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落ち着けドナルド「ボケた爺さん」と腐した敵に負けるべくして負けた最大の敗因

プレジデントオンライン / 2020年11月9日 19時15分

「ストップ・ザ・スティール」の抗議行動に賛同者が集まる中、ドナルド・トランプ米大統領の頭の切り抜きを手にする女性がいる=2020年11月9日、アリゾナ州、フェニックス - 写真=ロイター/アフロ

大統領選は共和党のトランプ大統領の敗北が決定的になった、と米メディアが報じている。コミュニケーション・ストラテジストの岡本純子氏は「トランプのコロナ対策や国民間の憎しみや分断をあおるやり方が裏目に出た。常識外れの言動にも嫌気がさしたのだろう。当確のバイデンは能面のようで話の熱量も低くワクワク感はない。だが、深謀遠慮のコミュニケーション戦略が功を奏した」という——。

■消去法ではない。最後に地味な「トランプじゃないほう」が残ったワケ

混迷を極めた米大統領選は、前副大統領のジョー・バイデン氏(77)が現職のドナルド・トランプ氏(74)を破ることが決定的になった。

エネルギーや派手さに欠け、「トランプじゃないほう」という消去法で選ばれたにすぎないという考え方もあるが、実は深謀遠慮のコミュニケーション戦略が功を奏したという側面も見逃せない。

声が大きく、自信満々な人の陰になり、注目を集めにくい地味な人でも、「大スター」を破り、主役の座に躍り出ることができた理由は何だったのか。今回は「控え目で、目立つことができない人が成功を収めるためのコミュニケーション戦術」について考えてみたい。

■共和党支持者「(トランプの)憎しみや分断を煽るやり方は許せない」

この選挙戦でも、人々の注目はトランプ氏に一点集中した。お騒がせな言動で、メディアの関心を独占し続け、バイデン氏はもう一人の主役どころか、準主役、下手をすれば、主役の引き立て役ぐらいの位置づけだった。確かにバイデン氏は能面のようで、表情に乏しく、熱量はトランプ氏に比べて、明らかに低く、その話を聞き、ワクワクしたり、扇動されたることもない。

マイノリティではない、女性ではない、急進的ではないなど、引き算的に民主党候補として選ばれたかに見えるバイデン氏だが、大統領選でも「トランプではないほうの選択肢」として、勝ちを収めたかのようにも思われるている節がある。新型コロナ対応の失敗や分断を助長する言動などへの激しい怒りと恐怖が多くの有権者を反トランプへと駆り立てたのは事実だ。

アリゾナ州に住む共和党支持者の女性(70)は前回、トランプ氏に投票したが、そのあまりに常識外れの言動に嫌気がさし、今回はバイデン氏を選んだという。「憎しみや分断をあおるやり方を許すわけにはいかなかった」「コロナ対策などに憤りを覚えた。このやり方でアメリカが良くなるとは思えない」と、その「転向」の理由を語っていた。

■「Sleepy Joe」(寝ぼけたジョー)と腐したトランプの敗北の本質

バイデン氏は77歳と高齢で、トランプ氏やオバマ前大統領などと比べると、カリスマ性はさほど感じない。しかし、以下のような点で、実は用意周到なコミュニケーション戦略を練っていたと考えられる。

①「秘すれば花」のギャップ戦略

能の大家、世阿弥の言葉に「秘すれば花」と言うものがある。「黙っているほうがいい」「目立たない方がいい」と解釈されがちだが、「本当の魅力や価値は、普段は秘めておき、いざというときに披露して相手を驚かせ、感動を勝ち取る」というのが、その本当の意味だ。

いつもはその才能を隠しておいて、いざというときに、圧倒的な実力を発揮して、評価を得るということ。そもそも、バイデン氏にとって、ある意味ラッキーだったのは、トランプ氏が徹底的に、「Sleepy Joe」(寝ぼけたジョー)などとバイデン氏をこき下ろしていたことだった。

つまり、「バイデンは年寄りで、まともな話もできやしない」というイメージを作り出し、ハードルを下げてくれていただ。しかし、ディベートなどで、その年歳とは思えぬ弁舌で、熱を込めて語るなど、「ボケたおじいさん」以上のパフォーマンスを発揮し、「案外やるじゃん」と安心した人は少なくなかった。つまり、そのイメージとのギャップ戦略が功を奏したというわけだ。

5日連続の反トランプ抗議デモに数百人が参加、2016年11月13日
写真=iStock.com/Bastiaan Slabbers
※写真はイメージです - 写真=iStock.com/Bastiaan Slabbers
②徹底的に敵失に乗じる

