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「一人前を家族の人数分」コロナで加速する"コンビニおせち"のおひとりさま化

プレジデントオンライン / 2020年11月9日 11時15分

厳選食材を使い「人気具材のブリの照り焼きのサイズをより大きくした」(安藤さん)など、一品一品グレードアップした「寿おせち三段重」。店頭受け取りのほか宅配もできる - 画像提供=セブン-イレブン・ジャパン

2021年のコンビニおせちで変化が起きている。感染予防で大勢での集まりを控える動きもあり、「個食化」に拍車がかかっているのだ。コンビニジャーナリストの吉岡秀子氏が大手3社に取材した——。

■おせち購入予定の人が約16%増えた

2020年も残すところあと2カ月足らず。家族や親せき、仲間同士で「正月、どうする?」という話題が出てくるころだ。

だが言うに及ばず、今年は違う。新型コロナ感染拡大防止のため「親が高齢なので、実家に帰省するのは辞めにした」(50代女性・自営業)、「年越しのカウントダウンは、毎年、親戚のいる海外で迎えていたが諦めた」(40代男性・会社員)などと、新たな過ごし方を決めた人は多い。

動きは早くから出ていた。8月に松屋銀座がウェブで行った「お正月の過ごし方・おせちに関する意識調査」では、「元日を自宅で過ごす人」は昨年から約1割増の73%。「おせちを購入する」と答えた人は約16%も増えた(2020年8月17~20日、公式メールマガジン会員約3万1000人対象、1440人回答・平均年齢51.6才)。我慢、我慢の日々を乗り越え、「正月くらいは、ゆっくりおいしい物でも食べたい」という心理が高まっていた様子がうかがえる。

そして今、予想どおりおせち商戦は、ヒートアップしている。だが、例年と同じように百貨店や有名ホテル、高級料亭の豪華おせちばかりに人気が集中しているわけではないようだ。「近所で買い物を済ませたい」「一度にまとめて買いたい」という新たな買い物ニーズが生まれ、コンビニおせちの注目度が高まっているのだ。

■すでに「個食化」が進んでいた

実際、セブン-イレブン・ジャパン(以下セブン)、ファミリーマート(以下ファミマ)、ローソンの大手3社に取材してみると、年末年始向け商品の予約は「好調だ」という。生活スタイルの変化を察知、各社とも昨年とラインナップを変えたことが奏功している。各社のおせち戦略を見ていきたい。

もともと近年、市販のおせちには、ある変化があったという。

「スーパーや百貨店で売り出されるおせちは世帯人数の減少を受けて、食べ切り・小容量といった『個食化』が加速しています」

と話すのは、セブン-イレブン・ジャパン商品本部、FF・惣菜部チーフマーチャンダイザーの安藤貴将さんだ。市場のおせちのお重の段数を確認しても、「一段重の構成比が上昇している」という。

加えて2021年の年始は、感染予防で帰省や大勢の集まりを控える動きがあると見て、安藤さんは「さまざまな過ごし方に合わせたおせちの品ぞろえを意識した」そうだ。具体的には、1人前、1~2人前、2~3人前、3~4人前と、人数に合わせて楽しめるさまざまなおせちを取りそろえた。

こうして変化に応じたアイデアが詰まったセブンのおせちだが、例年人気ナンバー1は「寿おせち三段重」(1万8360円・店頭受け取り)。3~4人前で、おせちに欠かせない伝統的な食材が詰まったリピーターの多い定番だ。

2021年版は、比較的手頃な価格はそのままで「人気の高いローストビーフや高級なアワビを3年ぶりに使用した」とよりスペシャル感をアップさせ「おいしいものを食べたい」ニーズに応えた工夫が見える。

■一人前のおせちを「家族の人数分」予約する人もいる

一方、新しいチャレンジも。開発が一番難しかったという一段重「招宝」(1万800円)は、料理にも精通したタレント・速水もこみちさんが監修。1~2人前の一段重というコンパクトな中で「お肉・海鮮のバランスを何度も見直し、見た目の配色に苦労しました」と安藤さんは話す。

1段重に21品目が並ぶ「速水もこみち監修おせち 招宝」。ローストビーフや有頭海老の艶煮など、和洋そろったメニューは彩り華やか。オリジナルの化粧箱に入っていて映える(画像提供=セブン-イレブン・ジャパン)
1段重に21品目が並ぶ「速水もこみち監修おせち 招宝」。ローストビーフや有頭海老の艶煮など、和洋そろったメニューは彩り華やか。オリジナルの化粧箱に入っていて映える(画像提供=セブン-イレブン・ジャパン)

味同様、見た目にもこだわったのは、「1年の始まりをおせちで元気に」という思いを届けたいと考えたからだそうだ。確かに、2020年は明るい年だったとは言えない。来年をいい年にという願いを込め、元気が出そうな華やかなイメージは、おせち選びのポイントになる。

思えば少人数用のおせちの開発で苦労した話は、過去あまり聞いたことがなかった。やはり今年のおせち商戦は、いつもと違うと思う。家族でテーブルを囲む予定だとしても、コロナ感染防止対策で一人前のおせちを「家族の人数分」予約する人もいるようだ。セブンに限ったことではないが、2021年の売れ筋おせちのキーワードのひとつは「おひとりさま」と言っていいだろう。

