2020年は2月まで売上高が「103%」(既存店前年比)を超えていたが、3月から一気に落ち込み、日本中が外出自粛となった4月は「42.1%」にまで落ち込んだ。現在は最悪期から脱したが、7~9月までは同80%台が続く。

今年10月27日に同社が「正社員200人規模の希望退職を募集」と発表したのも、この流れにある。OBを含めて従業員を大切にする会社が、雇用に手をつけたという事実。まだまだ「創業以来、最大の危機」(同社社員)が続くのだ。

実は「ロイヤルデリ」と、それを提供する店「ギャザリング テーブル パントリー」は、調理業務や接客業務の軽減を図る“働き方改革”と、生産性向上の両立の意味合いから手がけられた事業だった。それがコロナ禍で一変した。

「次世代の主力」として地道に育成する予定だったが、コロナ禍の在宅勤務や非接触の視点で脚光を浴び、ロイヤルHDの期待の星としてクローズアップされるようになった。だからこそ、同社は育成を急ぐのだ。

■家では作れない味と、ブランドがもつ安心感

ウィズコロナの現在、従来は当たり前だった「外出」や「外食」が特別な意味を持つようになった。そうなると飲食店の役割も変わっていく。レストランも居酒屋もカフェも、弁当やパンメニューなどテイクアウトに注力するのも、役割の変化のひとつだ。

お客が「レストラン」に求めるものは何か。少し引いた視点から考えてみたい。

筆者はかつて、大手食品企業の役員に「外食に求められる価値とは何でしょうか」と質問したことがある。

その役員は「家庭では再現できない味と雰囲気」と答え、例に「人気すし店」を挙げた。

当時はその通りだと感じたが、現在は“安心”の意味合いもあるだろう。

今回の外出自粛期間中、「人気カフェ店のECサイトでは、コーヒー豆やグッズが売れた」という話も聞いた。商品や公式サイトを通じて「ブランドとつながる」意識で、「あの人気店だから外れがない(はず)」という意味での安心だ。ロイヤルデリもロイヤルホストのブランドがあってこそ魅力度が増す。

台湾料理「魯肉飯(ルーローハン)」の調理例
撮影=プレジデントオンライン編集部
台湾料理「魯肉飯(ルーローハン)」の調理例 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

現在の消費者が「レストラン」に求めるものは、実店舗での飲食体験という“脱日常”以外に、自宅で楽しむ“異日常”も強まったのだ。

■55年前に「冷凍料理の時代が来る」と予言

同社にとって「ロイヤルデリ」は期待の星だ。縮小する外食市場に比べて中食(なかしょく)市場(出来合い商品を自宅などで食べる)は成長余地がある。まだ事業規模は小さいが、うまく育てば「外食事業のリストラクチャリング(再構築)」の可能性を秘める。

創業者・江頭匡一(きょういち)氏(1923‐2005年)は、1965年の社内報で「アメリカなどはすでに家庭冷凍料理時代である。日本もやがてそうなる。共稼ぎのご夫婦など、あじけない晩さんの日々が多いのではないか」と記し、食卓の未来を予想した。

ロイヤルデリ事業の運営責任者である庵原氏は、大学卒業後はサントリーに入社し、酒類ビジネスの営業に従事。個人飲食店への“どぶ板営業”から営業企画まで経験した後、日本サブウェイに出向し、取締役マーケティング本部長や同営業統括も務めた。ベンチャー事業や製パン業での経験も持つ。「もともと祖母が東京・銀座で経営していた料理旅館で、幼少時からお手伝いをしたことが『飲食の提供』への原体験だった」と明かす。

ロイヤルHDはOBを大切にする一方、“外様”でも活躍できる土壌がある。庵原氏に求められるのは、「外の風を送り込みつつ、内部の成長を再発火させる」役割だ。

「これから『自宅のぬくもり』が恋しい時期を迎えます。ロイヤルデリでは冬の限定スープセットもご用意しました。この時期に食べたい料理を味わいながら、レストラン仕様の簡単でおいしい料理を『ラクして楽しんでいただきたい』と思います」(庵原氏)

料理の味は“機能的価値”だが、簡単につくれるという気分は“情緒的価値”だ。

■目指すは「ウーバー」と並ぶ中食の代名詞

筆者は食品を「生活文化」の視点でも考察する。2011年には福岡県の「冷凍食品専門の大型スーパー」を視察・取材した。当時すでに「おいしい冷凍食品」を掲げていたのだ。9年後、同じ福岡県(福岡市)発祥のロイヤルHDが新たな訴求を始めたのに“縁”を感じた。

「ビーフシチュー」の調理例
撮影=プレジデントオンライン編集部
「ビーフシチュー」の調理例 - 撮影=プレジデントオンライン編集部

コロナ禍は企業や個人にとって大きな災難だが、一方で新たな生活文化も芽生えてきた。今回でいえば「冷凍食品のさらなる進化」だ。すでに食品メーカーの努力により、炒飯や餃子やタコ焼きなどの冷食は、かなりおいしくなった。外食業界の中には、「大阪王将」を展開するイートアンドのように、冷食事業がレストランに取って代わり、事業の柱になっている企業もある。ロイヤルHDはどうか。

「ロイヤルデリの事業はまだまだ小さく、レストランのような主力事業になるとは考えておりません。ですが、コロナをきっかけに成長していることから、いずれは中食の代名詞として選ばれるようになりたいです。『今日はウーバー(イーツ)か、ロイヤルデリにする?』というように、お客様の選択肢に当たり前のように入ることを目指しています」(庵原氏)

庵原氏は「歴史に名を残す仕事をしたい」もモットーだ。今年は日本で「冷凍食品100年」の節目とも聞く。1920年にニチレイの前身が始め、多くの先人がバトンをつないできた。

飲食に厳しい目を持つ日本の消費者と向き合いながら、「歴史に名を残す」が実現できるか。泉下の江頭氏も厳しく温かい目を向けているはずだ。

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高井 尚之(たかい・なおゆき)
経済ジャーナリスト/経営コンサルタント
1962年名古屋市生まれ。日本実業出版社の編集者、花王情報作成部・企画ライターを経て2004年から現職。「現象の裏にある本質を描く」をモットーに、「企業経営」「ビジネス現場とヒト」をテーマにした企画・執筆多数。近著に『20年続く人気カフェづくりの本』(プレジデント社)がある。

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(経済ジャーナリスト/経営コンサルタント 高井 尚之)

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