トランプ氏の最大の敗因は、自分の岩盤支持層に憑依しすぎたことだろう。彼は愛されることに貪欲で、自分を愛してくれる人の方にどんどんと考え方を吸い寄せられるところがある。ディベートの場で、バイデン氏と司会者がタッグを組み、トランプ氏を追い詰め、極右主義者と同調するコメントを引き出し、共和党の穏健派や民主党支持者たちの嫌悪感を極限まであおることができたのは、バイデン氏側にとっては非常にラッキーだった。

バイデン氏は時折、怒りを見せながらも、トランプ氏の挑発にも乗らず、乗り切った。あの場で、怒りを爆発させる、認知力の衰えがうかがえるような言動をしていれば、トランプ氏は容赦なく、攻め立ててきただろう。

一回目のディベートで、一方的にトランプ氏がまくしたて、場を支配してしまったことで、バイデン氏は逆に、ぼろを出さずに済んだとも言える。とにかく、大きな間違いをせず、相手の失敗を引き出す、という戦略は奏功したわけだ。

USA Today紙は「バイデンの戦略はトランプのやり方を踏襲しないこと」という記事の中で、「ミスをしがちなバイデンがやるべきことはただ、息をし、慈愛に満ちた表情を保つこと」と解説している。徹底的に、トランプにスポットライトを支配させ、その敵失を誘いだすことを優先させたのだ。

■バイデン「大統領は暴言妄言をばらまき、ヘイトに酸素を送り込んだ」

③憎しみではなく、愛が勝つ

きわめて自己愛の強いトランプ氏は、支持してくれる人には寛容だが、敵意を見せる人を絶対に許すことができず、徹底的に攻撃を仕掛ける。それが熱心な支持者には痛快だったわけだが、一部の共和党支持者に嫌悪感を与える結果ともなった。

暴言・虚言・妄言をばらまき、ヘイトをあおることで、自分の岩盤支持層を固めることには成功したが、結果的に、国の分断に拍車をかける結果となった。バイデン氏が徹底的に突いたのがそうした彼のやり方だ。「トランプはまるで悪の帝国を作り、アメリカという国をぶち壊そうとする暴君」という恐怖のイメージを人々の中に埋め込んだのだ。

「この大統領はヘイトに酸素を送り込み、地中の岩の間からヘイトを呼び起こす」といった言葉で、「邪悪な皇帝」への怒りと恐怖をあおり、「平和を求める戦士たち」の覚醒を試みた。

大統領選後に、民主党の面々をアメコミの「アベンジャーズ」のヒーローたちにたとえ、悪の帝王をやっつける動画が、拡散したが、まさに、バイデン氏が用意周到に描き出したのは、そういった古き良き、勧善懲悪のヒーローたちのストーリーだ。

■「アメリカンヒーロー」ストーリーだけでは団結と威光を取り戻せない

その上で、憎しみを憐憫や慈悲で置き換えようとも呼びかけた。ディベートでは、新型コロナで家族を失った人たち、国境で親と引き離された移民の子供たちのことなどに触れたが、そういった人の持つ哀れみや愛を強調する場面では、カメラを見据えて、切々と訴えかけた。

「私、そして多くの人が『喪失』がどういったものかを知っている。愛する人を失ったとき、あなたの胸の中には深く黒い穴が広がっていく。そしてその中にのみ込まれるような感覚を覚えるのだ」

岡本純子『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)
岡本純子『世界最高の話し方』(東洋経済新報社)

妻と長女を事故で、長男を病気で失ったバイデン氏だからこそのこの言葉は多くの人の心を揺さぶった。憎しみよりも、人間の持つ本能的な思いやりや愛が勝つのだ。そういった情緒的なメッセージに安心感を覚えた人は少なくなかった。

バイデン氏は「私は誇り高き民主党員として出馬したが、約束する。自分に投票をしてくれた人、そしてしてくれなかった人、万民のために、アメリカの大統領として統治することを」「国としての魂を復活させ、国を救う」と訴えたが、分断の壁を打ち破るのは、容易ではない。

そもそも、トランプを支持する人たちが無知蒙昧な民であるという認識に基づく「エリート思想」に対する反感がトランプ現象を引き起こした教訓を十分学ぶ必要もあるだろう。「友愛や希望」といったシンプルでオールドファンションな「アメリカンヒーロー」ストーリーだけで、その団結と威光を取り戻せるほど、生易しい事態ではないことは明らかだ。

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岡本 純子(おかもと・じゅんこ)
コミュニケーション・ストラテジスト
グローコム代表。企業やビジネスプロフェッショナルの「コミュ力」強化支援のスペシャリスト。リーダーシップ人材の育成・研修などを手がけるかたわら、オジサン観察も続ける。著書に『世界一孤独な日本のオジサン』(角川新書)などがある。

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(コミュニケーション・ストラテジスト 岡本 純子)

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