9000万円の借金を抱えて「全店閉店」に追い込まれた経営者のその後
プレジデントオンライン / 2020年11月16日 15時15分
■「倒産=悪」ではない
新型コロナウイルス感染症が日本に上陸し、その影響でこの4月、私は経営していた5つの飲食店すべてを休業しました。そしてそのまま全店舗を閉店し、会社を清算。いわゆる倒産を経験しました。
当然、倒産は私にとって初めての経験であり、倒産を意識する前は、多くの人と同じように、「倒産=悪」というイメージしか持っていませんでした。廃業は悪いことであり、事業を継続することこそが正義であると信じて疑っていなかったのです。その先にあるのは、どん底の人生で、「倒産した経営者」のレッテルを貼られ、もう二度と表を歩けないとさえ思っていました。
2020年4月に全店舗休業し、5月上旬には倒産を決意したことに対して、多くの人から「非常に決断が早かった」と言われます。その言葉の裏には、早期の決断に対する賞賛もあれば、何か裏があるのでは? 経営者ならもっと継続を前提に考えるべきでは? といった疑問の声があると受け止めています。
そういった声が上がることは当然というか、他人の事業を外から見ていれば、誰もが抱く疑問だと思います。しかし、私がこの決断を下した背景には、これまでの会社経営で培ってきた土台と考えがあります。
そして、倒産を必要以上に怖がることはない、倒産のやり方さえ間違わなければ人生はどん底に落ちることはない。その考えを広めることで、いまなおコロナの影響で苦しむ方々に、少しでも役立つ情報が届けられたらと思っています。
■大切なのは「事実」と「感情」を分けること
まず、倒産を経験した身として、世の中に一番伝えたいのは、「倒産しても人生は終わらない」ということです。私には妻と子どもがおり、なんとか食っていかなければなりません。家族のためには、倒れっぱなしではいられないのです。
現在、倒産から立ち直ったかと言われれば、立ち直ったとも言えるし、まだ立ち直ったわけではないとも言えます。たしかなのは、「倒産した経験」を脇にたずさえて生きていくしかない、ということです。
「倒産」の判断について具体的に言えば、まずは会社の財務状況を洗い出し、客観的に分析することが重要です。近くにそういった数字を見られる人がいれば一緒に見てもらい、弁護士と相談しながら、判断材料を洗い出していく必要があります。
この時は、「従業員やお客様のこと」「立ち上げた会社への想い」などの感情は、いったん忘れてください。私自身、これが非常に難しいことであるとは百も承知ですが、ここは本当に重要で、とにかく「事実」と「感情」を分けて考えなければいけません。
■廃業することは最悪の選択肢ではない
私の場合は、次の図表が「倒産」を判断する大きな材料となりました。
コロナの影響が出始めた3月下旬〜4月上旬の間で、経営状況を可視化し、売り上げがそれぞれ昨年対比30%減、50%減、70%減のほか、丸々1カ月休業した場合の売り上げ0のケースも想定しました。
その計算では、12月には会社の現預金が400万円代になり、従業員のみんなの給与を支払えなくなることがわかりました。当然、取引先への支払いもできなくなります。
かなり厳しい現実が目の前にありました。またこの新型コロナウイルスという感染症の特徴は、飲食店にとって最悪です。
コロナ対策で席を間引くことは売り上げの減少に直結しますし、お客様が入れ替わるたびに入念に消毒しなければならないなど、作業も増えます。また、お客様へも入店前の消毒や場合によっては検温も呼びかけなければなりません。
誰も経験したことのない情勢では、政府の補償がどうなるかも不透明です。今になってワクチンの誕生が噂されてきていますが、当時、コロナの終息は全く見えない状態でした。その中で考えられる選択肢は2つでした。
① 会社を継続させるには、どうすれば良いのか。
② 継続できない場合はどのようにソフトランディングさせるか。
私は結果的に②を選択したわけですが、一番難しかったのは感情です。私の決断は早かったので、やはり「お店への愛情が希薄だからそんなあっさり撤退できたのだ」とか「飲食店経営への情熱が足りないから早々に逃げることができたのだ」などと言われました。
しかし、私ができる範囲で、近しい人たち、家族や従業員、周りの経営を支えてくれる仲間、取引先の方々に、少しでもダメージが行かないようにする最善の選択が、会社を清算することだったのです。
どう言われようと、それが私のできる選択でした。
■すばやい決断は従業員を守る
感情の面で一番苦しかったのは、従業員に倒産を伝えることでした。倒産=従業員の解雇です。経営者として従業員たちの雇用を守れなかったことは、いくらコロナだろうが、経営者である私の責任です。また、飲食店として業績回復の見込みを立てることができないと判断したのも、私の経営者としての能力です。そこに一切の言い訳はありません。
2015年に創業してから5年間、走り続けてきました。もちろん、私の店でくつろぐお客様の顔も忘れられません。
しかし、早期の決断をすれば、従業員に最低限の手当てを出すことができるし、1日でも早く、新しい職場を探すこともできます。当時の私にできる最善の策は、考えても考えても、早めに会社を畳むという結論に行き着きました。
