「アツギSNS問題」女性担当者でも、ジェンダー炎上してしまうたった一つの理由
プレジデントオンライン / 2020年11月12日 17時15分
■タイツのキャンペーンのイラストが「性的」と炎上
11月3日、ツイッタートレンドには「ATSUGI」「性的搾取」「性的消費」など強烈なワードが並んだ。昭和22年創業の老舗タイツメーカー・アツギの公式ツイッターアカウントが「女性を性的に消費している」などと批判を浴びて炎上したのだ。
つい先日は、タカラトミーの公式ツイッターアカウントが「(リカちゃんの)個人情報を暴露しちゃいますね」と投稿して炎上して謝罪したばかりだ。何が起きているのか?
アツギの公式アカウントは、11月2日のタイツの日に合わせて、「#タイツの日」「#ラブタイツ」のハッシュタグをつけて以下のように投稿した。
「11月2日は#タイツの日 なんと……本日のために様々なイラストレーターさんにアツギの商品を着用した女の子を描いて頂きました! タイツの日、1日を通して朝・昼・夜のシチュエーションで女性の脚もとを彩るタイツ・ストッキングのイラストをお楽しみください」
投稿の目的は、タイツの日に合わせて自社商品をPRするキャンペーンの告知だった。「#ラブタイツ」のハッシュタグとともに、タイツやストッキングを履いた女子高生や会社員、キャビンアテンダントなどの若い女性のイラストを次々に投稿した。そのイラストが、「ストッキングを履く女性を性的な目で見ている」などと批判され、炎上したのだ。
アツギの公式アカウントが投稿したのは、タイツを見せるために脚元を強調したイラストが多く、太ももを強調した若い女性やスカートの中が見えそうな女子高生のイラストなど。一部には、メイド服の女性が自分でスカートをめくって脚を見せる仕草をするものもあった。
それに続けて、公式アカウントは「素敵なイラストばかりで、動悸がおさまらないアツギ中の人。みんな……めちゃくちゃ可愛くないですか………」と投稿した。
すると、イラストに加え、「動悸がおさまらない」などタイツを性的に捉えるような発言を公式アカウントが行ったことに対して批判が集中した。特にアツギのターゲット層である女性ユーザーからは、「誰向けのPRなのか?」「これを見てタイツを買いたくはならない」と厳しい意見が噴出した。
こうした事態を受け、公式アカウントでは3日午後9時10分に「ラブタイツキャンペーンに関するお詫びとご報告」と題した投稿とともに、ホームページに以下のような謝罪文を掲載した。
「本来であれば、“すべての女性の「美」と「快適」に貢献したい”という弊社のビジョンを一人でも多くのお客様へ知っていただきたいという思いのキャンペーン施策であり、タイツのある生活シーンを想起していただきタイツとファッションを楽しんでいただきたいという企画趣旨であったにも関わらず、弊社内における確認体制やモラル意識の甘さにより、現在アツギ製品をお使いいただいております多くのお客様の期待を大きく裏切る結果となってしまいましたことを深く反省しております。」
また、「イラストにつきましては、全て事前に弊社で監修しており、イラストレーターの方々に非は一切ございません」と述べ、アカウントの更新を止めている。(2020年11月10日現在)
■「個人的な投稿を企業公式アカウントで行う」と宣言
実は炎上以前から、「(リカちゃんの)個人情報を暴露しちゃいますね」と公式ツイッターで投稿して大炎上したタカラトミー同様、アツギの公式アカウントも今回の事態につながるような危うい投稿やリツイートを繰り返していた。
今回のキャンペーンにも参加していた人気イラストレーターのよむ氏と企業公式アカウントを通して個人的な内容で交流をしたり、よむ氏が発売した成人向け要素の強い画集をリツイートしたりしていたのだ。
そもそもアツギの公式ツイッターの説明欄には、「アツギの公式アカウントです!レッグウエア・インナーウエアの新商品や人気アイテムから……担当者の日常など、つぶやきます。」とあり、最初から担当者の個人的な投稿を企業公式アカウントで行うと宣言していた。この運用そのものに危うさがあった。
これまでの投稿が問題にならなかったことから、次第に感覚がまひして今回のキャンペーンに至ったとも考えられる。
炎上後、あるユーザーは以下のように投稿している。
また、11月2日はもともと、「#タイツの日」のハッシュタグとともにタイツを履いた女性のイラストが多数投稿される日だ。その中には性的なニュアンスのイラストも多い。担当者はツイッター上での情報拡散を狙って、こうしたインターネット上の文脈を踏まえて企画したのかもしれない。
ツイッターユーザーの中には、「絵自体は可愛いが、企業がこれを勧めていることが理解できない」「オタクが内輪で盛り上がるには良いが、公式アカウントのツイートだとしたら意図が分からない」といった反応も多い。今回は、担当者の個人的な趣味や価値観、もしくはインターネット文脈に寄せ過ぎたキャンペーンを企業公式として行った末に、企業としての見識を問われ炎上したと推測できる。
タカラトミーもアツギの場合も、投稿の動機は純粋に自社商品のPRだったはずだ。にもかかわらず、タカラトミーの場合は幼い子どもを持つ保護者、アツギの場合は幅広い年齢層の女性など、自社商品を買ってくれる当の顧客をないがしろにする投稿で深くブランドを傷つけてしまった。
■女性担当者であってもジェンダー問題が起きる背景とは
今回の炎上には一つの特徴がある。「女性の性的消費」「男性目線の投稿」といった批判が多く挙がったが、アツギの公式ツイッター担当者および参加したイラストレーターの多くは女性だったのだ。
女性が対象となるジェンダー問題で炎上した場合などには、「女性視点が欠けている」「女性担当者が不在」と指摘されることが多かった。過去には、オムツメーカーの日系企業の動画がジェンダー問題で炎上した際、好対照な動画で評価を得ていた外資系企業と日系企業の“役員の女性比率”の違いが話題となったこともあった。多様性に満ちた動画を上げていた外資系企業のほうが、圧倒的に役員の女性比率が高かったのだ。
では、実際にこうした過去の炎上事例では、女性担当者が不在だったのだろうか?