■ローソンは『鬼滅の刃』のおせち

ローソンも、1~2人前の一段重おせちを増やした。過去にも少人数用が好評だった実績もあるそうだが、今年は2品に。鹿児島産安納芋を使ったきんとんや、神戸牛のしぐれ煮を盛りつけた「和風一段重」(9800円)と、『鬼滅の刃』とタイアップした「『鬼滅の刃』おせち一段重(1万5800円)だ。開発していたころ、爆発的な鬼滅ブームが起こることを想定していたかは定かではないが、お重や中蓋シートにアニメキャラクターがデザインされ、オリジナルの市松模様柄の風呂敷に包まれているとなれば、ファンならずとも見逃せない。エンタメ性がハレ商材の武器になる好例だ。

オリジナルお重でレア感たっぷりの「『鬼滅の刃』おせち一段重」(一部取り扱いのない店舗あり)。年始早々、元気が出そう(©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable ©Lawson, Inc.)
画像提供=ローソン
オリジナルお重でレア感たっぷりの「『鬼滅の刃』おせち一段重」(一部取り扱いのない店舗あり)。年始早々、元気が出そう(©吾峠呼世晴/集英社・アニプレックス・ufotable ©Lawson, Inc.) - 画像提供=ローソン

ローソンのおせちには、もうひとつ違ったトレンドがあるという。

「Pontaデータを見ると、近年おせち全販売数に占める『プレミアムおせち』(3万円以上)の比率が上がっている傾向があるんです」

と、広報担当の持丸憲さんは言う。

■3万円以上のおせちが50代に人気

今回、3社のおせちをリサーチして気づいたが、最も高価なのがローソンの「プレミアム和風三段重」(3万9300円・3~4人前)。一瞬、誰が買うのかな? と思ってしまったが、特に50代に人気が高いという。舌の肥えた大人世代が支持していることから、細かい味の説明は不要だろう。メニュー一品一品、厳選した国産食材にこだわったお重は圧巻だ。

長崎県産黒鮑の旨煮、気仙沼産ふかひれなど、国産食材37品目が勢ぞろいした贅沢な「プレミアム和風三段重」。コンビニのおせちの中では高価格だが人気が高い
画像提供=ローソン
長崎県産黒鮑の旨煮、気仙沼産ふかひれなど、国産食材37品目が勢ぞろいした贅沢な「プレミアム和風三段重」。コンビニのおせちの中では高価格だが人気が高い - 画像提供=ローソン

その他、宅配専用のペット用(愛犬用)の「コミフデリ 招福おせち」(4320円)などもそろえているのがローソンの特徴。ふだんから“ご近所ユーザー”の多いコンビニならではだ。思い思いの正月の楽しみ方に応える。

■「ちょっと贅沢なおせち」が人気

最後にファミマのおせちは、バリエーションが豊かだ。ファミマのオリジナルおせちと三越のおせち、2ブランドをそろえる。

広報担当の樋口雄士さんによると、「帰省や海外旅行を控えて自宅で過ごす『巣ごもり需要』があるためか、三越のおせちの受注状況が昨年より伸びている」らしい。三越では京都の老舗名店のおせちなど、多彩に取り扱っている。「ちょっと贅沢」なおせちに人気が集まっているようだ。

(左)「八百彦本店 和洋三段重(冷蔵)」/(右)「八百彦本店 和洋中一段重(冷蔵)」。ファミマのおせちは、今年から店頭受け取りか宅配かを選択できるようになった
画像提供=ファミリーマート
(左)「八百彦本店 和洋三段重(冷蔵)」/(右)「八百彦本店 和洋中一段重(冷蔵)」。ファミマのおせちは、今年から店頭受け取りか宅配かを選択できるようになった - 画像提供=ファミリーマート

ファミマオリジナルおせちの中では、「八百彦本店 和洋三段重」(2万1000円・3~4人前)が人気だ。名古屋の名店監修の味、46種がそろった豪華版。また「今年は、幅広い年齢層の方に召し上がっていただけるよう、和風テイストだけでなく、中華を加え、和洋中のメニューがそろった一段重もそろえました」(樋口さん)

他にも「一段重二個セット」なるユニークな“完全個食タイプ”もあり、「おせちの食べ方の変化」を意識した商品が目立つ。

■「個食」はコンビニの得意分野

と、各社のおせちの違いが少しわかっていただけただろうか。

まとめてみると、コンビニおせちの価格帯は1万円未満~4万円未満。中でも2万円前後の価格帯が売れ筋だ。ただ、コンビニはほとんどの人にとって自宅から一番近い店だけに、「今年はおせちだけでなく、パーティーメニューや、忙しい年末に召し上がる予約弁当なども好調です」(セブン広報担当)と、「外出して遠くまで買い物に行くのは控えたい」という消費者心理が表れているようだ。

今回のリサーチで興味深かったことは、もともとおにぎり、サンドイッチ、スイーツなど、さっと食べられる個食タイプが得意なコンビニで、本格的なおせちまでも個食タイプがおススメに“昇格”していたことだ。

もちろん高齢化など社会環境の変化があり、新型コロナが原因とは言い切れないが、この変化は今後注目していきたい。コンビニおせちも新様式が当たり前になり、いつか新しい正月メニューが誕生するかも。まずは、2021年版の新おせちをチェックしてみてはどうだろう。

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吉岡 秀子(よしおか・ひでこ)
コンビニジャーナリスト
関西大学社会学部卒業。会社員生活を経て、フリーランス記者として独立。2000年代前半からコンビニ業界に密着した取材を続け、ビジネスや暮らしに役立つコンビニ情報を各メディア、講演などを通じて発信中。近著に『コンビニ おいしい進化史』(平凡社)。その他著書に『セブン-イレブン 金の法則』(朝日新書)など多数。

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(コンビニジャーナリスト 吉岡 秀子)

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