新型コロナが重症化してしまう人に不足していた「ビタミン」の正体
プレジデントオンライン / 2020年11月19日 11時15分
※本稿は、満尾正『医者が教える「最高の栄養」ビタミンDが病気にならない体をつくる』(KADOKAWA)の一部を再編集したものです。
■ビタミンDの免疫調整作用が感染症に効果的
上気道炎(鼻やのどなど上気道に起こる炎症)予防の目的でビタミンDを投与することは有益とされており、ビタミンDと季節性に変化する感染症とのあいだには、何らかの関係があると考えることが自然でしょう。WHOも上気道炎予防にビタミンD摂取を推奨しています。
では、なぜビタミンDは感染症のリスクを減らすことができるのでしょうか。これにはいくつかのメカニズムが考えられますが、世界のこれまでの研究では主に以下のような事実が確認されています。
・ウイルスの複製率を低下させる物質の誘導
・炎症性サイトカインの濃度の低下
・抗炎症性サイトカインの濃度の増加
ビタミンDが持つ免疫調整作用により、体内で起こる炎症が抑制されるために、感染のリスクが低減すると考えられます。
■免疫で重要な働きをする「サイトカイン」とは
免疫とは、外から体内に侵入してきた異物を認識し、排除する生体防御システムです。
例えば、ウイルスなどの病原体が粘膜に感染して、体内に侵入してしまったら、まず好中球やマクロファージなどの免疫細胞が立ち向かいます(自然免疫)。マクロファージは病原体を飲み込むと同時に、その情報をT細胞に伝えます。情報を受け取ったT細胞は、攻撃部隊にウイルスを排除するように指令を出し、この指令を受け取ったキラーT細胞がウイルスに感染した細胞を破壊します。また、指令を受けたB細胞では、そのウイルスに対抗する特定の抗体を作り出します(獲得免疫)。
このようにさまざまな細胞が協力してウイルスに感染した細胞を排除するのが免疫のシステムです(図表1)。
実際にはもう少し複雑に、さまざまな種類の細胞や代謝物が機能して、病原体に対抗するだけでなく、逆に免疫細胞が過剰に働いてしまう場合はそれを抑える働きが機能したりすることで、体をちょうどよい状態に整えています。
そして、このような免疫細胞の活性化や機能抑制には、「サイトカイン」(細胞から出るタンパク質)が重要な役割を担っています。
■サイトカインストームが死につながる病気を引き起こす
サイトカインにはさまざまな種類がありますが、なかでも炎症を引き起こすものを「炎症性サイトカイン」、炎症を抑えるものを「抗炎症性サイトカイン」と呼びます。「炎症性サイトカイン」の血中濃度が高くなると炎症が強まり、血圧が上がったり、血管を傷つけることで血栓を作り、心筋梗塞や脳梗塞につながったりします。
さらに炎症が強くなれば、正常な細胞・組織が崩壊され、多臓器不全に陥り、命を落とすこともあります。このような免疫の暴走状態により、炎症細胞が全身の臓器に損傷を与える悪循環を「サイトカインストーム」と呼びます。
ウイルスは自分の細胞を持ちませんから、人や動物などの細胞に入り込むことで増殖しようとします。その過程で、ウイルスを排除しようとして免疫が反応し、大量のサイトカインが産生されます。その結果、一定の炎症反応が現れるのは想定内なのですが、これに対して、ビタミンDが十分にあれば、炎症を抑える作用が期待できます。
このときビタミンDが足りなければ、どのような事態に陥るかは容易に想像がつきます。また、感染防御の過程でマクロファージ自身が、カルシジオールから活性型ビタミンであるカルシトリオールを作り出すということも突き止められています。自分で作り出さなければならないほど、ビタミンDが免疫調整において重要な役割を担っている物質であることを物語っています。
■新型コロナが危険なのは「サイトカインストーム」に理由がある
新型コロナウイルス感染症では、サイトカインストームから急性呼吸窮迫症候群(肺炎や敗血症などにより重症の呼吸不全をきたす病気、ARDS)を合併し、致死的な経過をたどることが報告されています。
一方で、ビタミンD欠乏症はARDSの一因となることもわかっています。そして、その致死率は、年齢と慢性疾患の併存とともに増加し、どちらも血中ビタミンD濃度の低下に関連すると報告されています。
