「勝俣州和ファン0人説」から読み解くテレビとYouTubeの決定的な違い
プレジデントオンライン / 2020年11月15日 9時15分
※本稿は、関口ケント『メディアシフト YouTubeが「テレビ」になる日』(宝島社)の一部を再編集したものです。
■タレントと商品の“共通点”を見いだす
芸能人ユーチューブチャンネルの運営を担う会社、というと、「台本を書いている」と思われがちですが、僕たちは台本を書くことはいっさいありません。むしろ、セリフの細かい指示を出した瞬間、そのチャンネルはつまらなくなります。では、何をするかというと、ロジック構築。この動画をなぜやるか、という設定にはとことんこだわっています。
僕たちは膨大に案を出してからロジックをいくつも抱え、タレントと必ず事前に打ち合わせをし、「僕たちはこう考えている。どう思いますか?」と投げかける。そこで否定されることもあるし、否定されてもそのままやることもあります。
そして、これを何度もくり返していくと、芸能人も僕たちの狙いがわかってくる。視聴者からのコメントも当然見ることになり、たしかにこうすればよかったな、とアップデートしていくことになります。
先ほど、「案件」について記しましたが、そもそもユーチューブの場合は、ステルスマーケティングへの対策から、「案件である」ことを明示しなければなりません。それ抜きにしてただ商品紹介をする、というのはありえません。
たとえば、何かお菓子をタレントに紹介してもらうとき、そのお菓子とタレントの共通点を見つけなくちゃいけない。大事なのは視聴者(お客さん)に好かれること。それって、紹介する商品が好かれることではなく、その商品を紹介するコンテンツ自体を好きになってもらうことが肝になります。
■PRでのウソは絶対にNG
実際、プロモーション的なものって結構炎上することもあるし、うさん臭くなることもありますが、逆にファンが「いいお題をありがとう」となる案件の場合だってある。
とにかく、一番に考えるべきは、面白いかどうか。このタレントを見よう・見たい、というノリの延長線上に新しい話題として案件ネタが入ってきても、結果、受け入れる気分になってもらえればOK。だからこそ、そのコミュニティに対してアレルギー反応を起こさせないようにどう加工するか、というのがすごく大事になります。
その意味でも、ウソはユーチューブで一番、忌み嫌うべきもの。もし、過去に一度でも「チョコレートは嫌いだ」と発言したことがあるタレントの場合、チョコのプロモーション案件は絶対NG。そのウソは必ずバレます。
そして、商品紹介=ビジネスのためについたウソによって、ウソつきのレッテルを貼られて信頼関係を失います。視聴者は「このタレントとは親友だ」くらいの目線で見ているわけですから。それでもやる場合は、「VSシリーズ」のような企画にすれば、まだ可能性があります。「昔、『嫌いだ』と言いましたけど、克服してみせます」というやり方です。もちろん、内容が面白いのは必須条件です。
■知名度があれば成功できるわけではない
「俳優の佐藤健がユーチューブチャンネル開設3日で登録者数100万人突破!」
「ジャニーズ退所の手越祐也、ユーチューバー転身でチャンネル登録者数100万人超」
「石橋貴明完全復活。チャンネル登録者数100万人超えの大盛況!」
こんな記事が賑わいを見せた2020年上半期の芸能界。大物タレントや俳優、アイドルによるユーチューブ挑戦と盛況ぶりがいくつも報じられ、話題になりました。ただ、こうした成功事例は目立ちはするものの、実際には少数派。その陰で、まったく話題にも上らない芸能人チャンネルが、雨後のタケノコのように乱立状態です。
また、一時的に人気を得た企画動画があってもその後が続かないなど、安定したチャンネル運営ができる芸能人は意外なほど少ない。ユーチューブでもテレビ同様に成功する芸能人と、うまくいかない芸能人とで明暗が分かれ始めています。その差はどこにあるのか、業界的にもみなさん気にしているところです。
ミュージシャンなのか、俳優なのか、タレントなのか、お笑い芸人なのか。その立ち位置によっても考慮すべき点はいくつもあります。ただ、多くの芸能人、そして芸能事務所が気づいていない点。それは、テレビとユーチューブとでは求められる評価軸が違う、ということです。
■芸能人の評価軸は2種類しかない
その評価軸とは、〈認知度〉か〈人気度〉か。
実は、芸能人・タレントにとっての大きな評価軸は、この2つしかありません。テレビというメディアでは基本的に認知の層を獲得できる人やコンテンツが求められ、ウェブメディアではどちらかというと人気を取っていくコンテンツが求められる。
言い換えれば、一方的に与えられるのがテレビというメディアで、視聴者・利用者が自ら選びにいくのがユーチューブをはじめとしたウェブメディア。そのメディア特性の違いが〈認知度〉〈人気度〉という評価軸の違いになって表れます。この違いに気づいていない人がテレビ関係者にも芸能関係者にもとても多いのです。
