「コロナで学力二極化」自分でどんどん賢くなる子とダメになる子の親は何が違うのか
プレジデントオンライン / 2020年11月15日 8時45分
■コロナ禍での中学受験でも受験人口が減らない理由
――今年は休校が続き、受験生が塾に通えなかった時期もありました。子どもたちも保護者も大変なストレスを抱えていると思いますが、受験動向について教えてください。
【安田】来春のことをお話する前に、2020年度入試の振り返りをしましょう。今年の首都圏での中学受験生は私国立中学・公立一貫校を含め6万3000人弱であったと推定されます。中学受験者数は2016年以降増加傾向にあり、首都圏ではここ数年は「5人に1人以上」が中学入試を受験している計算になります。
しかし、2021年度入試は、出生数の関係で小6生の数が2020年に比べると2%ほど少ないので、志願者が増加する学校は少ないと予想されていました。
これにプラスし、今年はコロナ感染リスクがあるため受験者数が大きく減少するのでは、と見る向きもありますが、私はそうとは言いきれないと思っています。感染リスクを恐れ、受験回数を抑える傾向はあるでしょうが、それでも受験人口が激減するとは考えていません。
――私も、今後2年間に限っては、受験人口は極端に減らないとみています。私の元には、中学受験保護者からの相談が頻繁に舞い込みますが、「経済的理由で受験を諦めた」という内容は1件もありません。ただ、私立中高一貫校の学費は、平均でも中高6年間で600万円。ある中堅校の入試担当教員は「2021年度入試以降、ウチは(新入生の減少で)相当、厳しくなる」と。その学校の保護者は中小企業経営者が多いのだそうです。
今現在、雇用止め・倒産など打撃を受ける人たちが続出していると報じるメディアも多いですが、それでも、中学受験を選択する層が多いという理由はどこにありますか?
【安田】確かに、飲食、小売りなどで大打撃を受けている個人事業主の家庭からの参入は減るでしょうが、中学受験を選択する家庭の多くは企業社会の管理職、専門職層です。大手企業でも、観光、交通など大きな打撃を受けているところがありますが、そうした業種以外はこの先、ボーナスの減少などはあるにしても、ただちに正社員のリストラ、賃金大幅削減まではつながらないでしょう。また国民性からいって、子どもの未来を決定づける教育費への家計優先順位は依然として高いとみています。
■塾通いに250万円以上も“投資”している親は引くに引けない状況
――確かに「わが子のためなら」と頑張ってしまうのが親心ですよね。現実問題、高卒と大卒の生涯賃金を比較した各種調査を見ると、その差は4000万円とも6000万円とも言われます。子どもの将来の可能性を広げるために、親は「ない袖を振ってでも!」と思いやすいのかもしれません。先が見えない時代だけに、余計に「誰にも奪われない学力という財産」を身に付けさせたいと願う親は多いという印象を持っています。
【安田】さらに言えば、現6年生・5年生はすでに塾通いに“投資”していますから(小3の3学期2月から入塾するケースが多い)、引くに引けないという状況。小学校中学年、低学年の家庭はともかく、すでに参入している家庭はそう簡単には撤退できないのです。
――多くの場合、3年間の塾費用は250万円を突破しますから、それを思うと6年生の今の段階で「じゃあ、やめよう」という決断にはなりにくいのも理解できます。
ただ、2008年のリーマンショックの時は、その直後ではなく、数年をかけて首都圏の受験者数が2割ほど減ったという事実があります。そのことを鑑みると、このコロナショックは甚大と予測されることから、現在、小学4年生以下のお子さんをお持ちのご家庭では、中学受験という選択肢を手放すケースは広がりそうですね。
■公立小学校とは天と地「私立のICT教育」には目を見張る
――中学受験界もアフターコロナの経済動向に左右されるのは間違いないですが、また逆に今年は私立中高一貫校の評価が高まったという話もあります。
【安田】そうです。その理由は、特にオンライン教育が注目されたことにあります。
ここ数年の動向として、多くの私学はICT教育への取り組みを強化してきました。コロナ以前から、パソコンやタブレット、電子黒板などのICTツールを使用し、授業を行っていた学校が多かったのです。教師も生徒もICTスキルがある程度身に付いていたということです。そのため、多少の混乱はありながらも、大多数の学校ではスムーズにオンライン授業に移行できました。