現時点では、ビタミンDが新型コロナを予防するという確固たるデータはありません。しかし、ビタミンDの持つ免疫調整作用が維持されていれば、サイトカインストームによる致死的な合併症を予防する可能性は十分にあると考えられます。
■新型コロナ重症者は明らかに血中ビタミンD濃度が低かった
アイルランドからは、年齢40歳以上の新型コロナ罹患患者33名について経過を調べた報告が出されています。12名は重症化し、ARDSとなり、さらに、このうちの4名が亡くなられていますが、8名は回復しています。21名は重症化せずに回復の経過をたどっています。
図表2は、これらの2つのグループの患者の血液中のビタミンD濃度の平均値を比べたものです。ARDSを合併した12名の方が、明らかに血中ビタミンD濃度が低い傾向が見られます。
よく見ると、軽症群(グラフ左側)でも血中ビタミンD濃度は「16.4ng/ml」ですから、低いことがわかります。アイルランドは緯度の高いところに位置するため、血中ビタミンD濃度を維持することが難しいという事情が関係しているのかもしれません。冬の期間はビタミンDを摂取することを、国が推奨しているということです。
■現時点では「ビタミンD濃度が低い=罹患しやすい」とは言えない
この研究からは、「重症者は明らかに血中ビタミンD濃度が低い」ことがわかりますが、軽症者でも血中ビタミンD濃度が低いということは、重症度にかかわらず新型コロナに罹患する人は血中ビタミンD濃度が低い傾向があるのかもしれません。
ただし、血中ビタミンD濃度が低い人と高い人で罹患しやすいかどうかを比較したわけではありませんので、現時点では、血中ビタミンD濃度が低いと新型コロナに罹患しやすいと断言することはできません。
■スペインの研究でわかった治療薬としてのビタミンD
2020年8月29日に発表された研究では、ビタミンDを治療薬として投与することで新型コロナ感染症の重篤化を防げることが、世界で初めて報告されました。この研究はスペインで行われたもので、二重盲検法という医学研究のなかではもっとも信頼性の高い方法に基づいたものです。
76名の新型コロナ感染患者を、ビタミンD服用群50名と非服用群26名に分け、その後の病状の変化について調べています。ビタミンD服用群では、カルシフェジオール(カルシジオールと同義)と呼ばれるビタミンD製剤を、入院日に0.532mg、3日目と7日目に半量の0.266mgを服用、その後は週に1回、0.266mgの服用を続けています。
その結果、図表3のように、ビタミンD服用群では50名のうち1名が重症化してICUに入室したのに対し、非服用群では26名中半分に当たる13名がICUに入室しました。さらに死亡者について見ると、ビタミンD服用群では1名の死亡者も出なかったのに対して、非服用群では2名が亡くなりました。
この臨床試験結果は画期的なものであり、ビタミンD製剤を服用することで、新型コロナ感染症の重症化を大幅に防ぐだけでなく、死亡すら防ぐ可能性を示唆する内容でした。
ビタミンD服用群の患者が50名と少ないために、絶対的な結論は導き出せませんが、ビタミンDによる新型コロナ感染症治療の可能性はあると考えても間違いではありません。
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医学博士、満尾クリニック院長
1957年横浜生まれ。北海道大学医学部卒業。ハーバード大学外科代謝栄研究室研究員、救急振興財団東京研修所主任教授を経た後、2002年、日本で初めてのアンチエイジング専門病院「満尾クリニック」を開設。主な著書に『食べる投資 ハーバードが教える世界最高の食事術』(アチーブメント出版)、『世界最新の医療データが示す 最強の食事術』(小学館)など多数。
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(医学博士、満尾クリニック院長 満尾 正)
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