従業員には、社内のチャットを使って、自ら「会社を畳む」ことを伝えました。言い訳はしませんでした。その代わり、なぜその結論に至ったのかは、会社の財務状況など、ちゃんと数字で示しながら、私の考えを伝えました。
文章を書き終え、何度も読み返しました。こうした方が伝わるかな、ここはこの言葉の方がいいかなと読み返しては修正し、「よし、できた」と思っても、なかなか送信ボタンが押せませんでした。これを送ってしまえば、もう後戻りはできません。
「本当にこれでいいのか」
何度も自問自答しましたが、最終的には、私に今できる最善策はこれしかないと信じ、送信ボタンを押しました。
■会社を潰したら借金はどうなるのか
ここまで、「倒産」を選択した根拠や当時の心境を書きましたが、当然皆さんが気になるのは、借入金の行方だと思います。私もそれは心配でした。
私は2019年4月に5店舗目をオープンするための融資を受けました。さらに2019年12月に店舗をリニューアルするためにも投資をしており、借入残高は合計で約9000万円ありました。この9000万円には代表者保証をつけているため、このまま倒産すれば代表である私に丸々9000万円の借金が回ってきます。
パッと思いつくのは「自己破産」です。自己破産すれば債務免除となります。しかし私は事業で借りたお金は自力で返すつもりでした。なので、何か他に方法はないものか、弁護士に相談に行ったのです。
一般に、倒産と言われている法的手続きは、「破産」「会社更生」「民事再生」「清算」「特別清算」が主ですが、破産や清算は、会社組織と債権債務関係者(いわゆる借金)をリセット(債務の全部もしくは一部を返済)して、経営者が新たな事業活動を始めることを促すものです。
会社更生や民事再生は、企業の事業存続を前提に、裁判所の監督の下、借金を整理しようというものです。倒産の可能性がある経営者さんは、こういったことを近くの弁護士によく相談してみてください。
■破産でも再建でもない「第三の方法」
最終的に私は、この中の特別清算を選択します。この方法を選ぶまでほぼ毎日、弁護士の先生とメールなどでやりとりしながら、9000万円の借金をどう返していくかばかりを考えていました。経営者仲間からは「少し良いマンションを買ったくらいだな!」なんて言われましたが、当時はうまく受け流せるほどの心の余裕はありませんでした。
そして、弁護士の先生とやりとりする中で、「経営者保証に関するガイドライン」の存在を知ります。詳しくは、専用ページを参照いただきたいのですが、簡単に言うと、一定の条件を満たしていれば、信用情報に一切記録されることなく、経営者の債務免除を行うという施策です。
もちろん、これまでに私を信用して融資をしてくれた銀行などには、形はどうであれ、その信頼を裏切ることになります。それに関しては本当に心苦しく、経営者として「借りた金は自力で返すべき!」とも思っているので、感情的にはだいぶ厳しいものがありました。
しかし、いずれにせよ、このままずるずるいっては、もっとひどい結末になる。であれば、このガイドラインに沿って会社を清算し、再起に向けて動き出すべきだと判断しました。そのうえで、この経験を多くの人に伝える役目があると思いました。
■倒産を必要以上に恐れることはない
倒産を経験した私が今、同じような境遇にいる方に一番伝えたいこと、それは「倒産を必要以上に恐れることはない」ということです。これには多くの反発が予想されますが、目の前の事実にしっかり向き合って出した答えが「倒産」であれば、そうする他ありません。一つひとつ誠実に対応していけば、倒産後の人生がどん底にはなりません。
もちろん、私は倒産を推奨しているわけではありません。倒産すれば全てが解決するわけでもない。倒産後に人生がどん底になることはないにしても、それなりの苦労もあるでしょう。
しかし、大切なものを守ることを最優先に考えたときに、倒産は1つの選択肢となり得るし、それで大切なものが守られるのであれば、そうするべきです。そして、その経験を糧に生きていくことができます。
私はそう決意して、新会社を立ち上げ、新たなスタートを切りました。これが成功するか、そして「倒産」の選択が本当に正しかったのか、その答えが出るのはまだ先で、これからの私の生き方にかかっています。
きっと、いま、つらい思いをしている方がたくさんいると思います。そんな人が私を見て、「あんなやつでも倒産して明るく生きているのか。だったら自分にもできそうだ」と思っていただけたら幸いです。
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グラバー 代表取締役
1987年生まれ、青森県出身。新潟大学経済学部卒業後、日本NCRにシステムエンジニアとして入社。その後、マネジメントソリューションズでPMO(プロジェクトマネジメントオフィス)を経験後、2014年に地元青森でイロモアを創業。2017年にイロモアの代表取締役に就任し、2019年までに青森と仙台に合計5店舗の飲食店を開業。事業清算を経験したのち、2020年8月グラバーを設立。「廃業支援」など倒産の経験を生かした事業をスタート。
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(グラバー 代表取締役 福井 寿和)
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