実は必ずしもそうではない。筆者自身が見聞きする範囲でも、ジェンダー問題で炎上した広告施策で女性担当者が含まれていたものはいくつもあった。また、常識的に考えても多くの人と予算が関わる広告施策に、女性が一人もいないことは考えにくい。
それでも炎上した理由として考えられるのは、
1)組織の中で序列が低いなど女性担当者の意見が通りにくかった。または、女性がごく少数派で意見が言いにくかった
2)女性担当者が男性社会や男性向け市場に馴染む中で男性社員と視点が似通ってしまった
3)女性と言ってもいろいろな考え方の人がいるため、純粋に問題があると感じなかった
などである。
1)2)の場合には、ツイッターを含む広告施策の運用に限らず、多様性の観点から企業として組織のあり方そのものを見直す必要があるだろう。この問題は別途議論を深めるべきだ。しかし、今回の事例は3)の要因が大きいと推測される。
アツギの炎上問題の主要原因を推察すると以下の通りだ。
・ツイッター担当者(部門)のリテラシー不足
・社内の確認体制の甘さ
・リツイート数などの数字を追いすぎた可能性
今回は、明らかにツイッター担当者や企業自体に「タイツを性的な目で見られることで起こる問題、性犯罪の助長」などに対する見識不足があった。また、個人アカウントでの発信ならOKでも、社会的に影響力のある大企業がオフィシャルに伝える内容として適切かどうか、多様な立場の人が見た時にどう感じるか、について考えが至らなかったと思われる。
社内の確認体制については、同社がメディアの取材で「複数の人が監修した」と明言しているので、担当者一人の暴走などではなく企業公式としてこの内容をOKだと捉えていたとわかる。ダブルチェック体制の甘さというよりは、炎上しやすい話題の把握など、認識の甘さに気づくための体制不足があった。
また、推測の域を出ないが、話題になりやすいインパクトのあるイラストを使ったキャンペーンや執筆時点でフォロワー数3.2万人のアツギのアカウントが、フォロワー数91.7万人の人気イラストレーターと交流していたことなどは、フォロワー数の増加など数字的な成果を狙う意図があったのかもしれない。
SNSマーケティングに詳しいスパイスボックスの小谷哲也氏は、「企業が運用するツイッター公式アカウントがフォロワー数をKPIにするのは一般的で、他にも『いいね』や『リツイート』などもKPIになる」と話す。
■燃えやすい要素とツイッターをはじめる前に企業がすべきこと
企業の公式アカウントでの炎上を防ぐには、どこの会社にも起こり得る問題として性別にかかわらずツイッター担当者や部門全体のリテラシーを上げていくことが必須だ。
ソーシャルメディア上で炎上しやすい要素をあらかじめ押さえた上で、今社会で起きている問題、話題に常にアンテナを張り投稿内容に問題がないか多様な視点で複数者が確認することが重要だ。
ソーシャルメディアで炎上しやすい話題について、山口真一氏著の『炎上とクチコミの経済学』(朝日新聞出版)で以下のように区分しているので参考にしていただきたい。
また、多くの場合、企業がツイッターの公式アカウントを運用する目的は商品の売上向上にある。そのため、どうしても自社のPRにつなげようと話題になりやすい投稿をしたくなる。
今回のタカラトミー、アツギの炎上事例からわれわれが学ぶべきことは、一人の担当者が(特に自己判断で)投稿をし続けた場合、「話題になる」ことを目指すあまり、近視眼的になりやすい可能性が“極めて高い”ということだ。
担当者任せにするのではなく、企業として運用体制の構築に取り組むことが求められる。企業がツイッター公式アカウントを運用するにあたって、少なくとも以下についてはひと通り組織として準備した上で運用することが望ましいだろう。
(基本的な利用ルールに加え、炎上しやすい話題、ツイッターユーザー文化の把握など)② 炎上の予防策
(投稿内容のルール、ダブルチェック体制、投稿作業のルールなど)
③ 炎上した際の対応策
(炎上の定義、どういった事態が起きた時にどんな行動をとるか)
ソーシャルメディアの影響力が高まり続ける中、ツイッターからの一つの投稿で、これまで懸命に積み上げてきた企業のレピュテーション(評判、評価)や、必死の思いで開発した商品の評判に致命的なダメージを与える事態が起きている。
企業や商品のファンを増やすための活動で、企業や商品の大切なファンから見放されることだけは避けなければならない。
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リープフロッグ CEO
1980年生まれ。2003年早稲田大学卒業、エン・ジャパンでの求人広告コピーライターを経て、ITベンチャーのワークスアプリケーションズ、博報堂系デジタル広告会社スパイスボックスなどで約15年にわたって広報業務に従事。18年にスパイスボックス経営戦略室マネージャーに就任後、19年より現職。“広報の力で企業競争力をアップする”広報コンサルティング会社・LEAPFROG(リープフロッグ)代表。「広報の目的」=「企業成長」と捉え、伴走型、人材育成型による広報組織の立ち上げ支援を実施。専門は、経営戦略と連動した広報戦略の全体設計、企業成長に資する採用コミュニケーション、社内コミュニケーション施策の設計と実行支援。メディアにて、広報、人事、コミュニケーション領域の執筆多数。
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(リープフロッグ CEO 松田 純子)
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