一例を挙げれば、啓明学園(昭島市)は“学びを止めない”というスローガンのもと、Zoomによるホームルーム、週1回以上の個別面談、時間割に近い形でのYouTubeでの授業、学習資料の郵送……などいろいろ組み合わせて対応しました。こうした学校は非常に多く、若手がベテランをリードして一丸となって生徒のために奮闘した姿があちこちで見られました。
■休校期間中の生徒のメンタル面への配慮が行き届いている学校も
――これには、正直、驚きました。首都圏模試センターが実施した「首都圏私立中200校調査」によると、4月中にオンラインでの学校活動を再開した学校は約65%。5月の連休明けには約90%の学校がオンラインでの学校再開を果たした一方で、公立学校は自治体によって異なっており、全国的にみると3~5月までの休校中の3カ月間にオンラインでの学校活動を実現できた公立中高は2~3割であったと。公私で教育格差が広がったと感じた保護者も多かったのではないでしょうか。
私自身もこの春は、私学の先生方から直接「本校は学びを止めない!」という言葉を数多く聞き、その教育に賭ける“執念とも思える熱意”を感じました。
さらに感心したのは、授業だけではなく、休校期間中の生徒たちのメンタルにまで配慮が行き届いている学校も多かったことです。
【安田】そうですね。これも一例ですが、湘南学園(神奈川県藤沢市)では生徒・保護者の心のサポートをするべく「保健室特設サイト」を開設、大妻中野(中野区)ではカウンセラー2人に学校が携帯を貸与し、全生徒・保護者からの個別相談を受け付ける態勢を早々に整えました。
このように、非常時だからこそ、ご家庭もろとも引き受けるという“覚悟”を示してくれた私学は多かったのです。
景気が悪化するにしても、案外、中学受験人口は減らないのではないか、とみているのは、今年は今まで以上に、私学本来の“価値”を体感した保護者が増えていると感じるからです。設備や環境面でも充実の学び舎をうたっている私学は多いですが、このコロナ禍で生徒一人ひとりを大事にしている学校かどうかが顕著に表れたのではないでしょうか。
――確かに、今の保護者はある意味、わがままで(笑)、学習面もさることながら、心の教育までをも学校に任せたいとする向きがあるのは事実だと感じます。私立中高一貫校は宗教であったり、実業家の意志であったりという建学の精神に溢れているので、もともとその期待に応えようとする土壌があるというのが強みですね。
■学力格差で二極化。上位校は変わらず、知名度の低い学校は苦戦?
――さて、冒頭で、前年よりも小6人口が減少するので、志願者が増える学校は少ないとの見方があると教えていただきました。2021年度入試をどう予想していますか。
【安田】言えるのは二極化です。受験生の学力格差が、例年になく拡大しているのが大きな特徴なのです。
今年は学校や塾の休校、オンラインでの講義や模試の実施という、受験生は今までとは全く異なる学習環境下におかれました。自学力がある子は休校で時間がある分、受験勉強に充てられる時間が増え、平常時の受験生よりも学力が高くなっています。逆に、学習習慣が崩れてしまった子は受験生としての基礎的学力さえ身に付いていない状況です。
ここから推測されることは、難関校、伝統校は志願者の変動があまりなく、合格者平均点が上昇し、さらに難化するということです。
逆に知名度が低い学校は合同説明会などが十分に開催されなかったことで、存在を知られる機会が乏しく、志願者が極端に減少する可能性があります。
――おっしゃるように、今年は休校が長かったので、自分で机に向かえる子であったかどうかが鍵を握る受験になりそうですね。
【前編を終えて、鳥居りんこ氏の総評】
中学受験は一朝一夕にできるものではなく、あえて言えば、家庭のリベラルアーツ度が影響する世界。つまり、子どもが生まれた時から、身近に本がたくさんあり、親も読書を楽しみ、子どもの疑問には共に考えていく姿勢を大切にしている家庭の子は自然と知的好奇心が旺盛になることが多い。
一方、偏差値や大学合格実績という誰かが作った物差しを盲目的に信じてしまい、勉強を無理やりさせてしまったがために、子供が勉強嫌いとなる残念な家庭も少なくない。安田氏が語る「自学力」が小さくなってしまうのだ。これからの時代は特に、親には「その子に合った道」を後押しする力が必要になるだろう。そうした点も踏まえ、後編ではより具体的に2021年の入試動向を探っていきたい。
(後編:「中学受験にもはや国算理社は不要か」謎解き入試、読書感想文入試…ユニーク入試で入れる穴場校リスト、へ続く)
(安田教育研究所 安田 理 構成=鳥居りんこ)
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