テレビタレントがユーチューブに挑戦してもなかなかうまくいかない場合、大きな原因はここを意識していないことにあります。逆に、人気のあるユーチューバーがテレビに出てもハマらない、というのも同様で、評価軸の違いに気づかずに苦しんでいるのです。
2014年、TBS系のバラエティ「水曜日のダウンタウン」で、おぎやはぎの矢作兼さんが提唱した「勝俣州和ファン0人説」という企画がありました。この視点がテレビとユーチューブの違いを理解する上でも好材料だったのでご紹介します。
■知名度が高くても「ファン0人」なワケ
勝俣州和さんといえば、テレビで活躍している芸能人の代表格。あちこちの番組にゲストで呼ばれていますし、レギュラーも多数。朝・昼・晩、どの時間帯の番組にも起用されるので、世代を問わず、勝俣さんを知らない人は、テレビを見ている人にはほとんどいないのではないでしょうか。つまり、認知度はとても高い。
しかし、勝俣さんのグッズを持っている人、と言っては失礼ですが、見たことがありません。あれだけテレビに出ているということは、勝俣さんを嫌いという人がいない証拠とも言えますが、逆にものすごく好きな人もいない。
それを裏づけるように、勝俣さんが2020年4月に開設したユーチューブチャンネルも当初は苦戦続き。2カ月経過した6月時点ではチャンネル登録者数は2000人ほどで、動画再生回数も1本が1000回に満たないものが目立っていました。
勝俣さんの場合、勝俣さん自身がつまらない、ということではもちろんありません。むしろ面白いんです。ただ、勝俣さんが何か始めるということに対して、アンテナを張っている人が少ないため、気づかれていないだけ。「勝俣州和、実はユーチューブやってます!」とウェブメディアの大通りに看板を出せていない、ということを意味しています。
ちなみに、勝俣さんのチャンネルはその後、「ファン0人説を裏づける不人気ぶり」という形で話題になり始め、少しずつチャンネル登録者が増加中。勝俣さん自身も「ファン0人説」に言及する動画をアップして視聴回数を稼いでいます。ユーチューブ人気がないタレント、というポジション取りが成功しつつあるのでしょう。
■「なんでもできる」はYouTubeではむしろマイナス
コロナ禍の4月だけで、芸能関係者からユーチューブチャンネル開設について100件以上の相談がありました。そのうち、この「認知度」と「人気度」の違いについてわかった上で相談に来た人は、たった1人。その1人というのは20代の新人マネージャーでした。
そして、現場担当者はわかっていても、上の決裁が下りないと結局うまくはいきません。その結果、100件以上の相談でも実際に僕らが動くことはありませんでした。
なぜなら、コンテンツとして戦う上での前提条件がそろっていないわけですから。これこそが、「あの有名芸能人がこれしかユーチューブで数字を取れないのはなぜ?」現象の根幹なのです。
テレビの世界では認知度も好感度も高い勝俣州和さんのユーチューブチャンネルが開設当初は跳ねなかった理由のもう1つは、「なんでもできるオールラウンドプレーヤー」であること。これまでの利点がマイナスに作用してしまった。
なんでもできる・こなせるからこそ、テレビの世界では「収録でスタジオに1人いると便利」と重宝されるわけですが、ウェブの世界ではむしろ逆。オールラウンドプレーヤーはキャラクターとしては埋もれてしまいがちです。
だから、もし勝俣さんが本気でユーチューブに打って出たいなら、勝俣さんが好きなこと・得意なことに絞って発信していく。特定のジャンルが好きなファンに刺さるようなものを地道にコツコツ出し続けることで、そのジャンルでの支持を集めていく。これが結局は最短距離なんです。
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YouTubeアナリスト、Wednesday CEO
1989年東京生まれ。26歳で妖怪ウォッチ公式YouTubeチャンネルを立ち上げ、チーフプロデューサーとして流行を生み出す。2017年に、テクサ(現ライバー)の執行役員に就任し、YouTuber50人ほどのチャンネルコンサルティングを担当。多くの人気YouTuberを育てる。2019年にWednesdayを立ち上げCEOに就任。現在、神田伯山、関暁夫、島田秀平、登坂淳一、はなわ、KAMIWAZA、よしお兄さんなどのチャンネル運用を行うなど、YouTubeに軸足を置いて他角的に広がるビジネスを大量に推進している。
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(YouTubeアナリスト、Wednesday CEO 関口 ケント)
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