「仕事から逃げたかった」出会って半年でアプリ婚した女性の末路
プレジデントオンライン / 2020年11月16日 9時15分
■手書きの離婚届は提出までに手間がかかる
政府は、婚姻届と離婚届の押印廃止とオンライン化を検討している。これにより、日本の結婚や離婚はどう変わっていくのだろうか。
仮に押印が廃止になり、オンライン化が進んだ場合、まず懸念されるのは離婚件数の増加だろう。例えばデンマークでは2013年に離婚のオンライン化を導入したところ、離婚件数は増加。婚姻届を提出した夫婦の約半数に達したことが社会問題に発展したという。これと同じことが日本でも起こるのではないかという不安の声もある。
たしかに、現在の離婚届の提出には当事者2名と証人2名が署名と押印をしなければならず、手間がかかるのは事実。離婚に対する精神的なプレッシャーや自分の判断への迷いに加え、面倒な事務作業が存在することで離婚届を提出するハードルの高さを感じるケースもあるかもしれない。その点、オンライン化が普及すれば、ネット環境が整っていればいつでもどこでも離婚届を提出できるので、今より手軽に離婚ができることになる。
■不幸な結婚生活を長引かせるよりは、早く提出できたほうがいい
だが、離婚の手続きを簡略化することが、デメリットとは言い切れない側面もある。というのも、パートナーのDVや度重なる浮気、借金などによる現状が不幸と思える結婚生活であれば、離婚が正式に決まるまでの労力と時間は最小限に抑えたいもの。いたずらに不幸な結婚生活を長引かせるよりは、「幸せを目指すための離婚」ととらえ、人生をやり直すチャンスを早く、確実に手にするほうが望ましい場合もあるからだ。
もちろん、だからといって安易に離婚を決断するのではなく、パートナーとの関係を良好なものに修復していくためにお互いが努力することが大前提。そのうえで、難しいようなら少しでも早く次の幸せをつかむために“前向きな離婚”に踏み切るという選択肢もある。
■「結婚を安易に決めること」のほうが問題
だとすれば、オンライン化が進むことで問題になるのは、むしろ離婚届より婚姻届のほうではないだろうか。人生の節目となる結婚こそ、アナログで煩雑な手順を踏み、時間をかけて慎重に進めていくことが、「パートナーと人生を共にしていく」「新しい家族をつくる」といった覚悟を心に刻むための大事なプロセスになるからだ。
実際に、結婚までの手順を踏むことをおろそかにしたことが原因で、結婚後数年もたたないうちに離婚にいたったケースもある。代表的な例をみてみよう。
■「親のために急いで結婚→コロナ離婚」の夫婦
アパレル系の企業に勤務するS太さん(40歳)は、5歳年下の元妻と今夏に離婚を決めた。S太さんが結婚したのは38歳の時。地方に住む両親から知人を介して紹介された女性と数回会って結婚を決めたという。「特にピンときたわけではなかったけれど、自分の会社にいる女性と違って地味な雰囲気でおとなしそうだった」と、元妻と出会った時の印象を語る。結婚を決めた理由は、両親を安心させたかったら。
S太さんはこう話す。
「いつまでも身をかためようとしない一人息子の自分が帰省するたびに、年老いた両親から『いつ結婚するの?』としつこく言われていた。『孫の顔を見ないと死ねない』とも。とにかく結婚さえすれば、両親の心配はなくなると思っていた」
結婚して2年目となる今春、S太さんと元妻は二人とも新型コロナウイルスの影響でリモートワークになった。新婚旅行以来初めて長時間二人だけで四六時中一緒に過ごす生活を経験して、お互いに「この人じゃないな」と気づいたという。「ありきたりな言葉になるが、すべてにおいて相手とは価値観が違った。もっと早く気づいていたら、相手のことも両親も悲しませずに済んだのに」と後悔を口にするS太さん。「彼女は再婚してもまだ出産できる年齢。はやめに別れ、お互いにやり直したほうがいいと判断した」というS太さんは、秋から本腰を入れて婚活をはじめるつもりだ。
■「仕事から逃げたかった」アプリ婚の末路
29歳で結婚、32歳で離婚をしたY美さん(33歳)は、結婚した時の心境を「当時の私はとにかく仕事から逃げたかった。毎日の仕事のプレッシャーと、特別なスキルもないまま30歳になるのが怖かったのとで精神的に追い詰められていた」と話す。
そこでY美さんはマッチングアプリに登録し、何人かの男性と会ったのち、半年もたたないうちに6歳年上の男性との結婚を決めたのだった。Y美さんいわく、「正直な話、すぐに結婚してくれる相手なら誰でもよかった」。
結婚したら落ち着きを取り戻すと考えていたY美さんのメンタルは、意外にもさらに不安定になっていったという。
「まわりを見渡すと、同世代の友人の多くは30代になって責任のある仕事を任されていたり、愛するご主人と子育てに夢中になっていたりしていた。結婚はしていても、仕事のキャリアや家族への愛情など“何も持っていない”自分に焦る気持ちが募っていった」
その後、元夫には自分の正直な気持ちを打ち明け、夫婦で長い時間をかけて話し合った結果、離婚という選択をしたY美さん。現在はIT系の企業に就職し、新しい仕事に意欲的に取り組む日々だという。
「結婚への心構えがなく、身勝手だった私のことを理解してくれた元夫には感謝しかない。自分を磨く時だと思ってしばらくは仕事を頑張るが、いつか本当のパートナーと出会えれば再婚も考えたい」
■手続きは簡易化しても、結婚への心構えは必要だ
新型コロナウイルスの影響でオンライン化が進むとしたら、これまでとは異なる結婚への意識が必要になるだろう。なぜなら、コロナ以降、夫婦関係や家族のあり方が変化しているからだ。従来の「同じ屋根の下に暮らしていることが正しい家族」という形だけではなく、「同居していなくてもこのパートナーは大切な人」と考えられるかどうか。お互いを尊重できる夫婦関係を築けるかどうかも、新しい結婚の意識に加わるはずだ。
どんなに手続きが簡易化しても、結婚に対する心構えはしっかりと持っておくことが、ひいては離婚件数を増やさないことにもつながるのではないだろうか。
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夫婦問題研究家
NPO日本家族問題相談連盟理事長。株式会社カラットクラブ代表取締役立命館大学産業社会学部卒業、立教大学大学院 21世紀社会デザイン研究科修了。自らの離婚経験を生かし、離婚カウンセリングという前人未踏の分野を確立。これまでに25年間、3万件以上の相談を受ける。『最新 離婚の準備・手続きと進め方のすべて』(日本文芸社)『再婚で幸せになった人たちから学ぶ37のこと』(ごきげんビジネス出版)『離婚カウンセラーになる方法』(ごきげんビジネス出版)など著書多数。
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(夫婦問題研究家 岡野 あつこ)
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